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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』
ガーネット嬢からの提案
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『クライン王国において貴族の子弟たるもの常に文武両道であれ』。
これは建国当初よりの理念である。しかし、理念というものは時間が経つにつれて有名無実化していくのが常である。
大抵の貴族。とりわけ門閥貴族は文武両道どころかそれとは正反対の驕りだけを持って大人になっていくことが多い。
それ故に多くの貴族が腹せぬ恨みを持つこととなり、害虫駆除人の世話になるのが常である。時には門閥貴族どころか王族ですら建国の理念に反して驕るだけの存在へと変わってしまう。
そのため政治体制が腐敗を極めてからは門閥貴族たちと害虫駆除人による水面下での争いはもはや周知の通りである。
門閥貴族たちは昔から自らの利権や命を守るために警備隊などを取り込み、必死になって害虫駆除人の打破へと向かっていくのである。
腐敗政治が始まって以来、いたちごっこは長らく続いたが、それでも門閥貴族が根絶されることはないし、害虫駆除人が消えることもない。
それ故にこの二つの組織は切っても切れぬ関係であったといってもいい。
だが、それでも門閥貴族たちは己の誇り故にそのような下賎な連中を恐れるわけにはいかなかった。
そのようなやんごとなき事情があったとしても、立て続けに貴族一家の断絶が続いては恐怖心も芽生えるというものだ。ましてや自分には負い目がある。
それ故に今日のところはいつもより熱心に剣術の稽古に励んでいたのであった。
剣術の師匠を買って出たのはかつて王国にて銃士を務めたオットー・ダルダスという茶髭の銃士であった。
この男いかせん小太りで陽気な性格をしていたが、剣術となると人が変わったようになる。
クリストフに剣を教える時はいつも悪魔を思わせるような険しい顔となり、叱責して教えていくのであった。
その彼がいつにも増して厳しい教えであったので、クリストフは息をつく暇もなかった。
ようやく十分程度の短い休憩時間を与えられた際に彼はオットーに対してこのような苛烈な処置をとった理由を問い掛けた。
「恐れながら私がいつにも増して厳しい稽古をつけさせていただきましたのは卿の剣に迷いが見られました故にございます」
「迷いだと?」
「えぇ、卿の剣からは迷いが見えます。それもただの迷いではございませぬ。悪魔のような邪悪な迷いじゃ」
クリストフは唖然とした。この老人に自分が考えていることなどわかるはずがない。だというのにどうして見抜くことができたのだろうか。
クリストフには理解することができなかった。
「なぜだかわからぬというお顔をされておりますからご説明させていただきます。邪悪な迷いというものは剣にも現れるものですな。今日の鍛錬ではやけに卑劣な手を使おうとしておりました」
思い当たる節がある。クリストフは自身が抱えている鬱憤を晴らすためにどうしてもオットーに勝ちたかったのだ。
それ故に足を払ったり、剣を打ちつけたりと卑怯な手ばかりを使っていた。
だが、そんな愚かな真似をしてしまったために心の内まで見抜かれてしまったのだ。
クリストフは両目を見開きながらオットーを睨み付ける。オットーはそんな弟子を一瞥した後に鼻を鳴らした。
「やはりな。私はあくまでも剣術の師……政治には関係いたしませぬ。ですが、卿がよからぬ考えを抱いておるというのならば私の手で始末せねばなりませぬぞ」
その言葉を聞いてクリストフのプライドは燃え上がった。相手はいかに剣術の師匠といっても所詮は銃士。
苗字を与えられた剣持ちの老いぼれに過ぎないはずだ。それなのに門閥貴族の中でも名門たるホワインセアム家の嫡男である自分を始末するなどと呟いた。
そのような非礼を許しておけるはずがない。クリストフは拳を強く震わせながらオットーに向かって叫ぶ。
「調子に乗るなよッ!貴様などオレの力を使えば簡単に消し去ってやるのだからなッ!」
