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第一章『この私、カーラ・プラフティーが処刑台のベルを鳴らせていただきますわ』
元悪役令嬢の夕食時
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「二人とも何をやっているんです!早く逃げましょう!!今や暴徒と化した人々がこの屋敷に乗り込んでくるんですよ!メイドの格好なんてしてたらここの使用人だと誤解されて殺されちゃいますよ!」
泣き腫らしていたレキシーとそれを慰めていたカーラの両名を正気に引き戻したのは二人の護衛役として潜り込んだヒューゴであった。
彼の剣の先端が赤く染まっている姿から察するにヒューゴは既に何人かの私兵やごろつきを片付けていたらしい。
二人は駆除に集中させてくれたヒューゴの言葉を聞いて屋敷から脱出することにした。
メイド服の下には普段二人が駆除をする際に着用している簡素な服を着込んでいるこの場で脱いでも問題はなかった。
二人はメイド服を放り捨ててヒューゴの後をついていく。
それから後は廊下を走り、密かに窓を突き破って庭を使って山の方角へと逃げた。
三人は山からそのまま宿屋と戻り、レキシーの部屋で休息を取っていた。
「助かったよ。あんたやるねぇ」
「えぇ、流石ですわヒューゴさん」
「ありがとうございます。でも、怒れる民衆が屋敷に押し寄せた際には終わるかと思いましたよ」
カーラとレキシーが侯爵一家の駆除を起こっている最中に人々とフィンとの間に行われたやり取りが行われていたのだという。だが、その際に侯爵の私兵の一人がフィンの言葉に腹が立ったとされ、王子を突き飛ばしたのだという。
人々は自分たちの希望である第二王子が拒否されたのを見ると、絶望に顔を染めた。
だが、彼らは次第に持ち合わせた鍬やら鋤やら酪農用のフォークやらを武器として構えて侯爵の屋敷に大挙して押し寄せていったのである。侯爵家の私兵やごろつきばかりではなく、暴動を静止しようとするギルドマスターや駆除人仲間を押し除けて屋敷の中へ押し入り、屋敷の中を破壊して使用人たちを殺傷し回っていたのだという。
門を破られる音を聞いて慌てたヒューゴが夕食の間へと駆け付けると、そこにレキシーとカーラの両名が抱き合っているのを見たのだと言った。
「それを聞くと本当にギリギリでしたのね」
「あの後屋敷はどうなったんだろうねぇ」
「さぁ、そこはオレの知ったところじゃありませんよ。まぁ、今日はこのまま大浴場にでも入って疲れをとりましょう」
ヒューゴは自身の膝を大きく叩いて言った。
その言葉を聞いて二人が顔を見合わせて笑う。先程とは打って変わって和かな顔であった。
レキシーは再び深刻な顔を浮かべたかと思うと空になった小瓶を懐から取り出し、地面の上に放り投げたのであった。
それを見届けた後で三人は宿屋の男女に分けられた大浴場へと向かい、そこで先程の駆除の疲れを落とすことになった。
広い湯船に浸かりながらレキシーは大きな息を吐いていく。
そのレキシーに向かってカーラは満面の笑みを浮かべながら言った。
「本当にお疲れ様ですわ。レキシーさん」
「あんたこそお疲れ様。ごめんね。あたしの敵討ちなんぞに巻き込んじまって……お陰であんたの旅費がパァになっちまった」
「気にしないでくださいな。レキシーさんの無念もこれで晴らせたし、私だって駆除人の端くれですもの。巨大な害虫をこの世から排除できてホッとしておりますわ」
「……ありがとう」
レキシーは照れ臭かったのか顔を背けながら礼の言葉を述べた。
「ウフフ、レキシーさん。かわいい」
「か、かわいい!?お、大人をからかうもんじゃないよ!」
レキシーは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
そんなやり取りを終えた後で二人は湯を出て就寝の際に使用する簡素な衣類に着替えを終えるとそのまま真っ直ぐに自分たちの部屋に向かっていく。
部屋に用意されたベッドの上にそれぞれが倒れ込む。
そしてそのまま二人は糸の切れた人形のように動かずに眠っていた。
ようやく目を覚ましたのは明くる日のことであり、月が夜の闇の上に現れて、迷える人々を照らしている頃のことであった。
