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探索編

北の国とは何か

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北の国というのは大昔に北の王国として成立し、右往曲折を経て、北の帝国となり、最近になって北の国へと改名した歴史を持つ由緒ある国なのである。
ただし、その成立には謎も多く、初代国王のイワンは宇宙から来た人間だとも最近では囁かれている。
イワン王は宇宙からの超次元的な技術を用いて、古来の王を屈服させ、北の端に領土を割譲してもらい、そこに自身の国を建国したのだ。

その証拠にイワン王は耳がエルフのように尖っていた他に、口元にはドワーフのような大きな髭が下がっており、顔はゴブリンとオークを合わせたような醜悪な顔をしていたという。
イワン王は突然、北の地に現れて、空よりの未知の軍隊を率いて、近隣の王を屈服させて王となったと噂されている。
建国神話に書かれている、この描写だけでも、最近話題になっている宇宙人説を上手く立証している事に気がつく。

ジードが北の国に関する本をベッドに腰掛けながら、読んでいると、自分たちに与えられた寮の机の上で懸命に地理社会の問題に臨んでいる妻の姿を見つめた。

「やはり、千年前とは違うな。千年前よりも覚える事が多くて、文明社会というのは本当に厄介だ」

「お言葉だがね、その文明社会が野蛮な時代を終わらせたんだぜ。奴隷制度が野蛮だと気付けたのも文明社会のお陰だし、古来から存在していた亜人種への敵対意識が和らいだのも文明社会のもたらした先進的な考えのお陰だ」

「……ボヤいたのは悪かったと思うが、そこまで言う必要があるか?」

「最も、おれだって過去の全てを否定するつもりはないぜ。騎士道の精神は素晴らしいしな」

「そうか、あっ、そうだ。ここ、教えてくれ。よくわからん」

「どれどれ」

ジードはベッドの上から立ち上がると、妻に勉学を教えに向かう。
社会と地理の問題をニ、三点教えると、ルイーダはそのまま夫の教えをヒントに問題を解いていく。
オーランジュ王国から帰った日の翌日から始めた夏休みの宿題は順調にその量を減らしているように思われる。

上手くいけば、生徒会長が宿題を忘れるという最悪の事態は阻止されるだろう。
ジードは安堵の溜息を吐きながら、宿題を必死で解く妻の姿を眺めていた。
やがて、必死になっている姿に胸を打たれるものがあったのか、彼は寮の各部屋に備え付けられている水差しを取り出し、コップを取り出すと、必死に勉学に励む妻の側に置く。

ルイーダは小さく会釈すると、そのまま夢中になって問題を解いていく。
翌日は騎士の会の修練の日であるが、このまま問題を解けば間に合うだろう。
ジードは口元を微かに緩めながら、必死に問題を解く妻の後ろ姿を眺めていた。











翌日になり、騎士の会の会合が行われ、ルイーダ・メルテロイを交えて、練習試合が行われた。
木剣による模擬決闘に模擬合戦。そして、木剣による激しい戦闘が繰り広げられていく。
他の場所では騎士道物語から見る騎士道精神の強さを論じている姿が見られた。

そこに参加しているのはハンス。彼は唾が飛びかねない勢いで、騎士道物語について語らい、その多くの物語から見る騎士道精神を伝えている。
一方で、木剣による試合においては幼少であるのにも関わらず、ケーニッヒことケニーが連戦を重ねていた。
コニーは試合を石の上に座って、眺めているルイーダのお付きのような立ち位置を命じられたのが不満だったのか、頬を膨らませており、稀に模擬決闘に臨む、兄にその姿を見せていた。
彼女はコニーの気持ちがわかるのか、ルイーダは黙って、コニーの頭を撫でていく。そのまま、彼女は黙って自身の木刀を差し出す。

「あ、これって」

ルイーダは何かを察した彼女に答えるように、口元に三日月型の笑みを作った後に小さく首を縦に動かす。

「よーし。お兄ちゃんが終わるのを待って、あたしもやってやるぞー!」

コニーが与えられた木剣を握りながら、強く唇をギュッと結んでいると、近くの草陰から気配を感じ、彼女は小さな音で木剣を地面の上に置くと、腰に下げていた拳銃を取り出し、その銃口を草陰へと向けていく。
ルイーダも試合に夢中になっているふりをしているが、内心では草陰の気配に気付いているのだろう。
それまで、近くに置いていた剣を腰に下げたのが、その大きな証拠である。

恐らく、騎士の会が行う会合をいきなり中断させれば、騎士の会の面々が困惑するからだとの思いからだろう。
コニーはルイーダの思いを汲み取ってか、拳銃の安全装置そのものは解除したものの、未だに発砲はしていない。
無言で、拳銃を構えて草陰の相手を待ち構えていた。

先に動いたのは草陰の相手である。いきなり、ルイーダに向かって発砲をしたかと思うと、季節外れの分厚い外套を羽織った男が姿を現す。
男は拳銃を構えて、突っ込もうとしていくが、ルイーダが高速魔法を活用する事により、男の元へと近付き、男の顔を思いっきり殴っていく。
超高速で差し迫っていたので、男には一瞬の間でルイーダが彼自身の前へと差し迫ったかのように見えただろう。

ルイーダは地面の上に倒れた男を外套を引っ張りながら、騎士の会の面々の元へと引っ張っていく。
騎士の会の面々の元に乱暴に放り投げると、すかさず、倒れた男の頭にルイーダがコニーから借りた拳銃の銃口を突き付ける。

「これで貴様は逃げられない。この拳銃で死にたくなければ、貴様が知っている限りの情報を吐いてもらおうか」

「……殺せ!どうせ、この命はとっくに国家に捧げた身……死など恐ろしくはないわッ!」

「そうか、ならば、本当に試してやろうか」

ルイーダは銃の撃鉄をスライドさせ、その音を彼の間近で聞かせた。
だが、それでも、彼は黙っていた。やむを得ないので、ルイーダは空に向かって引き金を引いていく。
拳銃の乾いた音が男の間近で聞こえたのだろう。男は小さな悲鳴を上げる。

「これで、この拳銃の恐ろしさもわかるだろ?貴様らの目的を吐いてもらおうか?」

だが、それでも答えは返ってこない。男は歯を食い縛りながら、必死にその恐怖を抑えつけていた。
ルイーダがそろそろ、指の爪でも剥がそうかと思案していた時だ。不意に男の命は後方から飛ばされた大きな槍によって、男の命は永遠に失われてしまう。
男の頭は槍が深々と突き刺さっているためか、辺り一面に男の中身をぶち撒ける程であった。

ルイーダが慌てて、後方を振り向くと、そこには黒鉄の鎧を着た巨漢の男が立っていた。この時代遅れの鎧を着た男が外套の男を殺した張本人である事は間違いあるまい。
ルイーダは両目を開いて、その男を鋭い目で睨む。
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