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冒険編

ルイーダ・メルテロイを舐めるなよ

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ジードが多数の男たちと交戦中にルイーダは必死に糸を解こうと腕と脚とを動かしていた。
だが、もがけばもがく程にその糸は複雑に絡まっていく。
男もそれがわかってか、口元を歪ませて、顔には勝利を確信した時に浮かべるいやらしい笑みを浮かべていた。

「その糸の罠に見事に掛かったな。貴様もこれで終わりよ」

「どうかな?ここまでは危険かなと思い、使わないようにしようと心得ていたのだが、この際だ、やむを得ない。奥の手を使わせてもらおうか」

ルイーダは口元に微かな微笑を浮かべると、全身から竜の黒い炎を生み出し、糸を燃やしていく。
糸は全て燃え落ちていき、それまではルイーダの体を縛っていた糸が落ちている事に気がつく。
幸いな事にルイーダの体には服に少しばかり焦げが付いているだけである。

彼女は安堵の溜息を吐くと、そのまま剣
を大きく振って一回転させた後に、剣先を突き付ける。

「さてと、これで、貴様の優位性は失われたな。アホではないと思うが、念のために言っておくぞ、私にもう一度、糸を被せようなどとは思わない事だな。今度は切るのではなく、燃やしてやるからな」

「フッ、上等だ。蜘蛛の強さは糸ばかりでないぞ」

彼はそういうと、目の前に手を突き出して、大きな声で唸り、形も良く真っ直ぐなよく研がれた槍を生み出す。

「蜘蛛の糸の他に槍を作り出す魔法もあるのか?それとも、それは糸魔法の応用か?」

「……武器生成魔法の一種だと言っておこうか」

彼は擬似高速魔法を用いると、そのまま真っ直ぐに槍を構えて、ルイーダの元へと迫っていく。
槍の穂先がルイーダの目の前から迫っていく。
彼女は体を捻って、その槍を交わし、そのまま槍に向かって剣を振るう。

だが、その結果は最悪の方向へと動いてしまう。
と、いうのも、彼女の剣が槍の柄の部分へと突き刺さってしまっているからだ。
彼女は懸命に力を入れて、剣を抜こうとしたのだが、深く刺さっており、動こうとしない。

彼女が歯を軋ませながら、剣を引こうとしていると、男の方が槍を手元へと引き、彼女を剣から離そうと試みた。
だが、彼女は足のバランスこそ崩したものの、尻餅は付かずに剣の握りの箇所を握ったまま離れようとはしない。
端正な青年。元より、フランクの誤算はそこだった。

フランクはそれでも、懸命にルイーダを引き離そうとしたのだが、彼女は意地でも剣の握りから手を離そうとはしない。
そこで、彼は別の作戦を試みた。彼女が近付いた瞬間を狙い、自身の足を利用して、彼女を剣から離れようと試みたのだ。
頭やら体やらを執拗に叩くのだが、相変わらず、彼女は剣の掴みを離さない。

それでも、まだ攻撃を続けるのは崖の絶壁に生えていた葉すらない寂しい一本の枝を必死の思いで掴んでいた人物の指を執拗に蹴り続ける様を思い起こさせた。
今のフランクを見れば、醜い人間の本性のようなものが暴き出されたような気がしてならない。
無論、神様はそんな醜い人間にはいつか、天罰を与えるだろう。

フランクの場合はルイーダの予想外の反撃がそれに該当するに違いない。
彼女は剣に向かって竜の黒い炎を向かわせて、フランクの槍ごと彼を焼こうと考えたのだ。
その証拠に炎を放った瞬間に、あれ程までにしがみついていた剣の掴みから離れたのがその大きな証拠だろう。

みるみるうちに黒い炎は槍を通して、燃え上がっていき、咄嗟に離すのを遅れたフランクへと襲い掛かっていく。
フランクは悲鳴を上げて、竜の炎によって焼き尽くされていく。
フランクという男は確かに凄い男であったとは思う。だが、その死はやけにあっさりとしていた。

彼が槍を離すタイミングが後少しでも早ければ、今頃は彼と焼け跡の剣の回収作業を争っていたに違いない。
炎はルイーダが指を鳴らす事により、収まり、彼女は少しばかり焦げは付いているものの、ちゃんとした形で残っている剣を回収する。
そして、一旦剣を鞘に収めていると、二人の男もその男たちと争っていた彼女の夫も慌てて焼け跡を確認していた。

「クソッ!フランクさんが殺されちまったぜ!」

童顔の青年はその可愛らしい声に似合わない汚らしい言葉を吐き捨てていく。

「……落ち着け、ローガン」

眼帯の男はそれまで使っていたと思われる拳銃を腰のホルスターに戻すのと同時にローガンに宥めるように言ったのだった。

「けどさぁ、悔しい事はあんただってわかるだろ?フランクは焼き殺されるほど、悪い奴じゃあねぇ!」

「……かもしれんが、結果は結果だ。一旦は引くぞ」

眼帯をした男はそういうと、ローガンなる男を連れて、城の門へと向かっていく。
不幸な事に侵入のために門番は殺されていたらしい。二人は慌てて走りながら城を去っていく。

「クソ、あいつらを逃しちまうなんて……」

「今のは確か、フランクの部下だよな?」

「あぁ、あいつらの使用魔法はすり抜け魔法だよ。それも、ただ、壁やらなんやらをすり抜け魔法じゃあない。自分自身は愚か、自分自身が決めた人物や物質までも空間をすり抜けさせるっていうとんでもない魔法なんだ」

「中々に厄介だな?それはさっきの眼帯の男の魔法か?」

「あぁ、それで、隣のあの子供っぽい人の魔法はスケアクロウって魔法さ」

「スケアクロウだと?」

「あぁ、要するに、カカシさ。あの野郎、咄嗟に殺されそうになると、カカシを置いてトンズラしやがるんだ」

それならば、銃弾や斬撃が自身の身に襲い掛かってきたとしても、咄嗟にそのカカシを身代わりに立てれば、自らの身の安全は守られるという事になる。
ジードの強力な竜の牙による攻撃も、そのカカシで避けたのであろう。
ルイーダにはその姿が自然に思い起こさせれた。

「それで、奴らは今後も私が持つこの剣を狙ってくるとは思うか?」

「オレたちがこの宮殿にいる限りは狙ってくるだろうな。なにせ、オレたちがここに来るのは多くのオーランジェ王国の王都の人たちが目撃していたからな。誰かに直接聞いたのか、或いは市井の噂とやらで聞いたのかはわからんが……」

「じゃあ、あいつらが来る前にヘルマンらが来たのもその情報が頼りだったんだろうな」

「あぁ、そうだろう。だが、今度こそその剣を離す事はできなくなったぞ。なにせ、相手に空間も壁も自由にすり抜けるっていう奴がいるのがわかったんだからな」

ルイーダは真っ直ぐに首を縦に振り、彼の忠告を受け入れた。
いずれにしろ、宝剣を巡る争いはまだまだ続きそうである。
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