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護衛編
復活への暗躍
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「今日の訪問を中止しろだと!?」
高級ホテルの一室においてジェラルドの声が飛び交う。皇太子というだけのことはあり、広い部屋をあてがわれていたが、それでも部屋全体に波及するほどの大きな声であった。
だが、ジードは大きな声を聞いてもみじろぎ一つすることなく首を縦に動かした。
それを見て、ジードが本気で言っているということを理解したジェラルドは額の上に手を抑えながら溜息を吐く。
訪問を中止したほうがいいのは明白だ。レンツ社の社長による行動はあまりにも不自然だ。カールたち一派と何らかの繋がりを持っていると考えた方が自然である。
そうなればレンツ社にどのような罠が仕掛けられていたとしても不思議ではない。
社員全員が銃を構えればジードやルイーダの二人であったとしても守り切れる保証はどこにもない。そうでなくても罠などを仕掛けられれば一環の終わりだ。
一方でジェラルドもそう簡単には断れない事情があった。既に父王とエルダーとの間に自身がレンツ社へと赴くことは約束されており、それを反故にするのはエルダー並びにガレリア国の面子を潰すということになる。
そうなれば外交関係にも当然ヒビは入る。皇太子としてそれは避けなければならないことなのだ。
だが、ルイーダたちの言い分も理解はできる。レンツ社の社長が裏切っていないなどという保証はどこにもないのだ。今朝の事件がそれを決定付かせているようにも思えてならない。
ジェラルドは外交と自身の身の安全のどちらを優先するかで板挟みの状態になってしまっていた。
外交を突き詰めれば負担を強いることになるのはルイーダやジードを始めとした護衛の面々だ。既に昨日の戦闘で大規模な犠牲者を出しているためこれ以上の犠牲者を増やしたくないというのが優しい皇太子の本音であった。
だが、護衛たちのことを憂慮して今回の訪問を欠席すれば割を喰らうのは他の王国の民たちである。
ジェラルドはしばらくの間朝食の後にデザートとして出された果物とヨーグルトにも手を付けず頭を抱えていたが、やがて両目を見開いてジードに向かって自身の決意を表明することにした。
「悪いが、卑劣な行為に我が王国が屈するわけにはいかぬッ!今回の訪問は見送るわけなはいかない」
「……本気ですか?」
ジードの目が鋭くなった。視線だけで射殺せるかと思うほどの圧がジェラルドに降り掛かっていく。
ジェラルドは思わず身震いしたものの、皇太子として自身の決意を最も容易く翻すわけにはいかない。
それ故ジードの視線に怯むことなく毅然とした態度で、
「あぁ、そうだ」
と、容赦することもなく言い放ったのである。ジードは皇太子からの決意を聞いても尚不満げに下唇を噛み締めていたが、思い直したのか、最低限の礼儀として少し頭を下げてからその場を後にしたのであった。
ジェラルドはその様子を見て少し胸に罪悪感のようなものを感じた。
だが、皇太子として国を背負う以上は外交を優先しなくてはならない。
その気持ちばかりは汲んでほしい、とジェラルドは感じていた。
一方でそのような事情を知らないジードの方はといえば釈然としない思いを抱えたまま皇太子の護衛を行うことになったのである。
ジェラルドの判断は馬鹿げたものだ。負担を強いるのは自分たち護衛なのだ。妻であるルイーダが彼にベッタリであることも相まってますます気に入らない存在になっていく。
だが、一度でも引き受けてしまったのならば実行してしまわなくては気が済まない。
ジードは鬱蒼とした思いを胸に抱きながらも護衛の任務に就くことになった。
レンツ社からの迎えの車に乗り込み、左右をルイーダとジードの二人で固める。
