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第一章『この私、カーラ・プラフティーが処刑台のベルを鳴らせていただきますわ』
そこに悪女が現れて
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いつもならば心地が良い太陽の光であるが、今日のところはどこか苦しく感じさせられた。
灼熱の拷問を受けているかのように苦しかった。一刻も早くこの場を離れたい。
だが、逃げたのならばフィンが抱えている疑念を確信に変えてしまうかもしれない。
そうした思いからカーラは逃げられずにいた。未だに背中には日光が痛いほど突き刺さっていく。
カーラは懸命にこの場を逃れる方法を考えた。フィンは確か自分に好意を寄せていたはずだ。カーラはフィンが片手に抱えているサンドイッチの袋を見つめて、上品な笑みを口に携えたまま言った。
「殿下、よければ先程のリクエストにお答えして、私と共に昼食をご一緒致しましょうか?」
「いいのか?」
フィンの顔が明るくなる。その表情からはカーラに目を向けていた疑念は完全に取り払われ、今では好意だけが彼の心の中を支配していた。
カーラは申し訳のない気持ちでいっぱいであったが、適当な空き地にフィンを誘ってお互いの買ったサンドイッチを交換して食べることになった。
お互いにサンドイッチを食べ終えると、満足げな笑顔を浮かべていた。カーラは眩しいような笑顔を浮かべたフィンの口元にソースが付いていることを確認し、慌てて自身のハンカチでソースを拭き取る。
恋人のような仕草に照れるフィン。その時に見せた笑顔は太陽のように眩しく感じられた。
カーラは表では笑顔を浮かべながらフィンという存在のことを考えていた。
フィンは第二王子で国王に優遇されている弟とは異なり、平時においては気軽に城下に出られるような仕事を与えられたりする他に第一王子にはあてられないような外交の任務にも与えられたりしている。それでも臣下からは王子として扱われている。
そんな彼がどうして身分を剥奪されたような小娘にいつまでも構っているのだろうか。
いずれ復讐を果たすにしろ、今では単なる医者の助手もしくはお針子の小娘に過ぎないというのに。
カーラがサンドイッチを握ったまま呆然としていた時だ。
「カーラ、聞いているのか?」
「も、申し訳ありません。少しぼんやりとしていましたわ」
「……そうか。つまらない話に退屈していたかと思ったのだが、それならばいい」
「ねぇ、殿下。よければ先程、殿下がどのようなお話をなされていたのか私にお教え願えませんか?」
「いいだろう」
フィンは軽く咳払いを行うと、大げさな身振り手振りを交えながら自身がカーラに対してどのような思いを抱いているのかを雄弁に語っていく。
「オレは再びあなたが舞踏会で完璧な令嬢として振る舞う姿を見てみたいのだ。そして、高価な酒の入ったグラスを片手に社交界で華として振る舞い、パーティーで振る舞われる高価な食事を二人で楽しむのだ。もちろん、あの店のサンドイッチも悪くはないが、それでもオレはサンドイッチよりも高価な料理の方が似合うと思うのだが、どうだろうか?」
「素敵なお考えですわ。殿下」
カーラは無邪気に語る王子を見て優しく微笑んでみせる。その笑顔は打算的なものではないし、賞賛の言葉も打算からくるものではない。
カーラはそして無意識のうちに自身の手をフィンと重ね合わせていたのだ。
そして非礼に気が付いて、慌てて頭を下げる。
「し、失礼致しました!殿下からお誘い頂いたとはいえ、平民の小娘如きがよくも……」
「いや、いいのだ。それよりもお願いがある。もう少しだけ側にいてくれないか?」
フィンが少しだけ顔を赤く染めながらカーラの手を握り返した。
カーラもそれに対して満更でもないような表情を浮かべていた時だ。目の前から血相を変えたヒューゴが現れた。
