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冒険編
少女の目から見た女騎士
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彼女が一体、どのようにして男たちを倒したのかはわからない。
ただ、一瞬のうちに彼女の姿が消えたかと思うと、次の内には古代のオークやオーガのように恐ろしかった男たちが足を負傷して倒れていたのは本当である。
彼女は隣の頼りなさそうな男に指示を出すと、剣を鞘にしまって、自分の元へと帰ってきた。
「キミの持っていた剣だ。キミに返そう」
「あ、ありがとう……って、何勝手に人の剣を使ってるんだよ!」
「成り行きでそうなっただけだ。あの剣を借りなければ、今頃はもっと悲惨な事にーー」
「うるさい!言い訳なんかしないで、あたしに使用代金を払え!」
「金なら、我が夫が持っている。今街まで、警察を呼びに行っているから、その時まで待ってくれないか?」
目の前で自分と同じく男の姿をした女性が凛々とした風貌で堂々とそう言い放つのだから、少女としてもそれ以上は言い切れない。
おまけに先程、彼女が放った「我が夫」という言葉にも気を取られていた事も大きかった。
少女はてっきり、彼女はあの男性の「姉」だとばかり思っていたのだから。
そんな事を考えていると、手を振りながら男性が姿を表していく。
それも、パトカーの窓から身を乗り出しながら。彼を乗せたパトカーの背後に複数台のパトカーが続いていく。
街まで慌てて駆けていき、帰りはパトカーに乗せてもらったというところだろうか。
パトカーから降りた青年は慌てて、男装の女性の元へと駆け寄っていく。
と、同時に警官がパトカーから降りて、悪漢たちに次々と銀色に輝く手錠を掛けて、連行していく。
これで丸く収めればよかったのだが、物事というのはこうも上手くいかないらしい。
警官の一人が少女の持っている剣に気が付いた。
そして、そのまま近寄ると、剣を強引に取り上げて、少女を睨む。
「おい!お前、この剣をどこで手に入れた!?」
「あ、あたしの家に置いてあったんだよ!」
「嘘を吐くなッ!お前の家なんかに置いてあるはずがないだろう!?この剣は我が王国に代々伝わる王家由来の剣なのだからなッ!」
と、警官は強引に少女の手を引っ張って強制的にパトカーへと連れ込む。
泣き叫ぶ少女な姿を見て思うところがあったのだろう。
走り去ろうとするパトカーの窓ガラスにルイーダはわざと手を当てて、その場から去ろうとするのを引き止める。
ブレーキが掛かるのと同時に、怪訝そうな顔をした警察官たちが姿を表す。
「一体、なんだね?わざわざ我々を呼び止めるなんて」
「なぁに、私もあの少女と共に連行してもらおうと思ってね」
「お前が?また、なんの罪でだ?」
「その王家の剣とやらを血で染めた罪でだよ」
その言葉を聞いて警察官の顔色が変わる。
と、同時に慌ててジードが彼女の元へと駆け寄っていく。
「おい、どうして、そんな事を言うんだよ!黙っておきゃよかったじゃあないか!」
「黙っていてもいずれ、あの子の口から分かる事さ」
パトカーの後部座席の端で項垂れている少女を指差しながら言う。
「け、けど、自分から言う必要なんてないだろ!?」
「それがあるのだよ。あの少女のあの姿を見て、見るに見かねてしまったのだ。どうせなら、私もあの子に付いていってやろうと思ってな」
ルイーダは勝ち誇ったような微笑を浮かべる。
それに対して、額に手を当てて溜息を吐くジード。
いつも通りの光景である。真横で厳しい面をして二人を睨む警官の姿を除けばの話ではあるが。
厳しい面をした警察官はルイーダの腕をを引っ張ると、そのまま強引にパトカーの中へと放り込む。
「王都の警察署まで来てくれ、取り調べが終われば、すぐに出れるだろうからな」
取り敢えずはルイーダのその言葉を信じる事にしよう。ジードはそう自分に言い聞かせて、パトカーの後を追って、歩いて王都へと向かう。
先程と同じく、この国の特徴であるのんびりとした道が続くのだが、ジードの思いは先程とは真反対で、焦りの気持ちの方が強かった。
早く、王都に着いて欲しいと切に願いながら、彼は一人、蜜柑畑と高原が脇に広がる土の道を上を歩いていく。
ようやく、土の道が終わると、芸術品のような小さな煉瓦造りの家々が並ぶ通りへと入っていく。
と、同時に今までは小さくしか見えなかった城の塔が大きく見えている事から、
ここが王都である事は間違いないらしい。
