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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』
レキシーは語る
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「それで、レキシーさん。話してくださいな。宮廷の中で何があったのかを」
カーラは家の中に集まり、自室の机の前に集まる仲間たちに茶を配りながら言った。
カーラの言葉を受けてレキシーはしばらくの間沈黙していたのだが、やがてカーラが淹れた茶を飲み干し、口元を袖で拭ってから落ち着いた口調で説明を始めていく。
「……一言で言えば国王が代わるんだよ。しかもベクターにね」
「おまけに自身の婚約者とそこで正式な婚姻を結ぶみたいだよ」
手にカップを持ったギークが口を挟む。
「そればかりじゃないよ、ネオドラビア教を正式に国教に制定するらしいよ」
レキシーが机に肘をつき不貞腐れた顔で言った。
「あの邪教が国教に?」
カーラの問い掛けにレキシーは黙って首を縦に動かす。
「そうだよ、新国王となるベクターは自身の即位式と婚姻式を兼ねた式典でネオドラビア教の正式な発表をするらしいねぇ」
レキシーは重い溜息を吐きながら言った。
「おまけにその立ち合い者として呼ぶのがイノケンティウスの長男ポール。次期教皇有力候補だよ。ジョゼフやパトリックなんて比較にもならないくらいの権威と権勢を誇る奴だ」
ギークが丁寧に付け加える。それを聞いてレキシーが首を縦に振る。その後で更に付け加えたのだった。
「そればかりじゃないよ、ポールの参謀役であるルパートも呼ぶらしいねぇ」
「……ということはその式典には悪党が勢揃いしているというところですか?」
ヒューゴの問い掛けにレキシーは困ったような笑みを浮かべながら答えた。
「その通り、この国のドス黒い奴らが纏めて勢揃いってわけさ」
「とにかく、事態は最悪の方向に進んだんだよ。ネオドラビア教のことだからその日に害虫駆除人の一掃に励むに決まっている。もう終わりだね」
ギークが忌々しげに吐き捨てる。
「……ねぇ、みなさん。まだ手はありますわ」
「手だってどんな手があるっていうんです?」
ヒューゴが奇異そうな目つきで問い掛けた。
「次期国王ベクター、その婚約者マルグリッタ、それにネオドラビア教の大司教ポール、その参謀役であるルパートを片付けさえすれば私たちの勝ちではありませんの?」
カーラが勝ち誇ったよう表情を浮かべて言った。
「け、けど、依頼主がいないんじゃ」
「ここにいますわ」
カーラは自身を人差し指で突き付けながら言った。
「……いよいよ、復讐の時だっていうのかい?」
レキシーが両目をカーラが使う針のように尖らせながら問い掛ける。
「もちろんですわ。首を長くして待った甲斐がございましてよ」
「しかし、どうしてここまで長い間復讐を待っていたんだ?」
「ねぇ、ヒューゴさん。あなたは好物というのは先と後でしたらどちらからお食べになりまして?」
「ぼくは後ですよ」
「なるほど、ヒューゴさんは楽しみは後に取っておく性格でしたのね。それならば私と同じですわ」
「か、カーラ、あなたはもしかして……」
「その通り、私はずっと待っておりましたの!ベクター殿下に、それから義妹に復讐する機会というのをッ!結婚式に即位式?こんな絶好の機会は他にありませんわ。奴らを幸せの絶頂から不幸のどん底へと叩き落とす……これ以上の幸福はございませんわ」
カーラ燃えるような目を見開き、自身の胸元に手を当てながら復讐について熱烈に語っていく。
「……あんた、自分が背中から針で突き刺されないように気を付けなよ」
レキシーはカーラが興奮した様子で語っている姿を見て思わずたじろいでしまったのか、少し冷ややかな視線を向けて忠告の言葉を投げ掛けた。
それに対してカーラはウフフと可愛らしい笑みを浮かべながら語っていく。
