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護衛編

暗黒の空間の中で

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ルイーダが目を覚ました時にはもうエルダーとカール両名の姿はとっくの昔に消えてしまっていた。
そのことから察するに両者は高速空間の中で両名が熾烈な争いを繰り広げられているのだろう。

これではいけないとルイーダはズキズキと痛む体を無理やり起こして、自身も高速魔法を活用して高速空間の中へと入り込んでいった。
ルイーダはエルダーとカールの両名が激しい戦いを繰り広げている姿を確認し、そのまま背後から剣を振り上げていき、両者の戦いへと乱入した。

だが、カールは元々の戦闘力に加え、悪魔王レイキュリザラスの力を扱う人間を超えた存在である。あっさりとルイーダの目論見を看破した。そこからの行動は早く、あっさりとエルダーを蹴り飛ばし、自身の背後から斬り込んできたルイーダの剣をあっさりと受け止めたのである。

カールは嘲りを含んだ笑みを向けながら両眉を上げたルイーダを見つめていた。
カールはそれからゆっくりとハルバード戦斧を引き、ルイーダからバランスを奪うと、その体に蹴りを入れ込み、弾き飛ばそうとした。
ルイーダの体は宙を転がったものの、地面の上に激突することはなく、膝をつくのみで事の時代は収まることになった。

ルイーダは雪辱を晴らすため剣を構えながらカールに向かっていった。カールはルイーダの剣をハルバード戦斧で受け止めた。
それを機に両者は互いの得物を使っての激しい打ち合いを行うことになった。
打ち合いの際にルイーダは剣の中に漆黒の炎を宿していったのだが、カールはそれを自身の闇によって打ち消していったのであった。

ルイーダは闇に飲み込まれる炎を見て、光を宿して挑むことになったのであった。
かつて悪魔王レイキュリザラスを封じた父アロイド・メルテロイに倣ったわけではなかったが、それでも光の魔法を使ったのは英断であったというべきだろう。
ここまで怯む様子を見せなかったカールが自らの闇で飲み込むことができない光を見て、怯む様子を見せ始めたのがその証拠である。

「……そうだったのね。あいつには光の魔法を使えばよかったってことなのかしら?」

戦いの様子を遠くから眺めていたエルダーは一人で納得するように呟いた。
それから満足したのか、加勢するため槍を構えてルイーダの元へと向かっていく。
しかもその時に使うのはエルダーが得意とする闇魔法ではなく、自身の対極の位置にあるとでもいうような光魔法なのだ。エルダーはルイーダの元に近寄り光魔法を増加させてルイーダの力を強化させることを目論んでいたのである。

この目論見は成功に終わり、ルイーダの光魔法は増幅していった。
カールはいいや、カールに取り憑いている悪魔王レイキュリザラスはその膨大な光を縦横無尽に操る様を見て、かつて自身を封じ込めたルイーダの父アロイドの姿を重ねたのである。

それはレイキュリザラスに焦りを与えるのに十分であった。彼は今のうちにルイーダを倒しておかなければならないという概念に取り憑かれ、出せるだけの闇をカールへと与えた。
レイキュリザラスがカールに与えた闇はルイーダと彼女が自身が発している光魔法をすっぽりと包み込むように覆っていき、カールには勝利さえ感じさせられた。

しかしその闇がルイーダとエルダーの視界全体を覆った時、その光はそれまでに見ないほどの光を発した。
それは当事者のみならず、本来であるのならば直視できないはずの群衆たちさえも思わず両目を覆ってしまうほどの強烈な光だった。
地上に降臨した天使を迎えるかのような眩い光を浴びたルイーダはその力でそれまでの両者の立ち位置を大いに逆転させた。

神々しさに溢れた光を全身に纏わせたルイーダはカールが放つ闇を振り払っていく。カールが操る闇は全てルイーダの光によってかき消されていき、掌を地面の上に落とした時に生じていたこの世のものと思えぬような悍ましいものは光によってかき消されてしまったのだった。そればかりではない。元来カールが持っていたはずの化け物じみた強さすらその光は無効にしていったのである。

その横でルイーダとその光魔法の活躍を見ていたエルダーは改めてその凄まじさを思い知らされていった。
エルダーが闇魔法と共に光魔法を研究すればマナエ党の勢力強化に繋がると考えていた時のことだ。

ルイーダが大声を張り上げてカールに対してトドメを刺すべく動き始めた。
光を纏わせた剣をカールは自身のハルバード戦斧で受け止めてはいたが、エルダーはこの時カールが冷や汗を垂らしていることを見逃さなかった。

ルイーダはここぞとばかりに剣を突き、そして大きく振るい、カールの中にほんの微かだけ残っていた冷静さすら奪うことに成功したのである。
完全に追い詰められたカールはアイスブルーの両目を大きく見開きながら叫んだ。

