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護衛編
哀れなヨセフは黒色の夢を見るか
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「そこまでだ、ここら辺で降参して方が得策だぞ」
ルイーダは大破した車の近くで暴れ回るカールの首元に剣を突き付けながら言った。
剣のひんやりとした感触はカールにも伝わっているはずだ。それ故か、滅多に流れない冷や汗が額から流れ出ていた。
「……わかった。オレだって命は惜しい。ここら辺で手を引かせてもらおう」
カールの言葉は油断を誘うものではなく、本心からそう言ったらしい。その証拠に彼は得物である戦斧を投げ捨て、両手を上げながら降参の言葉を口に出した。
カールはそのまま背を向けてその場から立ち去っていく。
ジードはカールの姿が消えたのを見て、肩の力を抜いてから戦闘の影響で大破していた車の扉へともたれかかっていた。
「ふぅ、首の皮一枚繋がった気分だぜ」
「お疲れ様、ジード。だが、今日はまだ始まったばかりだ。油断はできん」
ジードは労いの言葉を聞くと小さく溜息を吐いた。カールとはルイーダがカルロを始末して駆けつけてくるまで引きつけるだけだったが、それでもジードの体にはかなりの量の疲労が蓄積していた。
その姿を見かねたのか、ルイーダの背後に控えていたジェラルドが肩を貸していく。
肩を貸された瞬間ジードは憐れんで欲しくないという思いで一杯になっていた。
だが、そうした気遣いがありがたいかったのは事実だ。
ジードが素直にジェラルドの肩を借りようと彼の肩に手を伸ばした時のことだ。
これまでジードの背後でカールに震えていたはずの執事が立ち上がり、大きな声で換言を行ったのであった。
「で、殿下ッ!お気は確かですか!?殿下ともあろう者がいかに異国の方とはいえ、護衛に肩を貸すなどとッ!」
「よさぬか、ジードはオレやじいのために体を張ってくれたのだ。そのような者に礼をするのは人として当然のことだ」
ここで注目するのはジェラルドは「王族」ではなく「人」として当然だといったことである。
仮にエルダーやマナエ党の幹部が同じような状況に陥ったとしてジェラルドと同じような台詞を吐くことができるだろうか。いや、むしろ彼女たちは自分を庇った護衛たちを逆恨みでもして罵詈雑言でも浴びせるに決まっている。
そうした対照的な存在が容易に想像できるからこそ英明な皇太子が輝いて見えるのだ。
ルイーダはジードに肩を貸しながら街までを歩くジェラルドを誇らしげな目で見つめていた。
それから一時間ばかりの時間をかけて四人で補いつつ、人のあるところまで街まで歩いていくことにした。
ようやく人通りの多い場所に足を運ぶと、そこにはジェラルドの訪問を待ち構えていた人々がごった返しになっていた。
当初人々はジェラルドの顔が見えた瞬間こそガレリアの国旗と長靴の王国の国旗の両方を振って、笑顔で歓迎の意思を示していたのだが、憔悴したジードやただならぬ気配を見せるルイーダ、それに申し訳ないと言わんばかりに沈んだ顔を浮かべているジェラルドを見て、ただ事ではないと判断したのだろう。
人々は慌てて三人を街の病院へと案内した。
レンツの街にはレンツ社の社員やその家族が大勢住んでいるということからさまざまな設備が揃っている上、その設備も下手な街よりも整っているように思われた。
三人は院長による問診を受け、多少の疲労は見受けることができるものの、体調に異変はないのだという診断を受けた。
念のため個室が貸し出され、午前中いっぱいは休んで行くように指示を出された。
ジードはジェラルドのはからいによって個室の中央に置かれている清潔な白色のシーツがかかったベッドの上へと寝かされた。
僅かな時間ではあるかもしれないが、休息が取れるということは大きなことであるかもしれない。
