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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』
番犬は別の主人に飼われてしまいまして
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もうじき年が明けるということもあり、年越しの準備などもあり、レストランの周りを歩く人はまばらとなっていた。
僅かに集まった人々も寒さに足を震わせながら慌てて自宅へと急いでいた。
窓ガラスに結露というものが付着し、景色さえも見えなくなっていた。
それでも、窓際の前の席に座り、小さな声で密談を交わしていた。
窓に背中を向ける上座に座っていたのはカレッジ・ルーデルランド男爵であり、その周りに座っていたのは駆除人ギルドの番犬を務める老人、ゴーグであった。
ゴーグと共に座っているのはゴーグの共にして護衛を務めるテオドアとハンターという二人組の男であった。
四人は席の上で共にメインディッシュとして提供された濃いめのソースのかかったステーキを口にしていたのだが、カレッジは不意に立ち上がったかと思うと、机を勢いよく叩いて、
「まだ奴は始末できんのか?」
と、怒りに声を震わせながら問い掛けた。
カレッジの顔はよく見れば鼻が膨れ上がり、そこから荒い息さえ吐いていた。
ゴーグはその姿を見て思わず目を逸らすものの、それが逃げたと捉えられたらしく、カレッジの怒りという名の炎へと油を注ぐことになってしまった。
カレッジは怒りに身を任せ、そのまま料理が乗った机を蹴り飛ばす。
料理と落とした衝撃で粉々に砕け散った皿の破片が絨毯の上へと飛び散っていく。
お洒落のために蝋燭などを飾っていなかったのは不幸中の幸いと言うべきだろう。
いずれにせよ、カレッジという男の気性は嵐のように激しかった。カレッジは困惑するゴーグの胸ぐらを掴み上げ、両目を尖らせながら問い掛けた。
「いいか?オレが依頼を出してから既に三日も経過している。だというのに、奴は未だに大きな病院の中で悠々と眠っているではないか?これはどういうことだ?」
「申し訳ありません。この街の駆除人たちを信じておったんですが、なかなか駆除を行なってもらえずーー」
「言い訳は聞かんッ!いいか?もし、年明けまでに奴を始末できなければ貴様らのことを国王陛下に直訴してやる」
この言葉には絶大な意味があった。それは自分の破滅と道連れに駆除人たちを掃討してやるという脅しに他ならないからだ。ここまでの脅しをされてはゴーグとしても従わざるを得ない。
それにカレッジからは莫大とも言える報奨金を受け取っている。金を渡してしまっているために今更嫌だとも言えない。
そのためには自身の忠実な配下であるテオドアとハンターの両名を一向に動こうとしないウィリアムの元へと差し向ける必要があった。
だが、その前にギルドマスターには念を押しておかなくてはなるまい。報酬だけを受け取り、逃げられてはたまったものではないのだ。
そのことを伝えにレストランを去った足でそのままギルドマスターの元へと向かったのだが、ギルドマスターはゴーグを応接室へと連れ添うなり、ゴーグの前にもらった大金を突き返したのだった。
机の上に山と積まれた革の袋を凝視した後に、ゴーグはギルドマスターを睨み付けた。
「貴様、どういうつもりだ?」
その口振りには最初、カーラと遭遇した時に見せた好々爺ぶりは一切見られない。意に沿わない人間に対して容赦のない拷問を行う裏社会に地位を築く人間の顔そのものだ。
威圧的とも言える態度であったが、その声はとても静かなものであった。
静かではあるものの、その声から感じるのは威圧のみである。あまつさえ顔をギルドマスターへと近付けて、じっと睨みさえしていた。
通常の人間ならばゴーグの態度を見て、萎縮してしまうところだろう。
だが、数々の街の中で、最も人が多く、様々な思惑が入り乱れる王都を任せられたギルドマスターである。
ゴーグの脅しには乗りもせずに黙って椅子の上で腕を組んでいた。
ゴーグは怒りに満ち溢れた目でギルドマスターを睨んでいたのだが、次第に大きく溜息を吐いて、