「ば、バカな……貴様のどこにこんな力があるというのだ!?あり得んッ!」

「フン、わからぬというのならば教えてやろうではないか」

ルイーダは尊大な口調で大きく胸を張りながら声を荒げて冷静さを失うカールに向かって告げた。

「私こそが選ばれし者なのだ。もっとも貴様のような下劣な人間にはそんなことは理解できんだろうがな」

「……選ばれし者だと自惚れるなッ!オレは悪魔王レイキュリザラスに選ばれたんだぞッ!」

カールは武器を振り上げながら功績を上げる部下を妬み、足を引っ張る無能な上司のように強烈な罵声をルイーダに向かって浴びせた。
だが、ルイーダは普通の人ならば泣いてしまうような酷い言葉を聞いても涼しい顔を浮かべるばかりであった。

カールはその姿を見て下唇を強く噛み締めながら力任せにハルバード戦斧を振るい上げていく。
それは仕事を早く終わらせようと躍起になる木こりのように無茶苦茶であった。

そんな統制の取れていない斧の刃が打ち込まれていっている。もしこの場にいたのが普通の人物であるのならば本来でのならばカールの必死の様と武器の振り方に対して恐怖を覚えて動きを止めていたに違いない。
だが、ルイーダはその無茶苦茶な一撃を眉一つ動かすことなく受け止めていた。

得意げな顔で次の攻撃を待ち侘びているかのようなルイーダに対してカールの体力はもう限界だった。そして疲労を感じて斧を一度引いてしまった。ルイーダはその隙を見逃さなかった。先ほどとは対照的に剣を大きく袈裟懸けに振り上げてカールが握っていたハルバード戦斧を弾き飛ばしたのである。

それから動揺するカールの懐へと潜り込み、その胸元を自身の剣先で貫いたのである。
ルイーダの剣はカールの心臓へと深々と突き刺さっていき、カールは剣が奥へと差し迫っていくたびに短い悲鳴を上げていた。それからゆっくりと剣を引くと、口から血を吐いてその場へと倒れ込んでしまったのである。

この瞬間にカールの体から影のようなものが抜け出していくのが多くの人々の目に止まった。恐らくあの影がカールの言っていた悪魔王レイキュリザラスとやらだろう。
カールの体の中に憑依し、彼に力を貸していた黒幕だ。本来であるのならば逃すはずはなかった。
しかしルイーダがカールに喰らわせたような眩い光を浴びせるよりも前にその場から慌てて逃げ出してしまったので、追跡に関しては断念せざるを得なかった。

いずれにしろ悪魔王レイキュリザラスがこの場を立ち去ったこと、そして依代にしていたカールが生き絶えてしまったことによってカールが操っていた暗黒の魔法は全てこの場から消失してしまうことになったのであった。

まず市民たちの自由を封じていた見えない壁は取り払われ、次に悍ましいものは全て最初から存在していなかったかのように消失していったのである。
群衆たちは自らの解放を喜び、両手を上げて「万歳」の言葉をエルダーとルイーダの両名に向かって浴びせていく。

その声を聞いたエルダーは高速魔法を解除し、武器を地面の上に捨てると、右手を挙げて感謝の言葉を群衆たちに捧げたのである。
どうやらマナエ党の総統エルダーはこの事態すら自身の支持率上昇のために使うつもりであるらしい。

パニックから解放された群衆たちに向かって今後のあり方やマナエ党が人々を守るのだという言葉を強調して繰り広げていた。
実際に人々を守ったのはルイーダであったが、エルダーは賛辞美麗にまみれた演説を行うことで成果を塗り替えることに成功したようである。

最後になって群衆たちにルイーダにも拍手を訴え掛けるように叫んだのは後々ルイーダが考えたような批判が出ることを避けるためなのだろうか。
いずれにしろルイーダは不本意ながらもエルダーのいいや、マナエ党の宣伝に一役を買ってしまうことになった。

こうした不満を心の中で燻らせていたルイーダであったが、護衛の任を疎かにするわけにはいかなかった。
予定としてはこの日執り行われることになっていた歓迎式典に護衛として同席することになったのだが、その時ジェラルドが車から降りて、エルダーに向かって提案を行ったのであった。

「待ってください。歓迎の式典ですが、今日はこのようなこともありみなも疲れております。よろしければ明日にでも延期していただきたいのですが」

「……分かりましたわ。殿下もお疲れでしょうし、式典は明日に延期させていただきましょう」

エルダーはそう言って頭を下げ、駆け付けた警官に車を運転するように指示を出した。

ジェラルドたちが乗った車が向かっていくのはガレリア国の首都においても一流とされるホテルだ。
一般人なら一生に一度泊まれるかどうかというほどの値段が付く高級ホテルである。

更にジェラルドは国賓ということもあり、最高級のスイートルームを割り当てられ、そこに一泊することになった。
本来ならば明日の歓迎式典に備え、休まなくてはならなかったが、先ほどの事態もあってか眠ることができなかった。
代わりに宝石箱をひっくり返したような首都の街を眺めていた。
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