ベッドの上で安らかな寝息を立てて横になっているジードを見つめながらルイーダは安堵の笑みを見せた。
やはり自分の夫が無事であるというのはいいものだ。喧嘩もすることはあるが、それでもジードが一千年後の世界で見つけた大切な人物であることには変わりがない。
眠っているジードの頭をルイーダが優しく撫でていた時のことだ。
「殿下、訪問はこの辺りで中止にしましょうッ!これ以上この国で苦しむことはありませんぞッ!」
「だが、オレは皇太子だ。外交を途中で投げ出すわけにはいかん」
背後でジェラルドと執事とが言い争う声が聞こえた。ルイーダは言い争いには耳を貸さず、黙ってジードの頭を撫で続けていた。
「ですが、このまま殿下の御身にもしものことがあれば我が国はおしまいですッ!」
「だが、外交も大事だ。ただでさえガレリアは我が国の数少ない同盟国なのだ。そこと関係が悪くなれば我が国の国益にも大きな影響が出る」
「殿下ッ!」
どちらも引けない状況にあるからだろう。言い争いはますますヒートアップしていった。
結局のところ二人はベッドの上に横たわっていたジードが大きな欠伸を出しながら体を起こすまで大きな声で言い争っていた。
結局決着が付いたのは時間となり、レンツ社の社員が本社に来るように伝えた時のことだ。
ジードは鈍ってしまった体をほぐしながら最後尾を付いていった。
ルイーダはレンツの地を用心しながら歩いていたが、昼間とは異なり敵が襲ってくる様子はなかった。
ルイーダはレンツ社本社の扉をくぐった際に一息を吐いた。
このまま無事に済めば物事はすべて丸く収まるのだが、そう上手くいかないのが世の中というものだ。
事件はレンツ社の社長ヨセフ・ヒンデンルートがジェラルドを案内している時に起きた。
どのようにして車ができるのかという工程を見ているだけであったが、その際にヨセフが奇妙なことを言い始めたのがことの発端であった。
「失礼ながら殿下、もしあなた様に素晴らしい力が与えられたらどうなさいますかな?」
「どうとは?」
ジェラルドは質問の意味が理解できていなかったようだ。
だが、ヨセフは構うことなく話を続けていく。
「簡単な話でございます。かつて世界を席巻した魔王の力が宿ったというのならばあなた様はどうなさいます?」
「さ、さぁ」
「おや、わかりかねますか?なら、私が代わりに答えましょう。私ならば与えられた力を利用して、逆転現象を起こそうと思うのです」
「逆転現象だと?」
「えぇ、簡単な話です。王様と兵士に見立てたボードゲームのことを想像してごらんなさい。兵士というのは王様の命令のみで動きます。ですが、仮に兵士が謀反を起こせば王様は剣の一突きで死にます。その兵士は次の王様です。誰も疑う余地はありません」
不穏な空気が漂ってきたのを二人は察した。それ故にルイーダはジェラルドを自分たち二人の背後に下がらせ、鋭い目で睨み付けながらヨセフに話の意味を問い掛けた。
すると、ヨセフは太った体を揺らしながら大きな声で笑い声を上げていく。
「質問の意味だと?いいだろう。答えてやる。私は素晴らしい力を手に入れたのだ。ガレリアそのものを手に入れられるような素晴らしい力がなッ!」
ヨセフはそう叫ぶと、両手の拳を握り締めながら雄叫びを上げていく。
異変を察したルイーダはジードにジェラルドと執事の両名を保護しながら入り口まで逃げるように指示を出させたが、それよりも奇妙な黒色の触手がジェルラルドへと襲い掛かっていくのが先であった。透明ではあるものの、純粋な光とは程遠く、ところどころに濁りのようなものが見える不気味な触手だ。
ルイーダは避難が追いついていないことを察し、助走をつけて飛び上がると、黒色の触手に向かって勢いよく斬りつけていくのであった。
念の為光の魔法も纏わせている。そのせいもあってか、黒色の触手は跡形もなく消滅していった。
ルイーダはそのまま返す刀と言わんばかりに剣を両手で握り締めながらヨセフへと突っ込む。
