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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』

駆除人ギルド総力を上げての作戦

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「……これまで、我々の戦士は何名が殺された?」

忌々しい口調で提督、ピーター・アニマは宿にある部屋の中で報告に訪れた部下に向かって問い掛けた。

「……少なくとも十名は殺されました。我々の敵として認識するのには十分すぎる数ではないでしょうか?」

その一言にピーターは激昂し、勢いよく机を叩き付けたのであった。

「当たり前だ。我々の教義に反するような連中は生かしてはおけん。なんとしてでも、そいつらを殺せ」

ピーターの言葉を受け、報告に訪れた部下は両肩を震わせながらその場を立ち去っていく。
部下の男はその場においては立ち去ったものの、どこか不満気であったらしく、腹を立てた様子で夜の街を歩いていく。

「そんなことを言ったってな。あいつらどこにいるのかわからねぇし、おれとしても対応のしようがないんだよな」

男からすればそれは取るに足らない一言であった。
だが、眠っていた魔人を呼び起こすのには十分であった。

「わかった。じゃあ、姿を現してあげるよ」

男がその言葉を聞いて、背後へと振り返った時だ。そのまま首元に飾り紐が飛び、そのまま勢いよく力強く締め上げられていく。
男は息を上げる暇もなく締め上げられ、地面の上へと倒れ込む。

「ネオドラビア教の連中はもう片付いたかな?」

物陰から姿を現したもう一人の少年が問い掛けた。

「まだだよ。エイブリー。ネオドラビア教の刺客って意外にいるからね」

「だよね、それにしても一杯いるよなぁ。殺しても殺しても湧いてくるよ」

エイブリーは感心したように言った。

「うん。家の近くにあるエバンズさんのカブの畑に生えてるカブみたいだねぇ」

「そろそろエバンズさんのカブを使った料理が恋しくなってきたなぁ」

エイブリーはエバンズの畑で取れた料理のことを思い返して舌舐めずりを行なっていく。
相棒の姿を見て、自身もカブ料理とやらを食べたくなったのか、ロビンは舌舐めずりをしながら、人差し指を立てて素晴らしい提案を提示したのである。

「じゃあ、そろそろカーラを狩る?」

その提案を聞いて、エイブリーは満面の笑みを浮かべながら答えた。

「いいねぇ、そろそろ狩るか」

二人の赤ずきんは夜の闇を友にし、闇の中へと紛れながらカーラとレキシーの自宅へと向かう。
だが、自宅には二人の姿は見えない。部屋まで空いている。目立った貴重品などがないことからどうやら別のところに泊まっているらしい。

最後に襲撃を行った日から一週間も経っている。無理もない。
ようやく戦いに決着をつけ、帰ることができると思っていた二人が肩を落としながら自宅を後にして帰ろうとした時だ。
黒いローブを羽織った二人組の男の姿が見えた。

恐らくネオドラビア教の信徒だろう。二人は躊躇うことなく手を掛けた。
カーラとレキシーを手にかけることは叶わなかったが、最後の最後で神々はいい獲物を用意してくれたらしい。

翌日、自宅の前でレキシーを慕って掃除のために訪ねてきた患者が悲鳴を上げたのはいうまでもない。






















駆除人ギルドの表稼業は酒場である。そのため普段は駆除人以外の客も集まり、ギルドマスターの作るつまみや酒を楽しんでいるのだが、街を揺るがす有事があれば、酒場は貸し切りという体で閉められ、代わりに街中の駆除人を集めた会議が酒場にて開かれるのだ。レキシーとカーラの家の中に死体が見つけられた日も会議は開かれ、酒場の中は駆除人たちでいっぱいになっていた。

「今日、うちの方でさ、ネオドラビア教信徒の死体が見つかったらしくてね。お陰でその騒動に巻き込まれて、今日の仕事は大幅に遅れちまったよ。ったく、迷惑な話さ」

レキシーがお茶を片手にギルドマスターや集まった他の駆除人たちに何があったのかを語っていく。

「そいつは大変だったな。しかし、どうしてそんなところに死体が放置されていたんだろうな」

「考えられる可能性は一つです。例の赤ずきんだ」

ヒューゴの言葉にその場にいた全員が首を縦に動かす。少し前にこの街に現れて、駆除帰りのカーラを襲撃した日から赤ずきんは同時期に現れたネオドラビア教の信徒と何故か殺し合いを始めていたのだ。今回のネオドラビア教戦士の死体もその見せしめとして家の中に置いていたのだとしたら説明がつく。

思わず引いてしまうような残酷なやり方であるが、両者の抗争によって、駆除人たちと信徒とがぶつかり合う機会が大幅に減り、駆除人ギルドは万全の備えを有することができていた。

一方で懸念もある。今後その赤ずきんたちの標的が駆除人ギルドへと移り変われば、どうなるかわからないという懸念であった。

ギルドマスターはグラスを拭きながら集まった駆除人たちを相手に相談していたのだが、今のところ有効な解決法は思い付かない。
このまま振り出しに戻ってしまうのかと考えていた時だ。ふと、ギークが手を挙げていたことに気がつく。