左右に二人が座ることで、窓の側面から銃を撃たれたり、魔法を放たれたりということだけは防げるはずだ。
おまけに運転手はレンツ社の社員ではなく、それを断って運転手を買って出たジェラルドお抱えの執事である。裏切るはずがない。
そんなことを考えていると、不意に車が停車した。
「どうした!?何があった!?」
思わぬ事態にジェラルドが声を上げる。すると運転席に座っていた執事が人差し指を震わせながら正面を突き付けた。
ジェラルドが恐る恐るその場を確認すると、目の前には右手に避難用の消防斧を握り締めたカールの姿が見えた。
血走った目を浮かべたカールは狂気じみた笑みを浮かべながら車のガラスを破壊したのである。
ガラスが粉々に砕かれるよりも前にルイーダが後部座席の扉を蹴り飛ばし、ジェラルドと共にその場から逃れたことにより、ガラスがジェラルドには当たることはなかった。
カールを放っておくことにルイーダは一抹の不安を覚えたが、車の中にはジードが残っている。ジェラルドを安全な場所へと逃すだけの時間は確保してくれるだろう。
夫の強さを信じているルイーダはジェラルドを連れてその場から逃れようとしたが、その前に予想外の人物が立ち塞がった。
「おいおい、どこへ逃げるつもりだ?これからもっと熱くなるっていうのにッ!」
昨日の男が炎を掌に繰り出しながら言った。その顔は嘲笑ってすらいる。
ルイーダは眩いばかりの光魔法を繰り出し、一時的に男の目をくらませた後にジェラルドの手を引いて逃れようとしたが、男は大きく飛び交って、ルイーダとジェラルドの前に立ち塞がったのである。
それから懐から取り出した鋭利な刃物を構えた。そのままジェラルドの頭を突き刺そうと目論んでいたようであるが、その前にルイーダが相手の刃物を剣で弾き飛ばしたことによって、難を逃れることはできた。
それからジェラルドを背後へと下がらせたルイーダと男による斬り合いが続いていたが、次第に熱魔法を纏った短剣を持つ男が戦いを有利な方向へと運んでいった。
ルイーダの顔に苦戦の色が浮かんでいく。
男は苦悩の顔で両眉を顰めたルイーダを見下ろしながら吐き捨てるように言った。
「情けないなぁ、世界的にも名高い光の騎士が護衛に就いたって聞いてきたけど、所詮はこんなもんか」
「……うるさい。大体実用的な魔法と幻想的な魔法とでは相性が悪いのは当然だろうが」
ルイーダもまた吐き捨てるように言葉を返した。
だが、負け惜しみのような言葉に対して男から返ってきたのは嘲笑であった。
「ハハッ、運がないのは君の方だったな。私の炎は不死鳥の炎。永遠の祝福を授ける不死の鳥が纏う強力な炎だ。そんなすごい男の魔法にキミ如きが勝てるわけがない」
その言葉を聞いた瞬間にルイーダの中にある何かが動いた。
今の自分は魔竜ファブニールを宿しているはずだ。ファブニールの使う黒い炎も使えたはずだ。
邪悪な闇の炎ならば目の前の男が使う不死鳥の炎なども焼き尽くすことは可能なのではないだろうか。
ルイーダの口角が上がる。彼女の中においてはこの考えを思い付いた瞬間に勝利を確信したといってもよかった。
だが、相手を油断させなければこの炎は使えない。相手が自分の元に近付いてきたところに向かってこの炎を放つのだ。
油断している自分に不死鳥の炎を放とうとしたところで、こちらから黒い炎を放ってやるのだ。
今のルイーダは誇り高き女騎士というよりは邪悪な魔女になった心境であった。
だが、相手は悪党だ。焼いてしまって問題はない。
そのためルイーダは負けそうになっている自分を演じなくてはならなかった。
「あぁ、もうだめだ。お終いだ。せっかく繋いだ命もここで途絶えてしまうんだッ!」
ルイーダは悔しげに拳を作り上げて、地面の上へと振り下ろしていく。
「へぇ、やけに素直になったじゃあないか」
「あぁ、キミの魔法を見ていると自分の無力さというのを痛感させられたよ。どうか、最後の慈悲としてキミの力で私の元に近付いて、炎を放ってくれないか?」