「もういい。テメェなんぞに期待したオレがバカだった」
と、ゴーグの素の口調である荒々しい口調で吐き捨てた。
それからギルドマスターに渡すはずであった大金を回収し、外で待っていたテオドアとハンターに押し付けたのだった。
ゴーグはワナワナと震えた後、機嫌の悪い様子を二人に見せた。
それから人通りの来ない路地へと向かうと、突っ立っている二人に命令を出したのだった。
「テメェらその金はやる。だから、カレッジのいうウィリアム・バドラーって騎士をぶっ殺せ。いいな」
二人は本来であるのならば護衛であるのと同時にゴーグのような番犬の監視役を務めなければならない立場にあるのだが、先ほどレストランでの会合にも同席していたあたり、二人もゴーグによって腐らされてしまったといってもいい。
腐敗した林檎が籠の中に一つあれば、籠全体を腐らせるとはいうが、まさしくその通りであった。
とっくの昔に駆除人としての矜持など捨てた二人は躊躇いなく首を縦に動かした。それから情報を集めるために酒場という酒場を歩き回っていた。
二人がようやく情報を手に入れることができたのは六軒目の酒場を回った時だった。
「本当かい?そいつが今は病院にいるっていうのは?」
「あぁ、少し前にレキシーって町医者の診療所に来てな。そいつが自分で居場所を告げたのよ。そんで奴はレキシーの紹介で本格的な治療に励むため、町医者へと向かったと聞くぜ」
酒を奢られた小男が調子良さげに語っていく。
それを聞いたテオドアとハンターは互いに目を合わせて、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「やったな。そいつの居場所は病院だぜ」
「よし、追い掛けよう」
テオドアとハンターは情報を教えた男に向かって懐から金貨を投げ付け、男が入院しているという病院へと向かっていく。
病院は屋敷などではないために二人は簡単に潜入することができた。
二人は手当たり次第に病室へと押し入り、ウィリアムのベッドを探索していた。そして、ようやくウィリアム・バドラーと記されたベッドを探し当てたのだった。
互いに懐の中に隠していた短剣を抜き出し、ウィリアムへと突き立てようとしたのだが、ウィリアムも腕に覚えのある騎士。眠っていたのにも関わらず、自身の元へと差し迫る気配に気が付き、ベッドの上から起き上がった。
三日の間、入院して傷を癒していたとはいえ、未だにウィリアムは全身に包帯を巻いた怪我人。
それでも二人の「刺客」を相手にして見事な立ち回りを見せたのだから「見事」と評するより他にない。
そのまま自身に向かって短剣を突き立てようとした男たちの顎下へと強烈な一撃をお見舞いしたのであった。
二人は一瞬、衝撃よって目が見えなくなった。その隙を狙われ、ウィリアムは腹に強烈な一撃を喰らわせ、二人の手から短剣を奪い取った。
ウィリアムは自ら逆手に握った短剣を二人に突き付けながら確かめた。
「お前たちカレッジの手下だろ?」
その問い掛けを聞いて、二人は言い返さなかった。ウィリアムは二人が返答を行わなかったことを同意と見做したらしい。
そのまま二人の心臓へと突き立てようとしたのだが、二人はウィリアムを突き飛ばし、そのまま逃げ去っていく。
ウィリアムは二人が闇へと消えていくのをしばらくの間は見つめていたが、やがて短剣を地面の上に置くと、再び寝息を立てたのだった。
ウィリアム・バドラー襲撃の件を聞いたギルドマスターは昼間、閉鎖しているはずの酒場に王都にいる主だった駆除人たちを集めて、
「お前さんたち、この件についてどう思うかね?」
と、低い声で問い掛けた。
「決まっているよ。これは徹底的に叩かなくちゃ」
ギークは自身の前に差し出された赤い蒸留酒の入った酒を飲み干しながら言った。
「同感です。番犬は今や、男爵の犬と成り果て、善人を殺そうとしている……そんな奴はいかしちゃおけません。すぐにでも駆除するべきです」
ヒューゴは自身の横に立て掛けていた剣を取りながら言った。
「あら、ヒューゴさん。なかなか詩的な表現ですわね。気に入りましたわ」
カーラがクスクスと笑いながら言った。
「笑っている場合じゃないだろ?少なくとも、この件に関して総会は揉めるだろうねぇ」