「どうしたんだ?」

「ぼく思ったんだけど、駆除人の中でカーラを除けば、狙われた人はいないんだよね?」

「そう言われれば確かにそうだねぇ」

「でしょ?もしかすれば赤ずきんの狙いは“駆除人”ではなく、“カーラ”なのかもしれない」

「それって、カーラを囮にしろっていうのか!?」

ヒューゴが怒声を上げながら問い掛けた。

「結果的にはそうなるね」

ギークの淡々とした言い方にヒューゴは我慢しきれなくなったのか、椅子の上から立ち上がり、ギークの元へと掴み掛かっていく。

「ふざけるなッ!カーラに万が一のことがあったらどうするつもりだ!?」

「でも、カーラは普通の人間じゃないよ。ここにいる全員と同じで駆除人だ。囮作戦を決行する価値はあると思うな」

その一言にヒューゴは反論ができなくなったらしい。そのまま自身の椅子へと戻っていく。
「しかし、その作戦を実行するとしてもどうして赤ずきんどもを釣る気だい?」

レキシーの問い掛けにギルドマスターは黙ってカーラ本人を指差す。

「わ、私ですか!?」

「あぁ、お前さんの話によればあの二人は櫛と飾り紐を得物に使うんだったな。だったら、そいつを利用しちまえばいい」

ギルドマスターの言葉を聞いて、最初こそ全員が首を傾げなものの、少しの間を置いてから意図を理解した。つまるところ、ギルドマスターの言葉が意味するものは誘き出しなのだ。
ギルドマスターは意図を察した駆除人たちに自身が考えている作戦の詳細を事細かに語っていく。

ギルドマスターによれば作戦としてはカーラが飾り紐と櫛を欲しがっているという情報とそのカーラが代金となる金が入った袋を持って郊外で待っているという情報を流し、赤ずきんを被った二人組の少年二人を郊外へと誘き寄せるというものである。

待ち合わせの場所は旧ネオドラビア教の教会跡。ここならば滅多に人が来ないだろうというギルドマスターならではの配慮である。

そこにカーラと護衛として七人の駆除人を待ち伏せし、一気に赤ずきんを駆除するという計画である。
それを聞き終えたカーラは手を叩いて、

「流石はマスター。妙案ですわ。早速明日から診療所の方で声を掛けてみせますわ」

と、素直な賞賛の言葉を寄せた。

それを聞いたギルドマスターはカーラに向かって得意気な笑みを浮かべてみせた。
それからギルドマスターはカーラの前にお茶を置き、カーラに目線を合わせながら言った。

「いいかい。お前さんは若いとはいえプラフティーの旦那の教えを受け継いだ一人前の駆除人だ。その場になれば逃げ出すよりもあいつらを駆除することを考えるんだ」

カーラは黙って首を縦に動かす。その目には決意の意思がはっきりと伝わってきた。
その後でカーラの護衛を務めることになる七人の駆除人を選抜することになった。レキシー、ヒューゴ、ギークなどはそれぞれの腕もあるが、何度もカーラと組んで駆除の仕事をしていたので、息が合うという理由で選ばれた。
残りの選抜者全て腕が立つという理由で選ばれた。七人の駆除人はカーラが赤ずきんから飾り紐と櫛を購入する日程が決まれば、その日に約束の場所へと向かうことになっていた。

ここまでの結論が出たところで、会議は終了となった。他の駆除人たちはそれぞれの拠点へと戻り、まだ扉がないカーラとレキシーはそれぞれあてがわれた部屋へと戻っていく。

部屋へと去っていくカーラを寂しく見つめていたのはヒューゴである。護衛の任務に加わるとはいえ、どこか心配なのだ。

もし、カーラが例の赤ずきんたちに殺されてしまえばヒューゴは正気を保っていられる自信がない。

今更ではあるが誘き出しの作戦を中止するべきであるかもしれない。ヒューゴはそう言いたかった。それでも作戦自体の重要性は理解している。
だから作戦の中止を言い出せなかったのだ。やりきれない思いを抱えたままヒューゴは自室へと戻っていく。
自身に与えられた寝台の上で横になりながら小さな声で虚空を口汚く煽ってみせた。

もし、その言葉をかつて国で自身の教育係をしていた人物が聞けば卒倒してしまうに違いない。

いや、駆除人などという「刺客」のような仕事をしていることが知られれば、それこそ衝撃で死んでしまうかもしれない。思えば国を追われてからそれほど時間が経っていないのに随分と長い時間が経ってしまったような気がした。

もし、自分が国を追い出されずに王子として国にいたのならばその気になって、カーラを自国へと招くことができていたかもしれない。場合によってはフィンなどが干渉する暇もなく、ベクターに婚約を破棄された際に自国へと引き戻されていたかもしれない。

つくづく国を追い出されたことが恨めしい。その日ヒューゴは過去を呪いながら眠りについた。
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