欠伸をして起き上がった二人が腹の虫を鳴き止ませるために食堂へと降りていった時であった。
食堂がやけに騒がしかった。二人が恐る恐る食堂を覗いてみると、そこでは巨大な机を囲んでこの街の駆除人たちがフルコースを嗜んでいた。
そのフルコースを取り仕切るのはこの宿屋のギルドマスターであった。
慌てて駆け寄った二人に向かってギルドマスターは弱々しい笑顔を浮かべながら答えた。
「こうでもしないとオレの気が済まないんです。長年この街の駆除人たちが駆除できずにいた巨大な害虫をようやく駆除できたのですから……駆除の代金は払えませんが、せめて代わりにと思って」
「そこまでお気になさらなくてもよろしいのではなくて?仮に私とあなたが同じ立場でしたら同じように燻っていたはずですもの」
「ハハッ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。でも、これはオレからの特別のお礼みたいなもんだからお二人さんも食べてくれよ」
「でも、悪いねぇ」
「心配はいらないよ。お二人さんの連れは既に食卓についてるから」
ギルドマスターは机の前でフルコースに出ているスープを笑顔で啜っているヒューゴを指差しながら言った。
二人はそれを見てお互いに苦笑していたが、すぐに大きな笑い声を出して食卓の上に着いた。
宿屋による豪勢なメニューを堪能し、最後にりんごが入ったカスタードプティングを平らげ終えた時のことであった。
ギルドマスターが深々と頭を下げた。
「この度はオレに力を貸してくれてありがとう……こんなどうしようもないオレに……」
ギルドマスターの言葉には謙遜ではない真の意味での卑下があった。
そんなギルドマスターを励ましたのはカーラであった。カーラは席の上から立ち上がってギルドマスターを迎合したのである。
「おやめなさいませ!そうしてご自身を卑下されるのはよくありませんわ」
「け、けど……」
「行き過ぎた謙遜は時には鬱陶しく感じるものでしてよ。確かにあなた様は侯爵の力に屈していた一面もあったかもしれませんわ。でも、その後で私たちや他の駆除人たちと力を合わせて駆除できたではありませんか。それは私たちの力だけでは成し遂げられないものでした。そう、マスター。あなたがいなければ」
その言葉を聞き若いギルドマスターは大粒の涙を溢しながら礼の言葉を叫んでいくのであった。
翌日すっかりと元気を取り戻したギルドマスターは部屋で雑談を行う三人にいつも嵌めていたはずの金の指輪を渡した。
「……マスター。これは?」
「我が家の家宝だよ。個人的な贈り物だ。受け取ってくれ。実を言うとねオレの家はあの侯爵の家に土地を奪われるまではこの地を治める辺境伯だって教えられた。もっとも大昔の話だから今では真偽の程なんて確かめようもないけど……」
ギルドマスターの話によればギルドマスターの家はティーダー家によってありもしない罪を着せられて当主は死罪を喰らった上に残された一族は全て貴族としての身分を剥奪されてその土地から追放を受けたのだという。
そのことをギルドマスターが知らされたのは今は存在しない両親の死の間際であったとされ、そこで金の指輪を渡されたのだという。
「……オレの先祖の無念も晴らしてくれたんだと思うとね、これをプレゼントせずにはいられなかったんだ」
「つまりは先祖の仇を代行してくれた依頼人としてのお礼ということでしょうか?」
「どうとってもらっても構わない。仮にオレが由緒ある貴族だったとしても貴族に戻るつもりはないよ。……貴族になんてなってあいつらのようになるのは真っ平ごめんだ」
ギルドマスターはそう告げると何も言わずに三人に背を向けて部屋を去っていく。
しばらくの間は黙って三人はそれぞれに与えられた指輪を見つめていたが、やがてレキシーがその重い口を開いたのであった。
「ねぇ、もしかしたらあのマスター。自分の出自をどこかで理解して、ティーダー家の奴らが先祖の仇だと知った上であたしたちに協力していたんじゃあないのかい?」
「……可能性は高いですね。死の間際に聞かされたなんていう話は嘘で、本当は無念のうちに死んだ先祖の恨みをオレたちに晴らさせたんじゃあないのかな?」