「いいだろう。こんなおれでも慈悲くらいはあるさ」
男はそう言って顔に笑みを浮かべながらルイーダの元へと近付いていく。
そしてルイーダの前に立つと、掌に小さな炎を作り上げていった。
「さてと、最後になるが何か言い残すことはあるか?」
「ないな。一思いにやってくれ」
男は顔に和かな笑みを浮かべながら掌をルイーダへと向けた。
その瞬間であった。自身の体に漆黒の黒い炎が纏わり付き、彼自身の体が業火によって焼き尽くされてしまったのは。
当初男は自分の身に何が起こったのかを理解できなかった。
だが、すぐに状況を整理して、自身の身に得体の知れない炎が宿っていることに気が付いたのである。
先ほどの表情から一転して悲鳴を上げて泣き叫ぶ男に向かってルイーダは淡々とした表情で言い放った。
「キミが近付いた瞬間に私は素早く剣を抜いてな。そこに魔竜ファブニールの漆黒の炎を纏わせたんだ。後はキミの掌を突き刺すだけでよかった。どうだ?もうそろそろ掌に空いた痛みがぶり返してくるだろ?」
ルイーダからの指摘を受けた男は自身の掌から迸るほどの血が溢れかえっているのを確認した。
言葉にならないような悲鳴が男の口から漏れていく。
「殿下はお忙しいんだ。貴様らなんぞに構ってはいられん。冥府に行っても二度と私たちの前に顔を表すなよ」
ルイーダは黒焦げへと変わっていく男を見下ろしながら淡々とした口調で吐き捨てた。
そこからは一瞥もすることなく、その場から立ち去っていく。
ルイーダの頭の中にはもうカルロのことなどなかった。
頭の中にあったのは背後に隠れているジェラルドを連れ、カールに絡まれている夫を助けにいくだけだった。
それ故カルロの元に現れた謎の黒い影の存在に気がつく事はなかった。
謎の黒い影は消し炭に近付きつつあるカルロに向かって問い掛けた。
「なぁ、お前あいつに復讐したいか?」
消し炭になりつつあるカルロはこの時首を縦に動かしのかはわからない。
だが、謎の影は勝手にカルロの時代の中へと入り込んだのである。
気が付けばカルロの体から漆黒の炎は消え、体は元の状態へと戻っていた。
高級ホテルの一室においてジェラルドの声が飛び交う。皇太子というだけのことはあり、広い部屋をあてがわれていたが、それでも部屋全体に波及するほどの大きな声であった。
だが、ジードは大きな声を聞いてもみじろぎ一つすることなく首を縦に動かした。
それを見て、ジードが本気で言っているということを理解したジェラルドは額の上に手を抑えながら溜息を吐く。
訪問を中止したほうがいいのは明白だ。レンツ社の社長による行動はあまりにも不自然だ。カールたち一派と何らかの繋がりを持っていると考えた方が自然である。
そうなればレンツ社にどのような罠が仕掛けられていたとしても不思議ではない。
社員全員が銃を構えればジードやルイーダの二人であったとしても守り切れる保証はどこにもない。そうでなくても罠などを仕掛けられれば一環の終わりだ。
一方でジェラルドもそう簡単には断れない事情があった。既に父王とエルダーとの間に自身がレンツ社へと赴くことは約束されており、それを反故にするのはエルダー並びにガレリア国の面子を潰すということになる。
そうなれば外交関係にも当然ヒビは入る。皇太子としてそれは避けなければならないことなのだ。
だが、ルイーダたちの言い分も理解はできる。レンツ社の社長が裏切っていないなどという保証はどこにもないのだ。今朝の事件がそれを決定付かせているようにも思えてならない。
ジェラルドは外交と自身の身の安全のどちらを優先するかで板挟みの状態になってしまっていた。
外交を突き詰めれば負担を強いることになるのはルイーダやジードを始めとした護衛の面々だ。既に昨日の戦闘で大規模な犠牲者を出しているためこれ以上の犠牲者を増やしたくないというのが優しい皇太子の本音であった。
だが、護衛たちのことを憂慮して今回の訪問を欠席すれば割を喰らうのは他の王国の民たちである。
