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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』
フィン陛下の婚約騒動
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フィンは甘い夢の中にいた。それは思い人であるカーラと再会し、交際を始め、二人でクラウン王国を盛り立てていくという長くとも立派な夢であった。
歳をとったフィンがカーラに労いの言葉をかけ、その手を取って部屋の窓から夕焼けを眺めようとした時に景色が変わった。
場面は城下町へと変わり、今現在のカーラとその同居人であるレキシーの両名が得体の知れない何者かに襲われるという悪夢へと移り変わったのである。
舞台の場面転換のように急激に景色が変わり、戸惑いを隠せないフィンの前に無惨にも斬られて、倒れるカーラの姿が見えた。思いもよらぬ光景を見て絶叫し、手を伸ばした時にフィンは天井から自分を呼ぶ声が聞こえた。その声でようやくフィンは現実の世界へと引き戻されたのである。
「おはようございます。陛下」
「……あぁ、おはよう」
フィンは自分を起こしに来た家臣に向かって朝の挨拶を交わすと、家臣が持ってきた洗面器に顔をつけ、顔を洗い、歯を磨き、髪を整えて服を着替えてから朝食が届けられた。
フィンの一日は朝食の時間から始まる。フィンは朝食を片手に昨日の出来事を伝えられ、その案件一つ一つに対処していくことになるのだ。
職務の傍らに行う朝食が終わり、いよいよ玉座の前へと向かう。
玉座の間で家臣たちと謁見し、各部署の大臣たちの話を聞き、どのように対処していくのかを話し合っていくのである。
各部門の報告が終わるその直前、大臣の一人が声を掛けた。
「陛下、未だに王后を決められぬというのはどのようなご了見でしょうか?」
「……というと?」
「現在、王家は陛下に万一のことがあれば断絶しかねない状況にあります。そのため否が応でも陛下には家族をお作りにならねばなりません。これも王家の人間として産まれたからには果たすべき責務ですぞ」
「……知っておる」
フィンは呆れたように言った。王家の人間というのは多大な責務が課せられる。もちろん衣食住には絶対に不自由しないし、自身が望むものはなんだって手に入る。立派な剣も、豪華な紋章がついた鎧も全てフィンの意のままである。
その代償が自由がないことだ。他の人間には許される恋愛の自由や外に出る自由がないのだ。外に出るのは政務としての用ばかりであるし、その時も自由に動き回ることなど許されない。
恋愛の自由はもっと少ない。貴族でも大抵が政略で結ばれるというのに、王家で自由な恋愛をした人間は殆どいない。
例外が弟のベクターだろうが、そのベクターは既に冥界王の元へと旅立っている。
フィンの本音としてはカーラと甘い恋を実らせてみたかった。
だが、王家に携わる人間として、クライン王国という国の責務を両肩に背負う人間としてそんな我儘は言っていられない。
婚約者もとい王后として自分を支えられる人物は家臣が選ぶ人物を選ばなくてはならないのだ。
大臣の一人が突き付けたのはエミリー・ハンセンとマチルダ・バロウズの二名。
どちらもやんごとなく大貴族の娘であり、国王である自分にとって申し分のない相手ともいえた。
フィンはこの二人のどちらかを選ばなくてはならないのだが、どちらも会ったことがない人物である上に王后として自分の一生に長らく携わる人物ということもあり、そう簡単に決めることはできない。
そのため本日まで返事を先延ばしにしていたのだが、いよいよ返事をしなければならない時であるらしい。
それでも決まらぬものは決まらない。フィンは悩み抜いた末に大臣に一言自身の考えを述べた。
「どちらかと直に会って決めるというのはどうだろう?どちらもオレにとっては申し分のない相手だ。その上でどちらかを決めるのかはおれの自由にさせてもらいたい」
「わかりました。両家にはそのようにお伝えしておきます」