レキシーはやきもきとした様子で言い放った。頬杖をついており、横には白い色の蒸留酒が入ったグラスがあったが、手に付けた様子は見えない。
どうやら、酒を飲む余裕も失われてしまっているらしい。
「ともかくです。今回はそのウィリアムって人は上手く切り抜けられたみたいですけど、次はどうかわかりませんよ。マスター、護衛を立てたらどうですか?」
新たに駆除人として加わったクイントンの問い掛けを聞いたギルドマスターは過去に現国王であるフィンに頼まれ、護衛として何人かの駆除人を派遣したことを覚えている。
その時に派遣されたのはギークと何人かの駆除人。ギルドマスターが咄嗟に目をやると、ギークが待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべて、
「わかってるよ。今度の護衛もぼくに任せてよ。ユーリ直伝の長鞭と剣で奴らを仕留めてやるさ」
と、胸を叩きながら言った。
「では、駆除は私にお任せくださいませ。顔は知られておりますけれども、私はいいやり方を知っておりますのよ」
カーラは氷のような薄ら笑いを浮かべながら言った。悪女のような剣幕にクイントンは思わず慄いたが、それ以外の全員は頼もしい目で見つめていた。
というのも、これまでのカーラが悪女のような笑みを浮かべた時は必ず、駆除が成功していたからだ。
「なら、カレッジの駆除はあたしに任せてくれよ。ちょいとばかし、あいつには苦しんでもらわないといけないだろ?」
レキシーは懐から小さな瓶を取り出しながら問い掛けた。その瓶をよくよく見てみると、毒々しい紫いの液体が入っているのが見えた。
見たところ、レキシーが精製した毒であるらしい。全員がその毒を見て、安堵したような笑みを浮かべた。
これで駆除において各々が成すべく役割は決まった。後は自ら首輪を外し、番犬から傲慢な大貴族の猟犬へと変貌したゴーグ、それを咎めるはずであったのに同じように腐ってしまったテオドアとハンター。そして、それらを操る悪の首魁、カレッジ・ルーデルランドの四名を仕留めていくだけだ。
駆除人たちはそれぞれギルドマスターが自ら出した前金を受け取ってから、酒場を出て、街の雑踏の中へと消えていく。
ギルドマスターはそんな駆除人たちを黙って見つめていた。
僅かに集まった人々も寒さに足を震わせながら慌てて自宅へと急いでいた。
窓ガラスに結露というものが付着し、景色さえも見えなくなっていた。
それでも、窓際の前の席に座り、小さな声で密談を交わしていた。
窓に背中を向ける上座に座っていたのはカレッジ・ルーデルランド男爵であり、その周りに座っていたのは駆除人ギルドの番犬を務める老人、ゴーグであった。
ゴーグと共に座っているのはゴーグの共にして護衛を務めるテオドアとハンターという二人組の男であった。
四人は席の上で共にメインディッシュとして提供された濃いめのソースのかかったステーキを口にしていたのだが、カレッジは不意に立ち上がったかと思うと、机を勢いよく叩いて、
「まだ奴は始末できんのか?」
と、怒りに声を震わせながら問い掛けた。
カレッジの顔はよく見れば鼻が膨れ上がり、そこから荒い息さえ吐いていた。
ゴーグはその姿を見て思わず目を逸らすものの、それが逃げたと捉えられたらしく、カレッジの怒りという名の炎へと油を注ぐことになってしまった。
カレッジは怒りに身を任せ、そのまま料理が乗った机を蹴り飛ばす。
料理と落とした衝撃で粉々に砕け散った皿の破片が絨毯の上へと飛び散っていく。
お洒落のために蝋燭などを飾っていなかったのは不幸中の幸いと言うべきだろう。
いずれにせよ、カレッジという男の気性は嵐のように激しかった。カレッジは困惑するゴーグの胸ぐらを掴み上げ、両目を尖らせながら問い掛けた。
「いいか?オレが依頼を出してから既に三日も経過している。だというのに、奴は未だに大きな病院の中で悠々と眠っているではないか?これはどういうことだ?」
「申し訳ありません。この街の駆除人たちを信じておったんですが、なかなか駆除を行なってもらえずーー」
「言い訳は聞かんッ!いいか?もし、年明けまでに奴を始末できなければ貴様らのことを国王陛下に直訴してやる」