「カーラ!?何をしているんです!もう昼休憩の時間は終わりましたよ!」
「それは申し訳ありませんでしたわ。今から戻ります」
カーラは迎えにきたと思われるヒューゴに向かって丁寧に頭を下げる。そのままヒューゴがカーラの腕を掴んで診療所へと引っ張ろうとした時だ。
その手をフィンが掴んでヒューゴの動きを止めさせる。
力が強いのか、ヒューゴが顔を苦痛で歪めていることに気がつく。そのままフィンがヒューゴを押しやって、カーラの手を取ろうとした時だ。
「カーラッ!ヒューゴッ!帰るよ!」
レキシーが腰に手を当てながら呆れたような表情を浮かべて言った。
二人はそれに対して何も言わずに診療所へと戻っていく。
フィンは二人が去っていく姿を見て、残念そうに手を伸ばしたが、やがてその姿が見えなくなると、サンドイッチが入っていた二人分となった空の袋を持って一人寂しく警備兵の駐屯所へと戻っていく。
自身に割り当てられた部屋に向かうと、そこには第一王子のベクター、その婚約者であるマルグリッタ、それにセバスチャン・ミーモリティの姿があった。
セバスチャンが口元を怪しげに緩ませながらひどく陽気な声で言った。
「やぁ、殿下。勝手にお邪魔させていただいておりますよ」
「何の用だ。貴様」
フィンが低い声で尋ねる。
「何の用だとは失礼だぞ。フィン」
「おい、ベクター……貴様はいつから兄を呼び捨てにできた?言ってみろ?え?」
ベクターは思わず両肩をすくませたが、隣に座っていたマルグリッタに手を引っ張られると、肩を張ってベクターを睨み付けた。
「黙れッ!オレは次の王太子だぞッ!貴様こそなんの権限があってオレにそんな偉そうな口をきけるッ!」
ベクターは長椅子の上から立ち上がったかと思うと、フィンを勢いよく殴り付けたのであった。
だが、フィンは拳を喰らっても動じる様子は見せない。痛がるそぶりも見せずに立っていた。
その姿を見てベクターは今度こそ戦意を喪失してしまったらしい。弱々しい声を漏らし、たじろいだ姿を見せた。
フィンは無言で長椅子の前まで近寄り、そのままベクターを殴ろうとした時だ。
セバスチャンが大きな声を振り上げて静止させた。
「お待ちくださいませ。殿下。そのお二方はわざわざ殿下に忠告の言葉を投げ掛けに訪れたのですぞ」
「忠告の言葉だと?」
「えぇ、私の方からお二方に殿下が今では平民となったマルグリッタ嬢の義姉様と密かに逢瀬を交わせられていることをお話しさせていただきましてな」
それを聞いた途端にフィンは我を忘れてセバスチャンを強い力で掴み上げたのであった。
「貴様、なんのつもりで……」
「フィン様!伯爵閣下はあなた様を心配なされて、私たちに相談なされたのですわ!!このお方はまさしく真の忠義者……そのようなお方を責めるのが王子のやることなのですか!?」
「その通りだッ!フィンッ!だから、貴様は父上に疎まれるのだッ!」
二人が責め立てる姿を聞いてフィンは二人に見えないように微かな笑みを浮かべるセバスチャンを見て自分が嵌められたことを悟った。
マルグリッタは激昂するフィンの体を優しく抱きしめながら言った。
「お可哀想なフィン様……きっとあなた様はあの悪女に騙されているのですわ」
マルグリッタは計算高い抱擁を続けながら、自身の義姉がどのような人物であったのかを語っていく。
マルグリッタによれば、カーラこそ歴史に名を残す悪女であり、表向きは完璧な令嬢として振る舞っていたが、平民というだけで自身の存在を疎ましく思って、それを庇う実の両親すら抹殺しようとしていたのだという。
マルグリッタはフィンを抱き締め、その頭の上に涙を落としていく。この時マルグリッタは必死に表現していたのだ。自身がいかにカーラから酷い目に遭わされていたのかを。
だが、それは無駄な努力に過ぎなかった。フィンはマルグリッタに同情の念を寄せるばかりか、彼女に対する軽蔑の情を抱いていくばかりであった。
