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探索編
エルダー・リッジウェイの切り札
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アロイドは娘の夫を名乗る気弱そうな青年と切り結びながら、自身が召喚された時の事を思い返していく。
アライドは総統官邸の地下室に呼び出された。呼び出した相手が相手であったので、彼は当初は剣を鞘から抜かんとする勢いであった。
だが、エルダーによって、メルテロイ家を再び騎士にするという約束につられ、彼は自身の娘と娘婿を殺害する事を決意したのである。
彼にとって、それは涙を流す程に辛い条件であった。だが、それよりも家の再興という騎士としての使命を優先する事に決めたのだろう。
それでも、北の国なる国のスパイからダイナマイトを取り上げたのはなぜだろうか。
あのまま二人を爆死させていたのならば、殺す手間が省けたというのに。
アロイドは目の前の娘婿のジードなる青年と剣を打ち合いながら、その事を考えていたのだが、ついぞ結論は出なかった。
代わりに、アロイドは圧倒的な力を持って、ジードの手から剣を打ち落としたのである。
「ルイーダを守りたい。お前のその気持ちは伝わってきた。だが、お前の力ではルイーダを守る事などできん」
「そうかよ。けど、おれはあんたなんかに認められたくもねぇけどな」
それを聞い途端にアロイドの両眉が大きく上がった事に気がつく。
ジードは口元の端を吊り上げたまま、話を続けていく。
「だって、そうだろ?なんの因果があって、自分の娘を殺そうだなんて考える父親の許可を貰わなくちゃあいけないんだよ。それに、あんたの許可なんか貰わなくたって、うちの親にはルイーダとの結婚の許可は得てんだよ。だから、おれはあいつの大事な人なんだよッ!貴様なんぞに認めてもらわなくてもなッ!」
ジードは自身の剣を杖の代わりにして立ち上がり、その剣先を突き付けながら叫ぶ。
この時の彼の叫びにはまさしく彼の中にある怒りの感情の全てが凝縮して詰め込まれていた様にルイーダには思われた。
ジードはその威光の前に魔法が解除されるという事などにも構わずに、剣を構えて突っ込んでいく。
目の前で大きく弧を描き、そのまま、左斜め上から切り掛かっていくジード。
だが、彼の攻撃は敢えなく破れ去ってしまう。それでも、彼は叫び声を上げながら、アロイドへと立ち向かっていく。
だが「無駄だ」という一言の元に一蹴されてしまう。本当に手も足も出ない。
剣の腕も、魔法もアロイドは全てにおいてジードの上をいっていた。ルイーダにとってもそれは全く同じであった。
二人掛りでもまるで敵わない相手に、二人に向かって、アロイドは真っ白な神々しい光を纏わせた剣を持ちながら言った。
「いい加減に諦めたらどうだ?楽にしてやるぞ」
「誰が降伏するものかよ。お前の様な人手なしだけは絶対に許さないからな」
「お前は私の事を人手なしと罵るが、お前に騎士の世界の事がわかるか?」
「んなもんわかんねぇよ!そんなクソみたいな事を理由に、子供に死ねなんていう最低の親なんだよ。貴様はッ!」
「き、貴様、おれを愚弄するのか!?」
「うるせぇ!愚弄してるんじゃねぇよ!真実を告げてるんだッ!」
ジードはそう叫ぶと、もう一度、竜の炎を纏わせ、アロイドを襲っていく。
だが、その炎は虚しくも、光の魔法の威光により、アロイドに届く前に宙の上で、消されてしまう。
そればかりではない。ジードの持つ剣も光が発せられるのと同時に、粉々に砕かれてしまう。
「本当はお前の剣まで壊す真似はしたくなかったのだが、お前の態度に私も気が変わった。騎士の誇りをもって対応するのは、相応しくないと判断したのだ」
「あんたにとっての騎士道というのは随分と身勝手なものなんだな。かつての英雄としての誇りまで、エルダーに売り渡してしまったのか?」
ジードの煽りが効いたのだろう。彼は大きく剣を振り回しながら、ジードの元へと向かっていく。
ジードは止むを得ずに腰に下げていた自動拳銃を構えて、対処したのだが、その銃弾は高速魔法により、避けられていく。
同じ魔法を扱えて、その動きが見えるというのはなんとも厄介なものである。
