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探索編

ある平穏な日の出来事

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「ふぅ、やっぱり、外は気持ちいいぜ」

「そうだな。折角、二人の家の扉も直ったしな」

バスケットを下げたルイーダは夫の心地良さを更に良くするために、最近になって入っためでたいニュースを口にする。
それから、郊外の草原の上に座ると、真っ白なテーブルクロスを敷き、その上にバスケットを置いて、その周りを囲む様に二人で座る。
ジードはピクニックの籠を開いて、その中で二人で作ったサンドイッチを取り出す。
ジードが先に頬張ったのはハムサンドである。ルイーダが頬張ったのはたまごサンドである。

二人はしばらくの間、口の中に頬張ったサンドイッチを夢中になって齧っていたが、やがて、全てのものを食べ終えると、たった一言、大きな声で同音に叫んだ。

「美味い!」

それからは二人で作ったサンドイッチを夢中になって頬張っていく。自分の意思とは無関係に手がサンドイッチを取るのである。
やがて、二人は満足し終えるまで食べ終えると、そのまま大の字になって、テーブルクロスの近くの草原の上に寝転ぶ。
寝転んだタイミングで二人で同じであったためか、互いに顔を見合わせると、大きな声を上げて笑っていく。

おかしくてたまらないらしい。喉の奥からこみ上げてくる笑いを二人は止められなかった。
その後はしばらく、雲一つない心地の良い青空を眺めたり、二人の間に吹きつける優しい風に身を委ねたりしていたのだが、やがて、ジードがタイミングを見計らったかの様に口を開く。

「なぁ、ルイーダ。オレたちって生きてるんだよな?」

「何を言うんだ?唐突に」

ルイーダは思いもよらない質問に苦笑していたが、やがて隣で真面目な顔をしているジードの顔を見て、考えを変えたらしい。隣の夫と同じく真剣な顔をして、夫の話の続きを待った。
暫くして、彼はいつになく真剣な口調で先程の問い掛けの続きを語っていく。

「もし、あの金貨がマナエや北の国の連中に渡ってたらオレたちや世界はどうなってたのかなと思ってさ」

「グレゴリーのいう様に破滅の時が訪れたのかもしれないな。あれはまさしくその種子だったんだろうな」

ルイーダは自身の腕を枕にして、再度寝転がり、目を瞑り、あの時の出来事を追体験していく。
フォックス博士がグレゴリーに連れ去られ、預かった金貨を取りに来たのはアロイドの戦いが終わった翌日の事である。
化学の課題を二人で勉強している時に二人が不意に部屋の中に姿を表したのだ。
やけに肩をビクビクと動かしているフォックス博士を他所にグレゴリーはいつもと同じ調子で言った。

「お前たちの持つ破滅の種を我々に渡してもらおうか?」

グレゴリーは手を伸ばして、二人に金貨を要求する。
彼女は迷う事なく、衣装箪笥の中に隠していた金貨を取り出し、グレゴリーへと差し出す。
グレゴリーはそれを受け取ると、放り投げ、そ自身の得意魔法である青い炎でそれを溶かしていく。
その場で悲観して頭を抱えるフォックス博士の事などを無視しての行動である。
終わった後に彼は低くて静かな声で言った。

「これでひとまずは『滅亡』を先に伸ばす事ができた。だが、忘れるな。人間がある限り、人間が自然に害を与え続ける限り、常に破滅の種は転がっているんだ」

グレゴリーはそれだけを告げると、怯えるフォックス博士の襟首を掴んで、その場から姿を消していく。
二人は暫くは名残惜しそうに消えた跡を見つめていたが、再び課題へと戻っていく。
化学は夏の課題として課せられた最後の課題であったから、これを済ませれば、二人は自由であったのだ。

今回のピクニックは課題と護衛の任務が同時に終了した事に対する記念であったといってもいいだろう。
ジードは隣で眠っている妻と同じ格好で草の上に寝転がっていたのだが、ふとある疑問が思い浮かんだので、口に出した。

「そういえば、あの金貨って中はどうなってたんだ?」

「あぁ、あれなら、一度試した時に開いたぞ」

ルイーダによれば、金貨の真下に隠しスイッチが存在し、そこを押すと、真ん中の部分が回転し、空洞となっているスペースが見えるのだという。
そこに一枚の紙が入っていたのだという。

「恐らく、それが潜水艦設計図のラストだろう。だが、金貨ごと焼かれたから、完成は永遠にないだろうな。あの女の野望もあっさりと潰されてしまったわけだ」

「あの女……あぁ、総統のことか」

「その通り、また女に煮湯を飲ませてやった。それだけで、私は胸が躍るんだ」

ルイーダはそういうと立ち上がり、まだ寝そべっているジードに向かって手を差し伸べていく。

「きっと、またあの女は私たちを襲ってくるだろう。だが、その度に私が刺客を倒し、お前を守ってみせるよ」

「フン、オレだってお前を守ってやるよ。なにせ、オレはファヴニールだからな。お前にその魔法を与えたのはオレってことを忘れるなよ」

「何を言っている。ファヴニールなら、もう少し厳かに喋るぞ」

「幾ら記憶を取り戻したからって、あんな喋り方ができるか!」

顔を真っ赤にして突っ込みを入れる夫に対し、ルイーダはクスクスと笑う。

「お、お前何を笑ってるんだよ!」

「いやさ、お前がそんな風に顔を真っ赤にして怒るのも珍しいなと思ってさ」

「な、なんだと!い、言わせておけば!」

ジードは飛びかかっていくが、ルイーダはそれをあっさりと交わし、草の上を駆けていく。

「こ、こいつ待て!」

ジードは慌てて追い掛けていくが、追い掛けていくうちに既に顔が笑顔へと変わっていた。
二人は延々とこの追いかけっこを楽しんだ後に草原の上で戯れあっていく。
子供の様に無邪気な遊びであったが、二人は心の底から楽しんでいた。

二人でそのまま優しく抱擁し合っていると、ジードが不意に口を開く。

「なぁ、ルイーダ。最近になって思い始めたんだが、やっぱり、お前の事は一度、うちの親に紹介した方がいいよ」

「やっと決めてくれたらしいな?ちゃんと挨拶ができるかは不安だがな」

「お前ならできるさ。なにせ、伝説の騎士なんだからな」

ジードはルイーダの元から離れ、立ち上がると、親指を立ててみせる。
ルイーダはそれを見て、顔を輝かせながら首を縦へと動かす。
金貨の様に輝く二人を紅に金を混ぜた鮮やかなスポットライトが照らしていく。
まるで、今後の二人を祝福するかの様に。















あとがき
今回で、この作品は休止とさせていただきます。打ち切りの様な終わり方になった事に関しては弁明の仕様もありませんが、少しばかり急用が出来たというのが、今回の休止の主な理由です。
しばらく経てば、再開させていただくので、見捨てずに読んでくだされば幸いです。
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