そんな状況であるにも関わらず、未だに自分を助けてくれると信じ込んでいるマルグリッタに怒りを感じ、フィンはマルグリッタを突き飛ばしたのであった。
それを見たベクターが我を忘れて激昂した。
灼熱の拷問を受けているかのように苦しかった。一刻も早くこの場を離れたい。
だが、逃げたのならばフィンが抱えている疑念を確信に変えてしまうかもしれない。
そうした思いからカーラは逃げられずにいた。未だに背中には日光が痛いほど突き刺さっていく。
カーラは懸命にこの場を逃れる方法を考えた。フィンは確か自分に好意を寄せていたはずだ。カーラはフィンが片手に抱えているサンドイッチの袋を見つめて、上品な笑みを口に携えたまま言った。
「殿下、よければ先程のリクエストにお答えして、私と共に昼食をご一緒致しましょうか?」
「いいのか?」
フィンの顔が明るくなる。その表情からはカーラに目を向けていた疑念は完全に取り払われ、今では好意だけが彼の心の中を支配していた。
カーラは申し訳のない気持ちでいっぱいであったが、適当な空き地にフィンを誘ってお互いの買ったサンドイッチを交換して食べることになった。
お互いにサンドイッチを食べ終えると、満足げな笑顔を浮かべていた。カーラは眩しいような笑顔を浮かべたフィンの口元にソースが付いていることを確認し、慌てて自身のハンカチでソースを拭き取る。
恋人のような仕草に照れるフィン。その時に見せた笑顔は太陽のように眩しく感じられた。
カーラは表では笑顔を浮かべながらフィンという存在のことを考えていた。
フィンは第二王子で国王に優遇されている弟とは異なり、平時においては気軽に城下に出られるような仕事を与えられたりする他に第一王子にはあてられないような外交の任務にも与えられたりしている。それでも臣下からは王子として扱われている。
そんな彼がどうして身分を剥奪されたような小娘にいつまでも構っているのだろうか。
いずれ復讐を果たすにしろ、今では単なる医者の助手もしくはお針子の小娘に過ぎないというのに。
カーラがサンドイッチを握ったまま呆然としていた時だ。
「カーラ、聞いているのか?」
「も、申し訳ありません。少しぼんやりとしていましたわ」
「……そうか。つまらない話に退屈していたかと思ったのだが、それならばいい」
「ねぇ、殿下。よければ先程、殿下がどのようなお話をなされていたのか私にお教え願えませんか?」
「いいだろう」
フィンは軽く咳払いを行うと、大げさな身振り手振りを交えながら自身がカーラに対してどのような思いを抱いているのかを雄弁に語っていく。
「オレは再びあなたが舞踏会で完璧な令嬢として振る舞う姿を見てみたいのだ。そして、高価な酒の入ったグラスを片手に社交界で華として振る舞い、パーティーで振る舞われる高価な食事を二人で楽しむのだ。もちろん、あの店のサンドイッチも悪くはないが、それでもオレはサンドイッチよりも高価な料理の方が似合うと思うのだが、どうだろうか?」
「素敵なお考えですわ。殿下」
カーラは無邪気に語る王子を見て優しく微笑んでみせる。その笑顔は打算的なものではないし、賞賛の言葉も打算からくるものではない。
カーラはそして無意識のうちに自身の手をフィンと重ね合わせていたのだ。
そして非礼に気が付いて、慌てて頭を下げる。
「し、失礼致しました!殿下からお誘い頂いたとはいえ、平民の小娘如きがよくも……」
「いや、いいのだ。それよりもお願いがある。もう少しだけ側にいてくれないか?」
フィンが少しだけ顔を赤く染めながらカーラの手を握り返した。
カーラもそれに対して満更でもないような表情を浮かべていた時だ。目の前から血相を変えたヒューゴが現れた。
「カーラ!?何をしているんです!もう昼休憩の時間は終わりましたよ!」
「それは申し訳ありませんでしたわ。今から戻ります」
カーラは迎えにきたと思われるヒューゴに向かって丁寧に頭を下げる。そのままヒューゴがカーラの腕を掴んで診療所へと引っ張ろうとした時だ。
