隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

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護衛編

皇太子ジェラルドをめぐる一連の出来事

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「おい、開けろよ!」

ジードフリード・“ジード”・マルセルは皇太子ジェラルドが滞在するホテルの前で大きな声で抗議の言葉を浴びせていた。
ジードからすれば相手が皇太子であろうが、そんなことは知ったことではない。
自分からすれば妻を奪った憎むべき敵なのだ。その相手に抗議の言葉を飛ばすのは当然の権利であるともいえた。

中世の暗黒時代であるのならばそんなことを主張した時点で剣で斬り殺されていたであろうが、人々に多くの意識が芽生えた竜歴1000年の時代であるのならば抗議を飛ばしたくらいで殺されるなどということにはならないはずだ。

実際長靴の王国から皇太子に着いてきたと思われる門番の兵士たちも困った顔をするばかりで自らを追い立てたり、殴り付けたりするような真似をすることはなかった。

ジードが門番を相手に一時間ばかり揉めていると、ホテルの扉が開いて、意気揚々とした表情を浮かべたルイーダの姿が現れたのだ。

ジードは慌ててルイーダの元へと駆け寄ると、その体を強く抱き締めて無事を祝ったのである。
だが、再会に大きな喜びを見せるジードとは対照的に当のルイーダは当惑するばかりであった。
二人は近くの喫茶店でこれまでの経緯を話し合うことになり、ジードはコーヒーを片手に妻からの話を聞くことになった。

ルイーダによれば執事に身柄を拘束された後で多くの兵士たちに囲まれてホテルのレストランへと連行されたのである。
ルイーダ曰く、もし、個室にでも連れて行かれるようなことがあればその場で抗議の言葉を告げて暴れる予定であったらしい。
流石は誇り高き女騎士。例え相手が自らの忠誠を用いて尽くすべき相手であったとしても自分の身に危機が及べば躊躇なく剣を振るえることにジードは誇りを持ったのであった。

感心した表情を浮かべたまま話を聞いていると、ルイーダもジードの意図を察したのか、フフッと笑って見せたのである。
ルイーダはジードが落ち着いたのを確認してから話を続けていく。

ルイーダはホテルのレストランへと連れ込まれ、ジェラルドが腰掛けていた奥の席の向かい側に座らされたのである。
ジェラルドはルイーダに向かってまずはいきなりその身柄を拘束して連れて行ったことを詫びた。

この言葉を聞いた時にルイーダはジェラルドが婦人からのウケがいい理由を察することができた。
そして、お詫びともてなしを兼ねた豪華な朝食を運ばせた。その光景を見たジェラルドは満足そうに笑っていたが、ルイーダは朝食を済ませたばかりであったので、ありがた迷惑な話であった。

しかし、騎士として国王や王族から出されたものを断るのは失礼にあたる。
それ故にルイーダは無理をして口をつけることになったのだ。腹は空いていなかったが、引き攣った笑みを浮かべながらなんとか根性で飲み込んだのである。
それから食後のお茶を注文し、本格的な話し合いが行われることになった。

ジェラルドはお茶を啜った後に言った。

「ルイーダ嬢、あなたは確かに伝説の騎士ルイーダ・メルテロイのようだ」

『ようだ』という仮定法は正しくない。ルイーダは本人なのだから。
ルイーダは訂正を求めたが、ジェラルドは苦笑するばかりである。

大方、ルイーダの言葉を冗談だとばかり思い込んでいるらしい。
少し不満気ではあったものの、これまでもあったことなので仕方がない。
ルイーダはやむを得ずに了承するより他になかった。
そうでなければ話が進まないような気がしたのだ。

その後はお互いに腹を割っての話し合いだ。ジェラルドの本題というものはこの国を見て回る間、自身の騎士として同行してほしいというものであった。
ルイーダはこの申し出を断ったものの、ジェラルドの熱心な勧誘と夫であるジードも同行させることを条件を飲まされてしまったのだ。
学校側にも話を付けるということで欠席している間も授業期間として受け入れられるらしい。