「それくらいの覚悟はできておりますわ。私はいつだって『殺すのならば殺される覚悟を』と思っておりますもの」
カーラはもう一度笑って見せた。それは普段カーラが駆除する悪女が浮かべるような笑みだった。
「まぁ、ここまでカーラに言わせたんだ。オレたちが引き受けないわけにはいかないだろ?」
ヒューゴの言葉に他の仲間たちが同意する。それを受けてカーラは一旦部屋に戻ると、机の上に大量の硬貨や宝石が入った袋を置いた。
「これが私がお針子の仕事や駆除の仕事で貯めたお金ですわ。加えて、今回の駆除には私も同行致しますわ。どうかお引き受けくださらない?」
「……駆除人の掟を忘れたのかい?依頼主は駆除人ギルドマスターの元に報酬を持っていかなくちゃいけないんだよ」
「じゃあ、この金はオレが持ち帰りますよ。ギルドマスターも驚くでしょうね」
ヒューゴはカーラが貯めた袋を見ながら苦笑したように言った。
「では、皆様駆除の際にはよろしくお願い致しますわ」
カーラは丁寧に頭を下げてからお茶を淹れ直しに台所へと戻っていく。
それから新たなお茶を出しながらギークとレキシーに自分がシュポスと戦っている間に何が起きたのかを問い掛けていく。
レキシーとギークはカーラが新たに淹れ直したお茶を飲み干してから宮廷の方で何かがあったのかを語っていく。
レキシーによればカーラがシュポスに最後のデートに連れ出されたのと同時刻に宮廷からの医師に呼ばれ、護身用の得物を入れた医療鞄を携えてから馬車によって運ばれていったのだという。
レキシーは運ばれて居室に通されるなり、死んだように眠っていた国王と出会したのだった。国王はレキシーが来たのを確認すると、ベッドの上から体を起こして、レキシーに感謝の言葉を述べたのだった。
レキシーは国王を気遣おうとした時だ。ベッドの横に置いてある机の上に自身の薬が置きっぱなしになっていることに気がつく。
「陛下!どうしてお薬をお飲みになられないんですか!?」
自分が来るまで国王が死んだように眠っていた理由がわかった。薬を飲んでいなかったせいで体が異変に気が付き始めたのだ。カーラは慌てて国王に服薬を勧めた時だ。扉が開いてニヤニヤと笑うベクターが姿を現したのだ。
「あ、あんたは……」
「父上、まさかお薬をお飲みになられておられるのではありますまないな?」
ベクターが両目を尖らせながら国王に向かって問い掛けた。
「い、いや、レキシーがどうしてもというのでな」
「困りますな。父上、薬というものがいかに有害であるのかをご説明したではありませんか」
どうやら昨日のうちにベクターは父親にとんでもないことを吹き込んでいたらしい。ベクターはネオドラビア教の教義に基づく薬の有害性や薬を使わないという教団のめちゃくちゃな医療法を説いたに違いない。
「父上、病というのは体の中にある気が起こすのです。現代の医学では細菌が外から出てくるだなどと仰られておりますが、これらは全て出まかせです。薬を飲めない方が父上のためーー」
「ふざけるんじゃないよッ!」
レキシーは激昂した。ベクターを怒鳴り付ける時の声は震えていたし、叱っていた時の両頬は紅色に染まっていた。
居室全体に響き渡っていくほどの怒声を受けて思わず腰を抜かしたベクターの元へと寄っていき、その胸ぐらを掴み上げて耳元に向かって低い声で言った。
「仮にも王子ともあろうものが医学の歴史の進歩を知らないっていうのかい!?あのめちゃくちゃな教団が大昔に少しだけ流行った医学書を引っ張り上げたものを鵜呑みにして信じ込ませるなんて、医学に対する冒涜ってもんだよ」
「ぼ、冒涜だと!?現代の医学こそが神に対する冒涜そのものであろうが……」
「神?あのインチキドラゴンのことかい?」
その言葉を聞いてベクターは怒りの感情に包まれたのか、両頬をプルプルと震わせながらレキシーに向かって言った。
「我らが神を侮辱するとタダではおかんぞッ!」
「タダではおかない?面白い。どうしてくれるのさ?」
二人の睨み合いは続くかと思われた時だ。ベッドで眠っていたはずの国王が大きな声を上げて二人を一喝したのだった。
