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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』
所詮最後は寒い冬が来て
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「間違いありませんわ。プラフティー公爵夫人の……私の母の死体です」
カーラの証言を聞いて警備兵たちは分厚い紙の中に確認のチェックを行なっていく。
忙しそうに紙を確認する兵士にカーラは実の父親がどうなったのかを問い掛けた。
「プラフティー元公爵?奴ならもう捕まえてるよ。近々国王暗殺の咎で平民に見られながら絞首刑になるだろうな」
「……哀れなものですわね」
カーラは実の父親がそのような憂き目に遭ったのにも関わらず、目を細めながら哀れだと言わんばかりに吐き捨てるのみだった。
「そういえばハンセン公爵家の残されたご令嬢はどうなるんですの?」
「前国王の時代なら一族総出で死刑になったのだろうが、フィン陛下は寛容なお方だからな。おそらく貴族身分の剥奪だけで済むだろうさ」
しかし、貴族の生活に慣れていたエミリーは突然のことに驚くだろう。
ただでさえ駆除人たちの仕業によって身内を全て失っているというのに、貴族の身分まで剥奪されては途方に暮れることは間違いない。
純真で世間知らずなエミリーが両親や兄など守る人のいない市井で耐え切れるのかということには関心がある。
そのうちエミリーに救いの手を伸ばさなければならない時が来るだろう。カーラはそんなことを思いながら話を聞いていた。
兵士の説明を聞き終え、カーラはレキシーの元へと戻っていく。
死亡確認を終えた後でその日の仕事を終え、カーラは服飾店に納める予定の服を取りに戻っていた。
襲撃の際にも部屋へと篭って期限に間に合わせるよう服を縫っていたのはいい思い出である。
仕立て上げたばかりの服を脇に抱え、カーラは服飾店に向かって服を納めたのだった。
その帰り道、久し振りに馴染みの菓子店でレキシーへの土産として菓子を買って帰ろうかと考えた時だ。ふと、自分の背後に人の気配を感じた。ただの気配ではない。明確な殺気だ。
殺気を見せられてはどうしようもあるまい。駆除人として厄介な相手は先に駆除しておく必要がある。
カーラは剥き出しの殺気を放って自分を追いかけてくる相手を逆に駆除するために郊外の誰もいない場所へと向かっていく。
向こう側はそれに気が付いておらず、ただカーラの後をひたすら追ってきていた。剥き出しの殺気を放っているという点から『刺客』や『駆除人』の類などではないだろう。
間違いなく素人だ。だが、何のために素人が自分を追い掛けてきているのだろう。
カーラにはそこがわからなかった。カーラは自分が駆除人で悪人だということは自覚しているが、それでも表稼業や表の人格の方で恨みを買った覚えはない。
それ故に少しばかり強い口調で自分を追い掛けてきている人物に問い掛けたのだった。
「どこのどなた様かは存じ上げませんけど、何故に私を追われるのですか?」
「何故?自分の胸に手を当てて聞いてみろよ。人面獣心」
「……レイラなの?」
カーラの問い掛けに対し、レイラはその姿を目の前に現すことで答えたのだった。
「どうして私をつけるのかしら?」
「……お前にご主人様を殺されたからかな。その仇を討つために付け狙っていたのさ。でも、バレたんたならしょうがないッ!いざ尋常に勝負しろッ!」
この時レイラは短剣ではなく長剣を構え、動きやすいように男装していた。
白色のシャツに黒色のズボンという動きやすく、目立たない格好だった。
カーラはいかにもやる気と言わんばかりのレイラを黙って見据えていた。
両目には憎しみの炎が見えた。どす黒く性質の悪い暗黒の炎だ。
これでは誤解を解くのは困難だろう。カーラが取り敢えず言い訳の言葉を口に出そうとした時だ。
レイラは声を張り上げて、
「問答無用ッ!」
と、斬り掛かっていったのである。
やむを得ない。カーラは素人筋の剣をいとも簡単に見抜き、レイラの背後へと回ると、首根っこを掴み上げてその延髄へと針を打ち込んだのだった。
延髄は人間の急所である。ここに衝撃が走った場合、血圧が低下してしまい、その命が縮まってしまうことになるのだ。
