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冒険編

オレンジの国での休暇の過ごし方

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オーランジュ王国の休暇の過ごし方の鉄板といえば高原の上で思いっきり寝転がる事か、或いは牧場でその隙間時間を利用して寝転がる事にあるだろう。
この旅行に来てから、ずっと忙しかったので、今日ばかりはのんびりとさせてもらおうではないか。
二人はそう決意して、オーランジュ王国の牧場で、乳搾りの体験や動物との触れ合いを楽しんでいた。

牛、馬、羊、鶏などの家畜が二人を出迎え、それらの家畜と触れ合い、時には高原でふざけ合いながら過ごしていると、あっという間に陽が傾いている事に気がつく。
美しいオレンジ色の夕焼けが大の字になって寝転んでいる二人の体を照らしていた。

「なぁ、ジード。お前、この旅行の事を後悔してるか?」

「まさか、この旅行に来たからこそ、オレはあの力を手に入れる事ができたんだぞ、でなかったら、お前の背後で今も怯えてたよ」

「確かにな。しかし、お前がファヴニールだったとは……些か驚きだ」

「オレだって想像もしてなかったし、今でも信じられんよ。オレが今のオレになる前まではあんな竜だったなんて」

ジードは遠くを眺めながら呟く。彼の視線は地平線の中に沈みゆかんとする夕焼けを眺めていた。
その夕焼けと何を重ねているのかは彼女の知るところではない。
彼女は何も言わずに、ジードの隣に寄り添い、共に沈みゆこうとする夕焼けを見つめていた。

「なぁ、ジード。決闘の時にな、お前が止めてくれたの実は嬉しかった」

ルイーダの頬が赤く染まっているのは夕焼けのせいばかりではあるまい。
そんな妻の気持ちがわかるためか、無言で彼の肩にもたれかかっていく。
ルイーダはそんな夫の肩を優しく抱き締めていく。

「お前といつまでもいられたらいいな」

ルイーダはやがて、自分にもたれかかって眠ってしまった歳下の夫に向かって優しい声で言った。実はこの時、ジードは聞こえていたのだが、恥ずかしくなって、黙って寝たふりをしていた。
だが、それでも心の中では同意の言葉を叫んでいた。
翌日、二人は牧場から宿に戻った二人は名残は惜しいものの、ガレリアへと帰る支度をしていた。

本来であるのならば、二人はガレリアになど帰る事などはできないのだが、二人があくまでも偽名を語った事とその後に人々に厳守を頼んだ事、なによりも攻めてきた敵がカメラなどを使う暇もなかった事が大きく影響しているだろう。
二人はエーリヒに渡された鉄道のチケットを使って、無事にガレリアへと帰る事ができた。
その帰宅途中の機関車の中、ルイーダは暇になったのか、ジードに自身が考える未来の姿を語っていく。

「なぁ、ジード。私は思うんだがな、未来は今よりももっとすごくなっているんじゃあないのか?」

「例えば?」

「そうだな。例えば、映画が家に居ながらでも観られるようになったりとか」

「ハッ、ないない!」

ジードは小馬鹿にしたような態度で否定した。ルイーダは意地悪な夫の態度に唇を尖らせたのだが、自分が考えた未来予想図はまだまだあるので、いつも通りの声で続けて語っていく。

「音楽がレコードを通さずにどこでも聞けるようになったりとか」

「レコードを通さずにって、それは今でも楽器を持っていけばできるじゃあないか」

ジードは明確な事例を持ち出して反論に及ぶ。だが、ルイーダとしては頭の中で彼がそういう反論を持ってくるとは思い、自身が考えていた案をぶつけていく。

「楽器を持ってきて歌うのとは違うんだ。なんか、こう歌手の歌う曲だとか、オーケストラの曲だとかがそのまま聴けるんだ」

「それを、家でも外でも?バカらしい。どんな原理だよ」

ルイーダの未来予想図は全て、ジードによって否定されてしまう。
だが、ルイーダはくじけない。むしろ、晴れ晴れとした表情を浮かべて、彼に向かって微笑む。

「じゃあ、そんなのができたら、私に罰金を払ってくれるな?」

「いいよ。そんなものはできる可能性は限りなく低いと思うけどな」

「よし!言質は取ったぞ!今言ったようなものができたら、私に罰金を払ってもらうぞ!いずれ、私の考えた未来予想図が当たれば、その罰金を貰うからな!その時まで、お前はずっと私のそばにいるんだ!」

ジードはルイーダのその言葉を聞いて、先程の質問の意味を理解した。
彼女は確かに暇なのもあったのだろうが、なによりも、昨日の言葉を聞いていないと思っているジードに改めて伝えたかったのだろう。
そんな思いを汲み取り、ジードは満面の笑みを浮かべて答える。

「当たり前だろ!これからも、よろしくな!」

ジードがルイーダへと手を伸ばすと、彼女はその手を受け取り、ジードに向かって微笑む。
列車が到着し、そのまま自分たちの街へと帰ると、既に街には街灯がついていた。

「やれやれ、すっかりと遅くなってしまったな」

「さてと、帰ったら、宿題をやらなくちゃあな。夏休みの宿題は厄介だからな。溜め込んでおくと、最後の日に泣きを見る羽目になっちまう」

ジードは何気ない口調で言ったのだが、その言葉を聞いて、横に立っている妻が酷く怯えている事に気が付く。

「ジード。明日からでいいだろ?今日は旅の疲れがあるんだし……」

彼女は声を震わせながら懇願した。

「駄目だ。明日から、明日からって伸ばすと、必ず、最終日になるんだから」
だが、彼女の懇願はあっさりと蜘蛛の糸でもちぎるかのように断ち切られてしまう。

「そ、そんなァ~」

「お前、あんなに想像力があるんだから、大丈夫だろ?」

「そ、想像力と学力は全く別の問題なんだ!た、頼む!」

「駄目だ。生徒会長が宿題ができてないなんて、洒落にもならないしな」

「そ、そんなァァァァァ~」

彼女は悲痛な声を上げると、ジードに襟首を掴まれて、下宿へと連れ出されていく。
夜の闇の中に彼女の悲鳴が消えていく。
二人が自室のアパートへと戻っていこうとした時だ。
目の前に四角い眼鏡をかけた黒のネクタイに茶色のベストに白衣を着た男が息を切らしながら、ジードへと縋り付き、彼の中に無理矢理に金貨を押し込める。

「お、おい!あんた、何をするつもりだ!?」

「た、頼む!この金貨を預かってくれ!私は後で取りに来る!それまで、頼んだ!」

彼はそういうと、慌てて二人がそれまで歩いていた道を引き返していく。
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