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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』
無礼討ち
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「いつもありがとうございます」
店員が頭を下げて常連客のカーラに礼を述べた。
「いえいえ、こちらこそ。私が紹介したアリスさんまで雇っていただき、感謝してもしきれませんわ。また店主さんによろしく言っておいてくださいな」
カーラは店員から手渡された袋を抱えながら頭を下げた。
カーラは現在の時間帯が夕刻だということもあって、学校が終わっていると思われるあの白いドレスの女の子の元へと向かう。
いや、今は白いドレスを脱いで無事に両親の元へと戻った白いドレスの女の子は普通の女の子に戻っている。カーラにも「ペトラ」という名前を名乗って自己紹介をしてくれたではないか。
なんとも愛らしい響きをした名前であり、カーラは他人の名前だというのにひどく気に入っていた。
カーラは家の庭で遊んでいるペトラに声を掛けていつもの店で買ってきた菓子を手渡す。
「ありがとう。カーラお姉ちゃん」
「いいえ、こちらこそ私をお友達と認めてくださって本当に嬉しいですわ」
「そんな……今あたしがここに居られるのはカーラお姉ちゃんのお陰なのに」
ペトラは『オルフィ』というレストランでの一件が終わった後で匿名の誰かによる密告で警備隊並びに自警団による大規模な捜索が行われ、捜索によって雑技団の悪事が露わになったのだという。
団長の死と共に人身売買組織の闇が暴かれて雑技団の幹部は逮捕され、雑技団の面々にこき使われていた子どもたちは無事に保護されて身寄りのない者は孤児院へ、両親が健在な者は両親の元へと送り返されたのであった。
その時に団長とジェイクという男の死を間近で見た衝撃で上手く言葉を言えなかったペトラに代わって住所を発言したのが言葉を失ったという少年少女の治療にレキシーと共に訪れたカーラであったのだ。
殺人事件の一部始終を見たことによってペトラは瞬間的に言葉を話せなくなっていたが、レキシーとカーラの懸命な治療と両親の元へと戻ったという安堵感からようやく言葉を発することができるようになったのである。他の二人も治療の結果ようやく言葉を話せるようになっていた。
レキシーはその事情を知ってお礼を言われるたびに複雑な表情を浮かべていたし、カーラもそう言われるたびに申し訳なくなってしまうが、あの時しか駆除するタイミングはなかったのだ。そう自分の中で正当化するしかなかった。自分がこうしてペトラという少女のケアに努めているのも罪悪感を揉み消すためだ。
カーラは後ろめたい思いもあってか、時間が許す限りまでペトラと雑談をしていた。それを終え、ペトラとその両親に見送られて、二人が住む家を出て城下へと戻ろうとした時だ。
勢いのついた馬車がカーラの前を凄まじい速さで通り過ぎていく。
咄嗟に睨んだ馬車には警備隊の紋章が付いてあり、恐らく警備隊における偉い人物が乗っているのだろう。
だが、法を守るはずの警備隊の車が人を跳ね飛ばさんばかりの勢いで馬車を飛ばすなど言語道断ではないか。
カーラは強い憤りを感じていた。機嫌が悪いまま家に着いたためか、食事の手伝いをする際もどこか手が震えていた。
「どうかしたの?カーラ?」
たまりかねたのか、レキシーが問い掛けた。
「……少し腹の立つことがありまして」
カーラは短い声で答えた。
「何があったのか知らないけど、話さなくちゃわからないだろ?あたしに話してごらんよ」
そうして親身になって問い掛けるレキシーに対して申し訳ない思いもあったのか、カーラはペトラとその両親の家から帰る途中に何があったのかを端的に語っていく。レキシーは話を聞く間は黙っていたが、話を聞いた後で厳かな調子で言った。
「成る程、そいつは気を悪くするのも当然だね」
「ご理解いただき感謝致しますわ」
「災難だったよ。じゃあ気を取り直して食事にしようかね」