ジードが警察署を探して歩いていると、自分の周りに多くの商店が立ち並んでいる事に気が付く。
学園のある街とは異なり、ここはデパートが存在しない代わりに、多数の商店が立ち並んでいるのだろう。
そんな事を考えていると、城の付近の横長い二階建ての中央に星の看板が付いた建物が見えた。
周りに、パトカーが並んでいる事から、警察署がここであるのは間違いないだろう。
ジードは重苦しい表情を浮かべながら警察署の中へと入っていく。
警察署を入ってすぐは待ち合わせ用のホールになっているらしい。
木製の長椅子が立ち並び、そこに様々な表情を浮かべた人々が座っているのが見えた。
どうやら、全員が警察に相談がある人たちであるらしい。
ジードが黙ってその姿を眺めていると、奥の部屋からルイーダが現れた。
勾留直後だというのに、彼女には消沈した様子は見えない。
いつも通りに騎士らしく胸を張り、凛々とした風貌を周囲に放っている。
服が男のスーツという事もあり、何処となく魅力的である。
全員の視線がその一人の見慣れぬ男装の麗人へと注がれていく。
一人の女性に至っては完全にルイーダにのぼせ上がっているらしい。
両手を握り締めながら、顔を真っ赤に染め、その両手を神にでも捧げるかのように恭しく捧げていく。
ルイーダもそれを見て、悪い気がしないのか、自分に愛を捧げる女性にウィンクを見せた後に、ジードを思いっきり抱き締めた。
「遅いぞ!何をしていた!」
遅かった事に不満があったのか、口を尖らせながら問い掛ける。
「そんなに掛かっていないだろ!?ちょっと、街や外を散策していただけだよ」
「わかった。では、お前が呑気に散策していた間に起こった出来事を話してやろう」
取り敢えず、誤解は解けたらしい。やむを得ない状況という事もあり、剣の使用のお咎めはないらしい。
ただ、あの少女が剣を盗んだのは事実であるらしい。
街の酒場で酔っていた男たちから奪い取ったのだという。
その盗られた男たちというのは全員が何処か汚い印象を受けるのだが、意外にも全員スーツを着ていたらしい。
「恐らく、帝国か、マナエかはわからんが、どちらかの裏金で雇われた街のチンピラか何かだろうな。そいつらが城から剣を盗んだところを酒場に置いたところを、あの少女に盗られたのだろうな」
「それで、正規の諜報員がチンピラの代わりに、追い掛けてきたってところか」
ジードが付け足すように述べた結論に、ルイーダは満足気に首を縦に動かす。
ただ、一瞬のうちに彼女の姿が消えたかと思うと、次の内には古代のオークやオーガのように恐ろしかった男たちが足を負傷して倒れていたのは本当である。
彼女は隣の頼りなさそうな男に指示を出すと、剣を鞘にしまって、自分の元へと帰ってきた。
「キミの持っていた剣だ。キミに返そう」
「あ、ありがとう……って、何勝手に人の剣を使ってるんだよ!」
「成り行きでそうなっただけだ。あの剣を借りなければ、今頃はもっと悲惨な事にーー」
「うるさい!言い訳なんかしないで、あたしに使用代金を払え!」
「金なら、我が夫が持っている。今街まで、警察を呼びに行っているから、その時まで待ってくれないか?」
目の前で自分と同じく男の姿をした女性が凛々とした風貌で堂々とそう言い放つのだから、少女としてもそれ以上は言い切れない。
おまけに先程、彼女が放った「我が夫」という言葉にも気を取られていた事も大きかった。
少女はてっきり、彼女はあの男性の「姉」だとばかり思っていたのだから。
そんな事を考えていると、手を振りながら男性が姿を表していく。
それも、パトカーの窓から身を乗り出しながら。彼を乗せたパトカーの背後に複数台のパトカーが続いていく。
街まで慌てて駆けていき、帰りはパトカーに乗せてもらったというところだろうか。
パトカーから降りた青年は慌てて、男装の女性の元へと駆け寄っていく。
と、同時に警官がパトカーから降りて、悪漢たちに次々と銀色に輝く手錠を掛けて、連行していく。
これで丸く収めればよかったのだが、物事というのはこうも上手くいかないらしい。
警官の一人が少女の持っている剣に気が付いた。
そして、そのまま近寄ると、剣を強引に取り上げて、少女を睨む。
「おい!お前、この剣をどこで手に入れた!?」
「あ、あたしの家に置いてあったんだよ!」
「嘘を吐くなッ!お前の家なんかに置いてあるはずがないだろう!?この剣は我が王国に代々伝わる王家由来の剣なのだからなッ!」
と、警官は強引に少女の手を引っ張って強制的にパトカーへと連れ込む。
泣き叫ぶ少女な姿を見て思うところがあったのだろう。
走り去ろうとするパトカーの窓ガラスにルイーダはわざと手を当てて、その場から去ろうとするのを引き止める。