レイラは剣を構えたまま地面の上へと倒れ込んだ。無念と言わんばかりに歪んだ顔が見えた。死者の憎悪がカーラをじっと見つめていたのだ。
その表情を見て、カーラは死体の現場を見てきた駆除人でありながらも思わず身を震わせてしまっていた。
恐らく自分はロクな死に方をしないだろう。そして、惨めな死に方をした後は必ずあの世とやらで明確な報いを受ける羽目になるはずだ。
カーラは自宅へと帰る途中、自分がこれまでに駆除してきた人々の数を数えていく。計り知れない数である。
カーラは改めて自分が罪の深い存在であるということを自覚させられた。
そんな鬱蒼とした思いを抱えたまま自宅へと戻っていく。尾行を返り討ちにするため、誰もいない場所に向かっていたことやそこで戦闘を繰り広げていたということもありとっくの昔に日は沈んでいた。辺りはすっかりと夜の闇が支配していた。そのためカーラはレキシーがすっかりと怒っているのだと思っていた。
しかし、事情はいつもと異なるらしい。レキシーが自宅の前で宮廷の医者であるウィリアムと何やら激しい口調で言葉を交わしていた。
いよいよ大きな声で何か言葉を飛ばそうとしたところでカーラが慌てて駆け寄ったのだった。
「落ち着いてくださいな、レキシーさん。今はもう夜ですわ」
「けどねぇ、カーラ。あたしはつい向っ腹が立っちまってさ」
「向っ腹と仰いますと?」
「聞いてくれよ、フィン陛下がいよいよ婚約者を発表したらしいんだよ。その上であたしたちの治療を受けたいんだと……冗談じゃないよッ!」
「しかし、レキシー先生ではないと陛下が診察をお受けになられないと」
「おあいにく様だねッ!そんなこと知るもんかとーー」
「それは本当ですの?」
カーラが両目を尖らせながら問い掛けた。
「ええ、そういうわけですので、なるべくお早い時間にお越しくださいませ」
ウィリアムは頭を下げると、そのまま王宮へと戻っていく。
結局カーラがフィンに対していい返事を返したのはこの日から三日が過ぎてからのことであった。
王宮からの呼び出しは二人の休日であった。休日に二人はフィンの元へと呼び出され、国王の体に異常がないかという診察を行なっていた。
ネオドラビア教が壊滅した事とフィンに対する有力貴族たちがなりを潜めた事で診察は前回よりもスムーズに行うことができた。
薬が入れ替えられたということもないので、無事にフィンへと薬を渡すこともできた。
フィンは去る間際に丁寧に頭を下げて言った。
「本日は王宮を訪ねていただき誠に感謝致します。レキシー先生の診察はやはり安心しますな」
「そうですかい、王様にそう言っていただけるなんて光栄だねぇ」
表向きこそ感謝の言葉であったが、レキシーはありがたがっているようには思えなかった。むしろ、どこか皮肉めいた口調で言葉を返していたのだ。
そんなどこか捻くれた回答を返したレキシーの裾をカーラは軽く引っ張って言った。
「ちょっと、レキシーさん。せっかく陛下が話し掛けてくださっているというのに失礼ではございませんの?」
だが、レキシーはせっかくのカーラからの警告にも怯むことなく話を続けていく。
「フン、今日のあたしは機嫌が悪いんだよ。そりゃあ、あんたが否応なしに引き受けたから、あたしも引き受けたけどさ。本当のことをいうとね。引き受けたくなんてなかったよ」
「それはどういうことかな?レキシー先生」
フィンは両眉を上げながら問い掛けた。
「どういうことも何も、あたしは義娘の気持ちを弄ぶような男が気に入らないってだけですよ」
その言葉を聞いてフィンはハッとした。レキシーがここまで機嫌を悪くしているのはマチルダ・バロウズ嬢と王妃の婚約を結んでしまったことが原因なのだと考えたのだ。その気持ちはわかる。
自身があれだけカーラに対して思いを馳せているのをレキシーも知っていたはずだ。フィンとしてもカーラへの思いは変わらない。できることならば今すぐにでも王妃として召し上げたい。
だが、今の自分は国王なのだ。カーラとは明らかに身分が釣り合わない。
寵姫として迎えることも可能だが、それはカーラに対して失礼だろう。
そして、まだ基盤が盤石ではない自分には有力貴族を味方に引き入れる必要がある。その足掛かりとしてマチルダ嬢との婚約は必須なのだ。
フィンはそのことをレキシーへと訴えようとしたのだが、その前にカーラが真剣な顔でフィンが訴えようとしていたのと同じことを訴えたのだ。