レキシーが立ち上がって机の前へと向かって行こうとした時だ。扉を叩く音が聞こえた。二人は警戒の姿勢を取った後で扉の前で声を問い掛けた。
返ってきたのはギルドマスターの野太い声であった。ギルドマスターが直々に訪れたのだ。
これは相当急いでいるに違いない。二人が意を決して扉を開けると、そこには深刻な顔を浮かべたギルドマスターの姿が見えた。
ギルドマスターは二人に無言で大量の金が入った麻袋を突き付けると淡々と言った。
「……一人厄介な奴を殺してほしくてね」
「厄介な奴?」
「あぁ、それもただの厄介な奴じゃない。とんでもなく厄介な奴だ」
話の深刻さを理解した二人はギルドマスターを中へと招き入れ、ギルドマスターにワインの入ったグラスを差し出し、上座へと座らせる。ギルドマスターは目の前に差し出された酒を飲み干し、息を整える手からようやく二人に向かって告げた。
「そいつはね名前が不明なんだ。けど、三日前に起きた一家惨殺事件は覚えてるな?依頼主からはそいつを殺してほしいって言われてな」
『三日前に起きた一家惨殺事件』という言葉を聞いてレキシーの目が変わる。途端にレキシーの目に怒りの炎が宿った。ドス黒い怒りに満ち溢れた負の炎だ。
レキシーはギルドマスターへと向き直ったかと思うと、無言で麻袋を回収したのであった。
一家惨殺事件の真相究明。そしてその犯人を駆除するということに対してレキシーは躊躇いがなかった。
レキシーはカーラへと向き直ると、目に青白い光を宿らせて有無を言わせない勢いで問い掛けた。
「あたしは今回の駆除やるよ。あんたはどうだい?」
カーラはあまり見せないレキシーの凄みに耐えかねて一瞬だけたじろいで見せたが、すぐに首を縦に動かした。
威圧に屈してではない。カーラは心底から同調してレキシーの言葉に賛同した。
レキシーはそれを見てカーラに優しい微笑を見せると麻袋を閉じていた紐を解いて、中の金を机の上にぶち撒けたのであった。
カーラはその金の半分を自身の懐へと収め、こうして二人で一家惨殺事件の犯人を追うことになったのであった。
犯人は現場に戻るということで二人は翌日の仕事が終わった後で一家惨殺事件が引き起こされた城下町にある小さな一軒家を訪れた。
事件現場は寄り合うようにして城下町の中に所狭しと並ぶ四角い形の家の中にある小さな家の一つであったが、平凡な城下町の一角で起きた猟奇的な事件が起こった現場だということもあり、その家は他の家と比べて、どこか近寄りがたいものを発していたのであった。
二人はそのような場所に無断で足を踏み入れるということには勇気が入ったが、それでも捜査のために必要なことであったので侵入する必要があったので入らなくてはいけなかったのだ。
部屋の中は事件からあまり日数が経っていないということもあり、事件当時の惨たらしい痕跡を残していた。
その姿にレキシーもカーラも眉を顰めたが、手掛かりを得るためには素人探偵を続けなければならなかった。
カーラによる探偵小説を根拠とした現場検証が行われ、結果として警備隊が発見できなかった箪笥の隙間に落ちていたガチョウが描かれた男物の指輪を手に入れたのである。
レキシーは首を傾げていたが、カーラはそのガチョウの指輪に見覚えがあった。それは自身が社交界を追放される前にベクターという婚約者がいるというのにも関わらず、自身に迫ってきたウィザード家の長男ハリーがよく手に付けていた指輪であったのだ。
ハリー・ウィザードはウィザード男爵家の跡を継ぐ立場にありながらも勉学に励むこともせず、遊び呆けている典型的な貴族のバカ息子であった。
いつもその傍に着飾った女性たちを侍らせていたことを覚えている。
また、血の気が多かったことも覚えており、カーラは望んでもいないのにハリーが狩りの話をしていたことを覚えている。
残酷な手段で動物を苦しめたという話を嬉々として語るハリーならばいつしか動物で我慢できなくなり、人を殺してみたいと思っていたとしても不思議ではない。
その欲求が爆発して今回の事件を引き起こしたのだろう。
カーラはレキシーの犯人のことを伝えると、レキシーは無言で床を見下ろしながら忌々しげに、
「ちくしょう……貴族の奴らはいつもそうだ。平民の命なんて虫ケラ同然にしか考えてねぇんだ」