だが、ヨセフは少しも動じる姿を見せなかった。そればかりか、自身の背中からさまざまな触手を作り出し、ルイーダを襲わせていく。
ルイーダは四方八方から襲い掛かってくる触手を剣で弾き飛ばしていったが、あまりにもその量が多かったので、疲労によって思わず膝をついてしまうことになってしまった。
ヨセフはそんなルイーダを見下ろすように言った。
「どうした?もう終わりなのか?」
声はこのようなものとは思えないほどに低いものであった。
先ほどジェラルドを案内していた時は普通に喋っていたことからヨセフ本人というよりはヨセフに奇妙な力を与えた怪物がヨセフの口を借りて喋っているというのが本当のところなのだろう。
戦闘の間は怪物に体の運営を任せ、ヨセフ本人の人格は心の奥底がどこで眠っているのだろう。気楽なものだ。
「……どうかな?光の騎士を甘く見ては困るぞ」
「フフッ、光の騎士か……思い出すなぁ、あれは一千年以上も前のことだ。貴様と同じように光の騎士を名乗った男によってオレやあのお方は封じ込められたんだ。このレンツの地にな」
ヨセフの体を操っていると思われる怪物は懐かしそうに言った。
「そんなことは知っている。昨日塚を訪れた時、塚の前に書かれていることを読んだからな」
ルイーダは冷静な調子で言葉を返したものの、内心では動揺を隠しきれなかった。
どうやらヨセフを操っているのは魔王レイキュリザラスではなく、その手下に過ぎないということだ。
ルイーダは自身の手で断ち切った触手がただならぬ強さを誇っていたことを覚えている。
てっきり封じ込められた魔王その人かと考えていたのだが、どうやら自分の予想は悪い意味で大きく裏切られてしまうことになったらしい。
ルイーダはこんな状況でなければ乾いたような笑いでも上げたいところであった。
だが、それは許されない。この怪物の前で弱みを見せてはならないのだ。
ルイーダが剣を握りながら起き上がった時だ。
「そうだ、貴様との勝負にかまけていて忘れていた。ジェラルドはここで始末しておかないとな」
ヨセフが大きく指を鳴らす。と、屋根が落ちて、そこから始末したはずの不死鳥の鎧を纏った男の姿が見えた。
ルイーダは大破した車の近くで暴れ回るカールの首元に剣を突き付けながら言った。
剣のひんやりとした感触はカールにも伝わっているはずだ。それ故か、滅多に流れない冷や汗が額から流れ出ていた。
「……わかった。オレだって命は惜しい。ここら辺で手を引かせてもらおう」
カールの言葉は油断を誘うものではなく、本心からそう言ったらしい。その証拠に彼は得物である戦斧を投げ捨て、両手を上げながら降参の言葉を口に出した。
カールはそのまま背を向けてその場から立ち去っていく。
ジードはカールの姿が消えたのを見て、肩の力を抜いてから戦闘の影響で大破していた車の扉へともたれかかっていた。
「ふぅ、首の皮一枚繋がった気分だぜ」
「お疲れ様、ジード。だが、今日はまだ始まったばかりだ。油断はできん」
ジードは労いの言葉を聞くと小さく溜息を吐いた。カールとはルイーダがカルロを始末して駆けつけてくるまで引きつけるだけだったが、それでもジードの体にはかなりの量の疲労が蓄積していた。
その姿を見かねたのか、ルイーダの背後に控えていたジェラルドが肩を貸していく。
肩を貸された瞬間ジードは憐れんで欲しくないという思いで一杯になっていた。
だが、そうした気遣いがありがたいかったのは事実だ。
ジードが素直にジェラルドの肩を借りようと彼の肩に手を伸ばした時のことだ。
これまでジードの背後でカールに震えていたはずの執事が立ち上がり、大きな声で換言を行ったのであった。
「で、殿下ッ!お気は確かですか!?殿下ともあろう者がいかに異国の方とはいえ、護衛に肩を貸すなどとッ!」
「よさぬか、ジードはオレやじいのために体を張ってくれたのだ。そのような者に礼をするのは人として当然のことだ」
ここで注目するのはジェラルドは「王族」ではなく「人」として当然だといったことである。
