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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』

王位簒奪は順調に進んで

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激昂するユーリに向かって国王が弱々しい声で懇願する。

「頼むッ!殺すのならばわしを殺してくれッ!どうせ短い命だ。今ここでお前に殺されても短い命が少し縮まるだけに過ぎん」

「フィン殿下を散々冷遇してた癖に今更父親面か?ますますあんたとあのクソ親父が同じに見えてきやがった。あのクソ親父、死ぬ間際だからっておれの家にまできて、『オレが悪かった。最後に父親らしいことをしてくれ』だなんて抜かしやがった。テメェもそれと同じだ」

ユーリはフィンの手首に絡めていた鞭を引き離し、今度は国王の首に目掛けて鞭を飛ばしていく。もはやユーリの中に理性は残されていなかった。自分の父親と被った国王の首を粉々に砕いてやるべく、そのまま鞭を飛ばしたのだが、その前にレキシーが立ち塞がり、診療用の鞄の中に潜ませていた短剣で鞭を防いだことで国王に類が及ぶのを防いだのだった。

「レキシーさん!?あんた、どうしてそんな奴を庇うんだ!?こいつは自分の血を分けた息子を散々冷遇したクソ野郎なんだぞッ!」

「ち、違う。父上はオレに経験を積んでほしいと思っていただけだ……父上の親心なんだ」

「あ、あんた……」


ユーリは先程のダメージを受けて、か細い息を立てていたフィンがユーリの足首を掴みながら懸命に訴え掛けるフィンに向かって目を見開きながら言った。
ユーリはその光景を見てしばらく考え込んでいたようであるが、すぐに両目を見開きながら王子に対して反論の言葉を繋いだのだった。

「あんた、目を覚ましな。こいつがあんたにも目を向けるようになったのは死の淵に瀕してからのことなんだぜ……それまでこいつはあんたを居ない者みたいに扱ってたんだぞ」

「……ぐっ」

ユーリの一言は真実だった。それ故に反論は難しい。そう考えていたのだが、フィンはしばらく沈黙した後でようやく反論の言葉を紡ぎ出したらしい。

「だが、父上は死の淵に瀕して考えを改めてくださった。それこそ父上がオレを思っているという証明ではないのか?」

「そんなわけがないッ!こいつの頭の中にあるのは王国の安定だけだッ!あんたのことなんぞ微塵も考えちゃいねぇ!弟にその資格がないと判断したから、今になってあんたに媚を売っているだけだッ!」

ユーリは大きな声を上げて否定の言葉を叫んでいく。その時だ。ベッドの上で国王が懸命に頭を下げている姿が見えた。

「頼む。息子を見逃してくれ……わしの命ならやる。だから息子だけは……」

「ふざけたこと抜かすんじゃねぇぞ!クソ親父ッ!」

ユーリの頭の中においては目の前にいるのは国王ではなく、実の父親だった。死の淵に瀕してようやく自分と母親の元に現れた身勝手な父親だった。
フィンはレキシーの短剣に絡めていた鞭を離し、国王に向かってその狙いを定めていく。その隙をレキシーは逃さなかった。短剣を構えながらユーリの懐に向かって逆手に持って短剣を突き付けようとしていたのだ。
ユーリは目の前にレキシーが握る短剣が迫ってきた時にようやく自分の本質を思い出し、慌てて自分の足元に喰らいつくフィンを蹴り飛ばし、身を逸らして短剣の刃を交わすのだった。

レキシーは身を逸らしたまま短剣の刃を交わすユーリに向かって追撃を行おうとしたのだが、ユーリは短剣を交わした後でレキシーの脇腹に向かって拳を繰り出し、レキシーが短剣を持ったまま倒れた隙を狙ってその場を立ち去っていくのだった。
レキシーは追撃を行おうにも脇腹の打撃もあってその場で這うことしかできなかった。レキシーは地面の上を這いながら考えた。ユーリの処置は国王の影となっているギークに任せればいい、と。
安堵した顔を浮かべながらも、よろめきながら起き上がったレキシーにフィンは手を差し伸べて起こすのを手伝ってやったのだった。

