隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

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大祭編

祭りの本番

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「よしっ、こんなもんでいいかな?」

祭りの飾り付けを終えたジードはルイーダに向かって振り返ると言った。

「あぁ、上出来だ。素晴らしいぞ」

ルイーダは街いっぱいに飾りつけられた飾りを見つめながらその飾り付けに十分な働きを見せた自身の夫を称賛した。
街中に飾り付けられた品々はどれも見事な色合いを放ち、宝石となって街という名の婦人を引き立てていたのである。

ルイーダが生きていた頃にはこのような豊潤な予算が費やされた立派な祭りなど開かれていなかった。
いや、多くの事情が込み合い開く余裕などなかったというべきだろう。いずれにせよ見事なものだ。

ルイーダが飾り付けられた街並みを眺めていると、背後から自身の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ルイーダがゆっくりと振り向くと、そこにはケニーとのフォレーンゲルダ家の兄妹が自身の足元へと跪いていたのである。

二人とも幼いながらも国立魔銃士育成学園に入学を許された天才である。
故にルイーダも目を掛けている存在なのだ。ルイーダは二人に対して顔を上げるように指示を出すと、二人は顔を上げて不審な男たちが自分たちを見張っているということを報告した。

「不審な男?」

「えぇ、ぼくらの後をコソコソと嗅ぎ回っているんです」

「そうそう。二人組の男だったかな?二人とも確かマナエ党の制服を着ていたような気がする」

「マナエ党の?」

ルイーダが片眉を上げる。というのも、コニーの発した言葉が信じられなかったからだ。マナエ党といえばこの国全体を支配する巨大政党である。それ故に尾行の際に制服を着て自分たちの身元が割れるようは愚かな真似をするとは考えにくい。
そうなると、必然的に真犯人はマナエ党の名を語る何者かということになる。ルイーダは顎の下に手を置いてその犯人候補を頭の中で導き出していく。

ルイーダが導き出した犯人像というのは少し前に自分とジードのアパートを襲撃したあの二人組の男である。
あの二人であったのならばマナエ党に罪を着せるために制服を身に纏っていたとしてもおかしくはない。
ルイーダはコニーに付き纏ってきた相手の顔が見えたかを問い掛けた。

すると、コニーはその問い掛けに対して首を横に振った。物陰に隠れており、慌てて追い掛けようとしたら高速魔法を使用して逃げたので追いかけられなかったのだという。
顔こそ見えなかったものの、高速魔法を用いたということからルイーダの中ではあの二人が犯人であるという可能性が高まっていったのだ。

加えて、連日のニュースであの二人組が妙な事件を起こしていることも知っている。かつてのエルリカ・キュルテンにも匹敵するような狂人が祭りに紛れ、善良な一般市民を殺傷する可能性も高い。
それ故にルイーダは祭りの当日における生徒会の見回りを厳重にするように指示を出す。
多くの市民たちは祭りの日を楽しみにしていたが、悪魔兄弟なる得体の知れない二人組の暗躍もあって、例年通りというわけにもいかなくなってしまった。
街に住む人々の全員が期待と不安に胸を抱きながら当日の朝を迎えた。

このような状況の中で、もし、大雨にでもなって延期もしくは中止になれば一部の人々は大喜びしたに違いない。少なくとも悪魔兄弟に対して絶大な恐怖を抱く人々は確実に両手を挙げて喜んだだろう。
だが、そんな人々の期待を裏切るかのように当日は心地の良いまでの晴れ日であった。雲一つない青空がどこまでも続いている。

ルイーダは校庭の上で貸し出された馬に跨りながら古ぼけた作り物の鎧に身を固めながら青空を見上げていく。太陽の光が反射されたので咄嗟に片目を閉じ、手で直射日光が降り掛かるのを防ぎながらどこまでも続くような青空を見つめていく。
その中でルイーダは決意を新たにした。何があろうとも、この祭りに参加する人々を守るのだ、と。

ルイーダは作り物の古ぼけた衣装ではあったものの、馬や剣は本物であった。
剣は自前のものであるが、馬は自分のために生徒会の有志たちが良い馬を借り入れてくれたものだ。
やはり持つべきものは友である。ルイーダは芦毛の馬の毛を片手で撫でた後に馬の歩を進めていく。
例年通り古の衣装に身を包んだ生徒たちは馬に跨りながら街を練り歩くのである。