そのような言葉を浴びせられてもオットーは意に返すこともなく背中を向けて次の稽古場所へと向かっていく。
向かう場所は知っている。アンブリッジ伯爵家の元である。伯爵家の長男ルシウスは熱心に剣術の鍛錬に臨むことはなかったが、それとは対照的に次男であるジェームズはクライン王国の規則に従って己を律し、激しい剣術の稽古と学問とに打ち込んでいたのである。
だが、多々ある伯爵家と王家とも由縁の深い公爵家の長男である自分が比べられるということが昔からあった。
少なくとも他の公爵家の子息よりかは熱心に剣術の鍛錬に打ち込んでいるはずだが、オットーは稽古のたびにジェームズを褒め称えていたのでクリストフは機嫌が悪かった。
そのためジェームズをなんとかして叩き潰してやれないかという憎悪の炎に燃えていたのである。
クリストフは憎悪の炎をいつも稽古終わりに浴びる井戸の冷水を浴びることで打ち消し、残りの時間は自室で読書に励むことにした。
歴史や政治について学ぶことはクリストフにとって重要なことであった。
さらに代々の投手から受け継がれてきた帝王学もおさらいしておく必要がある。
いつでも王家になるために必要な学問なのだ。
クリストフが難しい顔を浮かべながら本を開いていると、扉を叩く音が聞こえた。
入室を許可すると、長くて黒い髪をたなびかせたそばかすの少女がお茶とお茶菓子を載せたお盆を持って現れた。
少女の名はガーネット。かつては王家に仕えるメイドであったが、少しの間だけ在位していた国王ベクターの死をその場で見届けて以来、それが目に焼き付いて離れないということで王宮で働くことができなくなり、やむを得ずに王宮からの紹介状を携えて公爵家に現れたのである。
クリストフにとって奇妙であったのはガーネットがメイドであるのにも関わらず、どこか馴れ馴れしい態度で接してくるというわけである。
対等な口を利いたりとか、仕事が適当だったりとかそういうわけではないのだ。
だが、一般のメイドであるのならば踏み込まないようなことにも彼女は興味津々な様子で踏み込んでくるのだ。
そこが不愉快であった。公爵家の中で騒動が引き起こされるたびにどこか神妙な顔を浮かべて「それはお気の毒でしたね」と呟くのであった。
それが不愉快であったので、クリストフはいつもぞんざいに彼女を扱った。
そのため今日も両目を尖らせながら厳しい口調で吐き捨てた。
「それを置いたらさっさと持ち場に戻れ」
だが、ガーネットは戻らなかった。そしていつものように上っ面の同情を浮かべるのであった。
クリストフは怒りを爆発させた。このような小娘に何が理解できるというのか。
苛立ち紛れに殴った壁を見て、ガーネットは両肩を強張らせて全身を震わせた。
その後で頭を下げ謝罪の言葉を述べる。
これで少しは大人しくなるだろう。だが、クリストフの予想に反してガーネットは大人しくなるどころかより一層同情の色を浮かべていくのだった。
たまりかねたクリストフは壁を強く叩いてガーネットに向かって怒鳴り散らした。
「なんのつもりだッ!貴様、使用人の分際で分を弁えろッ!」
「そんなの無理ですッ!クリストフ様が本当にお可哀想なんですもの!」
ガーネットは涙を交えながら叫ぶ。ロマンス小説のヒロインさながらの迫力であった。
「貴様如きが関わる話ではないわッ!」
売り言葉に買い言葉だ。こうなってしまっては遠慮などできるはずがない。
クリストフは本を勢いよく閉じて机の上へと乱暴に置くと、非礼なメイドの元へと詰め寄っていく。
鉄拳制裁でも喰らわせようとした時に彼女は思いもよらぬ言葉を口に出したのであった。
「ようやく先王陛下がお隠れになり、ベクター陛下もお隠れになり、残るは陛下お一人だというのにそれでも陛下がおられる限りはその地位が回ってこない……なんとお気の毒なお話なのでしょう。元王陛下はベクター陛下より王位を簒奪して今の地位にいるのというのに」
クリストフの両眉が上がる。ガーネットの両肩を強く握り締めながら強い声で問い正していく。
彼女にも事情はある。本来であるのならばもう少し配慮した聞き方もあるのだろうが、簒奪という事実が明らかになった限りはガーネットから事情を問いただせねばならぬのだ。
クリストフの厳しい追求によってガーネットはようやく口を開いた。
