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冒険編
決闘裁判の提案
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「『決闘裁判』ですって?」
エルダーは部下からの報告を受けると、たちまち両眉を上げるのと同時にその声も激しく上げて、報告を行った部下を叱責していく。
「そんな前時代的な事が受け入れられるわけないでしょう!やはり、進軍するしかないわッ!アクロニアが何よッ!ルドルフが何よッ!オーランジュ王国は我々、ガレリアが求める領土の一部なのよ!今すぐに軍隊をーー」
「しかし、総統!今の我々にアクロニアを相手にするような力がありますでしょうか?ここはアクロニアが介入した場合には決闘に応じ、アクロニアが介入しなければ、軍を進めるというのはどうでしょう?」
その部下の進言により、エルダーは今回の併合作戦による方針を新たに打ち出す事になった。武装した軍隊を引き連れ、その指揮を党一番の魔銃士に任せる事にしたのである。
「お任せを、総統!必ずや、その女を討ち倒し、総統に手にオーランジュ王国を貴女様の手に差し上げましょう」
そう意気込んだのはヴェルダー・マルセーナである。
ヴェルダーはサメのように鋭い瞳と銀貨のように光り輝く銀色の髪を下げた壮年の男である。おまけにその荘厳さを引き立てるかのように立派なカイゼル髭を生やしている。
彼は魔銃士育成学園時代より、好成績を収め、軍においてもエルダーが政権を掌握するよりも以前から所属しており、軍の中において、数々の軍功を立てていた真の猛者である。
魔法の強さだけであるのならば、あのフランツにもひけを取らないだろう。
いや、それどころか、若い故に実践の経験の浅いフランツをその実力で、大いに引き離すかもしれない。
ヴェルダーはエルダーの前に恭しく跪くと、振り向く事なく、総統の書斎を後にしたのだった。
「やっぱり、怖いよ」
男装の少女もといブリギッタは自分と同じく、国境に詰めかけていたエルフの猟師の脚に縋り付いていた。
脚を両手で震わせる少女の頭を優しく撫でて、エルフの猟師もといアイグノールは安心させた。
彼はいや、この場合、エルフの住民たちは他のオーランジュ王国の人間の住民たちと異なり、鉄砲の類は持っていない。
その代わりに、エルフの自慢である弓と矢を携えて現れたのだ。
時代遅れなのは理解しているのだが、それでも、長い間、この弓と矢で生きてきたのだ。
どうせ、死ぬのならば、この弓と矢で戦って華々しく死にたいというのが彼のせめてもの望みである。
決闘が受け入れられず、ガレリアと戦火を交えれば、そうなる覚悟はできていた。それに今日という日は絶好の死ぬ日なのかもしれない。
というのも、自身たちの真上には長らくオーランジュ王国そのものを照らしてくれた雲一つない青空が広がっているのだから。
だが、今朝になり、アクロニア帝国の軍艦と思われる大量の軍艦がオーランジュ王国の沿岸部に現れたという報道を聞いた時には安堵の息が漏れたものである。
これで、ガレリアが決闘に応じる可能性は高くなったのである。
多くの人々が武器を持って、いずれ現れるであろうガレリアの軍を待っていると、唐突に地面が揺れる音と空の方から凄まじい音が鳴り響くのを聞いた。
多くの人々がその音を聞いて上空を見上げると、そこにはガレリア国の国旗が描かれた無数の戦闘機。
そして、地面が揺れる音で上空から視線を地面へと戻した人々が目の当たりにしたのは大量の戦車の姿である。
彼らは悟った。ガレリアの実力を。ガレリアの最新式装備の充実性を。
誰もが青ざめた顔をしていたその時だ。
ようやく、馬の足音が鳴り響く。背後を見やると、そこには慣れない軍服を着た上に執事の膝の上に乗る形で栗毛の馬に乗った自身の国王の姿。
そして、その隣にはオーランジュ王国伝統の白色の鎧に身を包んだ二名の男の姿。その背後には鉄砲を下げた軍服の男たちや、黒色の馬に砲台を引かせたオーランジュ王国軍の姿が見えた。
その両国の軍隊の装備の差に唖然とする人々。
だが、それでも先頭の国王は懸命に声を張り上げて、相手の代表を呼び出す。