普通の魔銃士や魔銃士候補生であるのならば、即座に殺されてしまうところを少しでも、生き延びる可能性を上げてしまうのだから。
彼が死を覚悟した時だ。ルイーダが目の前に現れて、父の剣を自身の剣を用いて防ぐ。
そして、竜の黒い炎を纏わせながら、背後で怯えるジードを叱責していく。
「情けないぞ!ジードッ!」
その瞬間に彼は思い出す。彼女と会った日の出来事を。
あの時の彼は正真正銘の劣等生で、常に学園の抱えていた生徒を区分するための理不尽な制度に怯えていた。
だが、彼女はその制度を変えた。たった一人で。魔銃士育成学園に大きな風穴を開けたのだ。
そして、今も自身を変えようとしている。決して勝てないという思い込みから脱却させようとしている。
ジードは銃を腰に戻すのと同時に、魔法によって剣を作り出し、それを握り締めて、ルイーダと肩を並べる形で、目の前の男の剣を共に受け止めていく。
「ジード!?お前!」
「ありがとうな。お前のお陰で大事な事を思い出したよ。一生懸命にやってみるって事をなッ!」
ジードは一旦はアロイドの剣へと押し込んでいた自身の剣を引き戻し、それから、今度はもう一度勢いを付けて叩き込む。
同時に、相手の体が衝撃のために大きく揺れ動いていく。
その隙をジードは逃さない。彼の懐の中へと潜り込み、至近距離で引き金を引く。途端に乾いた音が鳴り響き、アロイドが地面の上へと落ちていくの姿が見えた。
フロイドはこのまま死ぬのだろうか。彼が胸を抑えて、息苦しそうに喉を引っ掻いた時である。彼の体を真っ白な光が包み込み、彼の体を新たに構成していく。
真っ白な光が彼の体から引いていくのと同時に、彼は何事もなかったかの様に、ジードへと襲い掛かっていく。
ジードは慌てて剣を盾にして防ごうとしたのだが、ルイーダは彼を押しやり、父の剣を黙って受け止める。
「ルイーダッ!」
ジードは慌てて、妻の名前を叫ぶが、彼女の顔に焦りの表情は見えない。
それどころか、太々しく笑っているではないか。
「さてと、我が父よ。ここで第ニ試合を始めようではないか?もっとも勝つのは先程とは違って、私の方だがな」
「……ほざくなッ!我が剣に勝てると思うておるのか?」
「思っているさ。私はルイーダ・メルテロイだからなッ!〈竜乙女〉の二つ名を持つだッ!」
アライドは総統官邸の地下室に呼び出された。呼び出した相手が相手であったので、彼は当初は剣を鞘から抜かんとする勢いであった。
だが、エルダーによって、メルテロイ家を再び騎士にするという約束につられ、彼は自身の娘と娘婿を殺害する事を決意したのである。
彼にとって、それは涙を流す程に辛い条件であった。だが、それよりも家の再興という騎士としての使命を優先する事に決めたのだろう。
それでも、北の国なる国のスパイからダイナマイトを取り上げたのはなぜだろうか。
あのまま二人を爆死させていたのならば、殺す手間が省けたというのに。
アロイドは目の前の娘婿のジードなる青年と剣を打ち合いながら、その事を考えていたのだが、ついぞ結論は出なかった。
代わりに、アロイドは圧倒的な力を持って、ジードの手から剣を打ち落としたのである。
「ルイーダを守りたい。お前のその気持ちは伝わってきた。だが、お前の力ではルイーダを守る事などできん」
「そうかよ。けど、おれはあんたなんかに認められたくもねぇけどな」
それを聞い途端にアロイドの両眉が大きく上がった事に気がつく。
ジードは口元の端を吊り上げたまま、話を続けていく。
「だって、そうだろ?なんの因果があって、自分の娘を殺そうだなんて考える父親の許可を貰わなくちゃあいけないんだよ。それに、あんたの許可なんか貰わなくたって、うちの親にはルイーダとの結婚の許可は得てんだよ。だから、おれはあいつの大事な人なんだよッ!貴様なんぞに認めてもらわなくてもなッ!」
ジードは自身の剣を杖の代わりにして立ち上がり、その剣先を突き付けながら叫ぶ。
この時の彼の叫びにはまさしく彼の中にある怒りの感情の全てが凝縮して詰め込まれていた様にルイーダには思われた。
ジードはその威光の前に魔法が解除されるという事などにも構わずに、剣を構えて突っ込んでいく。
目の前で大きく弧を描き、そのまま、左斜め上から切り掛かっていくジード。