大臣は丁寧に頭を下げて言った。これで、午前中の政務は終了となり、昼食の時間となるが、食事の合間にも書類を確認しなくてはならず、国王というものがいかに重大な責務であるというのかがフィンにはようやく分かりかけてきた。
そして、午後は執務室に籠り、書類と格闘していく。
そして、相談があれば他の大臣たちを呼び出し、大臣たちと討議を交わしながら政治を進めていくのだ。
夕方からは政治や経済、哲学、語学といった各部門の学者を招いての講義があり、フィンが一息を吐けるのは夕食の時間から後の時間、すなわち夜になってからであった。
フィンが一日の疲れを癒すために自室で濃い酒を啜っていると、扉の向こうから小さな声が聞こえてきた。フィンが入室を許可すると、見事な刺繍が彩られた白色のドレスを纏ったカール状の金髪をたなびかせた見た目麗しい美姫の姿が見えた。
見慣れない人物だ。フィンが警戒する様子を見せながら問い掛けると、美姫はエミリーと名乗った。
間違いない。彼女こそがエミリー・ハンセンだろう。
大臣から紹介された令嬢の一人である。
「失礼します。陛下は既に寝室の方に引き取られたのだとお伺いしましたので、こちらに参りましたの」
「そうか」
フィンはこの時間に寝室を訪れるなど無礼であろうと思ったのだが、エミリーという女性と対面してみると、警告の言葉を発するのも忘れさせられた。エミリーの魅力はカール状に両肩にかかった金髪。それからバランスよく整った顔にある。
エミリーから連想させられる顔は実在の人物というよりも絵画に描かれる女神や歴史上の女王に近い。
いうなれば神聖的な権威を持った美女と表現した方が正しいのかもしれない。
思わず顔を背けたくなるほどに美しかった。美しい顔に遠慮して顔を背けるフィンとは対照的にエミリーはフィンの元へと近付いていく。
「陛下、本日こちらに参りましたのは私にとって一世一代ともいえるお願いがあってのことです」
「一世一代のお願いとは?」
「お願いです。どうか、バロウズ家をお取り潰しになってくださいませ!」
エミリーは両目から涙をこぼしながら懇願していく。
一方のフィンは当惑していた。御伽噺の挿絵から出てきたような美姫がこのような願いをしているという事実に。
当惑しているフィンにエミリーは更に顔を近付けて涙を流しながらバロウズ家がいかに悪質であるのかを語っていく。
「バロウズ家は我々の領土に目をつけ、私たちの存在を脅かしているのです。そのようなことが許されてよろしいのでしょうか!」
「い、いや、そ、それは」
「でしょう。歴史的にも政治的にも間違っているのはバロウズ家です」
エミリーは胸を張りながら普段から邸宅の書庫に籠り、本を読んでおり、自身の知識に絶対的な自信を持っているということを語っている。
フィンは前向きにそのことを善処することだけを述べ、エミリーを帰すことにした。
フィンはエミリーが語ったことが気になり、翌日にマチルダと城の客間で面会という名目で出会って、昨日寝室でエミリーから告げられたことを語ると、マチルダは憤慨した。
「エミリー様がそのようなことを仰られたのですか!?」
「あ、あぁ」
フィンは小さく首を縦に動かしながら言った。
「そのような事実は一切ございません。ございませんとも……陛下、実際にそのようなことを行なっているのはハンセン家の方です」
エミリーと言っていることが逆である。マチルダは瞳を鋭く尖らせて言った。
昨日に寝室を訪れたエミリーが絵画的な美人であるのならば、マチルダは活発的な美人であった。
どちらかというのならばドレスよりも鎧やズボンといった男性的な服装が似合う顔立ちのはっきりとしたクールな印象を与える美人である。
短く整えられたオレンジ色の髪に少しキツそうな印象を与える青色の瞳、高い鼻に、赤色の唇が目立ち、体型も引き締まっていて、本当にエミリーとは対照的ともいえる人物である。
服装も紫色の飾り気の少ないドレスで、どこか呆気からんとした印象を受けた。
マチルダはフィンが黙っているのをいいことにエミリーとハンセン家が自身の領土を狙っているのかを語っていく。