「どうでしょうね?でも、私はそんなことはどうでもいいと思っておりますの。マスターの動機がどうであれ私たちに協力し、街に巣食う巨大な害虫の駆除に力を貸してくれた……それだけで十分、立派なギルドマスターですわ」
「……そうだね」
力のない表情でレキシーが笑う。それに続いてヒューゴも笑った。
部屋の外からは心地の良い日差しが三人を祝福するかのように差し込んでいた。
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彼の剣の先端が赤く染まっている姿から察するにヒューゴは既に何人かの私兵やごろつきを片付けていたらしい。
二人は駆除に集中させてくれたヒューゴの言葉を聞いて屋敷から脱出することにした。
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二人はメイド服を放り捨ててヒューゴの後をついていく。
それから後は廊下を走り、密かに窓を突き破って庭を使って山の方角へと逃げた。
三人は山からそのまま宿屋と戻り、レキシーの部屋で休息を取っていた。
「助かったよ。あんたやるねぇ」
「えぇ、流石ですわヒューゴさん」
「ありがとうございます。でも、怒れる民衆が屋敷に押し寄せた際には終わるかと思いましたよ」
カーラとレキシーが侯爵一家の駆除を起こっている最中に人々とフィンとの間に行われたやり取りが行われていたのだという。だが、その際に侯爵の私兵の一人がフィンの言葉に腹が立ったとされ、王子を突き飛ばしたのだという。
人々は自分たちの希望である第二王子が拒否されたのを見ると、絶望に顔を染めた。
だが、彼らは次第に持ち合わせた鍬やら鋤やら酪農用のフォークやらを武器として構えて侯爵の屋敷に大挙して押し寄せていったのである。侯爵家の私兵やごろつきばかりではなく、暴動を静止しようとするギルドマスターや駆除人仲間を押し除けて屋敷の中へ押し入り、屋敷の中を破壊して使用人たちを殺傷し回っていたのだという。
門を破られる音を聞いて慌てたヒューゴが夕食の間へと駆け付けると、そこにレキシーとカーラの両名が抱き合っているのを見たのだと言った。
「それを聞くと本当にギリギリでしたのね」
「あの後屋敷はどうなったんだろうねぇ」
「さぁ、そこはオレの知ったところじゃありませんよ。まぁ、今日はこのまま大浴場にでも入って疲れをとりましょう」
ヒューゴは自身の膝を大きく叩いて言った。
その言葉を聞いて二人が顔を見合わせて笑う。先程とは打って変わって和かな顔であった。
レキシーは再び深刻な顔を浮かべたかと思うと空になった小瓶を懐から取り出し、地面の上に放り投げたのであった。
それを見届けた後で三人は宿屋の男女に分けられた大浴場へと向かい、そこで先程の駆除の疲れを落とすことになった。
広い湯船に浸かりながらレキシーは大きな息を吐いていく。
そのレキシーに向かってカーラは満面の笑みを浮かべながら言った。
「本当にお疲れ様ですわ。レキシーさん」
「あんたこそお疲れ様。ごめんね。あたしの敵討ちなんぞに巻き込んじまって……お陰であんたの旅費がパァになっちまった」
「気にしないでくださいな。レキシーさんの無念もこれで晴らせたし、私だって駆除人の端くれですもの。巨大な害虫をこの世から排除できてホッとしておりますわ」
「……ありがとう」
レキシーは照れ臭かったのか顔を背けながら礼の言葉を述べた。
「ウフフ、レキシーさん。かわいい」
「か、かわいい!?お、大人をからかうもんじゃないよ!」
レキシーは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
そんなやり取りを終えた後で二人は湯を出て就寝の際に使用する簡素な衣類に着替えを終えるとそのまま真っ直ぐに自分たちの部屋に向かっていく。
部屋に用意されたベッドの上にそれぞれが倒れ込む。
そしてそのまま二人は糸の切れた人形のように動かずに眠っていた。
ようやく目を覚ましたのは明くる日のことであり、月が夜の闇の上に現れて、迷える人々を照らしている頃のことであった。
欠伸をして起き上がった二人が腹の虫を鳴き止ませるために食堂へと降りていった時であった。
食堂がやけに騒がしかった。二人が恐る恐る食堂を覗いてみると、そこでは巨大な机を囲んでこの街の駆除人たちがフルコースを嗜んでいた。