だが、彼の攻撃は敢えなく破れ去ってしまう。それでも、彼は叫び声を上げながら、アロイドへと立ち向かっていく。
だが「無駄だ」という一言の元に一蹴されてしまう。本当に手も足も出ない。
剣の腕も、魔法もアロイドは全てにおいてジードの上をいっていた。ルイーダにとってもそれは全く同じであった。
二人掛りでもまるで敵わない相手に、二人に向かって、アロイドは真っ白な神々しい光を纏わせた剣を持ちながら言った。
「いい加減に諦めたらどうだ?楽にしてやるぞ」
「誰が降伏するものかよ。お前の様な人手なしだけは絶対に許さないからな」
「お前は私の事を人手なしと罵るが、お前に騎士の世界の事がわかるか?」
「んなもんわかんねぇよ!そんなクソみたいな事を理由に、子供に死ねなんていう最低の親なんだよ。貴様はッ!」
「き、貴様、おれを愚弄するのか!?」
「うるせぇ!愚弄してるんじゃねぇよ!真実を告げてるんだッ!」
ジードはそう叫ぶと、もう一度、竜の炎を纏わせ、アロイドを襲っていく。
だが、その炎は虚しくも、光の魔法の威光により、アロイドに届く前に宙の上で、消されてしまう。
そればかりではない。ジードの持つ剣も光が発せられるのと同時に、粉々に砕かれてしまう。
「本当はお前の剣まで壊す真似はしたくなかったのだが、お前の態度に私も気が変わった。騎士の誇りをもって対応するのは、相応しくないと判断したのだ」
「あんたにとっての騎士道というのは随分と身勝手なものなんだな。かつての英雄としての誇りまで、エルダーに売り渡してしまったのか?」
ジードの煽りが効いたのだろう。彼は大きく剣を振り回しながら、ジードの元へと向かっていく。
ジードは止むを得ずに腰に下げていた自動拳銃を構えて、対処したのだが、その銃弾は高速魔法により、避けられていく。
同じ魔法を扱えて、その動きが見えるというのはなんとも厄介なものである。
普通の魔銃士や魔銃士候補生であるのならば、即座に殺されてしまうところを少しでも、生き延びる可能性を上げてしまうのだから。
彼が死を覚悟した時だ。ルイーダが目の前に現れて、父の剣を自身の剣を用いて防ぐ。
そして、竜の黒い炎を纏わせながら、背後で怯えるジードを叱責していく。
「情けないぞ!ジードッ!」
その瞬間に彼は思い出す。彼女と会った日の出来事を。
あの時の彼は正真正銘の劣等生で、常に学園の抱えていた生徒を区分するための理不尽な制度に怯えていた。
だが、彼女はその制度を変えた。たった一人で。魔銃士育成学園に大きな風穴を開けたのだ。
そして、今も自身を変えようとしている。決して勝てないという思い込みから脱却させようとしている。
ジードは銃を腰に戻すのと同時に、魔法によって剣を作り出し、それを握り締めて、ルイーダと肩を並べる形で、目の前の男の剣を共に受け止めていく。
「ジード!?お前!」
「ありがとうな。お前のお陰で大事な事を思い出したよ。一生懸命にやってみるって事をなッ!」
ジードは一旦はアロイドの剣へと押し込んでいた自身の剣を引き戻し、それから、今度はもう一度勢いを付けて叩き込む。
同時に、相手の体が衝撃のために大きく揺れ動いていく。
その隙をジードは逃さない。彼の懐の中へと潜り込み、至近距離で引き金を引く。途端に乾いた音が鳴り響き、アロイドが地面の上へと落ちていくの姿が見えた。
フロイドはこのまま死ぬのだろうか。彼が胸を抑えて、息苦しそうに喉を引っ掻いた時である。彼の体を真っ白な光が包み込み、彼の体を新たに構成していく。
真っ白な光が彼の体から引いていくのと同時に、彼は何事もなかったかの様に、ジードへと襲い掛かっていく。
ジードは慌てて剣を盾にして防ごうとしたのだが、ルイーダは彼を押しやり、父の剣を黙って受け止める。
「ルイーダッ!」
ジードは慌てて、妻の名前を叫ぶが、彼女の顔に焦りの表情は見えない。
それどころか、太々しく笑っているではないか。
「さてと、我が父よ。ここで第ニ試合を始めようではないか?もっとも勝つのは先程とは違って、私の方だがな」
「……ほざくなッ!我が剣に勝てると思うておるのか?」
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