その声に応じ、現れたのは銀の髪に鮫のような目をしたヴェルダー・マルセーナ。
彼は相手が国王であるのにも関わらず、慇懃無礼な態度で謁見に臨んだ。
「ほぅ、これが、貴様の軍隊か?オレはこいつらが中世騎士道もの挿絵から飛び出してきたのかと身構えしたぞ」
「だ、黙れ!とにかく、先約にもあった通りに決闘を行うぞ!お互いに無駄な血は流したくなかろう?」
「ハッ、無駄な血だと?一方的に血を流すのは貴様らだというのがわからんのか?坊や」
幼少の国王は拳を強く震わせながらも、決して目を逸らす事なく、自身に対して無礼な口を聞く男を強い瞳で睨む。
だが、それでも男は無礼な態度を崩そうとはしない。
「なんだその目は?クソガキ、貴様、まだ自分が王で居られると思っているのか?」
「陛下にそれ以上無礼な口を利くな」
幼少の王とヴェルダーとの間に割って入ったのは真っ白な鎧に身を包んだ華麗な女騎士である。
「何者だ?貴様は?」
「る……いや、私の名前はエヴァ・グローリアッ!オーランジュ王国、随一の騎士にして、貴様の決闘の相手であるッ!」
ルイーダもといエヴァはその証拠と言わんばかりに柄頭に赤い宝石の付いた剣を鞘から抜くと、その剣先をヴェルダーに向かって突き付けたのである。
「戦火を巻き起こしたくはあるまい?それとも、貴様は女の私に負けるとでも思っておるのか?」
その一言が彼の中にある怒りの感情を刺激したらしい。
ヴェルダーは自身の腰に下げていた拳銃を抜くと、そのまま馬上から自身を見下ろす彼女に向かってその銃口の先を突き付けていたのだが、彼女は高速魔法を利用して、その場から姿を消していた。
どうやら、魔法を使用するのと同時に馬から降りたらしい。
ヴェルダーは慌てて、自身の目の前から迫る彼女に向かって引き金を引いていくが、銃弾は高速魔法を利用していれば、スロモーションで移動してしまうので、意味がない。
ヴェルダーは舌打ちをした末に、近くにいた自身の副官を盾のように目の前へと突き出す。
同時に、その盾を回避して回り込もうとしているので、そのまま足を突き出して、彼女を地面の上へと転がしていく。
彼女は勢いのまま国境付近の道から柵を突き破って、高原の中へと入り込む。
ヴェルダーがそれを追い掛けた事により、『決闘』は開始されたといってもいいだろう。
エルダーは部下からの報告を受けると、たちまち両眉を上げるのと同時にその声も激しく上げて、報告を行った部下を叱責していく。
「そんな前時代的な事が受け入れられるわけないでしょう!やはり、進軍するしかないわッ!アクロニアが何よッ!ルドルフが何よッ!オーランジュ王国は我々、ガレリアが求める領土の一部なのよ!今すぐに軍隊をーー」
「しかし、総統!今の我々にアクロニアを相手にするような力がありますでしょうか?ここはアクロニアが介入した場合には決闘に応じ、アクロニアが介入しなければ、軍を進めるというのはどうでしょう?」
その部下の進言により、エルダーは今回の併合作戦による方針を新たに打ち出す事になった。武装した軍隊を引き連れ、その指揮を党一番の魔銃士に任せる事にしたのである。
「お任せを、総統!必ずや、その女を討ち倒し、総統に手にオーランジュ王国を貴女様の手に差し上げましょう」
そう意気込んだのはヴェルダー・マルセーナである。
ヴェルダーはサメのように鋭い瞳と銀貨のように光り輝く銀色の髪を下げた壮年の男である。おまけにその荘厳さを引き立てるかのように立派なカイゼル髭を生やしている。
彼は魔銃士育成学園時代より、好成績を収め、軍においてもエルダーが政権を掌握するよりも以前から所属しており、軍の中において、数々の軍功を立てていた真の猛者である。
魔法の強さだけであるのならば、あのフランツにもひけを取らないだろう。
いや、それどころか、若い故に実践の経験の浅いフランツをその実力で、大いに引き離すかもしれない。
ヴェルダーはエルダーの前に恭しく跪くと、振り向く事なく、総統の書斎を後にしたのだった。
「やっぱり、怖いよ」
男装の少女もといブリギッタは自分と同じく、国境に詰めかけていたエルフの猟師の脚に縋り付いていた。
脚を両手で震わせる少女の頭を優しく撫でて、エルフの猟師もといアイグノールは安心させた。