彼女によればベクターが死ぬ間際、即位の儀式を行なった部屋から一人の中年女性が出ていくのを見たのだという。
顔は見えなかったが、死ぬ間際に部屋を出たというのが怪しかった。
それ故にガーネットはベクターの毒殺を信じ、彼女こそがフィンによって差し向けられた刺客だということを実感していたのである。
これまで海底を這う貝の口のように閉ざしていたのはそのことを語るのが恐ろしかったからだという。
信じられないことである。もし、この事実が公になればフィンの評価は現在とは一転し、弟殺しの疑惑を持つ怪しき国王となるだろう。その上で他殺説もある先王のことにも噂をかければ父親殺しの汚名まで着せられる。彼女がこれまでの間黙っていた理由もわかるというものだ。
そうなれば国王の地位を追い出されるかもしれない。そこでようやく自分の出番になる。
クリストフは己の中に迷い込んできた幸運に感謝するしかなかった。
やはり天上界にいる神々というものは世の理というものを理解しているものだ。
自分こそが国王になるというものに相応しい。
その日よからぬ事情が明らかとなったクリストフは上機嫌な様子で床へと着いた。
翌朝になっても清々しい思いであった。目覚めのワインを口にし、空に思いを馳せる。
こんなに素晴らしいことがあるものだろうか。ワイングラスのワインを揺らしながら青空を眺めていると、ガーネットの案内によってオークスなる商人の姿が見えた。
オークスは丁寧な一礼を行い、計画の進捗を尋ねた。
クリストフはそこで王位簒奪計画改め王位奪取計画なる計画を語っていく。
自分がガーネットから聞いた話をオークスに打ち明け、この事実を社交界やゴジップ誌などに回し、フィンの信頼を地に落とすという計画を語った。
だが、オークスはそれらの提案を蹴り、クリストフから聞いた話を別の形で用いることにしたのである。
オークスによればフィンの命を奪い取り、クリストフが王位に就いたその後で先ほどの計画をばら撒くというものである。
そうなればクリストフの国王就任を疑う者は誰もいなくなる。それまではこの話は秘蔵の話として胸の内にしまっておくというものであった。
しかし、オークスのいいや、『ジャッカル』の本音としてはそのような計画に費やす資金と人員が不足していることが実情であった。
現在の『ジャッカル』は害虫駆除人たちとの抗争と現在の計画を推し進めることに手いっぱいで社交界やゴシック誌に人員を割く余裕がないのだ。
せめてもう少し組織事情に余裕があれば違うのだろうが、現在はクリストフの秘蔵話も胸の内に秘めておくより他にないのだ。
何より、ゴシップ誌や社交界に工作員を出したとしても害虫駆除人の餌食になってしまえば無駄に終わってしまう。
オークスはそうなることだけは避けたかった。そのためこういう形で話をまとめることしかできなかったのだ。
そんな本音などつゆも知らないオークスは公爵家の紋章のついた馬車で王都にまで送り返された。
クリストフはわざわざ剣と頭痛の際に用いる粉薬の入った袋を持たせたガーネットを共にして出入り口にまで降り立ち、馬車へと手を振りながら熱心に見送っていたのだが、背後に妙な気配を感じて飛び跳ねた。
背後を振り返ると、剣を持った男の姿が見えた。歳の頃は三十過ぎだろうか。
また、気になるところを挙げれば刺客だというのにひどく落ち着いているところだろうか。これまでの刺客たちはどこか興奮した様子であるというのにこの男はどこからどこまでも落ち着いていたのだ。落ち着き過ぎて気持ちが悪いという表現の方が正しいだろう。
剣を持った男は無言でクリストフの元へと襲い掛かってきた。
何者だろうか。王宮に雇われた銃士か何かだろうか。はたまた自分の亡き後に地位を狙う別の貴族からの刺客だろうか。いずれにしろ、クリストフにとって脅威であるということには変わらない。
幸いなことに彼の背後には剣と粉薬が入った袋を持っていたガーネットがいたことを思い出した。
切羽詰まっていたクリストフはガーネットから剣を奪い取り、鞘を放り捨ててようやく構えの体勢へと至ったのである。
だが、腕は相手の方が圧倒的であるらしい。クリストフの剣は呆気なく弾き飛ばされてしまい、彼は危機へと陥った。