その手をフィンが掴んでヒューゴの動きを止めさせる。
力が強いのか、ヒューゴが顔を苦痛で歪めていることに気がつく。そのままフィンがヒューゴを押しやって、カーラの手を取ろうとした時だ。
「カーラッ!ヒューゴッ!帰るよ!」
レキシーが腰に手を当てながら呆れたような表情を浮かべて言った。
二人はそれに対して何も言わずに診療所へと戻っていく。
フィンは二人が去っていく姿を見て、残念そうに手を伸ばしたが、やがてその姿が見えなくなると、サンドイッチが入っていた二人分となった空の袋を持って一人寂しく警備兵の駐屯所へと戻っていく。
自身に割り当てられた部屋に向かうと、そこには第一王子のベクター、その婚約者であるマルグリッタ、それにセバスチャン・ミーモリティの姿があった。
セバスチャンが口元を怪しげに緩ませながらひどく陽気な声で言った。
「やぁ、殿下。勝手にお邪魔させていただいておりますよ」
「何の用だ。貴様」
フィンが低い声で尋ねる。
「何の用だとは失礼だぞ。フィン」
「おい、ベクター……貴様はいつから兄を呼び捨てにできた?言ってみろ?え?」
ベクターは思わず両肩をすくませたが、隣に座っていたマルグリッタに手を引っ張られると、肩を張ってベクターを睨み付けた。
「黙れッ!オレは次の王太子だぞッ!貴様こそなんの権限があってオレにそんな偉そうな口をきけるッ!」
ベクターは長椅子の上から立ち上がったかと思うと、フィンを勢いよく殴り付けたのであった。
だが、フィンは拳を喰らっても動じる様子は見せない。痛がるそぶりも見せずに立っていた。
その姿を見てベクターは今度こそ戦意を喪失してしまったらしい。弱々しい声を漏らし、たじろいだ姿を見せた。
フィンは無言で長椅子の前まで近寄り、そのままベクターを殴ろうとした時だ。
セバスチャンが大きな声を振り上げて静止させた。
「お待ちくださいませ。殿下。そのお二方はわざわざ殿下に忠告の言葉を投げ掛けに訪れたのですぞ」
「忠告の言葉だと?」
「えぇ、私の方からお二方に殿下が今では平民となったマルグリッタ嬢の義姉様と密かに逢瀬を交わせられていることをお話しさせていただきましてな」
それを聞いた途端にフィンは我を忘れてセバスチャンを強い力で掴み上げたのであった。
「貴様、なんのつもりで……」
「フィン様!伯爵閣下はあなた様を心配なされて、私たちに相談なされたのですわ!!このお方はまさしく真の忠義者……そのようなお方を責めるのが王子のやることなのですか!?」
「その通りだッ!フィンッ!だから、貴様は父上に疎まれるのだッ!」
二人が責め立てる姿を聞いてフィンは二人に見えないように微かな笑みを浮かべるセバスチャンを見て自分が嵌められたことを悟った。
マルグリッタは激昂するフィンの体を優しく抱きしめながら言った。
「お可哀想なフィン様……きっとあなた様はあの悪女に騙されているのですわ」
マルグリッタは計算高い抱擁を続けながら、自身の義姉がどのような人物であったのかを語っていく。
マルグリッタによれば、カーラこそ歴史に名を残す悪女であり、表向きは完璧な令嬢として振る舞っていたが、平民というだけで自身の存在を疎ましく思って、それを庇う実の両親すら抹殺しようとしていたのだという。
マルグリッタはフィンを抱き締め、その頭の上に涙を落としていく。この時マルグリッタは必死に表現していたのだ。自身がいかにカーラから酷い目に遭わされていたのかを。
だが、それは無駄な努力に過ぎなかった。フィンはマルグリッタに同情の念を寄せるばかりか、彼女に対する軽蔑の情を抱いていくばかりであった。
そんな状況であるにも関わらず、未だに自分を助けてくれると信じ込んでいるマルグリッタに怒りを感じ、フィンはマルグリッタを突き飛ばしたのであった。
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