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探索編

魔法国家救済党結党記念式典

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「魔法国家救済党万歳!新党首万歳!」

新党首と新人でありながら、参謀に抜擢された女とが新たな党旗の前で握手をしながら、新党の結党を僅かな面々に祝われていく。
この時、党員にカメラのシャッターを切られ、この時の写真が後年、エルダーのロケットの中に入る写真となる。
二人は握手を終えると、僅かなメンバーたちに手を振っていく。

「党旗も完成したし、網領。印象も全て完成した。我々が党として準備すべき事は全て終えたわ」

「それで、次は何をするんだ?エルダー?」

「新聞広告……次にビラかしら?とにかく、多くの人を集めるの。この党の問題点は人々から相手にされない事よ。要は人々に相手にされる事が大事なの」

エルダーは人差し指を立てながら、「人」の重要性について語っていく。
アントンはその姿に魅入られていた。同時に、彼女個人にも強く惹かれていた。
世間ではいけない恋ほど心が躍るというが、今回のアントンの場合はその定義にピタリと当て嵌まっていただろう。

アントンは結党式の晩にエルダーを街の小さなレストランへと呼び出した。
自身の負担で頼んだフルコース料理のメインディッシュが届くのと同時に、彼は一世一代の勇気を振り絞り、彼女に告げた。

「実はキミと過ごすうちに好きになってしまったんだ。た、頼む。私と付き合ってくれないか?」

「いいわよ」

アントンは耳を疑った。というのも、誘った相手がいとも簡単に自身の申し出を受け入れたからである。
といっても、エルダーにとっては彼からの告白は願ったり叶ったりであったのだ。
彼女は昔から宮廷魔導師として国を動かしてきた時から、その時の王や皇帝と関係を結び、それを盾に意のままに操るというのが彼女の手法であったからだ。

アントンをこのまま裏から操れば、御の字というところである。
目論見通りにアントンは彼女の忠実なる駒として働き、彼女の気を良くさせたのである。
演説も自由にさせてくれたし、敵対者には率先して殴り掛かった。

演説を行う会場を取るための段取りに、ビラの作成や新聞の広告への奔走。
彼はなんでもしてくれた。一方で、エルダーの方もケアを忘れてはいない。
アントンと付き合いを続け、食事を共に行なったり、共に舞台を観に行ったりもした。

彼女はその中で、舞台音楽の素晴らしさ並びに舞台使われた作品に込められたテーマを知り、それを活用する事を決めたという。
こうして、エルダーの力により、魔法国家救済党は植えられた種が土の中から芽を出し、木に育っていくかのように伸びていったのである。
共に党を盛り立てていく中で、いつしか、エルダーは彼に本気で恋をしてしまっていた事に気が付く。

それまでの雲のように長い長い人生の中で見つけられたなかった感情を持ったといっていいかもしれない。
彼の素朴な人柄に恋焦がれていったともいいだろう。
だが、ある時に彼が彼女を裏切った。
『政党の統合』という形で自身の政党を裏切り、『浮気』という形で個人を裏切ったのである。

しかも、その裏切りは地続きであった。別の政党の党員の女に言い寄られ、彼女に勧められるままにマナエ党と別の党の『統合』を決意したのだという。
アントンの部下からの密告により、この事を知った彼女は激昂しながら、党の建物があった一軒家へと向かっていく。

そこには一人で、他の党と交わる事により、マナエ党の特色が薄れるというエルダーの放つ言葉を理由に『統合』に反対する他の党員たちを説得しようと試みるアントンの姿が見えた。
そんな彼の襟を思いっきり引っ張り、自身の元に引き寄せると、今度は強制的に体を回させ、彼の胸ぐらを掴む。

「……あんたの事を信じていたのに……裏切り者ッ!裏切り者めッ!」

エルダーはアントンを激しく揺さぶると、強い力を込めて、彼を地面の上へと突き飛ばす。
尻餅をついて、頭を抱えるアントンを突き飛ばし、赤面する彼を見下ろしながら言った。

「私はもうこの党を抜けるわ。あんた一人でこの党を運営するのね」

「ま、待ってくれ!マナエはもうキミの演説なしではやっていられないんだッ!た、頼む!」

エルダーはその言葉を聞いて、腕を組み、情けなく追いすがる恋人を見下ろしながら厳かな声で告げた。

「なら、私を党首に任命しなさい。私が居ないとやっていられないんでしょ?」

「わ、わかった」

アントンは苦渋の決断の末に多くの党員たちが見守る中で、エルダー・リッジウェイを党首に任命したのである。
『統合』の可能性は喪失し、彼女はその後、合法的な方法を用いて、統合を狙っていた敵対政党を潰したのである。
その後、アントンを唆そうとした女は拉致され、エルダー本人によって、ありとあらゆる苦痛を用いて殺害された。

「人の男を取るなんて、あんた、どういう了見なの?人のものを取るのって、泥棒のやる事よね?そう、学校で習わなかったの?ねぇ?」

エルダーは生きていようがいまいが、何度もアントンを唆した女に向かって問い掛けたのである。
彼女を残虐な刑に処す一方で、アントン本人はお飾りの役職に就任させ、そのまま平凡な一生を送る権利と仕事が終わった後に自身を癒させるという権利を与えたのである。
これで、アントンが年老いて死ぬまで、共に居られる。エルダーはこの状況に陥っても、まだアントンを愛していたらしい。

エルダーはアントンもそうだろうと考えていたのだが、アントンはそうではなかったらしい。
自身の地位に不満を持ったのか、はたまた、浮気相手とはいえ、愛した女性を殺された恨みからなのか、彼は党の不穏分子を集めて、反乱を起こしたのである。
一時はエルダーにその銃口を向けるものの、エルダーの秘書の手によって射殺されてしまう。
その後の反乱分子は自分たちの象徴を失った事により、瓦解してしまう。

以後は反乱が起きる事もなく、多くの人々の支持を受け、マナエ党は国家の頂点へと君臨したのである。
エルダーは長い回想を終えると、そのまま手元のガレリアの歴史について記された本を読んでいく。
彼女にとって歴史の本というのは自身が体験した出来事を追体験しているだけに過ぎない。

なにせ、長い時間の間に裏で、王や皇帝を裏から操ってきたのは彼女なのだから。
だが、ガレリアの歴史を読む中で、マナエ党の歴史について記された僅かなページだけはめくろうとする指が強制的に止まってしまう。
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