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交流編
道中での出来事
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「それでは私たちはブルボアに行ってくる!諸君!!国を背負って戦う生徒会長やその仲間たちを笑顔で見守ってくれたまえ!!」
体育館の壇上の上、ルイーダは拳を振り上げ、集会を訪れた生徒たちに向かって自身や仲間たちのブルボア王国行きを訴え掛けていた。
この日は生徒会長から大会に向けての説明と留守にしている間の留守役となる委員たちの発表が行われた日であったのだ。通常ならば生徒会長の説明が終わると、影の薄い校長がその場を締め括るはずであった。
しかし今回は通常とは異なる終わり方になった。校長が締めの言葉を言い終え、退席するのと同じタイミングでルイーダは校長からマイクを引ったくり、自らの勝利宣言を声高々に言い放ってしまったのだ。
普通ならば眉を顰められるところなのだが、ルイーダを慕う生徒たちからは逆に賞賛の言葉が飛び交う始末であった。そして校長や教師たちが止めるのも聞かず、ルイーダや生徒会の面々、そして代表に選ばれた選手たちは拍手を浴びせた。全校生徒からの拍手を受けたルイーダたちは満悦した様子で体育館を立ち去っていく。
ルイーダに従って後を付いてきた生徒たちの顔は皆笑顔に満ち溢れていたが、唯一不満気な態度を見せていたのはルイーダと一文字違いの生徒、ルイーザであった。
ルイーザはルイーダに命を助けられた身である。しかしどこか納得がいかなかった。ルイーダに命を助けられたのは事実だが、ルイーダが許可もなく自分の後を追い掛けてきたのもまた事実である。
はっきり言って気持ち悪かった。何か邪な思いを抱いているのではないのかと考えるほどの執着度ではないか。
先頭で生徒会や他の選手たちに向かって笑顔で語り掛けるルイーダをルイーザは背後で睨み付けていた。
幸いなことに今日は練習がない。そのまま帰ってしまおう。
その時だ。背後から友人のザビーネが囁いてきた。
「ねぇ、どうしたの?顔が沈んでるけど」
「い、いやなんでもないよ」
ルイーザは慌てて否定した。ザビーネにはそう言ったものの明らかに言葉は震えていたし、挙動不審な態度が体から滲み出ていたらしい。
案の定、
「嘘だ」
と、簡単に見透かされてしまうことになった。
痛いところを突かれてしまったためか、ルイーザが黙っていると、ザビーネが更に言った。
「ルイーザちゃん、ルイーダさんからのアプローチに悩んでるんでしょ?」
ザビーネの言葉にルイーザは何も返せなかった。図星であったからだ。
そんなルイーザを放っておきながらザビーネは揶揄うような笑みを浮かべながら言った。
「わかるよぉ~あたしから見てもルイーダさんのアプローチ本当にしつこいもん」
ザビーネはクスクスと笑う。
「ち、違うよ!私はその……」
思わず声を荒げてしまうルイーザを見て、ザビーネは自身の唇の前に人差し指を当てて言った。
「あー、みなまで言わないで。ルイーザちゃんがあの人を苦手だと思ってることはよーくわかるから」
ザビーネは『よーく』を強調して言った。
ルイーザが複雑な表情をしていると、ザビーネはこれまでとは対照的に真剣な顔を浮かべて言った。
「でもさ、ルイーダさんはただ仲良くなりたいだけなんだよ。その気持ちも分かってあげなよ」
そんなことはあり得ない。ルイーザは首を横に振ってザビーネの言葉を否定した。
ルイーザの中では一文字違いの騎士気取りの生徒会長が自分に取り入ろうとしているのだと信じてやまなかった。
名家に生まれ、ダンスの才能に恵まれた自分は常に大人や先輩たちから取り入れられる対象だった。
いや、後輩ですら自分に取り入って取り巻きになり、ダンスの世界で有利になろうとしていた。学園に入ってからも下心なしで付き合えた友人はザビーネのみだ。