現在は目と鼻の先にまで剣先が突きつけられている。これに間違いがあればクリストフはすぐにでも顔を突き刺されて冥界王の元へと旅立つことになるだろう。
それだけは避けなくてはならないのだ。しかし、この状況ではなす術もあるまい。
クリストフが両目を瞑った時だ。
「クリストフ様ッ!危ないッ!」
と、彼女が抱えていた粉薬が刺客へと投げ飛ばされたのだ。
粉薬は運良く刺客の顔へと命中し、刺客はゴホゴホと咳を立てていく。
これで形成は逆転だ。粉薬を投げつけたら心の中でガーネットへと感謝の言葉を
述べてからクリストフは剣を振り上げていく。
だが、その剣は両手の手首に長鞭が巻き付いたことによって落とす羽目になってしまったのだ。
クリストフが剣を落とすのと同時に長鞭も引っ込み、同時に粉薬で周りが見えなくなっていた男が慌てて逃げ出していくのが見えた。
クリストフはガーネットの元へと慌てて駆け寄っていき感謝の言葉を述べた。
同時にクリストフは自らがガーネットに対して良い感情を持っていったことに気が付いた。
自分には見た目麗しい婚約者がいるというのにどうしてこのような娘に恋焦がれているのだろう。
クリストフはわけがわからなかった。
そのために刺客を取り逃してしまったというのに……。
「あの野郎、予想外に手強いぜ」
害虫駆除人ゲイシーは酒場で当面の相棒となったギークを相手に愚痴を吐いていた。
「仕方がない。けど、これでまた屋敷の警備が固くなるだろうね。また別の方法を考えなくちゃ」
ギークは溜息混じりに吐き捨てた。そんな姿を見てゲイシーは申し訳がないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
目を気まずくなるからか敢えて合わせるのを避けていた。
あの時こそがクリストフを仕留める絶好の機会だというのに、こうなってしまっては次の機会がいつになるのかわかったものではない。
ギークの言う通り、クリストフやホワインセアム公爵家はその防備を固めるだろう。
こうなってしまってはますます駆除が難しくなるというものだ。
重苦しい空気が続く中に彼女は現れた。ゲイシーの目には救いを与える慈悲の女神のように見えた。
「あっ、カーラ」
ギークは何気なしに口を開いた。恐らく直前に会う約束をしていたのだろう。この軽い挨拶は確認であるに違いない。
「ご機嫌麗しゅう。ギークさん」
その証拠にカーラも挨拶を返した後で頭を下げて酒場の椅子の上に腰を下ろしたのであった。
「よぅ、カーラ」
ゲイシーはぎごちのない笑みを浮かべてカーラを出迎えた。こうでもしなければ出迎えることなどできなかったのだ。
「ご機嫌麗しゅうございますわ。ゲイシーさん」
「あ、あぁ」
皮肉なのか天然なのかはわからないが、今のゲイシーの機嫌が良いはずがない。
苦笑いを浮かべながら誤魔化すより他になかった。
彼女はこんな状況であるにも関わらず何を言いにきたのだろうか。わざわざ皮肉を言いにきたというのならば相当に性格が悪い。一部で『血吸い姫』だの『人面獣心』だの『悪女』だのと呼ばれる理由がわかる気がする。
ゲイシーが期待と不安が入り混じった表情でカーラを見つめていると、真剣な表情を浮かべたカーラはゲイシーの期待をいい意味で裏切った。
そのどちらも口にすることはなく、ある計画を打ち立てたのである。
「クリストフ卿とエミリー様なのですが、私に両者を共に駆除するいい方法を思い付きまして」
と、カーラは二人に耳打ちを行う。カーラの提案を聞いた二人は納得がいったという表情で首を縦に動かす。
というのも、カーラの持ち出した計画は二人の結婚式を狙っての駆除であったのだ。
かつて腕利きの駆除人たちで王宮に忍び込み、即位式の中でベクターとマルグリッタの両名を駆除した時と同じ手口を扱うことを計画したのであった。
カーラの考案した計画に二人は乗り気であった。これが上手くいけば確実にクリストフとエミリーの両名を始末できるからだ。
しかし、駆除人たちは知らなかった。ベクターとマルグリッタを駆除した時に一部始終を目撃していたメイドの存在を。
あとがき