義娘の説明を聞いてレキシーはようやく納得したらしい。大きな溜息を吐いてからフィンとカーラに背中を向ける。
「陛下がご無事で何よりです。あたしは少し疲れたんで、部屋の中で少し休ませてもらいますけど、その時にくれぐれもカーラに変なことを吹き込まないでくださいよ」
レキシーの言葉を聞いて、カーラは診察の残った時間をフィンと話すことにしたのだった。
「陛下、そのここ最近は色々とございましたね」
「あぁ、ようやく我が国に巣食う病原菌を追い払えたような気分だ。もちろん、まだまだ偏見を持った貴族たちは大勢いる。平穏な世になるのはまだまだ先のことかもしれない。だが、オレはやってのける。必ず基盤を安定させ、それから、あなたをーー」
フィンは言葉に詰まった。いずれ、カーラを妃として迎えに行くとは言い出せなかったのだ。
もし、この先に意味もなくマチルダと婚約を破棄してしまえば、それこそせっかく安定した基盤をひっくり返してしまうことに他ならない。
フィンが拳を握り締めているところにカーラは優しくその手を摩り、フィンを落ち着かせたのだった。
「カーラ嬢」
「陛下は今、お辛いことばかりが起きて、心が弱くなっておるのでしょう。ですが、私はいつでも陛下の味方です。陛下がお呼び出しくださえすれば、私はいつでも陛下の元に駆け付けますわ」
カーラは優しい微笑を浮かべながら言った。
「ありがとう。カーラ嬢」
フィンは優しい目でカーラを見つめた。カーラはその後でゆっくりと手を離し、レキシーと共にフィンの元を去っていくのだった。
フィンはその様子を黙って見つめながら自身の恋心を改めて確信した。マチルダに惹かれる点もあれど、やはり本命はカーラ一人なのだ。
できることならばカーラを自身の元へと引き寄せたい。カーラと家族になりたい。カーラと平穏な家庭を築きたい。
そんな叶わぬ思いばかりが頭の中を渦巻いていく。
今のフィンは風が吹き荒れる荒野の果てをどこまでも行っているようだった。一人、孤独を担ぎながら……。
あとがき
皆様、いつも拙作を読んでいただき誠に感謝しております。つきましては本日より更新を四日に一回とさせていただきます。理由としては多忙のためと多作を同時に連載したいと考えているからです。
目安としましては『魔法刑事たちの事件簿』シリーズ、『突然死んだ女騎士(以下略)』今作、休日という形になります。
誠に身勝手ではありますが、四日に一度の更新にお付き合いくだされば幸いです。
カーラの証言を聞いて警備兵たちは分厚い紙の中に確認のチェックを行なっていく。
忙しそうに紙を確認する兵士にカーラは実の父親がどうなったのかを問い掛けた。
「プラフティー元公爵?奴ならもう捕まえてるよ。近々国王暗殺の咎で平民に見られながら絞首刑になるだろうな」
「……哀れなものですわね」
カーラは実の父親がそのような憂き目に遭ったのにも関わらず、目を細めながら哀れだと言わんばかりに吐き捨てるのみだった。
「そういえばハンセン公爵家の残されたご令嬢はどうなるんですの?」
「前国王の時代なら一族総出で死刑になったのだろうが、フィン陛下は寛容なお方だからな。おそらく貴族身分の剥奪だけで済むだろうさ」
しかし、貴族の生活に慣れていたエミリーは突然のことに驚くだろう。
ただでさえ駆除人たちの仕業によって身内を全て失っているというのに、貴族の身分まで剥奪されては途方に暮れることは間違いない。
純真で世間知らずなエミリーが両親や兄など守る人のいない市井で耐え切れるのかということには関心がある。
そのうちエミリーに救いの手を伸ばさなければならない時が来るだろう。カーラはそんなことを思いながら話を聞いていた。
兵士の説明を聞き終え、カーラはレキシーの元へと戻っていく。
死亡確認を終えた後でその日の仕事を終え、カーラは服飾店に納める予定の服を取りに戻っていた。
襲撃の際にも部屋へと篭って期限に間に合わせるよう服を縫っていたのはいい思い出である。
仕立て上げたばかりの服を脇に抱え、カーラは服飾店に向かって服を納めたのだった。
その帰り道、久し振りに馴染みの菓子店でレキシーへの土産として菓子を買って帰ろうかと考えた時だ。ふと、自分の背後に人の気配を感じた。ただの気配ではない。明確な殺気だ。
殺気を見せられてはどうしようもあるまい。駆除人として厄介な相手は先に駆除しておく必要がある。