一喝を聞いて隙を生じさせた二人に対して国王は厳かな声で仲裁を図り、両者を引き離すことに成功したのであった。
それから国王は両者を呼び出し、両者の主張を聞き入れると宣言したのである。
レキシーは一般的な医学の知識に基づく主張を、ベクターはネオドラビア教の教義を基にした主張を展開していく。
激しい議論を国王は黙って両目を瞑り、腕を組みながら聞いていた。
カーラは家の中に集まり、自室の机の前に集まる仲間たちに茶を配りながら言った。
カーラの言葉を受けてレキシーはしばらくの間沈黙していたのだが、やがてカーラが淹れた茶を飲み干し、口元を袖で拭ってから落ち着いた口調で説明を始めていく。
「……一言で言えば国王が代わるんだよ。しかもベクターにね」
「おまけに自身の婚約者とそこで正式な婚姻を結ぶみたいだよ」
手にカップを持ったギークが口を挟む。
「そればかりじゃないよ、ネオドラビア教を正式に国教に制定するらしいよ」
レキシーが机に肘をつき不貞腐れた顔で言った。
「あの邪教が国教に?」
カーラの問い掛けにレキシーは黙って首を縦に動かす。
「そうだよ、新国王となるベクターは自身の即位式と婚姻式を兼ねた式典でネオドラビア教の正式な発表をするらしいねぇ」
レキシーは重い溜息を吐きながら言った。
「おまけにその立ち合い者として呼ぶのがイノケンティウスの長男ポール。次期教皇有力候補だよ。ジョゼフやパトリックなんて比較にもならないくらいの権威と権勢を誇る奴だ」
ギークが丁寧に付け加える。それを聞いてレキシーが首を縦に振る。その後で更に付け加えたのだった。
「そればかりじゃないよ、ポールの参謀役であるルパートも呼ぶらしいねぇ」
「……ということはその式典には悪党が勢揃いしているというところですか?」
ヒューゴの問い掛けにレキシーは困ったような笑みを浮かべながら答えた。
「その通り、この国のドス黒い奴らが纏めて勢揃いってわけさ」
「とにかく、事態は最悪の方向に進んだんだよ。ネオドラビア教のことだからその日に害虫駆除人の一掃に励むに決まっている。もう終わりだね」
ギークが忌々しげに吐き捨てる。
「……ねぇ、みなさん。まだ手はありますわ」
「手だってどんな手があるっていうんです?」
ヒューゴが奇異そうな目つきで問い掛けた。
「次期国王ベクター、その婚約者マルグリッタ、それにネオドラビア教の大司教ポール、その参謀役であるルパートを片付けさえすれば私たちの勝ちではありませんの?」
カーラが勝ち誇ったよう表情を浮かべて言った。
「け、けど、依頼主がいないんじゃ」
「ここにいますわ」
カーラは自身を人差し指で突き付けながら言った。
「……いよいよ、復讐の時だっていうのかい?」
レキシーが両目をカーラが使う針のように尖らせながら問い掛ける。
「もちろんですわ。首を長くして待った甲斐がございましてよ」
「しかし、どうしてここまで長い間復讐を待っていたんだ?」
「ねぇ、ヒューゴさん。あなたは好物というのは先と後でしたらどちらからお食べになりまして?」
「ぼくは後ですよ」
「なるほど、ヒューゴさんは楽しみは後に取っておく性格でしたのね。それならば私と同じですわ」
「か、カーラ、あなたはもしかして……」
「その通り、私はずっと待っておりましたの!ベクター殿下に、それから義妹に復讐する機会というのをッ!結婚式に即位式?こんな絶好の機会は他にありませんわ。奴らを幸せの絶頂から不幸のどん底へと叩き落とす……これ以上の幸福はございませんわ」
カーラ燃えるような目を見開き、自身の胸元に手を当てながら復讐について熱烈に語っていく。
「……あんた、自分が背中から針で突き刺されないように気を付けなよ」
レキシーはカーラが興奮した様子で語っている姿を見て思わずたじろいでしまったのか、少し冷ややかな視線を向けて忠告の言葉を投げ掛けた。
それに対してカーラはウフフと可愛らしい笑みを浮かべながら語っていく。
「それくらいの覚悟はできておりますわ。私はいつだって『殺すのならば殺される覚悟を』と思っておりますもの」