申し訳ありません。なるべく急いで早くに提出しようと思いましたが、光陰矢の如しと言わんばかりに時間が加速し、とてもではありませんが投稿が叶いませんでした。申し訳ありません。
ここに改めてお詫びを入れさせていただきます。
これは建国当初よりの理念である。しかし、理念というものは時間が経つにつれて有名無実化していくのが常である。
大抵の貴族。とりわけ門閥貴族は文武両道どころかそれとは正反対の驕りだけを持って大人になっていくことが多い。
それ故に多くの貴族が腹せぬ恨みを持つこととなり、害虫駆除人の世話になるのが常である。時には門閥貴族どころか王族ですら建国の理念に反して驕るだけの存在へと変わってしまう。
そのため政治体制が腐敗を極めてからは門閥貴族たちと害虫駆除人による水面下での争いはもはや周知の通りである。
門閥貴族たちは昔から自らの利権や命を守るために警備隊などを取り込み、必死になって害虫駆除人の打破へと向かっていくのである。
腐敗政治が始まって以来、いたちごっこは長らく続いたが、それでも門閥貴族が根絶されることはないし、害虫駆除人が消えることもない。
それ故にこの二つの組織は切っても切れぬ関係であったといってもいい。
だが、それでも門閥貴族たちは己の誇り故にそのような下賎な連中を恐れるわけにはいかなかった。
そのようなやんごとなき事情があったとしても、立て続けに貴族一家の断絶が続いては恐怖心も芽生えるというものだ。ましてや自分には負い目がある。
それ故に今日のところはいつもより熱心に剣術の稽古に励んでいたのであった。
剣術の師匠を買って出たのはかつて王国にて銃士を務めたオットー・ダルダスという茶髭の銃士であった。
この男いかせん小太りで陽気な性格をしていたが、剣術となると人が変わったようになる。
クリストフに剣を教える時はいつも悪魔を思わせるような険しい顔となり、叱責して教えていくのであった。
その彼がいつにも増して厳しい教えであったので、クリストフは息をつく暇もなかった。
ようやく十分程度の短い休憩時間を与えられた際に彼はオットーに対してこのような苛烈な処置をとった理由を問い掛けた。
「恐れながら私がいつにも増して厳しい稽古をつけさせていただきましたのは卿の剣に迷いが見られました故にございます」
「迷いだと?」
「えぇ、卿の剣からは迷いが見えます。それもただの迷いではございませぬ。悪魔のような邪悪な迷いじゃ」
クリストフは唖然とした。この老人に自分が考えていることなどわかるはずがない。だというのにどうして見抜くことができたのだろうか。
クリストフには理解することができなかった。
「なぜだかわからぬというお顔をされておりますからご説明させていただきます。邪悪な迷いというものは剣にも現れるものですな。今日の鍛錬ではやけに卑劣な手を使おうとしておりました」
思い当たる節がある。クリストフは自身が抱えている鬱憤を晴らすためにどうしてもオットーに勝ちたかったのだ。
それ故に足を払ったり、剣を打ちつけたりと卑怯な手ばかりを使っていた。
だが、そんな愚かな真似をしてしまったために心の内まで見抜かれてしまったのだ。
クリストフは両目を見開きながらオットーを睨み付ける。オットーはそんな弟子を一瞥した後に鼻を鳴らした。
「やはりな。私はあくまでも剣術の師……政治には関係いたしませぬ。ですが、卿がよからぬ考えを抱いておるというのならば私の手で始末せねばなりませぬぞ」
その言葉を聞いてクリストフのプライドは燃え上がった。相手はいかに剣術の師匠といっても所詮は銃士。
苗字を与えられた剣持ちの老いぼれに過ぎないはずだ。それなのに門閥貴族の中でも名門たるホワインセアム家の嫡男である自分を始末するなどと呟いた。
そのような非礼を許しておけるはずがない。クリストフは拳を強く震わせながらオットーに向かって叫ぶ。
「調子に乗るなよッ!貴様などオレの力を使えば簡単に消し去ってやるのだからなッ!」
そのような言葉を浴びせられてもオットーは意に返すこともなく背中を向けて次の稽古場所へと向かっていく。
向かう場所は知っている。アンブリッジ伯爵家の元である。伯爵家の長男ルシウスは熱心に剣術の鍛錬に臨むことはなかったが、それとは対照的に次男であるジェームズはクライン王国の規則に従って己を律し、激しい剣術の稽古と学問とに打ち込んでいたのである。