カーラは剥き出しの殺気を放って自分を追いかけてくる相手を逆に駆除するために郊外の誰もいない場所へと向かっていく。
向こう側はそれに気が付いておらず、ただカーラの後をひたすら追ってきていた。剥き出しの殺気を放っているという点から『刺客』や『駆除人』の類などではないだろう。
間違いなく素人だ。だが、何のために素人が自分を追い掛けてきているのだろう。
カーラにはそこがわからなかった。カーラは自分が駆除人で悪人だということは自覚しているが、それでも表稼業や表の人格の方で恨みを買った覚えはない。
それ故に少しばかり強い口調で自分を追い掛けてきている人物に問い掛けたのだった。
「どこのどなた様かは存じ上げませんけど、何故に私を追われるのですか?」
「何故?自分の胸に手を当てて聞いてみろよ。人面獣心」
「……レイラなの?」
カーラの問い掛けに対し、レイラはその姿を目の前に現すことで答えたのだった。
「どうして私をつけるのかしら?」
「……お前にご主人様を殺されたからかな。その仇を討つために付け狙っていたのさ。でも、バレたんたならしょうがないッ!いざ尋常に勝負しろッ!」
この時レイラは短剣ではなく長剣を構え、動きやすいように男装していた。
白色のシャツに黒色のズボンという動きやすく、目立たない格好だった。
カーラはいかにもやる気と言わんばかりのレイラを黙って見据えていた。
両目には憎しみの炎が見えた。どす黒く性質の悪い暗黒の炎だ。
これでは誤解を解くのは困難だろう。カーラが取り敢えず言い訳の言葉を口に出そうとした時だ。
レイラは声を張り上げて、
「問答無用ッ!」
と、斬り掛かっていったのである。
やむを得ない。カーラは素人筋の剣をいとも簡単に見抜き、レイラの背後へと回ると、首根っこを掴み上げてその延髄へと針を打ち込んだのだった。
延髄は人間の急所である。ここに衝撃が走った場合、血圧が低下してしまい、その命が縮まってしまうことになるのだ。
レイラは剣を構えたまま地面の上へと倒れ込んだ。無念と言わんばかりに歪んだ顔が見えた。死者の憎悪がカーラをじっと見つめていたのだ。
その表情を見て、カーラは死体の現場を見てきた駆除人でありながらも思わず身を震わせてしまっていた。
恐らく自分はロクな死に方をしないだろう。そして、惨めな死に方をした後は必ずあの世とやらで明確な報いを受ける羽目になるはずだ。
カーラは自宅へと帰る途中、自分がこれまでに駆除してきた人々の数を数えていく。計り知れない数である。
カーラは改めて自分が罪の深い存在であるということを自覚させられた。
そんな鬱蒼とした思いを抱えたまま自宅へと戻っていく。尾行を返り討ちにするため、誰もいない場所に向かっていたことやそこで戦闘を繰り広げていたということもありとっくの昔に日は沈んでいた。辺りはすっかりと夜の闇が支配していた。そのためカーラはレキシーがすっかりと怒っているのだと思っていた。
しかし、事情はいつもと異なるらしい。レキシーが自宅の前で宮廷の医者であるウィリアムと何やら激しい口調で言葉を交わしていた。
いよいよ大きな声で何か言葉を飛ばそうとしたところでカーラが慌てて駆け寄ったのだった。
「落ち着いてくださいな、レキシーさん。今はもう夜ですわ」
「けどねぇ、カーラ。あたしはつい向っ腹が立っちまってさ」
「向っ腹と仰いますと?」
「聞いてくれよ、フィン陛下がいよいよ婚約者を発表したらしいんだよ。その上であたしたちの治療を受けたいんだと……冗談じゃないよッ!」
「しかし、レキシー先生ではないと陛下が診察をお受けになられないと」
「おあいにく様だねッ!そんなこと知るもんかとーー」
「それは本当ですの?」
カーラが両目を尖らせながら問い掛けた。
「ええ、そういうわけですので、なるべくお早い時間にお越しくださいませ」
ウィリアムは頭を下げると、そのまま王宮へと戻っていく。
結局カーラがフィンに対していい返事を返したのはこの日から三日が過ぎてからのことであった。
王宮からの呼び出しは二人の休日であった。休日に二人はフィンの元へと呼び出され、国王の体に異常がないかという診察を行なっていた。
ネオドラビア教が壊滅した事とフィンに対する有力貴族たちがなりを潜めた事で診察は前回よりもスムーズに行うことができた。
薬が入れ替えられたということもないので、無事にフィンへと薬を渡すこともできた。
