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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』
第二のヒロインが牙を剥いて
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翌日カーラが診療所での手伝いを終え、服飾店に持っていくためのドレスを抱えて歩いていた時だ。レイラから声を掛けられた。
レイラは人懐っこい笑顔を浮かべながらカーラの元へと近付いていく。
「お嬢様、なにをしておられるのですか?」
「決まっているでしょう?服飾店にドレスを納めに行くのよ」
「服飾店にドレスを?どのようなドレスですか?」
「以前、お屋敷に戻った際にあなたも見たと思うのだけれど」
カーラはわざと高圧的な言い方で言葉を返す。だが、レイラは怯むことなく、目を輝かせながらカーラが両手に抱えるドレスを見つめていく。
「なるほど、こういうドレスでしたか……なんの才能もないお方かと思いましたが、ドレスを縫う才能は本当にありましたのね」
一言多いのは故意か、それとも本音か。どちらをとってもカーラからすれば不愉快極まる発言に変わりはないのだが、前者の方が悪意が篭っていないだけマシである。
カーラは不満な思いを抱えていたのだが、敢えて無視をする。
そのことが気に食わなかったのか、レイラは引き続きカーラに話しかけ続けていたが、カーラは曖昧な返事を返すばかりである。
やがて、それにも耐えきれなくなったのか、不意に立ち止まって、
「……ねぇ、ところで聞きたいのだけれど」
と、レイラを両目で険しく見つめながら問い掛けた。
「あなた、いつから私を昔のように『お嬢様』と呼称するようになったのかしら?」
「……お屋敷を追い出された時からでしょうか……私はお屋敷を追い出され、途方に暮れていた時に思い返したのです。お嬢様のお優しさを、お嬢様の私に対する愛情を……」
どの口が言うのだ。カーラは嫌悪感に包まれた。カーラにとってマルグリッタが家に迎え入れられてからは辛いなどという言葉では言い表せないような日々だった。
メイドたちは本来の仕事である自分の世話を放置し、お陰でカーラは自身の身の回りの世話を自身でしなくてはならなくなった。
そればかりではない。稀に世話をする様を装ったかと思えば生温いお湯のようなものを出されたり、腐った食事を出されたり、ドレスに汚れを付けられたりという嫌がらせが続いたのである。
全てはマルグリッタを慕うカミラによる主導であったが、嫌がらせを行った中にレイラの姿があったのをカーラは忘れてはいない。
嫌がらせに対して叱り付けたり、それ相応の処置を取ろうとすれば、メイドを虐める傲慢な公爵家の令嬢という印象を広められ、『悪女』だの『人面獣心』だのという心にもない悪口を叩かれるようになっていったのである。
だが、その陰口は末期の頃になると慣れ始めてきていた。それに自分に対する『人面獣心』という評価も間違ってはいないように思えるのだ。
お金をもらって平気で人を殺すような人間は人間とはいえない。そのような本性を隠して、周囲の人々には人畜無害という風を装うのだからその評価は妥当であるかもしれない。カーラは最近寝る前にそのようなくだらないことを考えることが増えた。
しかし、それらのことを理由にレイラと再び親交を深められるかといえばそれは嘘になる。
カーラの中にある嫌悪感は最近考え始めたような話では打ち消せないほどに強いのだ。
色々な子ども考え抜いた結果、カーラが出した結論は無視して服飾店に向かうというものであった。
レイラはその間に色々と喋り掛けてきていたのだが、その内容はカーラの記憶にはなかった。
服飾店に自身の作ったドレスを納め、帰ろうとした時だ。レイラが去ろうとした店主を呼び止めて、
「そういえば、お嬢様……カーラさんのドレスの売れ行きはどうですの?」
と、問い掛けたのである。
「カーラの?」
突然呼び止められた店主は困惑したためか、質問を質問で返してしまっていた。
「えぇ、評価が少し気になりまして」
「ハハッ、評価なら気にする必要なんてないよ。カーラの作るドレスは市井の子たちの憧れになっているからねぇ」
「……なるほど」