だが、多々ある伯爵家と王家とも由縁の深い公爵家の長男である自分が比べられるということが昔からあった。
少なくとも他の公爵家の子息よりかは熱心に剣術の鍛錬に打ち込んでいるはずだが、オットーは稽古のたびにジェームズを褒め称えていたのでクリストフは機嫌が悪かった。
そのためジェームズをなんとかして叩き潰してやれないかという憎悪の炎に燃えていたのである。
クリストフは憎悪の炎をいつも稽古終わりに浴びる井戸の冷水を浴びることで打ち消し、残りの時間は自室で読書に励むことにした。
歴史や政治について学ぶことはクリストフにとって重要なことであった。
さらに代々の投手から受け継がれてきた帝王学もおさらいしておく必要がある。
いつでも王家になるために必要な学問なのだ。
クリストフが難しい顔を浮かべながら本を開いていると、扉を叩く音が聞こえた。
入室を許可すると、長くて黒い髪をたなびかせたそばかすの少女がお茶とお茶菓子を載せたお盆を持って現れた。
少女の名はガーネット。かつては王家に仕えるメイドであったが、少しの間だけ在位していた国王ベクターの死をその場で見届けて以来、それが目に焼き付いて離れないということで王宮で働くことができなくなり、やむを得ずに王宮からの紹介状を携えて公爵家に現れたのである。
クリストフにとって奇妙であったのはガーネットがメイドであるのにも関わらず、どこか馴れ馴れしい態度で接してくるというわけである。
対等な口を利いたりとか、仕事が適当だったりとかそういうわけではないのだ。
だが、一般のメイドであるのならば踏み込まないようなことにも彼女は興味津々な様子で踏み込んでくるのだ。
そこが不愉快であった。公爵家の中で騒動が引き起こされるたびにどこか神妙な顔を浮かべて「それはお気の毒でしたね」と呟くのであった。
それが不愉快であったので、クリストフはいつもぞんざいに彼女を扱った。
そのため今日も両目を尖らせながら厳しい口調で吐き捨てた。
「それを置いたらさっさと持ち場に戻れ」
だが、ガーネットは戻らなかった。そしていつものように上っ面の同情を浮かべるのであった。
クリストフは怒りを爆発させた。このような小娘に何が理解できるというのか。
苛立ち紛れに殴った壁を見て、ガーネットは両肩を強張らせて全身を震わせた。
その後で頭を下げ謝罪の言葉を述べる。
これで少しは大人しくなるだろう。だが、クリストフの予想に反してガーネットは大人しくなるどころかより一層同情の色を浮かべていくのだった。
たまりかねたクリストフは壁を強く叩いてガーネットに向かって怒鳴り散らした。
「なんのつもりだッ!貴様、使用人の分際で分を弁えろッ!」
「そんなの無理ですッ!クリストフ様が本当にお可哀想なんですもの!」
ガーネットは涙を交えながら叫ぶ。ロマンス小説のヒロインさながらの迫力であった。
「貴様如きが関わる話ではないわッ!」
売り言葉に買い言葉だ。こうなってしまっては遠慮などできるはずがない。
クリストフは本を勢いよく閉じて机の上へと乱暴に置くと、非礼なメイドの元へと詰め寄っていく。
鉄拳制裁でも喰らわせようとした時に彼女は思いもよらぬ言葉を口に出したのであった。
「ようやく先王陛下がお隠れになり、ベクター陛下もお隠れになり、残るは陛下お一人だというのにそれでも陛下がおられる限りはその地位が回ってこない……なんとお気の毒なお話なのでしょう。元王陛下はベクター陛下より王位を簒奪して今の地位にいるのというのに」
クリストフの両眉が上がる。ガーネットの両肩を強く握り締めながら強い声で問い正していく。
彼女にも事情はある。本来であるのならばもう少し配慮した聞き方もあるのだろうが、簒奪という事実が明らかになった限りはガーネットから事情を問いただせねばならぬのだ。
クリストフの厳しい追求によってガーネットはようやく口を開いた。
彼女によればベクターが死ぬ間際、即位の儀式を行なった部屋から一人の中年女性が出ていくのを見たのだという。
顔は見えなかったが、死ぬ間際に部屋を出たというのが怪しかった。