当然生徒会長であるルイーダもそのような思いを抱いているとルイーザは信じていた。
だが、そんな思いはザビーネの一言によって揺らぎつつあった。
「覚えてる?ルイーザ?前会長が罷免された時のことを」
ルイーザはこの街の魔銃士育成学園から階級や生徒会の独占が撤廃されたあの日のことを思い返していく。
ルイーダは魔法の使えないジードやハンスを引き連れ、前生徒会長との論戦に挑み、彼女を弁舌で打ち負かした後にルイーダの要求に反対する旧生徒会の面々を容赦なく打ち倒していった。
ルイーザはその場面を間近で見ていた生徒の一人だった。ルイーザは名家の出身かつダンスの才能に恵まれていたということもあり、当初は冷ややかな目で変わりつつある景色を眺めていた。
その時の自分は〈獲物〉クラスに所属していたというのにも関わらずだ。
勝手に秩序を変えることなど言語道断だ。そう思っていた。
しかし階級をなくしたことによって周りの生徒たちから笑顔が溢れ返るのを見てルイーダを評価したのも事実だ。
旧生徒会によるまやかしの平等ではなく、真の平等を生徒たちに与えた生徒会長がそんな風に下心を丸出しにして自分に近付くだろうか。
ルイーザが考えを改め直そうと考えた時のことだ。いくら仲良くなりたいといっても付き纏っていたという事実は変わらないことにも気が付いた。
それが許せるかどうかは今の段階では分からない。ルイーザとルイーダの両名が和解するにはまだ時間が掛かりそうだった。
そんなルイーザの思いなど知らないルイーダは一度生徒会室に戻って引き継ぎ事項を済ませた後で自宅に戻り、明日の準備に備えていた。
トランクの中に替えの服や下着、靴下などを詰め込み、最後に暇潰し用の文庫本などを詰め終え、その上に自身が愛用する剣を置いた。
「ふぅ、こんなものかな?」
ルイーダはパンパンに膨らんだトランクを見ながら横にいたジードに問い掛けた。
「あぁ、そんなもんじゃあないのか?」
ジードも満足気に自身のトランクを見下ろしながら答えた。ジードのトランクもルイーダと同様に服や着替えがパンパンに詰め込まれている。
なにせ明日から向かう場所は遠い異国の地であるのに加え、大会が終了するまで滞在するのだ。パンパンに膨らむほどトランクに衣類や生活必需品を詰め込むから仕方がないだろう。
ジードはこれまで荷物の整理を休むことなく行い続けてきた反動か、手が酷く疲れてしまい疲労した手ごとベッドの上に倒れ込む羽目になってしまったのだ。
ジードがベッドの上で寝転んでいると、妻ルイーダがどこかに出掛けようとしている姿が見えた。
ジードが声を掛けると、ルイーダは輝かんばかりの笑みを浮かべながら答えた。
「学校だ」
「学校?こんな時間にか?」
ジードは首を捻りながら問い掛けた。
「あぁ、余った時間で練習しようと思ってな」
「お前、そりゃあ無茶ってもんだよ。体を休めることも選手の責務だぜ」
ジードの言葉は尤もだった。選手にとって疲労は一番の敵だ。練習を重ねておくことも重要であるが、それと同じようにいつでも体を動かせるように体調を整えておくのも責務である。
だが、ルイーダはジードの指摘も受け流し、彼が止めるのも効かずに練習へと向かって行った。
当然侵入した時には寮生や監督生などに見咎められそうになったが、大会のことを告げると目溢ししてくれた。
そのため一心不乱に剣の修行を行なった。そして夜も明けかけた頃に校庭を後にしようとすると、同じく体育館で自主練習を行なっていたと思われるルイーザと鉢合わせすることになってしまった。
「あ、あんた!また、私のことをつけてたの!?」
「ご、誤解だッ!私だって練習の帰りなんだよッ!」
ルイーザはふーんと鼻を鳴らした。胡散臭いと言わんばかりの目でルイーダを睨んでいた。
やはり心の奥底にある嫌悪感はまだ消えていないのだろう。もう一度鋭い目で睨んだ後でルイーザは足早にその場を去っていく。
ルイーダはそれを見て頭を掻きながら、