ジェラルドはしばらくの間朝食の後にデザートとして出された果物とヨーグルトにも手を付けず頭を抱えていたが、やがて両目を見開いてジードに向かって自身の決意を表明することにした。
「悪いが、卑劣な行為に我が王国が屈するわけにはいかぬッ!今回の訪問は見送るわけなはいかない」
「……本気ですか?」
ジードの目が鋭くなった。視線だけで射殺せるかと思うほどの圧がジェラルドに降り掛かっていく。
ジェラルドは思わず身震いしたものの、皇太子として自身の決意を最も容易く翻すわけにはいかない。
それ故ジードの視線に怯むことなく毅然とした態度で、
「あぁ、そうだ」
と、容赦することもなく言い放ったのである。ジードは皇太子からの決意を聞いても尚不満げに下唇を噛み締めていたが、思い直したのか、最低限の礼儀として少し頭を下げてからその場を後にしたのであった。
ジェラルドはその様子を見て少し胸に罪悪感のようなものを感じた。
だが、皇太子として国を背負う以上は外交を優先しなくてはならない。
その気持ちばかりは汲んでほしい、とジェラルドは感じていた。
一方でそのような事情を知らないジードの方はといえば釈然としない思いを抱えたまま皇太子の護衛を行うことになったのである。
ジェラルドの判断は馬鹿げたものだ。負担を強いるのは自分たち護衛なのだ。妻であるルイーダが彼にベッタリであることも相まってますます気に入らない存在になっていく。
だが、一度でも引き受けてしまったのならば実行してしまわなくては気が済まない。
ジードは鬱蒼とした思いを胸に抱きながらも護衛の任務に就くことになった。
レンツ社からの迎えの車に乗り込み、左右をルイーダとジードの二人で固める。
左右に二人が座ることで、窓の側面から銃を撃たれたり、魔法を放たれたりということだけは防げるはずだ。
おまけに運転手はレンツ社の社員ではなく、それを断って運転手を買って出たジェラルドお抱えの執事である。裏切るはずがない。
そんなことを考えていると、不意に車が停車した。
「どうした!?何があった!?」
思わぬ事態にジェラルドが声を上げる。すると運転席に座っていた執事が人差し指を震わせながら正面を突き付けた。
ジェラルドが恐る恐るその場を確認すると、目の前には右手に避難用の消防斧を握り締めたカールの姿が見えた。
血走った目を浮かべたカールは狂気じみた笑みを浮かべながら車のガラスを破壊したのである。
ガラスが粉々に砕かれるよりも前にルイーダが後部座席の扉を蹴り飛ばし、ジェラルドと共にその場から逃れたことにより、ガラスがジェラルドには当たることはなかった。
カールを放っておくことにルイーダは一抹の不安を覚えたが、車の中にはジードが残っている。ジェラルドを安全な場所へと逃すだけの時間は確保してくれるだろう。
夫の強さを信じているルイーダはジェラルドを連れてその場から逃れようとしたが、その前に予想外の人物が立ち塞がった。
「おいおい、どこへ逃げるつもりだ?これからもっと熱くなるっていうのにッ!」
昨日の男が炎を掌に繰り出しながら言った。その顔は嘲笑ってすらいる。
ルイーダは眩いばかりの光魔法を繰り出し、一時的に男の目をくらませた後にジェラルドの手を引いて逃れようとしたが、男は大きく飛び交って、ルイーダとジェラルドの前に立ち塞がったのである。
それから懐から取り出した鋭利な刃物を構えた。そのままジェラルドの頭を突き刺そうと目論んでいたようであるが、その前にルイーダが相手の刃物を剣で弾き飛ばしたことによって、難を逃れることはできた。
それからジェラルドを背後へと下がらせたルイーダと男による斬り合いが続いていたが、次第に熱魔法を纏った短剣を持つ男が戦いを有利な方向へと運んでいった。
ルイーダの顔に苦戦の色が浮かんでいく。
男は苦悩の顔で両眉を顰めたルイーダを見下ろしながら吐き捨てるように言った。