それ故にガーネットはベクターの毒殺を信じ、彼女こそがフィンによって差し向けられた刺客だということを実感していたのである。
これまで海底を這う貝の口のように閉ざしていたのはそのことを語るのが恐ろしかったからだという。
信じられないことである。もし、この事実が公になればフィンの評価は現在とは一転し、弟殺しの疑惑を持つ怪しき国王となるだろう。その上で他殺説もある先王のことにも噂をかければ父親殺しの汚名まで着せられる。彼女がこれまでの間黙っていた理由もわかるというものだ。
そうなれば国王の地位を追い出されるかもしれない。そこでようやく自分の出番になる。
クリストフは己の中に迷い込んできた幸運に感謝するしかなかった。
やはり天上界にいる神々というものは世の理というものを理解しているものだ。
自分こそが国王になるというものに相応しい。
その日よからぬ事情が明らかとなったクリストフは上機嫌な様子で床へと着いた。
翌朝になっても清々しい思いであった。目覚めのワインを口にし、空に思いを馳せる。
こんなに素晴らしいことがあるものだろうか。ワイングラスのワインを揺らしながら青空を眺めていると、ガーネットの案内によってオークスなる商人の姿が見えた。
オークスは丁寧な一礼を行い、計画の進捗を尋ねた。
クリストフはそこで王位簒奪計画改め王位奪取計画なる計画を語っていく。
自分がガーネットから聞いた話をオークスに打ち明け、この事実を社交界やゴジップ誌などに回し、フィンの信頼を地に落とすという計画を語った。
だが、オークスはそれらの提案を蹴り、クリストフから聞いた話を別の形で用いることにしたのである。
オークスによればフィンの命を奪い取り、クリストフが王位に就いたその後で先ほどの計画をばら撒くというものである。
そうなればクリストフの国王就任を疑う者は誰もいなくなる。それまではこの話は秘蔵の話として胸の内にしまっておくというものであった。
しかし、オークスのいいや、『ジャッカル』の本音としてはそのような計画に費やす資金と人員が不足していることが実情であった。
現在の『ジャッカル』は害虫駆除人たちとの抗争と現在の計画を推し進めることに手いっぱいで社交界やゴシック誌に人員を割く余裕がないのだ。
せめてもう少し組織事情に余裕があれば違うのだろうが、現在はクリストフの秘蔵話も胸の内に秘めておくより他にないのだ。
何より、ゴシップ誌や社交界に工作員を出したとしても害虫駆除人の餌食になってしまえば無駄に終わってしまう。
オークスはそうなることだけは避けたかった。そのためこういう形で話をまとめることしかできなかったのだ。
そんな本音などつゆも知らないオークスは公爵家の紋章のついた馬車で王都にまで送り返された。
クリストフはわざわざ剣と頭痛の際に用いる粉薬の入った袋を持たせたガーネットを共にして出入り口にまで降り立ち、馬車へと手を振りながら熱心に見送っていたのだが、背後に妙な気配を感じて飛び跳ねた。
背後を振り返ると、剣を持った男の姿が見えた。歳の頃は三十過ぎだろうか。
また、気になるところを挙げれば刺客だというのにひどく落ち着いているところだろうか。これまでの刺客たちはどこか興奮した様子であるというのにこの男はどこからどこまでも落ち着いていたのだ。落ち着き過ぎて気持ちが悪いという表現の方が正しいだろう。
剣を持った男は無言でクリストフの元へと襲い掛かってきた。
何者だろうか。王宮に雇われた銃士か何かだろうか。はたまた自分の亡き後に地位を狙う別の貴族からの刺客だろうか。いずれにしろ、クリストフにとって脅威であるということには変わらない。
幸いなことに彼の背後には剣と粉薬が入った袋を持っていたガーネットがいたことを思い出した。
切羽詰まっていたクリストフはガーネットから剣を奪い取り、鞘を放り捨ててようやく構えの体勢へと至ったのである。
だが、腕は相手の方が圧倒的であるらしい。クリストフの剣は呆気なく弾き飛ばされてしまい、彼は危機へと陥った。
現在は目と鼻の先にまで剣先が突きつけられている。これに間違いがあればクリストフはすぐにでも顔を突き刺されて冥界王の元へと旅立つことになるだろう。
それだけは避けなくてはならないのだ。しかし、この状況ではなす術もあるまい。