「どうも私は彼女に嫌われてしまったらしいな……」
と、ボヤきながら家へと戻っていく。
こうして違和感を感じたまま大会へと出場する羽目になってしまったのである。
欠伸をしながらトランクを手に持ち、移動用の飛行船へと乗り込む。飛行船はマナエ党が用意したものであり、飛行船の中央にはマナエ党の紋章が記されている。それが少し不快であったが、せっかく便利な移動道具を用意してくれたので使わない手はないだろう。
おまけに待機場所としてあてがわれたのは柔らかな長椅子が置かれ、厚いカーペットが敷かれたラウンジである。更に小さなバーや大型の本棚など充実した設備までもある。ルイーダとして敵対する相手とはいえ使わない手はないだろう。
もちろん飛行船の中に乗せられている相手は未成年ばかりであるので用意された飲み物はアルコール抜きの飲み物ばかりだ。やむを得ずルイーダは葡萄ジュースをワイングラスの中に入れ、本棚の中に置かれていた冒険小説を開き、暇を潰していく。こういう小説も読んでいけば意外と面白いものなのだ。
手に取った冒険小説で主人公が巨大な怪物が集う島の中に足を踏み入れた場面で何か妙な音が聞こえてきた。嫌な予感がしたルイーダは慌てて本を閉じ、剣を取って音がした方向へと向かう。
音がしたのは飛行船の整備室であった。ルイーダが扉を開くと、そこには大きな穴が見えていた。そればかりではない。その穴から侵入したと思われる巨大な雀のような姿をした怪物が整備員の頭を齧っていたのだ。
整備室の中には他に三名の整備員が残っていたが、目の前に起きた異常事態を見て、何もできずに腰を抜かすばかりであった。
雀の姿をした怪物が首だけになった整備員の頭を床の上に吐き出すと、今度は動けない状態にある別の整備員に向かって動き出していた。それを見た瞬間にルイーダは高速魔法を用いて怪物の元へと近寄ると、その胸元を勢いよく殴り飛ばしたのであった。
高速魔法を解くと、目の前には悲鳴を上げる怪物の姿が確認できた。チュンチュンと雀の悲鳴を上げて痛がるそぶりを見せていた。
仕留めるのならば今しかあるまい。ルイーダは剣を振り上げた。
体育館の壇上の上、ルイーダは拳を振り上げ、集会を訪れた生徒たちに向かって自身や仲間たちのブルボア王国行きを訴え掛けていた。
この日は生徒会長から大会に向けての説明と留守にしている間の留守役となる委員たちの発表が行われた日であったのだ。通常ならば生徒会長の説明が終わると、影の薄い校長がその場を締め括るはずであった。
しかし今回は通常とは異なる終わり方になった。校長が締めの言葉を言い終え、退席するのと同じタイミングでルイーダは校長からマイクを引ったくり、自らの勝利宣言を声高々に言い放ってしまったのだ。
普通ならば眉を顰められるところなのだが、ルイーダを慕う生徒たちからは逆に賞賛の言葉が飛び交う始末であった。そして校長や教師たちが止めるのも聞かず、ルイーダや生徒会の面々、そして代表に選ばれた選手たちは拍手を浴びせた。全校生徒からの拍手を受けたルイーダたちは満悦した様子で体育館を立ち去っていく。
ルイーダに従って後を付いてきた生徒たちの顔は皆笑顔に満ち溢れていたが、唯一不満気な態度を見せていたのはルイーダと一文字違いの生徒、ルイーザであった。
ルイーザはルイーダに命を助けられた身である。しかしどこか納得がいかなかった。ルイーダに命を助けられたのは事実だが、ルイーダが許可もなく自分の後を追い掛けてきたのもまた事実である。
はっきり言って気持ち悪かった。何か邪な思いを抱いているのではないのかと考えるほどの執着度ではないか。
先頭で生徒会や他の選手たちに向かって笑顔で語り掛けるルイーダをルイーザは背後で睨み付けていた。
幸いなことに今日は練習がない。そのまま帰ってしまおう。
その時だ。背後から友人のザビーネが囁いてきた。
「ねぇ、どうしたの?顔が沈んでるけど」
「い、いやなんでもないよ」
