婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』

二人の怪しい男

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「で、どうなんだよ?」

シュポスはカーラに向かって問い掛けた。

「どうと申しますと?」

「あんたとユーリの関係さ」

「ゆ、ユーリさんと私の関係!?」

カーラが思わず声を上げる。

「お、図星だったかい?」

「ず、図星ってなんですの!?」

今の自分の顔はひどく滑稽なのだろう。カーラは内心苦笑していた。だが、勝手に妙な想像を抱かれているのならばそれは間違いであると言わなくてはならない。カーラは声を振り絞って自身とユーリとの関係性を述べていく。

「言っておきますけれど、私とユーリさんとは診療所の助手と患者との関係でしかありませんわ!」

シュポスはフーンとだけ告げてカーラの肩に手を置く。

「まぁ、いいや。あんたがあいつと関係があろうがなかろうが、今のおれたちとは無関係の話だろ?」

「そうですわね。今日のところは楽しませていただきましょう」

二人がそのまま並んで大通りを歩いていた時だ。背後から気配を感じシュポスが振り返ると、背後からは鞭が飛んできたのであった。シュポスは飛んできた鞭を掴むと、そのまま力に任せて鞭を引っ張って肝心の相手を引き摺ろうかと考えていたのだが、足腰の力が強いせいか、鞭の主は捕らえることはできなかった。シュポスは舌を打ってから鞭を離すとカーラに向かって不器用な笑顔を浮かべながら言った。

「……悪いけど今日のデートは中止にさせてくれないかな?あの野郎に少し説教してこないと」

シュポスは呆然とするカーラを放って、そのまま自分のデートを台無しにしたユーリの元へと駆け寄っていく。
大勢の人に紛れているユーリの元へと追い縋っていく。

「何のつもりだ。お前」

「悪かったな。だが、こうでもしないとお前反応しないだろ?」

『悪かったな』と前置きをしてはいたが、ユーリは悪びれる様子もなく答えた。

「よく言うよ。人のデートを台無しにしておいて」

ユーリは呆れたように言った。

「まぁ、緊急の依頼が入ったのさ。今から聞いてくれないか?」

「緊急の依頼だと?」

「あぁ、我々の教団に不利なことをしようとしている貴族がいるらしくてな。そいつを消してほしいとの上からのお達しだ」

「わかった。そいつを消せばいいんだな?」

シュポスは懐を見つめながら言った。

「名前はネルソン・アイクラフト。アイクラフト男爵家の現当主だ」

ユーリの言葉を聞いてシュポスは黙って首を縦に動かす。シュポスは今夜にでも屋敷に侵入するという旨のことを伝えて、宿屋へと戻っていく。

一方でシュポスに置いていかれて呆然としているカーラの元にギルドマスターが姿を見せたのであった。
ギルドマスターはカーラに声をかけ、駆除人ギルドへと案内すると、開店前で誰もいない酒場のバーカウンターの上に大量の金貨が置かれた袋を置くのだった。

「マスター、もしかして依頼ということですの?」

「あぁ、依頼主はとある商店の店主でね。娘の敵討ちを依頼したのだそうだ」

依頼主の話によればネルソン・アイクラフトは最低の人間であるらしい。彼は貴族社会の中においては保守的な思想と革新的に対する反動並びにネオドラビア教に対する強硬策を主張し、高い評価を得ていたが、裏に回れば屋敷の中に商店や市井の女性をメイドとしてスカウトをしてそれを虐めるのを楽しんでいたらしい。人間として生かしてはおけないような人物だ。

また、娘を奪われたという商店の店主の話によれば始末してほしいのはネルソンだけではなく、その家族全員であるらしい。
アイクラフト家の先代当主のエドワードとそのパートナーであるイブリンそしてネルソンのパートナーであるディアナはそれを止めるどころか、喜んで推奨しているし、その息子レオは父親を尊敬してそのおこぼれさえもらっていた。
ギルドマスターはここまで吐き出したところで溜息を吐いた。

「ひどい話だろ?反ネオドラビアという点では我々と協力できたかもしれないというのに、本人たちがそのネオドラビアにも劣らぬだっとはな……」

全てを語り終わった時にはギルドマスターの拳がプルプルと震えていることに気が付いた。彼としても腹に据えていたのだろう。カーラは事情を語る際にあまり私情を交えずに説明するギルドマスターが私情を交えて説明したことを受けて、自身も感情を露わにすることに決め、少しだけ悪い口調で言った。