「大丈夫か?」

「平気ですよ。それよりもあいつを……」

「心配ない。あいつはアドニスが追い掛けていった。それよりもレキシー。あなたは医者のはずだ。どうして短剣なんか持っているんだ?」

フィンは地面の上に落ちた短剣を見つめながら言った。

「護身用ですよ。この世の中は物騒じゃあないですか、そのために医者でも短剣が必要なんですよ」

「しかし、あの身のこなしは医者とは思えない。まるで、噂に聞く害虫駆除人のようだ」

「アハハ、あたしが害虫駆除人のわけがないでしょう?あの男の身勝手な言い分に腹が立っただけですよ」

「では、どうしてあの男と面識があったのだ?」

「以前、カーラがあの男が倒れているところを見つけましてね。その時に怪我の手当てをしてやったんですよ。その時に名前を聞きましてね」

多少の詳細は伏せているものの、その言葉に偽りはない。全てが真実なのである。一応理屈としては通っているので、フィンはレキシーのいい分に納得するしかなかった。
レキシーは思いもしない出来事で精神を消耗したと思われる国王の安否を気遣い、その体を優しく摩っていくのだった。その姿は古の神話に伝わる女神のようだった。フィンが感心したように見つめていると、今度は扉を蹴破る音が聞こえた。
フィンが扉の蹴破られた方向を見つめると、そこには黒いローブを纏った六人ほどの男たちが姿を見せた。
フィンが剣を、レキシーが短剣を構えて黒いローブの男たちと対峙する。
本来ならばレキシーは自身の腕があるのならばすぐに蹴散らせるはずだった。

だが、黒いローブの男たちはレキシーを挑発するかのように周りに散らばり、レキシーたちを翻弄していくのだった。
無我夢中になってレキシーは逃げ出した黒いローブの男たちを追い掛けていく。
この時のレキシーの過失を上げるとするのならば無我夢中になって刺客を追い掛けていたことだろう。そうでなければ最低でもフィンだけを病室に残して、国王を一人にはしなかったはずだ。
黒いローブの男たちを見逃し、仕方がなく病室に帰ると、そこには目を大きく見開いたまま息絶えた国王の姿が見えた。

「ち、父上ェェェェ~!!!」

息絶えた父親の元へと慌てて駆け寄ろうとしたフィンの腕を誰かが掴む。フィンがその正体を確認すると、そこには勝ち誇ったような表情を浮かべたベクターの姿が見えた。

「父上は先程亡くなられた。病気が再発してな……気の毒な話だ」

「う、嘘だッ!あたしの薬であと少しは生きられたはずなんだよッ!」

「フン、あと少しだと?自惚れるな。たかだか町の診療所の医者のくせに」

その言葉を聞いて自尊心が傷付けられたレキシーは堪らなくなって鼻を膨らませたものの、なんとか怒りを理性という名の縄で抑え、医師として国王が本当に死んでいるのかを確認しなくてはならない
、と国王の元へと駆け寄って医学に基づく死亡確認を行なっていく。
体に耳を当て心拍数が聞こえているのか、呼吸が停止しているのか、部屋の蝋燭を借りて国王の目に当て、瞳が光を反射しているのかを確認するが、全ての動作を確認した上で大きく首を横に振った。

「フン、やっと納得したか」

「あぁ、確かに陛下はお隠れになられたよ。けど、あたしが引っ掛かったのは陛下の死因が病死じゃないって点だよ」

「なんだと?」

ベクターが両眉を上げながら問い掛けた。

「陛下は……あんたのパパの死因は窒息死だね。何者かに枕を顔に当てられて殺されたんだ。そういえばベクター殿下、あんた急にこの部屋に現れたけど、なんでこんなのところに居たんだい?」

「ち、父上の様子が心配になって駆け寄ってきたんだッ!貴様、そんなオレを疑うのか?いつ医者の貴様に探偵の真似をしろなどと頼んだッ!」

ベクターは声を振り絞りながらレキシーに向かって叫んだのだった。

「探偵の真似をするも何もあんたの動作が見るからに怪しいからねぇ。こんなの誰が見てもあんたが殺したとした言えないよ」

「この無礼者が手討ちにしてくれるッ!」

ベクターは慌てて剣を抜いてレキシーに襲い掛かろうとしたのだが、レキシーに剣を振りかざす前にフィンが剣を突き付けて静止させた。

「やめろ、ベクター」

「あ、兄上、なぜ止める!?」

「本当にやましいことがないのならば、剣の力などに頼らずレキシーに言葉で弁明してみろ。それともやはり、貴様が父上を殺したのか!?」

「バカな……私がきた時にはもう既に父上はお隠れになっておられたのだ。私が殺せるわけがなかろう」

「それを証明する者は?」

「マルグリッタだッ!マルグリッタが証人だッ!」

それを聞くとレキシーが大きな声で笑う。

「おや、あんた知らないのかい?事件が起こった場合身内の証言っていうのはあてにならないんだよ。あんた巷で流行りの探偵小説を読んだことがないのかい?今では庶民も知っているものだよ」

「読むわけがなかろう。そんな低俗なものを」 

「おや、元公爵令嬢であるカーラは楽しげに読んでるけどねぇ。まぁ、そんなことはどうでもいいや。マルグリッタ以外にあんたのアリバイを証明する人間はいないのかい?」

レキシーの問い掛けに答えたのはベクターではなく別の人物だった。

「私たちと居ましたぞ」

レキシーが振り返ると、そこには二人の見知らぬ僧侶の姿が見えた。
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