ルイーザは慌てて否定した。ザビーネにはそう言ったものの明らかに言葉は震えていたし、挙動不審な態度が体から滲み出ていたらしい。
案の定、
「嘘だ」
と、簡単に見透かされてしまうことになった。
痛いところを突かれてしまったためか、ルイーザが黙っていると、ザビーネが更に言った。
「ルイーザちゃん、ルイーダさんからのアプローチに悩んでるんでしょ?」
ザビーネの言葉にルイーザは何も返せなかった。図星であったからだ。
そんなルイーザを放っておきながらザビーネは揶揄うような笑みを浮かべながら言った。
「わかるよぉ~あたしから見てもルイーダさんのアプローチ本当にしつこいもん」
ザビーネはクスクスと笑う。
「ち、違うよ!私はその……」
思わず声を荒げてしまうルイーザを見て、ザビーネは自身の唇の前に人差し指を当てて言った。
「あー、みなまで言わないで。ルイーザちゃんがあの人を苦手だと思ってることはよーくわかるから」
ザビーネは『よーく』を強調して言った。
ルイーザが複雑な表情をしていると、ザビーネはこれまでとは対照的に真剣な顔を浮かべて言った。
「でもさ、ルイーダさんはただ仲良くなりたいだけなんだよ。その気持ちも分かってあげなよ」
そんなことはあり得ない。ルイーザは首を横に振ってザビーネの言葉を否定した。
ルイーザの中では一文字違いの騎士気取りの生徒会長が自分に取り入ろうとしているのだと信じてやまなかった。
名家に生まれ、ダンスの才能に恵まれた自分は常に大人や先輩たちから取り入れられる対象だった。
いや、後輩ですら自分に取り入って取り巻きになり、ダンスの世界で有利になろうとしていた。学園に入ってからも下心なしで付き合えた友人はザビーネのみだ。
当然生徒会長であるルイーダもそのような思いを抱いているとルイーザは信じていた。
だが、そんな思いはザビーネの一言によって揺らぎつつあった。
「覚えてる?ルイーザ?前会長が罷免された時のことを」
ルイーザはこの街の魔銃士育成学園から階級や生徒会の独占が撤廃されたあの日のことを思い返していく。
ルイーダは魔法の使えないジードやハンスを引き連れ、前生徒会長との論戦に挑み、彼女を弁舌で打ち負かした後にルイーダの要求に反対する旧生徒会の面々を容赦なく打ち倒していった。
ルイーザはその場面を間近で見ていた生徒の一人だった。ルイーザは名家の出身かつダンスの才能に恵まれていたということもあり、当初は冷ややかな目で変わりつつある景色を眺めていた。
その時の自分は〈獲物〉クラスに所属していたというのにも関わらずだ。
勝手に秩序を変えることなど言語道断だ。そう思っていた。
しかし階級をなくしたことによって周りの生徒たちから笑顔が溢れ返るのを見てルイーダを評価したのも事実だ。
旧生徒会によるまやかしの平等ではなく、真の平等を生徒たちに与えた生徒会長がそんな風に下心を丸出しにして自分に近付くだろうか。
ルイーザが考えを改め直そうと考えた時のことだ。いくら仲良くなりたいといっても付き纏っていたという事実は変わらないことにも気が付いた。
それが許せるかどうかは今の段階では分からない。ルイーザとルイーダの両名が和解するにはまだ時間が掛かりそうだった。
そんなルイーザの思いなど知らないルイーダは一度生徒会室に戻って引き継ぎ事項を済ませた後で自宅に戻り、明日の準備に備えていた。
トランクの中に替えの服や下着、靴下などを詰め込み、最後に暇潰し用の文庫本などを詰め終え、その上に自身が愛用する剣を置いた。
「ふぅ、こんなものかな?」
ルイーダはパンパンに膨らんだトランクを見ながら横にいたジードに問い掛けた。
「あぁ、そんなもんじゃあないのか?」
ジードも満足気に自身のトランクを見下ろしながら答えた。ジードのトランクもルイーダと同様に服や着替えがパンパンに詰め込まれている。
なにせ明日から向かう場所は遠い異国の地であるのに加え、大会が終了するまで滞在するのだ。パンパンに膨らむほどトランクに衣類や生活必需品を詰め込むから仕方がないだろう。