バロウズ家の名産は塩であり、それらの製造法は極秘である。
しかし、ある宴席でエミリーの父親であるフレッドは塩の秘密を聞き出そうとし、彼女の父親であるジャンはそのことを拒否し、以後両家の間に敵対関係のようなものができてしまったのだという。
そのことが顕著に現れたのは少し前に起きたベクターの即位式の時である。
この時、外国の使節や国内の大貴族といった来賓たちを出迎える仕事を与えられたのはジャンであったのだが、その指南役だったのがよりにもよって塩の一件で怨恨のあるフレッドであったのだ。
フレッドはそこでジャンに激しい嫌がらせを行い、彼を激昂させ、騒動を起こさせた上で、バロウズ家を取り潰させようと目論んだのだが、ジャンは思っていたよりもしぶとい性格であり、騒動を起こさせるのには失敗した。
両者がその後宮廷の中で水面下の争いを続け、即位式で何かを起こそうと互いに画策しているうちに国王毒殺事件並びに来賓として招かれていたネオドラビア教の僧侶二名の殺害事件が起こり、即位式そのものが中止となり、フレッドはジャンに嫌がらせを行う機会を失ってしまい、以降は宮廷の内部で水面下による争いを続けているのだという。
「なるほど、納得がいった」
フィンは話の合間にメイドが淹れたお茶を啜りながら言った。
「でしょう。陛下、以後我々には干渉しないでくださいませ。我々のことは我々で片付けますので」
マチルダはそう言うと立ち上がり、その場を後にしていく。
この時フィンはマチルダの勝気な態度に好感を抱いていた。何より自分たちのことは自分たちで成し遂げるという姿勢に惚れてしまったのである。
もし、婚約者、そして王后となるべく人物を選ぶのならばマチルダを選ぶのがいいかもしれない。
一方で、フィンは未だにカーラを忘れられずにいた。王となってからは気軽に市井に出掛けることはできない。
しかし、滅多に会えなくなったといってもカーラが好きであるという気持ちは変わらない。フィンは心の中でカーラとマチルダという二人の女性を天秤にかける最低な人物であると思い悩みながら心の中で両者に対して謝罪の言葉を述べるより他になかった。
フィンの孤独に答えるものはいない。夜の闇の中に輝く蝋燭の中に照らされたお茶の中に深く悩んでいるフィン自身の顔が映し出されていた。
歳をとったフィンがカーラに労いの言葉をかけ、その手を取って部屋の窓から夕焼けを眺めようとした時に景色が変わった。
場面は城下町へと変わり、今現在のカーラとその同居人であるレキシーの両名が得体の知れない何者かに襲われるという悪夢へと移り変わったのである。
舞台の場面転換のように急激に景色が変わり、戸惑いを隠せないフィンの前に無惨にも斬られて、倒れるカーラの姿が見えた。思いもよらぬ光景を見て絶叫し、手を伸ばした時にフィンは天井から自分を呼ぶ声が聞こえた。その声でようやくフィンは現実の世界へと引き戻されたのである。
「おはようございます。陛下」
「……あぁ、おはよう」
フィンは自分を起こしに来た家臣に向かって朝の挨拶を交わすと、家臣が持ってきた洗面器に顔をつけ、顔を洗い、歯を磨き、髪を整えて服を着替えてから朝食が届けられた。
フィンの一日は朝食の時間から始まる。フィンは朝食を片手に昨日の出来事を伝えられ、その案件一つ一つに対処していくことになるのだ。
職務の傍らに行う朝食が終わり、いよいよ玉座の前へと向かう。
玉座の間で家臣たちと謁見し、各部署の大臣たちの話を聞き、どのように対処していくのかを話し合っていくのである。
各部門の報告が終わるその直前、大臣の一人が声を掛けた。
「陛下、未だに王后を決められぬというのはどのようなご了見でしょうか?」
「……というと?」
「現在、王家は陛下に万一のことがあれば断絶しかねない状況にあります。そのため否が応でも陛下には家族をお作りにならねばなりません。これも王家の人間として産まれたからには果たすべき責務ですぞ」
「……知っておる」
フィンは呆れたように言った。王家の人間というのは多大な責務が課せられる。もちろん衣食住には絶対に不自由しないし、自身が望むものはなんだって手に入る。立派な剣も、豪華な紋章がついた鎧も全てフィンの意のままである。