フィンは去る間際に丁寧に頭を下げて言った。
「本日は王宮を訪ねていただき誠に感謝致します。レキシー先生の診察はやはり安心しますな」
「そうですかい、王様にそう言っていただけるなんて光栄だねぇ」
表向きこそ感謝の言葉であったが、レキシーはありがたがっているようには思えなかった。むしろ、どこか皮肉めいた口調で言葉を返していたのだ。
そんなどこか捻くれた回答を返したレキシーの裾をカーラは軽く引っ張って言った。
「ちょっと、レキシーさん。せっかく陛下が話し掛けてくださっているというのに失礼ではございませんの?」
だが、レキシーはせっかくのカーラからの警告にも怯むことなく話を続けていく。
「フン、今日のあたしは機嫌が悪いんだよ。そりゃあ、あんたが否応なしに引き受けたから、あたしも引き受けたけどさ。本当のことをいうとね。引き受けたくなんてなかったよ」
「それはどういうことかな?レキシー先生」
フィンは両眉を上げながら問い掛けた。
「どういうことも何も、あたしは義娘の気持ちを弄ぶような男が気に入らないってだけですよ」
その言葉を聞いてフィンはハッとした。レキシーがここまで機嫌を悪くしているのはマチルダ・バロウズ嬢と王妃の婚約を結んでしまったことが原因なのだと考えたのだ。その気持ちはわかる。
自身があれだけカーラに対して思いを馳せているのをレキシーも知っていたはずだ。フィンとしてもカーラへの思いは変わらない。できることならば今すぐにでも王妃として召し上げたい。
だが、今の自分は国王なのだ。カーラとは明らかに身分が釣り合わない。
寵姫として迎えることも可能だが、それはカーラに対して失礼だろう。
そして、まだ基盤が盤石ではない自分には有力貴族を味方に引き入れる必要がある。その足掛かりとしてマチルダ嬢との婚約は必須なのだ。
フィンはそのことをレキシーへと訴えようとしたのだが、その前にカーラが真剣な顔でフィンが訴えようとしていたのと同じことを訴えたのだ。
義娘の説明を聞いてレキシーはようやく納得したらしい。大きな溜息を吐いてからフィンとカーラに背中を向ける。
「陛下がご無事で何よりです。あたしは少し疲れたんで、部屋の中で少し休ませてもらいますけど、その時にくれぐれもカーラに変なことを吹き込まないでくださいよ」
レキシーの言葉を聞いて、カーラは診察の残った時間をフィンと話すことにしたのだった。
「陛下、そのここ最近は色々とございましたね」
「あぁ、ようやく我が国に巣食う病原菌を追い払えたような気分だ。もちろん、まだまだ偏見を持った貴族たちは大勢いる。平穏な世になるのはまだまだ先のことかもしれない。だが、オレはやってのける。必ず基盤を安定させ、それから、あなたをーー」
フィンは言葉に詰まった。いずれ、カーラを妃として迎えに行くとは言い出せなかったのだ。
もし、この先に意味もなくマチルダと婚約を破棄してしまえば、それこそせっかく安定した基盤をひっくり返してしまうことに他ならない。
フィンが拳を握り締めているところにカーラは優しくその手を摩り、フィンを落ち着かせたのだった。
「カーラ嬢」
「陛下は今、お辛いことばかりが起きて、心が弱くなっておるのでしょう。ですが、私はいつでも陛下の味方です。陛下がお呼び出しくださえすれば、私はいつでも陛下の元に駆け付けますわ」
カーラは優しい微笑を浮かべながら言った。
「ありがとう。カーラ嬢」
フィンは優しい目でカーラを見つめた。カーラはその後でゆっくりと手を離し、レキシーと共にフィンの元を去っていくのだった。
フィンはその様子を黙って見つめながら自身の恋心を改めて確信した。マチルダに惹かれる点もあれど、やはり本命はカーラ一人なのだ。
できることならばカーラを自身の元へと引き寄せたい。カーラと家族になりたい。カーラと平穏な家庭を築きたい。
そんな叶わぬ思いばかりが頭の中を渦巻いていく。
今のフィンは風が吹き荒れる荒野の果てをどこまでも行っているようだった。一人、孤独を担ぎながら……。
あとがき
皆様、いつも拙作を読んでいただき誠に感謝しております。つきましては本日より更新を四日に一回とさせていただきます。理由としては多忙のためと多作を同時に連載したいと考えているからです。
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