と、口走っていた。レキシーは貴族に虐げられる人を見ると無意識下のうちで自分や自分の家族と重ね合わせているのだろう。
家を出た後に戻る最中でもレキシーはずっと俯いていた。
店員が頭を下げて常連客のカーラに礼を述べた。
「いえいえ、こちらこそ。私が紹介したアリスさんまで雇っていただき、感謝してもしきれませんわ。また店主さんによろしく言っておいてくださいな」
カーラは店員から手渡された袋を抱えながら頭を下げた。
カーラは現在の時間帯が夕刻だということもあって、学校が終わっていると思われるあの白いドレスの女の子の元へと向かう。
いや、今は白いドレスを脱いで無事に両親の元へと戻った白いドレスの女の子は普通の女の子に戻っている。カーラにも「ペトラ」という名前を名乗って自己紹介をしてくれたではないか。
なんとも愛らしい響きをした名前であり、カーラは他人の名前だというのにひどく気に入っていた。
カーラは家の庭で遊んでいるペトラに声を掛けていつもの店で買ってきた菓子を手渡す。
「ありがとう。カーラお姉ちゃん」
「いいえ、こちらこそ私をお友達と認めてくださって本当に嬉しいですわ」
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ペトラは『オルフィ』というレストランでの一件が終わった後で匿名の誰かによる密告で警備隊並びに自警団による大規模な捜索が行われ、捜索によって雑技団の悪事が露わになったのだという。
団長の死と共に人身売買組織の闇が暴かれて雑技団の幹部は逮捕され、雑技団の面々にこき使われていた子どもたちは無事に保護されて身寄りのない者は孤児院へ、両親が健在な者は両親の元へと送り返されたのであった。
その時に団長とジェイクという男の死を間近で見た衝撃で上手く言葉を言えなかったペトラに代わって住所を発言したのが言葉を失ったという少年少女の治療にレキシーと共に訪れたカーラであったのだ。
殺人事件の一部始終を見たことによってペトラは瞬間的に言葉を話せなくなっていたが、レキシーとカーラの懸命な治療と両親の元へと戻ったという安堵感からようやく言葉を発することができるようになったのである。他の二人も治療の結果ようやく言葉を話せるようになっていた。
レキシーはその事情を知ってお礼を言われるたびに複雑な表情を浮かべていたし、カーラもそう言われるたびに申し訳なくなってしまうが、あの時しか駆除するタイミングはなかったのだ。そう自分の中で正当化するしかなかった。自分がこうしてペトラという少女のケアに努めているのも罪悪感を揉み消すためだ。
カーラは後ろめたい思いもあってか、時間が許す限りまでペトラと雑談をしていた。それを終え、ペトラとその両親に見送られて、二人が住む家を出て城下へと戻ろうとした時だ。
勢いのついた馬車がカーラの前を凄まじい速さで通り過ぎていく。
咄嗟に睨んだ馬車には警備隊の紋章が付いてあり、恐らく警備隊における偉い人物が乗っているのだろう。
だが、法を守るはずの警備隊の車が人を跳ね飛ばさんばかりの勢いで馬車を飛ばすなど言語道断ではないか。
カーラは強い憤りを感じていた。機嫌が悪いまま家に着いたためか、食事の手伝いをする際もどこか手が震えていた。
「どうかしたの?カーラ?」
たまりかねたのか、レキシーが問い掛けた。
「……少し腹の立つことがありまして」
カーラは短い声で答えた。
「何があったのか知らないけど、話さなくちゃわからないだろ?あたしに話してごらんよ」
そうして親身になって問い掛けるレキシーに対して申し訳ない思いもあったのか、カーラはペトラとその両親の家から帰る途中に何があったのかを端的に語っていく。レキシーは話を聞く間は黙っていたが、話を聞いた後で厳かな調子で言った。
「成る程、そいつは気を悪くするのも当然だね」
「ご理解いただき感謝致しますわ」
「災難だったよ。じゃあ気を取り直して食事にしようかね」
レキシーが立ち上がって机の前へと向かって行こうとした時だ。扉を叩く音が聞こえた。二人は警戒の姿勢を取った後で扉の前で声を問い掛けた。
返ってきたのはギルドマスターの野太い声であった。ギルドマスターが直々に訪れたのだ。