カーラはもう一度笑って見せた。それは普段カーラが駆除する悪女が浮かべるような笑みだった。
「まぁ、ここまでカーラに言わせたんだ。オレたちが引き受けないわけにはいかないだろ?」
ヒューゴの言葉に他の仲間たちが同意する。それを受けてカーラは一旦部屋に戻ると、机の上に大量の硬貨や宝石が入った袋を置いた。
「これが私がお針子の仕事や駆除の仕事で貯めたお金ですわ。加えて、今回の駆除には私も同行致しますわ。どうかお引き受けくださらない?」
「……駆除人の掟を忘れたのかい?依頼主は駆除人ギルドマスターの元に報酬を持っていかなくちゃいけないんだよ」
「じゃあ、この金はオレが持ち帰りますよ。ギルドマスターも驚くでしょうね」
ヒューゴはカーラが貯めた袋を見ながら苦笑したように言った。
「では、皆様駆除の際にはよろしくお願い致しますわ」
カーラは丁寧に頭を下げてからお茶を淹れ直しに台所へと戻っていく。
それから新たなお茶を出しながらギークとレキシーに自分がシュポスと戦っている間に何が起きたのかを問い掛けていく。
レキシーとギークはカーラが新たに淹れ直したお茶を飲み干してから宮廷の方で何かがあったのかを語っていく。
レキシーによればカーラがシュポスに最後のデートに連れ出されたのと同時刻に宮廷からの医師に呼ばれ、護身用の得物を入れた医療鞄を携えてから馬車によって運ばれていったのだという。
レキシーは運ばれて居室に通されるなり、死んだように眠っていた国王と出会したのだった。国王はレキシーが来たのを確認すると、ベッドの上から体を起こして、レキシーに感謝の言葉を述べたのだった。
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「陛下!どうしてお薬をお飲みになられないんですか!?」
自分が来るまで国王が死んだように眠っていた理由がわかった。薬を飲んでいなかったせいで体が異変に気が付き始めたのだ。カーラは慌てて国王に服薬を勧めた時だ。扉が開いてニヤニヤと笑うベクターが姿を現したのだ。
「あ、あんたは……」
「父上、まさかお薬をお飲みになられておられるのではありますまないな?」
ベクターが両目を尖らせながら国王に向かって問い掛けた。
「い、いや、レキシーがどうしてもというのでな」
「困りますな。父上、薬というものがいかに有害であるのかをご説明したではありませんか」
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「父上、病というのは体の中にある気が起こすのです。現代の医学では細菌が外から出てくるだなどと仰られておりますが、これらは全て出まかせです。薬を飲めない方が父上のためーー」
「ふざけるんじゃないよッ!」
レキシーは激昂した。ベクターを怒鳴り付ける時の声は震えていたし、叱っていた時の両頬は紅色に染まっていた。
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「ぼ、冒涜だと!?現代の医学こそが神に対する冒涜そのものであろうが……」
「神?あのインチキドラゴンのことかい?」
その言葉を聞いてベクターは怒りの感情に包まれたのか、両頬をプルプルと震わせながらレキシーに向かって言った。
「我らが神を侮辱するとタダではおかんぞッ!」
「タダではおかない?面白い。どうしてくれるのさ?」
二人の睨み合いは続くかと思われた時だ。ベッドで眠っていたはずの国王が大きな声を上げて二人を一喝したのだった。
一喝を聞いて隙を生じさせた二人に対して国王は厳かな声で仲裁を図り、両者を引き離すことに成功したのであった。
それから国王は両者を呼び出し、両者の主張を聞き入れると宣言したのである。
レキシーは一般的な医学の知識に基づく主張を、ベクターはネオドラビア教の教義を基にした主張を展開していく。
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