その代償が自由がないことだ。他の人間には許される恋愛の自由や外に出る自由がないのだ。外に出るのは政務としての用ばかりであるし、その時も自由に動き回ることなど許されない。
恋愛の自由はもっと少ない。貴族でも大抵が政略で結ばれるというのに、王家で自由な恋愛をした人間は殆どいない。
例外が弟のベクターだろうが、そのベクターは既に冥界王の元へと旅立っている。
フィンの本音としてはカーラと甘い恋を実らせてみたかった。
だが、王家に携わる人間として、クライン王国という国の責務を両肩に背負う人間としてそんな我儘は言っていられない。
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大臣の一人が突き付けたのはエミリー・ハンセンとマチルダ・バロウズの二名。
どちらもやんごとなく大貴族の娘であり、国王である自分にとって申し分のない相手ともいえた。
フィンはこの二人のどちらかを選ばなくてはならないのだが、どちらも会ったことがない人物である上に王后として自分の一生に長らく携わる人物ということもあり、そう簡単に決めることはできない。
そのため本日まで返事を先延ばしにしていたのだが、いよいよ返事をしなければならない時であるらしい。
それでも決まらぬものは決まらない。フィンは悩み抜いた末に大臣に一言自身の考えを述べた。
「どちらかと直に会って決めるというのはどうだろう?どちらもオレにとっては申し分のない相手だ。その上でどちらかを決めるのかはおれの自由にさせてもらいたい」
「わかりました。両家にはそのようにお伝えしておきます」
大臣は丁寧に頭を下げて言った。これで、午前中の政務は終了となり、昼食の時間となるが、食事の合間にも書類を確認しなくてはならず、国王というものがいかに重大な責務であるというのかがフィンにはようやく分かりかけてきた。
そして、午後は執務室に籠り、書類と格闘していく。
そして、相談があれば他の大臣たちを呼び出し、大臣たちと討議を交わしながら政治を進めていくのだ。
夕方からは政治や経済、哲学、語学といった各部門の学者を招いての講義があり、フィンが一息を吐けるのは夕食の時間から後の時間、すなわち夜になってからであった。
フィンが一日の疲れを癒すために自室で濃い酒を啜っていると、扉の向こうから小さな声が聞こえてきた。フィンが入室を許可すると、見事な刺繍が彩られた白色のドレスを纏ったカール状の金髪をたなびかせた見た目麗しい美姫の姿が見えた。
見慣れない人物だ。フィンが警戒する様子を見せながら問い掛けると、美姫はエミリーと名乗った。
間違いない。彼女こそがエミリー・ハンセンだろう。
大臣から紹介された令嬢の一人である。
「失礼します。陛下は既に寝室の方に引き取られたのだとお伺いしましたので、こちらに参りましたの」
「そうか」
フィンはこの時間に寝室を訪れるなど無礼であろうと思ったのだが、エミリーという女性と対面してみると、警告の言葉を発するのも忘れさせられた。エミリーの魅力はカール状に両肩にかかった金髪。それからバランスよく整った顔にある。
エミリーから連想させられる顔は実在の人物というよりも絵画に描かれる女神や歴史上の女王に近い。
いうなれば神聖的な権威を持った美女と表現した方が正しいのかもしれない。
思わず顔を背けたくなるほどに美しかった。美しい顔に遠慮して顔を背けるフィンとは対照的にエミリーはフィンの元へと近付いていく。
「陛下、本日こちらに参りましたのは私にとって一世一代ともいえるお願いがあってのことです」
「一世一代のお願いとは?」
「お願いです。どうか、バロウズ家をお取り潰しになってくださいませ!」
エミリーは両目から涙をこぼしながら懇願していく。
一方のフィンは当惑していた。御伽噺の挿絵から出てきたような美姫がこのような願いをしているという事実に。
当惑しているフィンにエミリーは更に顔を近付けて涙を流しながらバロウズ家がいかに悪質であるのかを語っていく。