彼はいや、この場合、エルフの住民たちは他のオーランジュ王国の人間の住民たちと異なり、鉄砲の類は持っていない。
その代わりに、エルフの自慢である弓と矢を携えて現れたのだ。
時代遅れなのは理解しているのだが、それでも、長い間、この弓と矢で生きてきたのだ。
どうせ、死ぬのならば、この弓と矢で戦って華々しく死にたいというのが彼のせめてもの望みである。
決闘が受け入れられず、ガレリアと戦火を交えれば、そうなる覚悟はできていた。それに今日という日は絶好の死ぬ日なのかもしれない。
というのも、自身たちの真上には長らくオーランジュ王国そのものを照らしてくれた雲一つない青空が広がっているのだから。
だが、今朝になり、アクロニア帝国の軍艦と思われる大量の軍艦がオーランジュ王国の沿岸部に現れたという報道を聞いた時には安堵の息が漏れたものである。
これで、ガレリアが決闘に応じる可能性は高くなったのである。
多くの人々が武器を持って、いずれ現れるであろうガレリアの軍を待っていると、唐突に地面が揺れる音と空の方から凄まじい音が鳴り響くのを聞いた。
多くの人々がその音を聞いて上空を見上げると、そこにはガレリア国の国旗が描かれた無数の戦闘機。
そして、地面が揺れる音で上空から視線を地面へと戻した人々が目の当たりにしたのは大量の戦車の姿である。
彼らは悟った。ガレリアの実力を。ガレリアの最新式装備の充実性を。
誰もが青ざめた顔をしていたその時だ。
ようやく、馬の足音が鳴り響く。背後を見やると、そこには慣れない軍服を着た上に執事の膝の上に乗る形で栗毛の馬に乗った自身の国王の姿。
そして、その隣にはオーランジュ王国伝統の白色の鎧に身を包んだ二名の男の姿。その背後には鉄砲を下げた軍服の男たちや、黒色の馬に砲台を引かせたオーランジュ王国軍の姿が見えた。
その両国の軍隊の装備の差に唖然とする人々。
だが、それでも先頭の国王は懸命に声を張り上げて、相手の代表を呼び出す。
その声に応じ、現れたのは銀の髪に鮫のような目をしたヴェルダー・マルセーナ。
彼は相手が国王であるのにも関わらず、慇懃無礼な態度で謁見に臨んだ。
「ほぅ、これが、貴様の軍隊か?オレはこいつらが中世騎士道もの挿絵から飛び出してきたのかと身構えしたぞ」
「だ、黙れ!とにかく、先約にもあった通りに決闘を行うぞ!お互いに無駄な血は流したくなかろう?」
「ハッ、無駄な血だと?一方的に血を流すのは貴様らだというのがわからんのか?坊や」
幼少の国王は拳を強く震わせながらも、決して目を逸らす事なく、自身に対して無礼な口を聞く男を強い瞳で睨む。
だが、それでも男は無礼な態度を崩そうとはしない。
「なんだその目は?クソガキ、貴様、まだ自分が王で居られると思っているのか?」
「陛下にそれ以上無礼な口を利くな」
幼少の王とヴェルダーとの間に割って入ったのは真っ白な鎧に身を包んだ華麗な女騎士である。
「何者だ?貴様は?」
「る……いや、私の名前はエヴァ・グローリアッ!オーランジュ王国、随一の騎士にして、貴様の決闘の相手であるッ!」
ルイーダもといエヴァはその証拠と言わんばかりに柄頭に赤い宝石の付いた剣を鞘から抜くと、その剣先をヴェルダーに向かって突き付けたのである。
「戦火を巻き起こしたくはあるまい?それとも、貴様は女の私に負けるとでも思っておるのか?」
その一言が彼の中にある怒りの感情を刺激したらしい。
ヴェルダーは自身の腰に下げていた拳銃を抜くと、そのまま馬上から自身を見下ろす彼女に向かってその銃口の先を突き付けていたのだが、彼女は高速魔法を利用して、その場から姿を消していた。
どうやら、魔法を使用するのと同時に馬から降りたらしい。
ヴェルダーは慌てて、自身の目の前から迫る彼女に向かって引き金を引いていくが、銃弾は高速魔法を利用していれば、スロモーションで移動してしまうので、意味がない。
ヴェルダーは舌打ちをした末に、近くにいた自身の副官を盾のように目の前へと突き出す。
同時に、その盾を回避して回り込もうとしているので、そのまま足を突き出して、彼女を地面の上へと転がしていく。
彼女は勢いのまま国境付近の道から柵を突き破って、高原の中へと入り込む。
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