これは相当急いでいるに違いない。二人が意を決して扉を開けると、そこには深刻な顔を浮かべたギルドマスターの姿が見えた。
ギルドマスターは二人に無言で大量の金が入った麻袋を突き付けると淡々と言った。
「……一人厄介な奴を殺してほしくてね」
「厄介な奴?」
「あぁ、それもただの厄介な奴じゃない。とんでもなく厄介な奴だ」
話の深刻さを理解した二人はギルドマスターを中へと招き入れ、ギルドマスターにワインの入ったグラスを差し出し、上座へと座らせる。ギルドマスターは目の前に差し出された酒を飲み干し、息を整える手からようやく二人に向かって告げた。
「そいつはね名前が不明なんだ。けど、三日前に起きた一家惨殺事件は覚えてるな?依頼主からはそいつを殺してほしいって言われてな」
『三日前に起きた一家惨殺事件』という言葉を聞いてレキシーの目が変わる。途端にレキシーの目に怒りの炎が宿った。ドス黒い怒りに満ち溢れた負の炎だ。
レキシーはギルドマスターへと向き直ったかと思うと、無言で麻袋を回収したのであった。
一家惨殺事件の真相究明。そしてその犯人を駆除するということに対してレキシーは躊躇いがなかった。
レキシーはカーラへと向き直ると、目に青白い光を宿らせて有無を言わせない勢いで問い掛けた。
「あたしは今回の駆除やるよ。あんたはどうだい?」
カーラはあまり見せないレキシーの凄みに耐えかねて一瞬だけたじろいで見せたが、すぐに首を縦に動かした。
威圧に屈してではない。カーラは心底から同調してレキシーの言葉に賛同した。
レキシーはそれを見てカーラに優しい微笑を見せると麻袋を閉じていた紐を解いて、中の金を机の上にぶち撒けたのであった。
カーラはその金の半分を自身の懐へと収め、こうして二人で一家惨殺事件の犯人を追うことになったのであった。
犯人は現場に戻るということで二人は翌日の仕事が終わった後で一家惨殺事件が引き起こされた城下町にある小さな一軒家を訪れた。
事件現場は寄り合うようにして城下町の中に所狭しと並ぶ四角い形の家の中にある小さな家の一つであったが、平凡な城下町の一角で起きた猟奇的な事件が起こった現場だということもあり、その家は他の家と比べて、どこか近寄りがたいものを発していたのであった。
二人はそのような場所に無断で足を踏み入れるということには勇気が入ったが、それでも捜査のために必要なことであったので侵入する必要があったので入らなくてはいけなかったのだ。
部屋の中は事件からあまり日数が経っていないということもあり、事件当時の惨たらしい痕跡を残していた。
その姿にレキシーもカーラも眉を顰めたが、手掛かりを得るためには素人探偵を続けなければならなかった。
カーラによる探偵小説を根拠とした現場検証が行われ、結果として警備隊が発見できなかった箪笥の隙間に落ちていたガチョウが描かれた男物の指輪を手に入れたのである。
レキシーは首を傾げていたが、カーラはそのガチョウの指輪に見覚えがあった。それは自身が社交界を追放される前にベクターという婚約者がいるというのにも関わらず、自身に迫ってきたウィザード家の長男ハリーがよく手に付けていた指輪であったのだ。
ハリー・ウィザードはウィザード男爵家の跡を継ぐ立場にありながらも勉学に励むこともせず、遊び呆けている典型的な貴族のバカ息子であった。
いつもその傍に着飾った女性たちを侍らせていたことを覚えている。
また、血の気が多かったことも覚えており、カーラは望んでもいないのにハリーが狩りの話をしていたことを覚えている。
残酷な手段で動物を苦しめたという話を嬉々として語るハリーならばいつしか動物で我慢できなくなり、人を殺してみたいと思っていたとしても不思議ではない。
その欲求が爆発して今回の事件を引き起こしたのだろう。
カーラはレキシーの犯人のことを伝えると、レキシーは無言で床を見下ろしながら忌々しげに、
「ちくしょう……貴族の奴らはいつもそうだ。平民の命なんて虫ケラ同然にしか考えてねぇんだ」
と、口走っていた。レキシーは貴族に虐げられる人を見ると無意識下のうちで自分や自分の家族と重ね合わせているのだろう。
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