隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

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探索編

ヨハン・フォン・ドンゼンブルグ動く!

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ヨハンの強みは魔法の技術力もあるのだが、それ以上の強みとして挙げられるのが魔物の使役の仕方である。
魔物というのはこの世に絶えて久しいが、新たに作り出せるのであるのならば問題はあるまい。ヨハンはガレリアの中に存在する昼間でも生い茂る木々のために『黒い森』と呼ばれる森の中で生成の儀式を行なっていた。
魔物の生成というのは、あまり人には見られたくない儀式なのである。

ヨハンが難しい顔をしながら、久し振りの生成魔法を続けていると、不意に目の前が大きく光ったかと思うと、大きな爆発音が生じ、ヨハンを大きく吹き飛ばす。
ヨハンは地面の上に頭を打ったがものの、起き上がるのと同時に、彼は自身の目の前に現れた魔物を見て、思わず言葉を失ってしまう。
だが、落ち着けを取り戻すと、ようやく自身の本音を語っていく。

「わ、わしはこんなものを生み出してしまったのか……」

そう、ヨハンの前に立っていたのは真っ直ぐに尖った竜の角に、蛇の顔に兎の耳を持ち、ケンタウロス種の様に人間の半身に馬の下半身を持った怪物であったのだから。
その癖に、人間がベースである筈の人間の半身には所々に蛇と思われる鱗が生えていた。
その名前のわからぬ怪物はヨハンの前に現れると同時に深々と頭を下げていく。

「お前は一体何者だ?なんの怪物だ?」
「私はあなた様によって生み出された生き物です。それだけです」

「ならば、怪物よ。お主に聞きたい事がーー」

怪物はヨハンの言葉を遮ると、信じられない様な冷たい声で告げた。

「言葉に気を付けてもらいたい。私は怪物などという呼称で呼ばれるのは甚だ不愉快だ。あなただって自分を魔法が使えるからという理由で、化け物と普通の人々に指を指されたら嫌でしょう?」

「……それもそうだな。なら、お前の名前を教えてくれ」

「……そうですね。名前などありませんが、敢えて名乗らせていただくのならば、『ヨルムンガド』と致しましょう。今後はそうお呼びくだされば幸いです」

「また珍妙な名前だな」

「ええ、自分でもそう思います。珍妙な名前です。ですが、こう名乗らなくてはいけない様な気がしてーー」

「わかった。もういい。さてと、我が息子よ。お前とわしとの間で来てもらいたい場所がある」

「場所ですか?」

ヨルムガンドが首を傾げる。

「あぁ、ある街に居る女が持っている金貨を私と共に奪ってもらいたいのだ。それが済めば、二人でどこかで静かに暮らせるだろう」

ヨハンは少しばかり低い調子の声で、それでいて寂しげに言った。
ヨルムガンドには事情がわからないが、生みの親の表情から大体を察しられた様な気がした。
そして、何も言わずに生みの親の後をついて行った。

森の入り口にまで着くと、ヨハンは縮小の魔法を掛けると、そのまま魔物を小瓶の中に仕舞い込む。
ヨハンは杖を掲げると、そのまま転移魔法を利用して、彼女の街の住む場所を訪れた。














「批評文はこれで完成だな。随分といい文だと思うよ」

ジードは妻が書いたSF小説の批評文を読み終えるのと同時に賞賛の言葉を浴びせていく。

「ありがとう。昨日私が言った事に加えて、更にお前からの助言も取り入れた批評文だからな。まずバツを付けられる事はないと思うぞ」

ルイーダは鼻を高くしながら自慢げに言った。

「全く、お前という奴は……だが、内容は本当に良かったからな。……そうだ!お前が良い批評文を仕上げた褒美として、オレがお前に菓子を奢ってやろうと思うんだが、どうするんだ?」

「ほ、本当か!?」

「夫が妻に嘘を言ってどうするんだよ?いいものを奢ってやるよ」

「よし!今日はお前の奢りだからな!何にしようかな?プリンにアイスクリームに、それから、それから……」

楽しそうに指を折るルイーダに向かってジードは大きな声で釘を刺す。

「ま、待て!奢るといってもそんなには奢れんからなッ!一つだけだッ!」

ルイーダは不満そうに頬を膨らませていたのだが、すぐに笑顔を取り戻し、ジードにくっ付いて、街へと向かう。
この街では帰省や旅行のために寮を空けていない学生以外の人たちは夏の平凡な一日を送っているのである。
商社やら農作業や林業に携わる人たちが忙しそうに街を行き来する様子が見えた。

ジードに引っ張られる中で、ルイーダはデパートの食品コーナーに来ていた。
デパートでルイーダが頼んだのはプリンである。
柔らかくて弾力もあり、甘いプリンは目覚めてからのルイーダの褒美となっていた。

ジードはコーヒーだけを注文し、自分の目の前で太陽の様に眩しい笑顔を浮かべて、プリンを掬う妻を楽しそうに見つめていた。
世の多数の男たちが自身の最愛の人に好物を贈る理由がなんとなく理解できた様な気がした。
ジードはプリンを名残惜しそうに楽しそうに食べる終える妻の姿を見た後に勘定を済ませ、帰る前に本屋に立ち読みに向かおうかと席を立ち上がった時だ。

ふと、自身と妻とが先程まで座っていた席の上に一人の老齢の男性が座ったのを見た。
その男性のおかしなところは顔全体に真っ白な髭を生やしていた事やグレゴリーの様に紫色のローブを身に纏っていた事だろう。
現代の文明社会の象徴ともいえるデパートとはかけ離れた姿の老人に、ジードが肩をすくめていると、席に座った老人が不意にジードへと声を掛けた。

「お主が、ジードフリード・マルセルじゃな?」

突然、自身の名前をフルネームで呼ばれた事に思わず両肩をすくませてしまう。
ルイーダは萎縮するジードを自身の背後へと隠し、老人に向かって問い掛けた。

「お前は一体何者だ?なぜ、私の夫の名前を知っている?」

「……多くの魔法を使用できる大魔法使いであるのならば、知っていて当然ではないかな?ルイーダ・メルテロイ殿」

「その口振りだと、貴様も金貨を狙っているのか?」

「そう聞くのは愚問というものではないかな?」

老人は杖を持って席の上から立ち上がると、入り口へと歩いていき、二人の元で耳打ちした。

「ここでは狭いので、どこか広いところで戦わんか?」

「……街の外がいい。山の中ならば誰にも文句は言われんだろう」

老人はそれを聞くと、二人の腕を掴むと、そのまま転移魔法を用いて、山の中へと連れていく。

「……ここは?」

「お主らの希望していた場所じゃよ。では、そろそろ始めさせてもらおうかな」

老人はそういうとローブの懐から小瓶を取り出し、閉じていたと思われていた蓋を開き、そこから自身が作り出した世にも奇妙な怪物を解き放っていく。

「来るぞ!ジード!」

ジードは竜の魔法を使って、二つ分の剣を作り上げると、一本を自分に、もう一本を妻に渡し、肩をくっ付けて、怪物へと対峙していくのであった。
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