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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』

彷徨った心は駆除へと辿り着いて

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カーラとレキシーの両名は現在小さな女の子が所属する下の郊外にある雑技団たちの住まいである巨大な天幕の中へと潜入し、舞台の下に身を隠していた。
というのも、潜入した際に女の子が舞台の上で未だに居残りの練習をしているということを団員たちからの会話から知っており、カーラが堪らなくなって舞台へと急いだからである。舞台には女の子の他に団長がおり、耳を傾けていたのである。

「だから、テメェはダメなんだよッ!この役立たずの穀潰しのタダ飯ぐらいがッ!なんとか言ってみやがれッ!」

舞台の上で鞭を叩く音が鳴り響いていく。小さな女の子からは悲鳴が聞こえないので脅す目的で床の上を叩いているのだろう。バチンバチンと鞭が跳ねる音が鳴り響いていく。

「ご、ごめんなさい!でも、あれはわざとじゃーー」

「当たり前だろうがッ!故意にやったたんなら尚のこと性質が悪いんだろうがッ!」

鞭の音が今度はバチンと体の上で跳ねる音が聞こえた。今度は女の子から悲鳴が上がる。
カーラの腕は震えていた。あの悪魔を早く取り除かなくては女の子が報われないだろう。
カーラが舞台の上から針を喰らわせようかと思案した時だ。針を持つ腕がレキシーが止める。
レキシーは小さな声でカーラに向かって言った。

「もう少し泳がせておいた方がいいよ。他にあの子を苦しめた奴がわかるからね」

「……わかりましたわ」

カーラは腕を震わせながら言った。それから被害を受けていた女の子が団長から折檻を受ける様子にずっと耳を澄ませていたのである。
お互いに言葉を聞くのが辛くなってきた時だ。舞台の上から団長のものとも女の子のものともつかない男たちの言葉が聞こえてきた。
カーラは咄嗟にあの時逃げ出した女の子を折檻しようとしていた二人組の屈強な男の声かとばかり思っていたのだが、それとも異なる。
加えて団長が媚びるような声を出しており、団長よりも上の立場にある人物だということがわかった。
舞台の下に息を潜めて様子を伺う二人組の殺し屋の存在などつゆとも知らずに団長は媚びた顔を浮かべ、揉み手で両手を擦り合わせながら二人組の男に言った。

「これはこれはジョック様!それにリチャード様まで!また、役立たずの買い付けでございますか?」

「その通り、なぁ、団長。ここで不要になった団員はおるか?」

「おりますとも!おりますとも!ほれ、ここに」

団長は鞭打ちによって弱っていた少女の腕を乱暴に掴み上げながら言った。
弱った少女の顔をジョックとリチャードという二人組の男はしばらく見つめていたが、やがて関心がなさそうに言った。

「残念だが、まだガキだ。オレの趣味じゃあねぇ」

「そうだ。オレたちはガキより若い女の方が好きなんだぜ。だが、少し前に売ってもらったようなブスは困る。もっと上等なやつを寄越してもらわないと」

これらの言葉から団長と人身売買組織と思われる二人組の男が日常的に繋がって、お互いに持ちつ持たれつの関係を築いていることに気が付いた。

「いえいえ、この子は私からすれば役立たずですが、一方で愛らしい顔をしたますからな。それが人気となって今や我が団の顔ですよ。しかし、芸を覚えないものでしてな。ちょうどいいのでお二人ともお買いになりませんか?」

「確かにな。オレたちの趣味じゃなくても、別の組織に話を付ければ売れるかもしれんな」

リチャードが舌なめずりをしながら女の子を見つめる。女の子はリチャードの姿に身を震わせたものの、団長が鞭を叩いたことによって強制的に向き直させられた。

「へへッ、他にも不要な奴はいるのかい?団長さん」

「そうですねぇ。使えない奴がまだ二人ばかりいますよ。どっちもガキだが、芸は覚えねぇ。ただ飯ばかり食う。そのくせ愛嬌もない。ったく、誰が借金を肩代わりしてやってると思ってるんだか」