「バロウズ家は我々の領土に目をつけ、私たちの存在を脅かしているのです。そのようなことが許されてよろしいのでしょうか!」
「い、いや、そ、それは」
「でしょう。歴史的にも政治的にも間違っているのはバロウズ家です」
エミリーは胸を張りながら普段から邸宅の書庫に籠り、本を読んでおり、自身の知識に絶対的な自信を持っているということを語っている。
フィンは前向きにそのことを善処することだけを述べ、エミリーを帰すことにした。
フィンはエミリーが語ったことが気になり、翌日にマチルダと城の客間で面会という名目で出会って、昨日寝室でエミリーから告げられたことを語ると、マチルダは憤慨した。
「エミリー様がそのようなことを仰られたのですか!?」
「あ、あぁ」
フィンは小さく首を縦に動かしながら言った。
「そのような事実は一切ございません。ございませんとも……陛下、実際にそのようなことを行なっているのはハンセン家の方です」
エミリーと言っていることが逆である。マチルダは瞳を鋭く尖らせて言った。
昨日に寝室を訪れたエミリーが絵画的な美人であるのならば、マチルダは活発的な美人であった。
どちらかというのならばドレスよりも鎧やズボンといった男性的な服装が似合う顔立ちのはっきりとしたクールな印象を与える美人である。
短く整えられたオレンジ色の髪に少しキツそうな印象を与える青色の瞳、高い鼻に、赤色の唇が目立ち、体型も引き締まっていて、本当にエミリーとは対照的ともいえる人物である。
服装も紫色の飾り気の少ないドレスで、どこか呆気からんとした印象を受けた。
マチルダはフィンが黙っているのをいいことにエミリーとハンセン家が自身の領土を狙っているのかを語っていく。
バロウズ家の名産は塩であり、それらの製造法は極秘である。
しかし、ある宴席でエミリーの父親であるフレッドは塩の秘密を聞き出そうとし、彼女の父親であるジャンはそのことを拒否し、以後両家の間に敵対関係のようなものができてしまったのだという。
そのことが顕著に現れたのは少し前に起きたベクターの即位式の時である。
この時、外国の使節や国内の大貴族といった来賓たちを出迎える仕事を与えられたのはジャンであったのだが、その指南役だったのがよりにもよって塩の一件で怨恨のあるフレッドであったのだ。
フレッドはそこでジャンに激しい嫌がらせを行い、彼を激昂させ、騒動を起こさせた上で、バロウズ家を取り潰させようと目論んだのだが、ジャンは思っていたよりもしぶとい性格であり、騒動を起こさせるのには失敗した。
両者がその後宮廷の中で水面下の争いを続け、即位式で何かを起こそうと互いに画策しているうちに国王毒殺事件並びに来賓として招かれていたネオドラビア教の僧侶二名の殺害事件が起こり、即位式そのものが中止となり、フレッドはジャンに嫌がらせを行う機会を失ってしまい、以降は宮廷の内部で水面下による争いを続けているのだという。
「なるほど、納得がいった」
フィンは話の合間にメイドが淹れたお茶を啜りながら言った。
「でしょう。陛下、以後我々には干渉しないでくださいませ。我々のことは我々で片付けますので」
マチルダはそう言うと立ち上がり、その場を後にしていく。
この時フィンはマチルダの勝気な態度に好感を抱いていた。何より自分たちのことは自分たちで成し遂げるという姿勢に惚れてしまったのである。
もし、婚約者、そして王后となるべく人物を選ぶのならばマチルダを選ぶのがいいかもしれない。
一方で、フィンは未だにカーラを忘れられずにいた。王となってからは気軽に市井に出掛けることはできない。
しかし、滅多に会えなくなったといってもカーラが好きであるという気持ちは変わらない。フィンは心の中でカーラとマチルダという二人の女性を天秤にかける最低な人物であると思い悩みながら心の中で両者に対して謝罪の言葉を述べるより他になかった。
フィンの孤独に答えるものはいない。夜の闇の中に輝く蝋燭の中に照らされたお茶の中に深く悩んでいるフィン自身の顔が映し出されていた。
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