「……そのようなお方は生かしておいてはおけませんわ。私の手で外道どもには然るべき鉄槌を与えなくてはなりませんわ。今回は少しばかり骨が折れることになるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」

「その口ぶりだと今回の駆除を引き受けてくれるということでいいのだろうか?」

ギルドマスターが両目を光らせながら問い掛けた。カーラはギルドマスターの問い掛けに対して黙って前金を受け取ることで自分の意思を示してみたのだった。
カーラは一旦自宅に戻り、受け取った袋を部屋の中に置き、服を動きやすいものに変えてから針をその袖の中に仕込み、レキシーに書き置きを残した後で夜になるのを待って、子どものための衣装を作った後でネルソン・アイクラフトの邸宅へと向かっていく。郊外に聳え立つ邸宅の前に立つと、カーラは塀を通って屋敷の中へと入り込み、裏口の鍵を針を使ってこじ開けて潜入し、物陰や夜の闇の中に紛れ込みながら標的の部屋を探っていく。

カーラが最初に辿り着いた部屋はアイクラフト家の次期当主にして父親に勝るとも劣らぬ下衆とされるレオの部屋だ。レオが部屋の中にいることは扉の下から漏れたランプの光からそのことを判断した。
問題として鍵は掛かっていることがあるが、部屋の主がいるのならば例え扉が閉まっていたとしても呼び出せばいいだけの話であり、これに関しては問題を感じなかった。
カーラは勝ち誇ったような笑みを浮かべると、レオの部屋の扉をノックしてレオを呼び出していく。
ノックに応じたレオが気だるそうに部屋の扉を開けて出てきたところをカーラが呼び止める。

レオは屋敷の中に知らない人間がいたという事実に驚いたものの、それ以上に父親譲りの好色であるレオはカーラを舌舐めずりして、下衆じみた笑みを浮かべながらカーラを部屋の中へと招き入れようとするのだった。カーラはその姿に心底から嫌悪感を感じたのだが、表向きは同意するべく満更でもないような笑顔を浮かべていたのだった。
それからレオに招かれるまま部屋に入る。部屋には誰もいなかった。レオ一人だけである。この機会を逃す手はない。
カーラは最初の駆除を決行することを決めた。それはレオが部屋の扉の鍵を閉め、その鍵をポケットの中に仕舞い込んだ時だった。

カーラはここぞとばかりに袖の下から針を取り出し、部屋に入ったことで無防備にも背中を見せたレオの延髄に向かって勢いよく針を食い込ませていく。
背後から弓から矢が放たれるばかりの勢いで針を突き刺されたのでレオは防ぐこともできなかったのだ。カーラによって延髄に勢いよく針が突き刺さったレオはプルプルと腕を伸ばして助けを求めたのだが、部屋の扉を閉めたことと、それまで部屋の中に一人でいたのが災いして誰もその手を取るものがいなかった。
カーラはレオの絶命を確認するとレオのポケットの中にあった鍵を拾い上げて、そのままレオの部屋の鍵を閉めた。それから鍵を地面の上に放り捨ててから思いっきり蹴り飛ばす。部屋を閉めることで少なくとも駆除の執行中はレオの死体が遅れるはずだ。

カーラは続いての駆除を行うために暗闇に紛れながらアイクラフト男爵の部屋を探していた。使用人に遭遇しかねない危険性を考慮しつつカーラはようやく男爵とそのパートナーの居室を探し当てた。
それから両者を駆除するべく扉の前で様子を窺っていた時だ。
不意に扉の前から悲鳴が聞こえた。カーが慌てて鍵穴から部屋の様子を覗き込むと、そこには部屋用の蝋燭の火に針を炙り、先端を赤く染め上げた針を構えたシュポスとそれを見てたじろぐネルソン・アイクラフトの姿が見えた。

「き、貴様ッ!な、何者だッ!」

「あんたを殺しに来た者だとだけ述べておこうか」

「わかったぞ、貴様ネオドラビア教の回し者だな」

「その通りだ。それともあんたにはそれ以外の心当たりがあるというのかい?」

ネルソンはシュポスの問い掛けに対してたじろぐばかりであった。当たり前だろう。ギルドマスターの言葉によればネルソンという男は最低の人物なのだから。
カーラは心の中で勝手に注釈を付け加えていた。
だが、果敢にもネルソンは部屋に飾ってあった剣を抜いてシュポスに向かって斬り掛かっていったのだが、シュポスはネルソンの剣をあっさりと交わし、その背後から延髄に向かって勢いよく針を打ち込んだ。
ネルソンはシュポスの針を喰らってその場に倒れていくのだった。
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