レイラはどこか意味深な笑みを浮かべていた。カーラはレイラのそんな表情を見逃しはしなかった。
今後自身の縫ったドレスに難癖でもつけるつもりなのだろうか、それとも、盗んだ上にドレスを汚すつもりだろうか。
レイラのしそうな嫌がらせを考えれば考えるほどキリはないのだが、カーラからすればレイラは生かしておいてはためにならないような気がしてきてならなかった。
レイラはそんなカーラの殺気立った視線など気にすることもなく、純粋な笑みを浮かべながら服飾店の店主に向かって懇願した。
「お願いします。私をここで雇ってくださいませ!」
「お、お嬢さんを?」
「えぇ、私はお嬢様の仕立てられるドレスに感銘を受け、自身もドレスを縫ってみたいと考えるようになりましたの。お給料は安くても構いませんわ。私をお雇いくださいませ!」
レイラは胸に手を当てながら、懸命な様子で自身を売り込んでいく。
「これは困ったなぁ。今はうちもお針子の数が足りてるしなぁ」
服飾店の店主は頭を掻きながら困惑した様子を見せていた。
普通ならばここで「私からもお願いしますわ」などと言うところなのであるが、カーラとしては例の嫌がらせの件が頭をよぎり、レイラを助けられずにいた。
むしろ、ここで下手な情けなどを掛ければレイラがどのようなことをしでかすものかわからない。そんな危惧感があったのだ。
レイラは懸命に頭を下げたのだが、店主には了承されず追い返されてしまった。
この後にカーラは自宅へと帰ろうとしたのだが、その途中もずっとレイラが付いて回ろうとしてきたので、辟易し、少し機嫌の悪い声で帰るように命じてしまった。
なにがここまでレイラを駆り立てるのかがカーラにはわからなかった。
カーラは重い溜息を吐いて、自宅の扉を開いて、レキシーに帰ったことを伝えた。
すると、またレイラが現れていたことに気がつく。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
レイラは昨日と同様に食事を準備しながら待っていた。
カーラは心底から呆れたような表情を浮かべながらじっとレイラを見つめた。
「あなた、また来たんですの?」
「えぇ、私はお嬢様に認めてもらうまで、何度でも通い続けますわ」
レイラは慣れない調子で食事の準備を続けており、カーラはいても立っても居られなくなり、レイラの代わりに食事の準備を行う。
それを見てレキシーもカーラの元によって、食事を手伝う。気が付いたらレイラの前には昨日よりはマシな食事が提供され、レイラは舌鼓を打っていたのだ。
レイラにも食事を提供したのは一人だけ食べさせないわけにもいかなかったという真っ当な理由からだが、レイラはそれをいいことに堂々と食事を行っていた。
食事を終えた後はお茶の時間となるが、一人だけ見慣れない人物が混じっているので、いつものように楽しむことは難しかった。
気まずい表情を浮かべる二人とは対照的にレイラはあざとい表情でなにやら熱心に喋っている。
しばらくペラペラと喋った後にそういえばと前置きをしてからカーラへと向き直る。
「ご存知でして?マルグリッタお嬢様をお嬢様が害したという噂を」
「はい?」
実際にマルグリッタの駆除を行ったのはカーラ本人であるが、カーラは初めて知ったとばかりに首を傾げてみせた。
「あら、ご存知ありませんでしたの。ならば、こちらの噂はご存知ですか?私の親友であるカミラが鋭利な針で額を貫かれて殺されたというお話を」
レイラが本来イメルダから受けた仕事はカーラと接触し、カーラと親交を深め、カーラの弱みを探り出すというものである。
しかし、今回に至ってはカーラに対して探りを入れている。
レイラはいらぬことをペラペラと喋る間にかつて慕った主人と無惨にも殺されてしまった友人のことを思い返し、追求したくなったのだ。
だが、カーラは動揺の表情を見せるどころか、何食わぬ顔でお茶を飲み続けていた。
その様子が気に食わない。レイラは思わず激昂に駆られ、椅子の上から立ち上がったが、その際に白い目を向けられ、レイラはようやく自分が正気でなかったということを自覚したのである。
「し、失礼を」
「……どうやらひどい興奮状態に囚われているようですわね」
「まったくだ。こんな状況だったら家に帰ってのんびりとした方がいいよ。あたしたちに取り入るんだとしてもさ、一回寝て落ち着いてからの方がいいよ」