そのフルコースを取り仕切るのはこの宿屋のギルドマスターであった。
慌てて駆け寄った二人に向かってギルドマスターは弱々しい笑顔を浮かべながら答えた。
「こうでもしないとオレの気が済まないんです。長年この街の駆除人たちが駆除できずにいた巨大な害虫をようやく駆除できたのですから……駆除の代金は払えませんが、せめて代わりにと思って」
「そこまでお気になさらなくてもよろしいのではなくて?仮に私とあなたが同じ立場でしたら同じように燻っていたはずですもの」
「ハハッ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。でも、これはオレからの特別のお礼みたいなもんだからお二人さんも食べてくれよ」
「でも、悪いねぇ」
「心配はいらないよ。お二人さんの連れは既に食卓についてるから」
ギルドマスターは机の前でフルコースに出ているスープを笑顔で啜っているヒューゴを指差しながら言った。
二人はそれを見てお互いに苦笑していたが、すぐに大きな笑い声を出して食卓の上に着いた。
宿屋による豪勢なメニューを堪能し、最後にりんごが入ったカスタードプティングを平らげ終えた時のことであった。
ギルドマスターが深々と頭を下げた。
「この度はオレに力を貸してくれてありがとう……こんなどうしようもないオレに……」
ギルドマスターの言葉には謙遜ではない真の意味での卑下があった。
そんなギルドマスターを励ましたのはカーラであった。カーラは席の上から立ち上がってギルドマスターを迎合したのである。
「おやめなさいませ!そうしてご自身を卑下されるのはよくありませんわ」
「け、けど……」
「行き過ぎた謙遜は時には鬱陶しく感じるものでしてよ。確かにあなた様は侯爵の力に屈していた一面もあったかもしれませんわ。でも、その後で私たちや他の駆除人たちと力を合わせて駆除できたではありませんか。それは私たちの力だけでは成し遂げられないものでした。そう、マスター。あなたがいなければ」
その言葉を聞き若いギルドマスターは大粒の涙を溢しながら礼の言葉を叫んでいくのであった。
翌日すっかりと元気を取り戻したギルドマスターは部屋で雑談を行う三人にいつも嵌めていたはずの金の指輪を渡した。
「……マスター。これは?」
「我が家の家宝だよ。個人的な贈り物だ。受け取ってくれ。実を言うとねオレの家はあの侯爵の家に土地を奪われるまではこの地を治める辺境伯だって教えられた。もっとも大昔の話だから今では真偽の程なんて確かめようもないけど……」
ギルドマスターの話によればギルドマスターの家はティーダー家によってありもしない罪を着せられて当主は死罪を喰らった上に残された一族は全て貴族としての身分を剥奪されてその土地から追放を受けたのだという。
そのことをギルドマスターが知らされたのは今は存在しない両親の死の間際であったとされ、そこで金の指輪を渡されたのだという。
「……オレの先祖の無念も晴らしてくれたんだと思うとね、これをプレゼントせずにはいられなかったんだ」
「つまりは先祖の仇を代行してくれた依頼人としてのお礼ということでしょうか?」
「どうとってもらっても構わない。仮にオレが由緒ある貴族だったとしても貴族に戻るつもりはないよ。……貴族になんてなってあいつらのようになるのは真っ平ごめんだ」
ギルドマスターはそう告げると何も言わずに三人に背を向けて部屋を去っていく。
しばらくの間は黙って三人はそれぞれに与えられた指輪を見つめていたが、やがてレキシーがその重い口を開いたのであった。
「ねぇ、もしかしたらあのマスター。自分の出自をどこかで理解して、ティーダー家の奴らが先祖の仇だと知った上であたしたちに協力していたんじゃあないのかい?」
「……可能性は高いですね。死の間際に聞かされたなんていう話は嘘で、本当は無念のうちに死んだ先祖の恨みをオレたちに晴らさせたんじゃあないのかな?」
「どうでしょうね?でも、私はそんなことはどうでもいいと思っておりますの。マスターの動機がどうであれ私たちに協力し、街に巣食う巨大な害虫の駆除に力を貸してくれた……それだけで十分、立派なギルドマスターですわ」
「……そうだね」
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