ジードはこれまで荷物の整理を休むことなく行い続けてきた反動か、手が酷く疲れてしまい疲労した手ごとベッドの上に倒れ込む羽目になってしまったのだ。
ジードがベッドの上で寝転んでいると、妻ルイーダがどこかに出掛けようとしている姿が見えた。
ジードが声を掛けると、ルイーダは輝かんばかりの笑みを浮かべながら答えた。
「学校だ」
「学校?こんな時間にか?」
ジードは首を捻りながら問い掛けた。
「あぁ、余った時間で練習しようと思ってな」
「お前、そりゃあ無茶ってもんだよ。体を休めることも選手の責務だぜ」
ジードの言葉は尤もだった。選手にとって疲労は一番の敵だ。練習を重ねておくことも重要であるが、それと同じようにいつでも体を動かせるように体調を整えておくのも責務である。
だが、ルイーダはジードの指摘も受け流し、彼が止めるのも効かずに練習へと向かって行った。
当然侵入した時には寮生や監督生などに見咎められそうになったが、大会のことを告げると目溢ししてくれた。
そのため一心不乱に剣の修行を行なった。そして夜も明けかけた頃に校庭を後にしようとすると、同じく体育館で自主練習を行なっていたと思われるルイーザと鉢合わせすることになってしまった。
「あ、あんた!また、私のことをつけてたの!?」
「ご、誤解だッ!私だって練習の帰りなんだよッ!」
ルイーザはふーんと鼻を鳴らした。胡散臭いと言わんばかりの目でルイーダを睨んでいた。
やはり心の奥底にある嫌悪感はまだ消えていないのだろう。もう一度鋭い目で睨んだ後でルイーザは足早にその場を去っていく。
ルイーダはそれを見て頭を掻きながら、
「どうも私は彼女に嫌われてしまったらしいな……」
と、ボヤきながら家へと戻っていく。
こうして違和感を感じたまま大会へと出場する羽目になってしまったのである。
欠伸をしながらトランクを手に持ち、移動用の飛行船へと乗り込む。飛行船はマナエ党が用意したものであり、飛行船の中央にはマナエ党の紋章が記されている。それが少し不快であったが、せっかく便利な移動道具を用意してくれたので使わない手はないだろう。
おまけに待機場所としてあてがわれたのは柔らかな長椅子が置かれ、厚いカーペットが敷かれたラウンジである。更に小さなバーや大型の本棚など充実した設備までもある。ルイーダとして敵対する相手とはいえ使わない手はないだろう。
もちろん飛行船の中に乗せられている相手は未成年ばかりであるので用意された飲み物はアルコール抜きの飲み物ばかりだ。やむを得ずルイーダは葡萄ジュースをワイングラスの中に入れ、本棚の中に置かれていた冒険小説を開き、暇を潰していく。こういう小説も読んでいけば意外と面白いものなのだ。
手に取った冒険小説で主人公が巨大な怪物が集う島の中に足を踏み入れた場面で何か妙な音が聞こえてきた。嫌な予感がしたルイーダは慌てて本を閉じ、剣を取って音がした方向へと向かう。
音がしたのは飛行船の整備室であった。ルイーダが扉を開くと、そこには大きな穴が見えていた。そればかりではない。その穴から侵入したと思われる巨大な雀のような姿をした怪物が整備員の頭を齧っていたのだ。
整備室の中には他に三名の整備員が残っていたが、目の前に起きた異常事態を見て、何もできずに腰を抜かすばかりであった。
雀の姿をした怪物が首だけになった整備員の頭を床の上に吐き出すと、今度は動けない状態にある別の整備員に向かって動き出していた。それを見た瞬間にルイーダは高速魔法を用いて怪物の元へと近寄ると、その胸元を勢いよく殴り飛ばしたのであった。
高速魔法を解くと、目の前には悲鳴を上げる怪物の姿が確認できた。チュンチュンと雀の悲鳴を上げて痛がるそぶりを見せていた。
仕留めるのならば今しかあるまい。ルイーダは剣を振り上げた。
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