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冒険編

ガレリアの理不尽な要求に応えるなかれ

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「ハァハァ、クソッタレ……胸を刺しやがって、お陰で先にヘルマンの奴が死んじまっただろうが。クソッタレめ」

横転したルイーダはそのままフランツから逃げようとしたが、フランツはもうすぐ死ぬ身とは思えないほどに強い力でルイーダの足首を掴みながら逃げるのを阻止するのだ。

「まぁ、聞けよ。これはお前らオーランジュにとっても価値のある話なんだぜ……」

「オーランジュにとって価値のある話だと?」

「あぁ、お前も知っての通り、アクロニアは併合を認めないって主張したよな?」

「その通りだが、それがどうかしたのか?」

「……あのルドルフの事だからな。これで引き下がるとは思えねーんだよ。恐らくだが、戦艦を進めているかもな。あのお花畑姫がなんと言おうが、ルドルフは介入するつもりだろう」

「ば、バカな!?下手をすれば戦争になるぞ!」

「なるかよ。バカ」

フランツによれば、ルドルフはいや、アクロニア帝国の海軍は正体不明の武装軍艦という主張のもとに或いは軍の不穏文化によって、乗っ取られた戦艦という名目で手助けするつもりらしい。
また、その他にも考えられるのはオーランジュ王国に住むアクロニア帝国人の保護という名目で進めるかもしれないのだ。

「……この世界の中でエルフに一番、人気があるのはオーランジュ王国だからな。だが、亜人種が一番多いのはアクロニア帝国だから。その中にはーー」

フランツは全てを言い終わる前に、激しく血の混じった咳を吐いたかと思うと、忙しくなく首を動かしたかと思うと、そのまま両目を瞑って倒れ込む。
この瞬間をもって、フランツもヘルマンの人格も既にこの肉体からは消失してしまったのだ。
ルイーダは剣を真っ直ぐに構えると、両目を閉じてフランツへと黙祷を捧げていく。

すると、既にジードの方も敵を片付けていたらしい。
大きな溜息を吐き、正気のない目を浮かべてルイーダの元へと歩いてきた。

「ようやくこれでガレリアの諜報員どもの件が片付いたのか……」

「そうだな。後はオーランジュ王国内に潜伏しているアクロニア帝国の諜報員と思われる二人と、ここから迫り来るであろうガレリアの軍隊だろう」

「いよいよ、ガレリアの軍隊を相手にするのか……あぁ、胃が痛くなってくる。今回の旅、行くんじゃなかったかも」

「そう言うな。その代わり、強くなれたではないか」

「確かに、もうあいつらにアパートを占領される事はないだろうけどさぁ」

ジードの愚痴に暫く付き合った後で、ルイーダは先程、フランツから仕入れた興味深い情報をジードに向かって話していく。

「アクロニア帝国が介入するのか?厳密にはアクロニアの力を持った武装集団だが、それでも、あの魔女の牽制には十分だろうな?或いはそれで、あの魔女が引かなければ、オーランジュ王国内のエルフの保護のために軍を動かすだろうな」

「そ、そんな事になったら、タダじゃあ済まないぞ!」

ルイーダは自分の夫の両目が信じられないと言わんばかりに大きく広がっている事に気が付く。
だが、彼があの後に続けようとした言葉からその理由は容易に察せられる。

「だから、ガレリアが兵を引かない限りはとんでもない事になるだろうな」

ルイーダはそれ以上は何も言わずに夫と共に宮殿へと戻っていく。












翌日。穏やかな陽が差し込む中で、オーランジュ王国内の書斎では穏やかとは離れた駆け引きが行われていた。

「我々はガレリアの併合など拒否する!オーランジュ王国はオーランジュ王国なのだッ!耳触りの良い言葉にはもう騙されぬ!」

「ヘ、陛下。よろしいのですか?陛下が総統閣下がご提案になられた併合案をお呑みにならなければ、オーランジュ王国は戦に巻き込まれますぞ」

そう進言するのはガレリア国より遣わされた外務庁の長官補佐官であるダミアン・ノイマンである。
彼は小柄な男であり、温厚とされる性格の男であったので、交渉に選ばれたのだが、その温厚さ故に幼い国王を宥められなかったのは計算不足というところだろう。
あろう事か、至極真っ当な叱責を浴びせられて退室させられる羽目になったのである。

「笑止ッ!戦を仕掛けてきたのは貴様らではないか!?」

その言葉が耳にこびりついて離れない。ずっとその言葉が反響して離れないのだ。

「言われてみれば、そうだよなぁ。オーランジュ王国の併合はあまりにも理不尽だ」

と、一人、宮殿の廊下の上で愚痴を呟いていると、目の前に女性であるというのにそれに相応しい格好をせずに男装をしている一人の美しい女性が現れた。

「貴君が今回の併合におけるガレリアの外交官だな?」

「そ、そうだが、きみは?」

「私の名前はエヴァ・グローリアだ!この王国における騎士を務めておる!」

「あぁ、この王国の騎士か、もうすぐ滅びるというのにご苦労様だ。で、その騎士殿が私に何の用かな?」

「帰って、総統に伝えてもらえないか?オーランジュ王国の併合は古来よりの慣習に従って、決闘裁判で決めないか、と?」

「け、決闘裁判だと!?正気か?決闘裁判はもう四百年前に廃止されているんだぞ。それに、例え暗黒時代であったとしても、国同士の争いを決闘裁判で決めた事例なんてないんだぞ」

だが、長官補佐官の声など無視し、ルイーダは淡々と自身の考えを述べていく。

「私がオーランジュ王国の代理として、決闘に出よう。貴君らは貴君らの代理を連れて来ればいい。アクロニア帝国が見届け人となるだろう」

「ま、待て!アクロニア帝国だと?どうして、奴らが?」

「それが色々とあるのだ」

と、彼女はお馴染みの枕詞を用いたかと思うと、昨日にフランツから教わった話を長官補佐官に語っていくのである。
すると、みるみるうちに長官補佐官の顔が青くなっていく事に気が付く。

「わ、わかった。帰って長官に……いや、総統に伝えさせてもらおう」

長官補佐官は両足を震わせながら、宮殿の外へと向かい、そのまま玄関に付けていた様々な飾りの付いた青色のT字型の車へと乗り込む。

「あれでよかったのか?交渉相手を掴まえるのはいいが、わざわざ偽名まで名乗るなんて……」

「少しでも、ガレリアに帰る可能性を残しておいた方がいいだろ?幸いな事に、ガレリアのスパイにオレたちって事は報告されてないしさ」

「少しだけムシが良いような気がするのだがな。まぁ、いい。我が夫よ。貴君の気持ちを尊重しよう」

と、ここで彼女はどこで覚えたのか、ジードに向かって親指を立てる。
そのポーズを見て、安堵したのか、ジードも小さか笑いをこぼしていく。
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