「情けないなぁ、世界的にも名高い光の騎士が護衛に就いたって聞いてきたけど、所詮はこんなもんか」
「……うるさい。大体実用的な魔法と幻想的な魔法とでは相性が悪いのは当然だろうが」
ルイーダもまた吐き捨てるように言葉を返した。
だが、負け惜しみのような言葉に対して男から返ってきたのは嘲笑であった。
「ハハッ、運がないのは君の方だったな。私の炎は不死鳥の炎。永遠の祝福を授ける不死の鳥が纏う強力な炎だ。そんなすごい男の魔法にキミ如きが勝てるわけがない」
その言葉を聞いた瞬間にルイーダの中にある何かが動いた。
今の自分は魔竜ファブニールを宿しているはずだ。ファブニールの使う黒い炎も使えたはずだ。
邪悪な闇の炎ならば目の前の男が使う不死鳥の炎なども焼き尽くすことは可能なのではないだろうか。
ルイーダの口角が上がる。彼女の中においてはこの考えを思い付いた瞬間に勝利を確信したといってもよかった。
だが、相手を油断させなければこの炎は使えない。相手が自分の元に近付いてきたところに向かってこの炎を放つのだ。
油断している自分に不死鳥の炎を放とうとしたところで、こちらから黒い炎を放ってやるのだ。
今のルイーダは誇り高き女騎士というよりは邪悪な魔女になった心境であった。
だが、相手は悪党だ。焼いてしまって問題はない。
そのためルイーダは負けそうになっている自分を演じなくてはならなかった。
「あぁ、もうだめだ。お終いだ。せっかく繋いだ命もここで途絶えてしまうんだッ!」
ルイーダは悔しげに拳を作り上げて、地面の上へと振り下ろしていく。
「へぇ、やけに素直になったじゃあないか」
「あぁ、キミの魔法を見ていると自分の無力さというのを痛感させられたよ。どうか、最後の慈悲としてキミの力で私の元に近付いて、炎を放ってくれないか?」
「いいだろう。こんなおれでも慈悲くらいはあるさ」
男はそう言って顔に笑みを浮かべながらルイーダの元へと近付いていく。
そしてルイーダの前に立つと、掌に小さな炎を作り上げていった。
「さてと、最後になるが何か言い残すことはあるか?」
「ないな。一思いにやってくれ」
男は顔に和かな笑みを浮かべながら掌をルイーダへと向けた。
その瞬間であった。自身の体に漆黒の黒い炎が纏わり付き、彼自身の体が業火によって焼き尽くされてしまったのは。
当初男は自分の身に何が起こったのかを理解できなかった。
だが、すぐに状況を整理して、自身の身に得体の知れない炎が宿っていることに気が付いたのである。
先ほどの表情から一転して悲鳴を上げて泣き叫ぶ男に向かってルイーダは淡々とした表情で言い放った。
「キミが近付いた瞬間に私は素早く剣を抜いてな。そこに魔竜ファブニールの漆黒の炎を纏わせたんだ。後はキミの掌を突き刺すだけでよかった。どうだ?もうそろそろ掌に空いた痛みがぶり返してくるだろ?」
ルイーダからの指摘を受けた男は自身の掌から迸るほどの血が溢れかえっているのを確認した。
言葉にならないような悲鳴が男の口から漏れていく。
「殿下はお忙しいんだ。貴様らなんぞに構ってはいられん。冥府に行っても二度と私たちの前に顔を表すなよ」
ルイーダは黒焦げへと変わっていく男を見下ろしながら淡々とした口調で吐き捨てた。
そこからは一瞥もすることなく、その場から立ち去っていく。
ルイーダの頭の中にはもうカルロのことなどなかった。
頭の中にあったのは背後に隠れているジェラルドを連れ、カールに絡まれている夫を助けにいくだけだった。
それ故カルロの元に現れた謎の黒い影の存在に気がつく事はなかった。
謎の黒い影は消し炭に近付きつつあるカルロに向かって問い掛けた。
「なぁ、お前あいつに復讐したいか?」
消し炭になりつつあるカルロはこの時首を縦に動かしのかはわからない。
だが、謎の影は勝手にカルロの時代の中へと入り込んだのである。
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