こうして後顧の憂いは全て断ち切られることになり、話がまとまった後は適当に雑談を行ってお茶会は終了することとなった。
椅子を立ち上がった後は護衛の兵士たちに連れられ、入口まで連れられ、その後は一人で外へと出たのだ。目的はジェラルドが出発する時間まで時間を潰すことであった。幸いなことにここはなんでも揃っている街だ。暇潰しにことは欠かない。とはいえ、食後のお茶を楽しんだり、手荷物をまとめるくらいの時間であろうから、そこまでの長い時間があるとは思っていない。恐らく長時間の時間を浪費する映画館は無理であろう。

そのためルイーダは近所にある喫茶店を物色しようと考えている時に入り口で抗議の言葉を出していたジードと出会ったのであった。
そして、時間潰しの目的もあり、現在はこうして二人でお茶を飲んでいるのだ。
ルイーダは得意気な顔を浮かべ、人差し指を掲げている訳もわかる。
ジードはルイーダの説明には納得がいった様子であったが、その後はジェラルドではなく、ルイーダに抗議の言葉を飛ばしたのである。

というのも、自分までもが皇太子の護衛に同行されているとは思いもしなかったのだ。『寝耳に水』という諺があるが、今のジードの現状を表すにはピッタリの言葉ではないだろうか。
ジードとしては確かに、他の魔銃士よりは強い自信があるものの、妻であるルイーダのような活躍を見せることは不可能であった。

いや、それ以上にジェラルドの護衛役などは務めたくないという思いが強かったのだ。
人の妻を平気で掠め取るような男になどを誰が守りたいものか。
ジードはそうした思いから護衛の任務を拒否しようとしたのだが、

「では、仕方がない。お前が嫌なのならば私一人だけで殿下をお守り致すことにしよう」

と、言われてしまえばジードも同行するより他になかった。

騎士というものは国王や王族を護衛することが職務なのだ。
古代の騎士であるルイーダからすればジェラルドの申し出を受けるのは当然のことなのだろう。
彼女の両目からは絶対に受けるのだ、という確固たる信念のようなものを感じられた。こうなればいくら止めても無駄なのだ。
やむを得ない。ジードはルイーダの意見に同調するより他になかった。

何より、ジェラルドに妻を掠め取られるのが嫌で仕方がなかったのだ。
ジードが決心を固めたのと、皇太子の護衛兵が迎えに来るのはほとんど同じ頃合いであった。
街の観光をするついでにジードも改めて目通しを行う予定であるらしい。

二人は兵士の案内の元にジェラルドへと連れられ、その脇を護衛の騎士としてガッチリと固めていく。
ジードは本来であるのならば嫌なはずであるのだが、俗に言う『それはそれ、これはこれ』という方針で騎士としての任務を果たすべくルイーダと共に周囲を警戒していた。

もし、皇太子の命を狙うような人物が現れたのならば二人の連携プレイで捕獲もしくはそのまま仕留めてしまうつもりでいた。
この時の二人の脳裏に浮かぶ仮想敵は大祭を機に行方をくらましたヒルダを含む悪魔兄弟たちだ。
ジェラルドの命を奪い取り、ガレリアと長靴の王国に混乱をもたらすという目的で襲ってくるという可能性はゼロではないのだ。

もし、襲ってくるとするのならばまずヒルダが幻覚の虫を見せ、その後にヴィットリオとヨハンの両名が雷の球を喰らわせてくるというものだ。
ヒルダの虫が幻覚だと知っている自分たちであるのならば容易に対処することができるだろうが、それを知らない他の兵士たちならば大混乱に陥ってしまうに違いない。

そこを自分たちが立ち塞がり、虫など眼中にも入れずにヴィットリオとヨハンに襲い掛かっていくというシュミレーションを行なっていた。
だが、そうした心配は午前中のうちは杞憂で終わったらしい。

気が付けばジェラルドは地元のレストランへと足を踏み入れ、二人も昼食を取ることを許されたのだ。
だが、油断はできない。本日の予定としてはまだ午後の時間帯が残っている。二人は気を引き締めて臨んでいくつもりであった。

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