この言葉には絶大な意味があった。それは自分の破滅と道連れに駆除人たちを掃討してやるという脅しに他ならないからだ。ここまでの脅しをされてはゴーグとしても従わざるを得ない。
それにカレッジからは莫大とも言える報奨金を受け取っている。金を渡してしまっているために今更嫌だとも言えない。
そのためには自身の忠実な配下であるテオドアとハンターの両名を一向に動こうとしないウィリアムの元へと差し向ける必要があった。
だが、その前にギルドマスターには念を押しておかなくてはなるまい。報酬だけを受け取り、逃げられてはたまったものではないのだ。
そのことを伝えにレストランを去った足でそのままギルドマスターの元へと向かったのだが、ギルドマスターはゴーグを応接室へと連れ添うなり、ゴーグの前にもらった大金を突き返したのだった。
机の上に山と積まれた革の袋を凝視した後に、ゴーグはギルドマスターを睨み付けた。
「貴様、どういうつもりだ?」
その口振りには最初、カーラと遭遇した時に見せた好々爺ぶりは一切見られない。意に沿わない人間に対して容赦のない拷問を行う裏社会に地位を築く人間の顔そのものだ。
威圧的とも言える態度であったが、その声はとても静かなものであった。
静かではあるものの、その声から感じるのは威圧のみである。あまつさえ顔をギルドマスターへと近付けて、じっと睨みさえしていた。
通常の人間ならばゴーグの態度を見て、萎縮してしまうところだろう。
だが、数々の街の中で、最も人が多く、様々な思惑が入り乱れる王都を任せられたギルドマスターである。
ゴーグの脅しには乗りもせずに黙って椅子の上で腕を組んでいた。
ゴーグは怒りに満ち溢れた目でギルドマスターを睨んでいたのだが、次第に大きく溜息を吐いて、
「もういい。テメェなんぞに期待したオレがバカだった」
と、ゴーグの素の口調である荒々しい口調で吐き捨てた。
それからギルドマスターに渡すはずであった大金を回収し、外で待っていたテオドアとハンターに押し付けたのだった。
ゴーグはワナワナと震えた後、機嫌の悪い様子を二人に見せた。
それから人通りの来ない路地へと向かうと、突っ立っている二人に命令を出したのだった。
「テメェらその金はやる。だから、カレッジのいうウィリアム・バドラーって騎士をぶっ殺せ。いいな」
二人は本来であるのならば護衛であるのと同時にゴーグのような番犬の監視役を務めなければならない立場にあるのだが、先ほどレストランでの会合にも同席していたあたり、二人もゴーグによって腐らされてしまったといってもいい。
腐敗した林檎が籠の中に一つあれば、籠全体を腐らせるとはいうが、まさしくその通りであった。
とっくの昔に駆除人としての矜持など捨てた二人は躊躇いなく首を縦に動かした。それから情報を集めるために酒場という酒場を歩き回っていた。
二人がようやく情報を手に入れることができたのは六軒目の酒場を回った時だった。
「本当かい?そいつが今は病院にいるっていうのは?」
「あぁ、少し前にレキシーって町医者の診療所に来てな。そいつが自分で居場所を告げたのよ。そんで奴はレキシーの紹介で本格的な治療に励むため、町医者へと向かったと聞くぜ」
酒を奢られた小男が調子良さげに語っていく。
それを聞いたテオドアとハンターは互いに目を合わせて、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「やったな。そいつの居場所は病院だぜ」
「よし、追い掛けよう」
テオドアとハンターは情報を教えた男に向かって懐から金貨を投げ付け、男が入院しているという病院へと向かっていく。
病院は屋敷などではないために二人は簡単に潜入することができた。
二人は手当たり次第に病室へと押し入り、ウィリアムのベッドを探索していた。そして、ようやくウィリアム・バドラーと記されたベッドを探し当てたのだった。
互いに懐の中に隠していた短剣を抜き出し、ウィリアムへと突き立てようとしたのだが、ウィリアムも腕に覚えのある騎士。眠っていたのにも関わらず、自身の元へと差し迫る気配に気が付き、ベッドの上から起き上がった。
三日の間、入院して傷を癒していたとはいえ、未だにウィリアムは全身に包帯を巻いた怪我人。