レキシーとカーラは医療に携わる者として当然の言葉を発した。レイラは思わず頭を下げて、部屋を後にした。
レイラが去ってから二人はお茶を飲みながらレイラがカーラに近付いてきた目的に関して意見を交わしていた。
カーラはレイラが自身に近付いてきた理由は自身の母親にして公爵家夫人であるイメルダに命じられ、自身の身辺を探りにきたのだとばかり思っていたのだが、そう考えれば先程探りを入れにきたのはどうも不自然だ。あまりにもわざとらし過ぎる。潜入して聞き出すのならばあまりにもお粗末な探りだ。
自身を怒らせに来たとした思えない。
一方で、レキシーは人間が怒りに囚われた時には思いもよらぬ行動に出るものだと解説し、レイラの行動におかしなところはないと主張した。
その反論として、普通ならば怒りを抑制して接することができる、とカーラは主張したので話し合いは平行線になりつつあった。
この後も無限に話し合いが続くかと思われたが、それは扉を叩く音で妨害された。
「……どなたですの?」
カーラが扉の向こうからの声を聞いて、問い掛けると、向こうからは少年の声で、
「紐売りです。ドレスに使う飾り紐がご入用だと思いまして、持って参りました」
それを聞いて二人は顔を見合わせた。というのも、飾り紐というのは二日前の駆除帰りに自身を襲った殺し屋と全く同じ特徴であったからだ。
二人は互いに武器を構え、扉の向こうにいる得体の知れない少年に言葉を返した。
「ごめんなさい。今のところ飾り紐はご入用ではございませんの。他のところをあたってくださいませ」
「じゃあ、そうします。さようなら」
少年は呆気なく言った。あまりにも呆気ない幕引きにカーラは思わずレキシーと目を合わせてしまった。
翌日、二人で診療所へと行くために扉を開いた時だ。
「待ってたよ」
昨日の声が聞こえた。カーラが慌てて袖の下から針を取り出すと、目の前から首元に向かって飾り紐が飛ぶ。
カーラはその紐を弾き落とすべく、針を振ったのだが、逆に飾り紐が針へと結び付き、カーラの手から針を奪おうとしていた。
少しでも力を緩めれば針は目の前で飾り紐を扱う少年の手によって奪い取られてしまうだろう。
カーラはそれを防ぐために必死になって力を込めた。
本日は更新時間(特に決めてはいませんでしたが)が遅れて申し訳ありません。体調不良で午前の間には更新する予定の今話の更新が不可能となりましたので、ここにお詫びさせていただきます。
レイラは人懐っこい笑顔を浮かべながらカーラの元へと近付いていく。
「お嬢様、なにをしておられるのですか?」
「決まっているでしょう?服飾店にドレスを納めに行くのよ」
「服飾店にドレスを?どのようなドレスですか?」
「以前、お屋敷に戻った際にあなたも見たと思うのだけれど」
カーラはわざと高圧的な言い方で言葉を返す。だが、レイラは怯むことなく、目を輝かせながらカーラが両手に抱えるドレスを見つめていく。
「なるほど、こういうドレスでしたか……なんの才能もないお方かと思いましたが、ドレスを縫う才能は本当にありましたのね」
一言多いのは故意か、それとも本音か。どちらをとってもカーラからすれば不愉快極まる発言に変わりはないのだが、前者の方が悪意が篭っていないだけマシである。
カーラは不満な思いを抱えていたのだが、敢えて無視をする。
そのことが気に食わなかったのか、レイラは引き続きカーラに話しかけ続けていたが、カーラは曖昧な返事を返すばかりである。
やがて、それにも耐えきれなくなったのか、不意に立ち止まって、
「……ねぇ、ところで聞きたいのだけれど」
と、レイラを両目で険しく見つめながら問い掛けた。
「あなた、いつから私を昔のように『お嬢様』と呼称するようになったのかしら?」
「……お屋敷を追い出された時からでしょうか……私はお屋敷を追い出され、途方に暮れていた時に思い返したのです。お嬢様のお優しさを、お嬢様の私に対する愛情を……」
どの口が言うのだ。カーラは嫌悪感に包まれた。カーラにとってマルグリッタが家に迎え入れられてからは辛いなどという言葉では言い表せないような日々だった。
メイドたちは本来の仕事である自分の世話を放置し、お陰でカーラは自身の身の回りの世話を自身でしなくてはならなくなった。
そればかりではない。稀に世話をする様を装ったかと思えば生温いお湯のようなものを出されたり、腐った食事を出されたり、ドレスに汚れを付けられたりという嫌がらせが続いたのである。
