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護衛編

首都へと出向く時

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「何?ジェラルド王太子から手を引けだと?」
アクロニア帝国最強の刺客であるカールによって呼び出された同じアクロニア帝国からの十五名の刺客たちはカールの言葉を聞いて一同に顔を見合わせていた。

当然である。彼らは全て皇帝ルドルフの命を受けてわざわざガレリアにまで命をかけて潜入したのだから。当然カールも刺客たちが味わった苦労や任務に対する思いを知っているはずだ。
にも関わらず、彼は顔色一つ変えることもなく。先ほどと同じ言葉を平然と言い放ったのである。それを聞いた刺客たちは一斉に武器を構えた。

ある者はナイフを、またある者は拳銃を取り出してその銃口をカールへと突き付けた。

「どうやら貴様はマナエに寝返ったようだな」

15名の刺客たちの中から茶色の髪をした壮年の男性が代表して言った。言葉の端からはマナエに寝返ったカールに対する失望と怒りの念が含まれていた。
他のメンバーも同様に失望の色が見えていた。恐らく彼らは最強の刺客であるカールに対して情景や敬愛の念を持っていたからこそ寝返りに対して茶色の髪をした男と同様の反応を見せたのだろう。

だが、カールはこうした状況であるにも関わらず高らかに笑っていた。
この場合普通の人間であったのならば笑うというような常軌を逸した反応は起こさないはずだ。
その異常な様子に刺客たちが思わず顔を引き攣っていると、カールが不意に笑いを止め、茶色の髪をした男へと向き直ったのである。

「なぁ、お前、想像したことがあるか?自分の人生にとって最高の結末が見えた時のことを」

「いったいなんの話をしているんだ?貴様」

茶色の髪をした男は手を震わせながら拳銃をカールへと突き付けた。だが、カールは拳銃などものともせんとばかりに体を近付けていく。

「わからんか?いいや、わかっている。お前はわかっているんだッ!本当のところはなッ!だが、忠誠だの愛国心だのという小賢しい心がお前の本心を覆い隠しているんだッ!」

カールの脳の中にあったはずの何かが弾けん飛んだらしい。カールは興奮の絶頂にあった。彼は両手を大きく広げて自身の心境を茶色の髪をした男を始めとしたアクロニアの刺客たちに伝えていたのである。
伝え終わると、満足したのか、彼はもう一度大きく笑い始めた。そして満足のいくまで笑い終えた後で、両目を青白く光らせながら言った。

「さぁ、素直に答えろッ!人生にとって最高の結末が見えた時、人間は必ずその結末が示す方向へと向かうんだッ!例外はないッ!お前たちもそうだろ!?」

刺客たちは動揺を隠せなかった。もっともこの動揺はカールの言葉が正論であり、その言葉を聞いて動揺してしまったという単純なものではなかった。彼らが戸惑いを覚えた真の理由はカールの目から迸る狂気を感じたからだ。
カールはまたしても高笑いを行おうとしたが、それを止めたのは茶色の髪をした男がカールに向かって放った銃弾であった。茶色の髪をした男はカールが喋りに夢中になっている隙を利用し、引き金を引いたのだ。茶色の髪をした男の目論見通りならば銃弾を受けたカールは悲鳴を上げて倒れ込むはずだった。

だが、銃弾を心臓に喰らったというのにも関わらずカールは平然としていた。
いや、そればかりか銃弾を喰らっているというのにまだ口元に笑みを浮かべている。それを見た男からはいいや、周りに集まっていた刺客たちの頭の中からは冷静さというものが完全に吹き飛ばされてしまうことになった。
刺客たちは各々の持つ銃やナイフで攻撃していったばかりか、通常の攻撃では意味がなさないと判断し、攻撃を加える際に自分たちの使う魔法を加えたが、相変わらずカールは平然としていた。

彼はアハハと狂気を含んだ笑いを口元に浮かべながら何もない空間から彼の得物ともいうべきハルバード戦斧を取り出して、自身のすぐ側にいた茶色の髪をした男の首を弾き飛ばしたのである。
男の首が胴体と泣き別れに会うのと彼らが戦意を喪失するのは同時だった。

彼らは子どものように泣き叫びながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑おうとしたが、彼らが逃げ出そうとしたところで何か固いものにぶつかったのだ。カールに襲い掛かったアクロニア帝国から派遣された刺客の一人が勢いが余り、地面の上を転んだ際に咄嗟に手を伸ばすと、壁のようなものにぶち当たったのだ。
目の前の景色はハッキリと見えていたし、あと少し足を動かせばその土の上を踏めそうな気はした。だが、今の彼らからすればそれらは全て幻想に過ぎなかったのだ。例えるのならば絵の中に描かれていて、いくら手を伸ばしても取り出せない御馳走のようなものだ。

それでも彼らは自らの身を守るため必死になって壁を叩いたり、自分たちの使命も忘れて助けを求めたりしたが、それは全て無意味な行動として終わることになった。カールは閉じ込められた刺客たちの中でも特に見苦しい動きを見せていた二人を殺し、その後でその姿を見て腰を抜かしていた男たちに向かって告げた。