ルイーダにとってこの練り歩きというのは単なるパフォーマンスには留まらず、悪魔兄弟や自分を殺すためならばなりふり構わないマナエ党から人々を守るために行う見張りでもあるのだ。
背後で自分と同じような衣装に身を包んでいる夫もいる。例え何があろうとも負けるはずがない。
ルイーダが街の中心部まで馬を進めていった時だ。

突然ルイーダの目の前にマナエ党の党員の服を着た二人組の男が機関銃を持って現れた。二人組の男の正体は山高帽を深く被っていることと覆面で顔を被っていることから正体はわからない。
だがら丸い弾倉の付いた単純な形の機関銃を構え、その銃口が真っ直ぐにルイーダを捉えていることから自分たちにとっての脅威であるということは変わらない。

ルイーダは咄嗟に馬の尻を叩き、手綱を用いて馬を飛び上がらせた。背後にいたジードもそれに続いて馬を飛び上がらせる。同時に二体の馬が飛び上がったのだ。ルイーダの手腕は凄腕の騎士であったから行えるものであろう。

ルイーダの馬を操る技術のお陰で二人組は捉えていた標的を失い、メチャクチャに機関銃を乱射する羽目になってしまった。機関銃の銃口が上空を向いてしまったおかげで人々に死傷者が出なかったことは幸いであった。
こうなれば祭りの見物どころではない。人々は蜘蛛の子を散らすように辺り一帯に逃げ出していった。

二人組が人々を追い掛けようとしたところで、ルイーダは二人組の前に立ち塞がるように馬を着地させた。
そして、素早く剣を抜き、馬から飛び降りかと思うと二人組に向かって躊躇うことなく剣を振り放ったのである。
ルイーダの剣捌きは見事であった。一閃のうちに銃口と弾倉とが斬り落とされ、機関銃を使用不能に陥らせたのである。
ルイーダは慌てた二人組に向かって剣を突き付けながら問い掛けた。

「お前たちは何者だ?悪魔兄弟か?はたまたマナエ党の党員か?」

「正解は前者だよ。お前さんにとっても面識のある人さッ!」

山高帽に覆面の男がニヤリと口元を歪ませた。かと思うと、回し蹴りを喰らわせてルイーダの手元から剣を弾き落とす。
ルイーダが剣が落ちたことが一瞬認識できずに咄嗟に両手を眺めていると、覆面の男は続けて回し蹴りを喰らわせようとした。
ルイーダはその蹴りを自らの腕で防ぐと、そのまま男の顔に向かって強烈な一撃を叩き込んだのである。
ルイーダの拳を喰らった男はよろめきながら地面の上に倒れ込む。
戦いは始まったばかりである。ルイーダは戦いを継続するために拳を繰り出した。

だが、肝心のもう一人の男のことを忘れていた。男はどうやら懐の中にジャックナイフを隠し持っていたらしい。
ナイフを右手に構えて剣の代わりに手の中で振り回しながらルイーダへと近付いていく。

戦いに夢中になっているルイーダの背後から男がナイフを構えながら飛びかかって行こうとした時だ。
この男もすっかりと忘れていたであろうジードが男の前に立ち塞がったのである。
ジードは牙で出来た剣を突き付けながら男に向かって問い掛ける。

「お前はブ男の方か?それともあのハンサムフェイスの方なのかい?」

「あいにく、おれはブ男の方だぜ。残念だったなあいつじゃあなくて」

ヨハンは覆面を脱ぎ捨てた。それから改めてナイフを構えた。
ジードの剣先はハッキリとヨハンを捉えていた。ヨハンの方も同じであるらしい。手に持っていたナイフをジードに見せつけるためペロペロと舐め回していた。

両者はしばらく火花を飛ばしながら無言で睨み合っていたが、先にヨハンが電気の魔法を繰り出したことによって先端は切り開かれた。
ヨハンの電撃を交わした後でジードは剣を構えながら突っ込んでいく。
逆袈裟懸けと呼ばれる形で振り上げられた剣を見てもヨハンは焦ることなく冷静に交わしたのである。















あとがき
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。昨日は多くの事情が重なってしまったことによって多忙となってしまったので投稿に費やすための時間が削られてしまい、結果として一日空くことになってしまいました。
最後に改めてお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした。
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