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探索編

ゴッドファーザー、アレクサンドリア。氷のアレクサンドリア

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アレクサンドリアはその口調が多少は乱暴な事を除けば、平凡な一家の長男として産まれた。
その人生もある時期までは真っ直ぐに伸びた街路樹のように真っ直ぐに平凡な道を歩んでいた。
平凡に学校に行き、平凡に家庭を持ち、平凡に食料品雑貨店での仕事に勤め、それで平凡に家族に囲まれて命を落とすのが彼に課せられた運命なのであった。

ところが、この運命な川というのは気まぐれにその方向性を変える厄介さを持っている。
彼もその憂き目に巻き込まれ、平凡という本流の流れから大きく逸脱した道を歩め羽目になったのである。
それが、前の大きな戦争であったといってもいいだろう。

彼は兵士として駆り出され、愛する妻や二人の子供ーー彼の自慢の長男と長女に別れを告げ、戦場に向かったのだ。
戦場というのは釜を開けた地獄の蓋そのもので、周りで多くの人たちが一瞬の間にその命運を天へと預ける事になったのである。
地獄を勝ち抜く中、突如として、彼の中であたかも稲妻が走ったかの様な衝撃を受けて、それまで眠っていた才能が生み出されたのである。

彼は地獄の中を駆け、活路を見出したのである。彼に直感が天より授けられた瞬間であった。
なお、駆け抜ける最中に、彼は妨害行為を行った二人の兵士を撃ち殺した。
これが、彼が初めて血の味を覚えた瞬間である。
この時の引き金を奪う時の衝動が、銃口を向けられた際に怯える敵の兵士の顔が彼の頭の中に深くこびりつく事になる。

彼は上官の元に辿り着くなり、的確で冷静な報告を行った。この時の報告を覚えていた上官が戦後に上に報告した事で、彼が諜報員となるきっかけが与えられるのだ。
また、彼は仲間を連れて逃げる最中にたまたま、地元の木こりが使用していたと思われる斧を用いて、味方のために敵を倒そうしたところ、あの世の冷気を思わせるような冷気が追手を襲い、全滅へと追い込み、彼らの命を救う事になったのであった。
これが、天が彼に魔法の才能を目覚めさせた一件であったといってもいいだろう。

戦後、彼は戦場での出来事や、そこで感じた諸々の感情の事など飽きた品物を道端に捨てるかの様にあっさりと忘れ、家族の元へと帰り、前の食料品雑貨店での職場へと復帰し、またしても平凡な人生を送る予定だった。
だが、革命後の不安定な政権は一人でも多くの優秀な人材を欲しがっており、それは諜報機関も例外ではなかった。
冷静さ、残虐さ、的確な報告の仕方、そして、強力な魔法を併せ持つアレクサンドリアという男を欲したのも無理はあるまい。

彼はある日、配達先のアパートから店に戻る最中に黒い外套を覆った男に突然、取り囲まれ、丸い形をした四人乗りの車の中へと連れ込まれたのである。
突然の事に、彼は狼狽えながら抗議の声を飛ばす。

「ま、待て!お前たち一体誰なんだ!?お、おれをどうするつもりなんだ!?」

「フッフッ、アレクサンドリア・デロリッチ。君は選ばれたのだ」

運転手と思われる男が口を出す。

「え、選ばれたって?」

「その通り、キミは我が諜報機関の諜報員として選ばれたのだ」

「ちょ、諜報機関だって!?」

「その通り、我が諜報機関はキミの様な立派な人材を求めているのだ。キミの戦場での評価は聞いたよ。アレクサンドリア・デロリッチくん」

助手席の男が椅子にもたれかかり、手元の書類を眺めながら言った。

「キミの上官からの報告は詳しく聞いてるよ。キミは兵士よりも、諜報員に向いているよ」

「ま、まさか!あんたら、おれを拐ったのは……」

「その通り、あんたを優秀な諜報員にするためさ」

アレクサンドリアが体をバタつかせてその場から離れようとした時だ。
密かに隣の席に座っていた男がアレクサンドリアの耳元で囁いていく。それも、彼を諜報機関へと入れるための決定的な一言を。

「まぁ、落ち着けよ。パパさん。あんただって、息子や娘をいい学校にやりたいだろ?もっといいものを食わせてやりたいだろ?もっといい服を着せてやりたいだろ?諜報機関に入って功績を立てれば、それが可能になるんだぜ。それとも、あれか?あんた、息子さんや娘さんが不慮の事態に陥ってもいいのかい?」

飴と鞭をチラつかせての脅迫により、彼は男泣きをして、諜報機関の訓練施設へと送られる事になったのだった。
訓練施設では先の報告の成果に加えて、警戒心の分野でもトップの成績を記録した。おまけに人好きのする性格でもあるので、諜報員としては一流であった。
ただ、機関の教官が苦労したのは一般教養についての分野である。

例えば、歴史の問題。連れ去られる前の平凡な食料品雑貨店員としての彼の数少ない娯楽は痛快騎士道物語を読む事であったので、その騎士が出てくる時代の話が舞台となっている時代については詳しく書けるのだが、それ以外の時代や肝心の出来事については何一つ記述できないのである。
歴史ですらこうなのだから、数学に至っては一問も解けなかった。
そのために、多くの教官が彼の家庭教師となり教えたのだが、結局、彼が一般教養の問題で得点を得る事はなかった。

マナー問題についても同様で、幾度も行われる授業の中で、彼が理解できたのは、彼は社交界に向いていないという事だけである。
それでも、実技の授業が優秀であるため、卒業はできた。
このため、教官一同は諜報機関にこう報告した。

『教養ナシ、礼儀作法のあり方皆無。社交界は向かず。代わりに、工作員としての才能アリ。直ちに前線へと派遣すべし』

こうして、アレクサンドリア・デロリッチは工作員としての仕事を果たしていき、その地位を立派に築き上げていったのである。
そのお陰もあってか、彼の息子は立派に大学で勉学に励み、今では北の国の中の法廷で優秀な弁護士として務め上げている。
彼の娘は立派な大企業の役員と結ばれ、アレクサンドリアとその妻は多くの孫に恵まれる事になった。

また、彼は家族や隣人には諜報員である事を隠し続けていた。
そのため、彼の事をよく知る人々は家族や隣人は彼の『良き父、良き夫、良き隣人』という面を知っていたとしても、今の様に敵とはいえ、少女に戦斧を向ける彼の顔など想像もできないに違いない。
それ程、彼は二面性にとんでいたとも、上手に諜報員としての顔を隠蔽していたともいえるだろう。

果たして、どちらも彼にとっては演じている顔なのだろうか。難しい話だが、答えとしてはどちらも本当だという考えが一番的確であるに違いない。
というのも、彼にとっては『ゴッドファーザー』としての家族への顔、冷酷な諜報員としての顔。
どちらも本物であるからだ。

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