全てはマルグリッタを慕うカミラによる主導であったが、嫌がらせを行った中にレイラの姿があったのをカーラは忘れてはいない。
嫌がらせに対して叱り付けたり、それ相応の処置を取ろうとすれば、メイドを虐める傲慢な公爵家の令嬢という印象を広められ、『悪女』だの『人面獣心』だのという心にもない悪口を叩かれるようになっていったのである。
だが、その陰口は末期の頃になると慣れ始めてきていた。それに自分に対する『人面獣心』という評価も間違ってはいないように思えるのだ。
お金をもらって平気で人を殺すような人間は人間とはいえない。そのような本性を隠して、周囲の人々には人畜無害という風を装うのだからその評価は妥当であるかもしれない。カーラは最近寝る前にそのようなくだらないことを考えることが増えた。
しかし、それらのことを理由にレイラと再び親交を深められるかといえばそれは嘘になる。
カーラの中にある嫌悪感は最近考え始めたような話では打ち消せないほどに強いのだ。
色々な子ども考え抜いた結果、カーラが出した結論は無視して服飾店に向かうというものであった。
レイラはその間に色々と喋り掛けてきていたのだが、その内容はカーラの記憶にはなかった。
服飾店に自身の作ったドレスを納め、帰ろうとした時だ。レイラが去ろうとした店主を呼び止めて、
「そういえば、お嬢様……カーラさんのドレスの売れ行きはどうですの?」
と、問い掛けたのである。
「カーラの?」
突然呼び止められた店主は困惑したためか、質問を質問で返してしまっていた。
「えぇ、評価が少し気になりまして」
「ハハッ、評価なら気にする必要なんてないよ。カーラの作るドレスは市井の子たちの憧れになっているからねぇ」
「……なるほど」
レイラはどこか意味深な笑みを浮かべていた。カーラはレイラのそんな表情を見逃しはしなかった。
今後自身の縫ったドレスに難癖でもつけるつもりなのだろうか、それとも、盗んだ上にドレスを汚すつもりだろうか。
レイラのしそうな嫌がらせを考えれば考えるほどキリはないのだが、カーラからすればレイラは生かしておいてはためにならないような気がしてきてならなかった。
レイラはそんなカーラの殺気立った視線など気にすることもなく、純粋な笑みを浮かべながら服飾店の店主に向かって懇願した。
「お願いします。私をここで雇ってくださいませ!」
「お、お嬢さんを?」
「えぇ、私はお嬢様の仕立てられるドレスに感銘を受け、自身もドレスを縫ってみたいと考えるようになりましたの。お給料は安くても構いませんわ。私をお雇いくださいませ!」
レイラは胸に手を当てながら、懸命な様子で自身を売り込んでいく。
「これは困ったなぁ。今はうちもお針子の数が足りてるしなぁ」
服飾店の店主は頭を掻きながら困惑した様子を見せていた。
普通ならばここで「私からもお願いしますわ」などと言うところなのであるが、カーラとしては例の嫌がらせの件が頭をよぎり、レイラを助けられずにいた。
むしろ、ここで下手な情けなどを掛ければレイラがどのようなことをしでかすものかわからない。そんな危惧感があったのだ。
レイラは懸命に頭を下げたのだが、店主には了承されず追い返されてしまった。
この後にカーラは自宅へと帰ろうとしたのだが、その途中もずっとレイラが付いて回ろうとしてきたので、辟易し、少し機嫌の悪い声で帰るように命じてしまった。
なにがここまでレイラを駆り立てるのかがカーラにはわからなかった。
カーラは重い溜息を吐いて、自宅の扉を開いて、レキシーに帰ったことを伝えた。
すると、またレイラが現れていたことに気がつく。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
レイラは昨日と同様に食事を準備しながら待っていた。
カーラは心底から呆れたような表情を浮かべながらじっとレイラを見つめた。
「あなた、また来たんですの?」
「えぇ、私はお嬢様に認めてもらうまで、何度でも通い続けますわ」
レイラは慣れない調子で食事の準備を続けており、カーラはいても立っても居られなくなり、レイラの代わりに食事の準備を行う。
それを見てレキシーもカーラの元によって、食事を手伝う。気が付いたらレイラの前には昨日よりはマシな食事が提供され、レイラは舌鼓を打っていたのだ。