仮にエルダーやマナエ党の幹部が同じような状況に陥ったとしてジェラルドと同じような台詞を吐くことができるだろうか。いや、むしろ彼女たちは自分を庇った護衛たちを逆恨みでもして罵詈雑言でも浴びせるに決まっている。
そうした対照的な存在が容易に想像できるからこそ英明な皇太子が輝いて見えるのだ。
ルイーダはジードに肩を貸しながら街までを歩くジェラルドを誇らしげな目で見つめていた。
それから一時間ばかりの時間をかけて四人で補いつつ、人のあるところまで街まで歩いていくことにした。
ようやく人通りの多い場所に足を運ぶと、そこにはジェラルドの訪問を待ち構えていた人々がごった返しになっていた。
当初人々はジェラルドの顔が見えた瞬間こそガレリアの国旗と長靴の王国の国旗の両方を振って、笑顔で歓迎の意思を示していたのだが、憔悴したジードやただならぬ気配を見せるルイーダ、それに申し訳ないと言わんばかりに沈んだ顔を浮かべているジェラルドを見て、ただ事ではないと判断したのだろう。
人々は慌てて三人を街の病院へと案内した。
レンツの街にはレンツ社の社員やその家族が大勢住んでいるということからさまざまな設備が揃っている上、その設備も下手な街よりも整っているように思われた。
三人は院長による問診を受け、多少の疲労は見受けることができるものの、体調に異変はないのだという診断を受けた。
念のため個室が貸し出され、午前中いっぱいは休んで行くように指示を出された。
ジードはジェラルドのはからいによって個室の中央に置かれている清潔な白色のシーツがかかったベッドの上へと寝かされた。
僅かな時間ではあるかもしれないが、休息が取れるということは大きなことであるかもしれない。
ベッドの上で安らかな寝息を立てて横になっているジードを見つめながらルイーダは安堵の笑みを見せた。
やはり自分の夫が無事であるというのはいいものだ。喧嘩もすることはあるが、それでもジードが一千年後の世界で見つけた大切な人物であることには変わりがない。
眠っているジードの頭をルイーダが優しく撫でていた時のことだ。
「殿下、訪問はこの辺りで中止にしましょうッ!これ以上この国で苦しむことはありませんぞッ!」
「だが、オレは皇太子だ。外交を途中で投げ出すわけにはいかん」
背後でジェラルドと執事とが言い争う声が聞こえた。ルイーダは言い争いには耳を貸さず、黙ってジードの頭を撫で続けていた。
「ですが、このまま殿下の御身にもしものことがあれば我が国はおしまいですッ!」
「だが、外交も大事だ。ただでさえガレリアは我が国の数少ない同盟国なのだ。そこと関係が悪くなれば我が国の国益にも大きな影響が出る」
「殿下ッ!」
どちらも引けない状況にあるからだろう。言い争いはますますヒートアップしていった。
結局のところ二人はベッドの上に横たわっていたジードが大きな欠伸を出しながら体を起こすまで大きな声で言い争っていた。
結局決着が付いたのは時間となり、レンツ社の社員が本社に来るように伝えた時のことだ。
ジードは鈍ってしまった体をほぐしながら最後尾を付いていった。
ルイーダはレンツの地を用心しながら歩いていたが、昼間とは異なり敵が襲ってくる様子はなかった。
ルイーダはレンツ社本社の扉をくぐった際に一息を吐いた。
このまま無事に済めば物事はすべて丸く収まるのだが、そう上手くいかないのが世の中というものだ。
事件はレンツ社の社長ヨセフ・ヒンデンルートがジェラルドを案内している時に起きた。
どのようにして車ができるのかという工程を見ているだけであったが、その際にヨセフが奇妙なことを言い始めたのがことの発端であった。
「失礼ながら殿下、もしあなた様に素晴らしい力が与えられたらどうなさいますかな?」
「どうとは?」
ジェラルドは質問の意味が理解できていなかったようだ。
だが、ヨセフは構うことなく話を続けていく。
「簡単な話でございます。かつて世界を席巻した魔王の力が宿ったというのならばあなた様はどうなさいます?」