それでも二人の「刺客」を相手にして見事な立ち回りを見せたのだから「見事」と評するより他にない。
そのまま自身に向かって短剣を突き立てようとした男たちの顎下へと強烈な一撃をお見舞いしたのであった。
二人は一瞬、衝撃よって目が見えなくなった。その隙を狙われ、ウィリアムは腹に強烈な一撃を喰らわせ、二人の手から短剣を奪い取った。
ウィリアムは自ら逆手に握った短剣を二人に突き付けながら確かめた。
「お前たちカレッジの手下だろ?」
その問い掛けを聞いて、二人は言い返さなかった。ウィリアムは二人が返答を行わなかったことを同意と見做したらしい。
そのまま二人の心臓へと突き立てようとしたのだが、二人はウィリアムを突き飛ばし、そのまま逃げ去っていく。
ウィリアムは二人が闇へと消えていくのをしばらくの間は見つめていたが、やがて短剣を地面の上に置くと、再び寝息を立てたのだった。
ウィリアム・バドラー襲撃の件を聞いたギルドマスターは昼間、閉鎖しているはずの酒場に王都にいる主だった駆除人たちを集めて、
「お前さんたち、この件についてどう思うかね?」
と、低い声で問い掛けた。
「決まっているよ。これは徹底的に叩かなくちゃ」
ギークは自身の前に差し出された赤い蒸留酒の入った酒を飲み干しながら言った。
「同感です。番犬は今や、男爵の犬と成り果て、善人を殺そうとしている……そんな奴はいかしちゃおけません。すぐにでも駆除するべきです」
ヒューゴは自身の横に立て掛けていた剣を取りながら言った。
「あら、ヒューゴさん。なかなか詩的な表現ですわね。気に入りましたわ」
カーラがクスクスと笑いながら言った。
「笑っている場合じゃないだろ?少なくとも、この件に関して総会は揉めるだろうねぇ」
レキシーはやきもきとした様子で言い放った。頬杖をついており、横には白い色の蒸留酒が入ったグラスがあったが、手に付けた様子は見えない。
どうやら、酒を飲む余裕も失われてしまっているらしい。
「ともかくです。今回はそのウィリアムって人は上手く切り抜けられたみたいですけど、次はどうかわかりませんよ。マスター、護衛を立てたらどうですか?」
新たに駆除人として加わったクイントンの問い掛けを聞いたギルドマスターは過去に現国王であるフィンに頼まれ、護衛として何人かの駆除人を派遣したことを覚えている。
その時に派遣されたのはギークと何人かの駆除人。ギルドマスターが咄嗟に目をやると、ギークが待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべて、
「わかってるよ。今度の護衛もぼくに任せてよ。ユーリ直伝の長鞭と剣で奴らを仕留めてやるさ」
と、胸を叩きながら言った。
「では、駆除は私にお任せくださいませ。顔は知られておりますけれども、私はいいやり方を知っておりますのよ」
カーラは氷のような薄ら笑いを浮かべながら言った。悪女のような剣幕にクイントンは思わず慄いたが、それ以外の全員は頼もしい目で見つめていた。
というのも、これまでのカーラが悪女のような笑みを浮かべた時は必ず、駆除が成功していたからだ。
「なら、カレッジの駆除はあたしに任せてくれよ。ちょいとばかし、あいつには苦しんでもらわないといけないだろ?」
レキシーは懐から小さな瓶を取り出しながら問い掛けた。その瓶をよくよく見てみると、毒々しい紫いの液体が入っているのが見えた。
見たところ、レキシーが精製した毒であるらしい。全員がその毒を見て、安堵したような笑みを浮かべた。
これで駆除において各々が成すべく役割は決まった。後は自ら首輪を外し、番犬から傲慢な大貴族の猟犬へと変貌したゴーグ、それを咎めるはずであったのに同じように腐ってしまったテオドアとハンター。そして、それらを操る悪の首魁、カレッジ・ルーデルランドの四名を仕留めていくだけだ。
駆除人たちはそれぞれギルドマスターが自ら出した前金を受け取ってから、酒場を出て、街の雑踏の中へと消えていく。
ギルドマスターはそんな駆除人たちを黙って見つめていた。
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