ブレーキが掛かるのと同時に、怪訝そうな顔をした警察官たちが姿を表す。
「一体、なんだね?わざわざ我々を呼び止めるなんて」
「なぁに、私もあの少女と共に連行してもらおうと思ってね」
「お前が?また、なんの罪でだ?」
「その王家の剣とやらを血で染めた罪でだよ」
その言葉を聞いて警察官の顔色が変わる。
と、同時に慌ててジードが彼女の元へと駆け寄っていく。
「おい、どうして、そんな事を言うんだよ!黙っておきゃよかったじゃあないか!」
「黙っていてもいずれ、あの子の口から分かる事さ」
パトカーの後部座席の端で項垂れている少女を指差しながら言う。
「け、けど、自分から言う必要なんてないだろ!?」
「それがあるのだよ。あの少女のあの姿を見て、見るに見かねてしまったのだ。どうせなら、私もあの子に付いていってやろうと思ってな」
ルイーダは勝ち誇ったような微笑を浮かべる。
それに対して、額に手を当てて溜息を吐くジード。
いつも通りの光景である。真横で厳しい面をして二人を睨む警官の姿を除けばの話ではあるが。
厳しい面をした警察官はルイーダの腕をを引っ張ると、そのまま強引にパトカーの中へと放り込む。
「王都の警察署まで来てくれ、取り調べが終われば、すぐに出れるだろうからな」
取り敢えずはルイーダのその言葉を信じる事にしよう。ジードはそう自分に言い聞かせて、パトカーの後を追って、歩いて王都へと向かう。
先程と同じく、この国の特徴であるのんびりとした道が続くのだが、ジードの思いは先程とは真反対で、焦りの気持ちの方が強かった。
早く、王都に着いて欲しいと切に願いながら、彼は一人、蜜柑畑と高原が脇に広がる土の道を上を歩いていく。
ようやく、土の道が終わると、芸術品のような小さな煉瓦造りの家々が並ぶ通りへと入っていく。
と、同時に今までは小さくしか見えなかった城の塔が大きく見えている事から、
ここが王都である事は間違いないらしい。
ジードが警察署を探して歩いていると、自分の周りに多くの商店が立ち並んでいる事に気が付く。
学園のある街とは異なり、ここはデパートが存在しない代わりに、多数の商店が立ち並んでいるのだろう。
そんな事を考えていると、城の付近の横長い二階建ての中央に星の看板が付いた建物が見えた。
周りに、パトカーが並んでいる事から、警察署がここであるのは間違いないだろう。
ジードは重苦しい表情を浮かべながら警察署の中へと入っていく。
警察署を入ってすぐは待ち合わせ用のホールになっているらしい。
木製の長椅子が立ち並び、そこに様々な表情を浮かべた人々が座っているのが見えた。
どうやら、全員が警察に相談がある人たちであるらしい。
ジードが黙ってその姿を眺めていると、奥の部屋からルイーダが現れた。
勾留直後だというのに、彼女には消沈した様子は見えない。
いつも通りに騎士らしく胸を張り、凛々とした風貌を周囲に放っている。
服が男のスーツという事もあり、何処となく魅力的である。
全員の視線がその一人の見慣れぬ男装の麗人へと注がれていく。
一人の女性に至っては完全にルイーダにのぼせ上がっているらしい。
両手を握り締めながら、顔を真っ赤に染め、その両手を神にでも捧げるかのように恭しく捧げていく。
ルイーダもそれを見て、悪い気がしないのか、自分に愛を捧げる女性にウィンクを見せた後に、ジードを思いっきり抱き締めた。
「遅いぞ!何をしていた!」
遅かった事に不満があったのか、口を尖らせながら問い掛ける。
「そんなに掛かっていないだろ!?ちょっと、街や外を散策していただけだよ」
「わかった。では、お前が呑気に散策していた間に起こった出来事を話してやろう」
取り敢えず、誤解は解けたらしい。やむを得ない状況という事もあり、剣の使用のお咎めはないらしい。
ただ、あの少女が剣を盗んだのは事実であるらしい。
街の酒場で酔っていた男たちから奪い取ったのだという。
その盗られた男たちというのは全員が何処か汚い印象を受けるのだが、意外にも全員スーツを着ていたらしい。
「恐らく、帝国か、マナエかはわからんが、どちらかの裏金で雇われた街のチンピラか何かだろうな。そいつらが城から剣を盗んだところを酒場に置いたところを、あの少女に盗られたのだろうな」
「それで、正規の諜報員がチンピラの代わりに、追い掛けてきたってところか」
ジードが付け足すように述べた結論に、ルイーダは満足気に首を縦に動かす。
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