クリストフが両目を瞑った時だ。
「クリストフ様ッ!危ないッ!」
と、彼女が抱えていた粉薬が刺客へと投げ飛ばされたのだ。
粉薬は運良く刺客の顔へと命中し、刺客はゴホゴホと咳を立てていく。
これで形成は逆転だ。粉薬を投げつけたら心の中でガーネットへと感謝の言葉を
述べてからクリストフは剣を振り上げていく。
だが、その剣は両手の手首に長鞭が巻き付いたことによって落とす羽目になってしまったのだ。
クリストフが剣を落とすのと同時に長鞭も引っ込み、同時に粉薬で周りが見えなくなっていた男が慌てて逃げ出していくのが見えた。
クリストフはガーネットの元へと慌てて駆け寄っていき感謝の言葉を述べた。
同時にクリストフは自らがガーネットに対して良い感情を持っていったことに気が付いた。
自分には見た目麗しい婚約者がいるというのにどうしてこのような娘に恋焦がれているのだろう。
クリストフはわけがわからなかった。
そのために刺客を取り逃してしまったというのに……。
「あの野郎、予想外に手強いぜ」
害虫駆除人ゲイシーは酒場で当面の相棒となったギークを相手に愚痴を吐いていた。
「仕方がない。けど、これでまた屋敷の警備が固くなるだろうね。また別の方法を考えなくちゃ」
ギークは溜息混じりに吐き捨てた。そんな姿を見てゲイシーは申し訳がないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
目を気まずくなるからか敢えて合わせるのを避けていた。
あの時こそがクリストフを仕留める絶好の機会だというのに、こうなってしまっては次の機会がいつになるのかわかったものではない。
ギークの言う通り、クリストフやホワインセアム公爵家はその防備を固めるだろう。
こうなってしまってはますます駆除が難しくなるというものだ。
重苦しい空気が続く中に彼女は現れた。ゲイシーの目には救いを与える慈悲の女神のように見えた。
「あっ、カーラ」
ギークは何気なしに口を開いた。恐らく直前に会う約束をしていたのだろう。この軽い挨拶は確認であるに違いない。
「ご機嫌麗しゅう。ギークさん」
その証拠にカーラも挨拶を返した後で頭を下げて酒場の椅子の上に腰を下ろしたのであった。
「よぅ、カーラ」
ゲイシーはぎごちのない笑みを浮かべてカーラを出迎えた。こうでもしなければ出迎えることなどできなかったのだ。
「ご機嫌麗しゅうございますわ。ゲイシーさん」
「あ、あぁ」
皮肉なのか天然なのかはわからないが、今のゲイシーの機嫌が良いはずがない。
苦笑いを浮かべながら誤魔化すより他になかった。
彼女はこんな状況であるにも関わらず何を言いにきたのだろうか。わざわざ皮肉を言いにきたというのならば相当に性格が悪い。一部で『血吸い姫』だの『人面獣心』だの『悪女』だのと呼ばれる理由がわかる気がする。
ゲイシーが期待と不安が入り混じった表情でカーラを見つめていると、真剣な表情を浮かべたカーラはゲイシーの期待をいい意味で裏切った。
そのどちらも口にすることはなく、ある計画を打ち立てたのである。
「クリストフ卿とエミリー様なのですが、私に両者を共に駆除するいい方法を思い付きまして」
と、カーラは二人に耳打ちを行う。カーラの提案を聞いた二人は納得がいったという表情で首を縦に動かす。
というのも、カーラの持ち出した計画は二人の結婚式を狙っての駆除であったのだ。
かつて腕利きの駆除人たちで王宮に忍び込み、即位式の中でベクターとマルグリッタの両名を駆除した時と同じ手口を扱うことを計画したのであった。
カーラの考案した計画に二人は乗り気であった。これが上手くいけば確実にクリストフとエミリーの両名を始末できるからだ。
しかし、駆除人たちは知らなかった。ベクターとマルグリッタを駆除した時に一部始終を目撃していたメイドの存在を。
あとがき
申し訳ありません。なるべく急いで早くに提出しようと思いましたが、光陰矢の如しと言わんばかりに時間が加速し、とてもではありませんが投稿が叶いませんでした。申し訳ありません。
ここに改めてお詫びを入れさせていただきます。
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