レイラにも食事を提供したのは一人だけ食べさせないわけにもいかなかったという真っ当な理由からだが、レイラはそれをいいことに堂々と食事を行っていた。
食事を終えた後はお茶の時間となるが、一人だけ見慣れない人物が混じっているので、いつものように楽しむことは難しかった。
気まずい表情を浮かべる二人とは対照的にレイラはあざとい表情でなにやら熱心に喋っている。
しばらくペラペラと喋った後にそういえばと前置きをしてからカーラへと向き直る。
「ご存知でして?マルグリッタお嬢様をお嬢様が害したという噂を」
「はい?」
実際にマルグリッタの駆除を行ったのはカーラ本人であるが、カーラは初めて知ったとばかりに首を傾げてみせた。
「あら、ご存知ありませんでしたの。ならば、こちらの噂はご存知ですか?私の親友であるカミラが鋭利な針で額を貫かれて殺されたというお話を」
レイラが本来イメルダから受けた仕事はカーラと接触し、カーラと親交を深め、カーラの弱みを探り出すというものである。
しかし、今回に至ってはカーラに対して探りを入れている。
レイラはいらぬことをペラペラと喋る間にかつて慕った主人と無惨にも殺されてしまった友人のことを思い返し、追求したくなったのだ。
だが、カーラは動揺の表情を見せるどころか、何食わぬ顔でお茶を飲み続けていた。
その様子が気に食わない。レイラは思わず激昂に駆られ、椅子の上から立ち上がったが、その際に白い目を向けられ、レイラはようやく自分が正気でなかったということを自覚したのである。
「し、失礼を」
「……どうやらひどい興奮状態に囚われているようですわね」
「まったくだ。こんな状況だったら家に帰ってのんびりとした方がいいよ。あたしたちに取り入るんだとしてもさ、一回寝て落ち着いてからの方がいいよ」
レキシーとカーラは医療に携わる者として当然の言葉を発した。レイラは思わず頭を下げて、部屋を後にした。
レイラが去ってから二人はお茶を飲みながらレイラがカーラに近付いてきた目的に関して意見を交わしていた。
カーラはレイラが自身に近付いてきた理由は自身の母親にして公爵家夫人であるイメルダに命じられ、自身の身辺を探りにきたのだとばかり思っていたのだが、そう考えれば先程探りを入れにきたのはどうも不自然だ。あまりにもわざとらし過ぎる。潜入して聞き出すのならばあまりにもお粗末な探りだ。
自身を怒らせに来たとした思えない。
一方で、レキシーは人間が怒りに囚われた時には思いもよらぬ行動に出るものだと解説し、レイラの行動におかしなところはないと主張した。
その反論として、普通ならば怒りを抑制して接することができる、とカーラは主張したので話し合いは平行線になりつつあった。
この後も無限に話し合いが続くかと思われたが、それは扉を叩く音で妨害された。
「……どなたですの?」
カーラが扉の向こうからの声を聞いて、問い掛けると、向こうからは少年の声で、
「紐売りです。ドレスに使う飾り紐がご入用だと思いまして、持って参りました」
それを聞いて二人は顔を見合わせた。というのも、飾り紐というのは二日前の駆除帰りに自身を襲った殺し屋と全く同じ特徴であったからだ。
二人は互いに武器を構え、扉の向こうにいる得体の知れない少年に言葉を返した。
「ごめんなさい。今のところ飾り紐はご入用ではございませんの。他のところをあたってくださいませ」
「じゃあ、そうします。さようなら」
少年は呆気なく言った。あまりにも呆気ない幕引きにカーラは思わずレキシーと目を合わせてしまった。
翌日、二人で診療所へと行くために扉を開いた時だ。
「待ってたよ」
昨日の声が聞こえた。カーラが慌てて袖の下から針を取り出すと、目の前から首元に向かって飾り紐が飛ぶ。
カーラはその紐を弾き落とすべく、針を振ったのだが、逆に飾り紐が針へと結び付き、カーラの手から針を奪おうとしていた。
少しでも力を緩めれば針は目の前で飾り紐を扱う少年の手によって奪い取られてしまうだろう。
カーラはそれを防ぐために必死になって力を込めた。
本日は更新時間(特に決めてはいませんでしたが)が遅れて申し訳ありません。体調不良で午前の間には更新する予定の今話の更新が不可能となりましたので、ここにお詫びさせていただきます。
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