「さ、さぁ」
「おや、わかりかねますか?なら、私が代わりに答えましょう。私ならば与えられた力を利用して、逆転現象を起こそうと思うのです」
「逆転現象だと?」
「えぇ、簡単な話です。王様と兵士に見立てたボードゲームのことを想像してごらんなさい。兵士というのは王様の命令のみで動きます。ですが、仮に兵士が謀反を起こせば王様は剣の一突きで死にます。その兵士は次の王様です。誰も疑う余地はありません」
不穏な空気が漂ってきたのを二人は察した。それ故にルイーダはジェラルドを自分たち二人の背後に下がらせ、鋭い目で睨み付けながらヨセフに話の意味を問い掛けた。
すると、ヨセフは太った体を揺らしながら大きな声で笑い声を上げていく。
「質問の意味だと?いいだろう。答えてやる。私は素晴らしい力を手に入れたのだ。ガレリアそのものを手に入れられるような素晴らしい力がなッ!」
ヨセフはそう叫ぶと、両手の拳を握り締めながら雄叫びを上げていく。
異変を察したルイーダはジードにジェラルドと執事の両名を保護しながら入り口まで逃げるように指示を出させたが、それよりも奇妙な黒色の触手がジェルラルドへと襲い掛かっていくのが先であった。透明ではあるものの、純粋な光とは程遠く、ところどころに濁りのようなものが見える不気味な触手だ。
ルイーダは避難が追いついていないことを察し、助走をつけて飛び上がると、黒色の触手に向かって勢いよく斬りつけていくのであった。
念の為光の魔法も纏わせている。そのせいもあってか、黒色の触手は跡形もなく消滅していった。
ルイーダはそのまま返す刀と言わんばかりに剣を両手で握り締めながらヨセフへと突っ込む。
だが、ヨセフは少しも動じる姿を見せなかった。そればかりか、自身の背中からさまざまな触手を作り出し、ルイーダを襲わせていく。
ルイーダは四方八方から襲い掛かってくる触手を剣で弾き飛ばしていったが、あまりにもその量が多かったので、疲労によって思わず膝をついてしまうことになってしまった。
ヨセフはそんなルイーダを見下ろすように言った。
「どうした?もう終わりなのか?」
声はこのようなものとは思えないほどに低いものであった。
先ほどジェラルドを案内していた時は普通に喋っていたことからヨセフ本人というよりはヨセフに奇妙な力を与えた怪物がヨセフの口を借りて喋っているというのが本当のところなのだろう。
戦闘の間は怪物に体の運営を任せ、ヨセフ本人の人格は心の奥底がどこで眠っているのだろう。気楽なものだ。
「……どうかな?光の騎士を甘く見ては困るぞ」
「フフッ、光の騎士か……思い出すなぁ、あれは一千年以上も前のことだ。貴様と同じように光の騎士を名乗った男によってオレやあのお方は封じ込められたんだ。このレンツの地にな」
ヨセフの体を操っていると思われる怪物は懐かしそうに言った。
「そんなことは知っている。昨日塚を訪れた時、塚の前に書かれていることを読んだからな」
ルイーダは冷静な調子で言葉を返したものの、内心では動揺を隠しきれなかった。
どうやらヨセフを操っているのは魔王レイキュリザラスではなく、その手下に過ぎないということだ。
ルイーダは自身の手で断ち切った触手がただならぬ強さを誇っていたことを覚えている。
てっきり封じ込められた魔王その人かと考えていたのだが、どうやら自分の予想は悪い意味で大きく裏切られてしまうことになったらしい。
ルイーダはこんな状況でなければ乾いたような笑いでも上げたいところであった。
だが、それは許されない。この怪物の前で弱みを見せてはならないのだ。
ルイーダが剣を握りながら起き上がった時だ。
「そうだ、貴様との勝負にかまけていて忘れていた。ジェラルドはここで始末しておかないとな」
ヨセフが大きく指を鳴らす。と、屋根が落ちて、そこから始末したはずの不死鳥の鎧を纏った男の姿が見えた。
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