団長が呆れたような表情を浮かべて言った。

「まぁまぁ、だからオレたちがいるんだろ?」

「その通り、使えない団員をあんたから引き取って、他国に奴隷として売り渡す。それがオレたちの仕事さ」

「ハハッ、それで私がお金をいただけるというわけですな。ありがたい話です。……それよりも引き取り先はいつも通りここでよろしいでしょうか?」

「いいや。たまにはゆっくりと三人でご馳走でも食べましょうや。そうですなぁ、城下にあるレストラン『オルフィ』はどうだ?」

リチャードの問い掛けに団長が満面の笑みを浮かべながら首を縦に動かしたのであった。

「よろしいでしょう。『オルフィ』ですな」

団長が顔に怪しげな笑みを浮かべながら言った。どうやらそこで人身売買組織と会って奴隷にする子どもたちを売り払うつもりであるらしい。二人は顔を見合わせてその名前を覚えた。
その後で三人が言った午後八時という待ち時間もきっちりと覚えて二人は人の気配が消えるのを待って、元来た道を引き返していく。
家に帰ってからしばらくの間、二人は無言で何も言わずに夜食を摂っていたが、やがて夜食を摂り終えると、二人して首を縦に動かしながら言った。

「『オルフィ』ですわ」

「『オルフィ』だね」

ほとんど同じ声がぶつかり合っていく。それから二人して駆除人ギルドがある酒場へと向かう。
酒場でギルドマスターに依頼を受諾したことを伝えてギルドマスターから前払いの分の報酬を受け取る。
奥から出てきたヒューゴも合流し、その後は応接室で会議が行われることになった。応接室で作戦会議を行っていると東の空は白むのも早かった。
二人はそれぞれ表向きの職業を行うために一旦自宅へと戻っていく。
仕事を行う中で二人は毒の調合やら下見やらの準備を行うのも忘れてはいなかった。
準備やら仕事やらを済ませていく中で再び漆黒の闇が世界を覆っていく。三人で城下町へと繰り出していくのであった。
夜の闇に紛れながら三人はレストラン『オルフィ』に侵入し、レストランの一角で高級料理を片手に人身売買の話に華を咲かせる三人の男の姿を目撃したのである。
それからレキシーとヒューゴはあらかじめ用意した店員の衣装を着用し、カーラは物陰に隠れながら相手の動きを窺っていくのであった。
三人は物陰に隠れながら二人の話に耳をすませていく。

「いやぁ、お二方のお力添えは誠にありがたい。どうでしょう?金貨百枚というのは?」

「金貨百枚か……悪くない値段だ。なぁ、リチャード?」

リチャードがジェイクの問いかけに首を縦に動かして答える。
それを聞いてレストランの壁に立っていた白いドレスを着た女の子と二人の子どもが頷く。
このまま順調に商談が行われるかと思われたのだが、リチャードがトイレに立ち上がったのである。リチャードの後を追って密かにカーラが後を付けていく。
残された二人はしばらくはリチャード抜きで酒を酌み交わしていたものの、ワインが切れたことに腹を立て、店員を呼び出した。
出ていくのならば今しかない。潜入して店員になりすましたレキシーとヒューゴの両名が毒薬を含んだ特製のワインを運びながら現れた。
そして店員になりすましながら両名のグラスにワインを注いでいく。
後は飲むのを待つばかりであった。

一方でトイレのために席を立ったリチャードは長い廊下を歩いて、トイレへの扉を開けたのだが、そこに可憐な少女が立っていたので思わず両目を丸くしてしまう。
だが、彼は次第に考えを改めて舌なめずりをおこなっていく。
それから少女に誘われるままにトイレの奥へと向かっていった時だ。不意に少女が背後へと回り込み、リチャードの延髄に向かって勢いよく針を突き刺したのであった。
リチャードは悶絶し、唸り声を上げながらトイレの壁を引っ掻きながら地面の上へと崩れ落ちていく。
死体とかしたリチャードに向かって少女はいや、カーラは見下ろしながら言った。

「あなたにはお似合いの場所でございましょう?臭いお手洗いの中で死ぬなんて、ウフフ、お笑いものですわ」

カーラは駆除に用いた針を袖の中にしまい、元来た道を引き返していくのであった。同時刻ワインを飲んでいたジェイクと団長の体を異変が襲っていた。
急に胸が悪くなってしまったらしく、必死になって胸を引っ掻いていた。
異変に気が付いた店員が慌てて二人の側に駆け寄ったのだが、店員が介助の手を伸ばす前にジェイクと団長の両名はレストランの前にある巨大な机の中へと倒れ込んでしまったのである。
この時に二人はレキシーとヒューゴが運んだワインを空になるまで飲み干していたのだ。皮肉にも二人は美味い酒にありつけたと実感して中に何が入っているのかも知らずに二人の証拠隠滅の手助けを行なってしまったことになったのである。
二人の死体を見てパニックになったのは白いドレスを着た女の子であった。突然の出来事に女の子の悲鳴がレストランの中に響き渡っていった。
















本日も所用のために投稿時間をずらさせていただきました。誠に申し訳ございません。
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