「お前たちが死ぬ前にいいことを教えてやろう。これの力は全て私が全ての忠誠を捧げたお方によって授けられた力だッ!」

「さ、授けられた力だって!?」

「その通り、偉大なるあのお方より授けられた魔の力だ。フフッ、しかしこれだけではないぞ、この魔法はこれからその真価を発揮するのだからなッ!」

カールは叫ぶのと同時に地面の上に向かって大きく掌を叩き付けた。すると地面の上にこの世のものとは思えぬほどの穢れが地面から現れ、壁に包まれた空間の中で充満していく。あまりのおぞましい穢れに催す者さえいた。
だが、真価を発揮するのはその後のことだった。穢れはやがて一箇所に集まっていき、一つの紋章を作り出していく。
それは恐らく竜暦一千年以前に使われることがなくなったと思われる紋章だった。刺客たちは各国に潜入して任務をこなしていくという事情もあり大抵が高等教育を受けて育ったエリートばかりである。

高等教育の中には当然自国や各国の歴史、神話なども含まれる。
それ故に彼らは歴史や神話の授業を通してその紋章を知っていたのだ。
間違いない。それはガレリアに誕生し、危うく世界を滅ぼしかけたという悪魔王
レイキュリザラスが使用したという双子の悪魔を模った紋章であったのだ。
その証拠として地面の上に作り出された紋章の中には双子の男女と思われる悪魔が濃厚に絡み合っている姿が見受けられた。

何が起きるのかと刺客たちが恐怖に慄いていた時だ。レイキュリザラスの紋章から瘴気が迸っていった。
その姿を見て戦慄していると、不意に刺客の口の中へと瘴気が入り込んだのだ。
それも一人一人ではない。一斉に入り込んだことによって刺客たちはその命を散らすことになってしまった。
カールは全員の死を確認するのと同時に指を鳴らして紋章を地面の上から掻き消したのである。そして15名の刺客たち全員が恐怖に顔を歪めて死んでいるのを見て満足げに笑った。

その場を見渡し、懐から金品を奪い取った後でカールは宿屋に戻り自身が少し前まで敬愛していた皇帝ルドルフ・ドーズベルトに向かって手紙を記していく。
ドーズベルトに宛てた手紙にはドーズベルトが繰り出した刺客たちを自らの手で殲滅させたこと、自身が新たにレイキュリザラスと呼ばれる古代からの魔王に仕えることを決めたことやその力でレイキュリザラスの代理人として世界を相手に戦うことなどが書かれている。

カールは手紙を書き終えてから満足げな表情を浮かべて手紙を郵便局へと差し出した。もちろん手紙だけでは刺客が全滅させたことが伝わらないだろうから先に電報を打っておくことも忘れなかった。

カールは宿舎に戻るとやり遂げたと言わんばかりの満足気な顔で葉巻を片手に宿屋からの景色を眺めていた。
実際彼はレイキュリザラスの指示のもと首都に潜んでいたアクロニア帝国の刺客たちを邪魔が入らないように全滅に追い込んだし、その際にその力を試すことも忘れなかった。宣戦布告を告げる手紙も記し、一日のうちで多くのことを成し遂げていたのである。

自分がジェラルドを襲うのは首都なのだ。その際に彼らに茶々を入れられたくないし、入院している間に襲われても困る。それ故にかつての仲間たちを誘き出して全滅させる必要があったのだ。
カールが現在滞在している場所は田園地帯であるが、首都に近いということもあり宿代は高いし人は多い。
だが、先ほど仲間たちから強奪した金品があるので滞在する分には困らない。
カールはジェラルドが到着するまでの時間を宿で楽しむことにした。
奇しくもこの日はルイーダとジードがカルロとの激闘で倒れてから一週間後のことであった。













そして時間はルイーダとジードが目覚めた日へと戻ることになる。
二人の騎士が目覚めたことを何よりも喜んだのは自らの手で眠る暇も惜しんで感情を行っていたジェラルドであった。
彼は二人の目覚めを心から喜び、夢の世界から現実へと引き戻された二人に対して精一杯の喜びを表してみせたのだ。

ジードはジェラルドが自分の妻に対して少しばかり馴れ馴れしい態度をとっていたことに対して少しばかり不満げだったようだが、自分にも同じ態度で接していたことを思い返し寛容な態度を見せることにした。
その甲斐もあってか大きなトラブルを見せることなく終わった。
後は傷が癒えるのを待って首都へと向かうだけだ。また刺客が現れないとも限らないが頼もしい二人の騎士が倒してくれるだろう。ジェラルドにはそんな無意識の甘えに近い思いが心の奥底にあったに違いない。















あとがき
皆様いつも更新を楽しみにしていただき誠にありがとうございます。
最初にお詫びさせていただくと、次回の更新に関してはお休みさせていただくということをお伝えさせていただきます。
更新に関してはなるべく努力させていただきますが現状としては難しいというのが本音です。
誠に申し訳ございません。
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