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冒険編

オレンジの国へ!

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「ようこそ、お客様、本日はこの鉄道をご利用いただき誠にありがとうございます。恐れ入りますが、切符を拝見させていただけませんか?」

青い制服に身を包んだ車掌と思われる男性がその真っ白な手袋に覆われた利き手を差し出す。

「おお!!ジード!これが切符を拝見するという奴か!?初めて、見たぞ!感動だ!」

「ば、バカ、やめろよ。す、すいませんね。こいつ、ど田舎に住んでてて、今まで汽車を見た事がなかったんですよ。お気に触ったのなら、謝りますが」

だが、若い車掌は「いえいえ」と和かな笑顔を浮かべて、ジードが懐から取り出した切符を受け取る。
車掌は切符を受け取り、専門の道具で穴を開けるて、返すと、そのまま頭を下げて、その場を去っていく。

「私は何処か感動を覚えたぞ!文明とはここまで発展するのかと」

「そりゃあ、大昔に比べたらなぁ。第一、おれとしてはお前が昔、生きていた時代の方が信じられんよ。映画館もなければ、喫茶店もない。鉄道も走ってなければ、自動車も走ってない。空にはドラゴンやワイバーンが存在してる。今と比べれば、異界だよ」

「そうか?むしろ、異常に感じるのは今の時代だ。亜人種は殆ど見かけないし、ドラゴンやワイバーンなどは姿も見えない。何よりも、違和感を感じるのが、あの女の存在だよ」

「総統の事か?」

「そう、総統とやらの事だ。あの魔女は今までに表に出てこなかったが、最近になってようやく出てきたというのが気になるのだ。元は単なる一介の魔女に、あんな力があってたまるものか」

ルイーダの目には炎が宿っていた。いつもの戦闘時における様な竜の黒い炎ではない。
戦士が敵相手に燃やす闘争の炎といってもいいかもしれない。
その炎を見た彼は半ば萎縮し、両肩をすくませる。

暫くは無言のまま気まずい空気が流れたのだが、それはジードが旅行用の鞄の中に詰め込んでいたコンビーフ入りのサンドイッチと魔法瓶に入ったお湯に固形用スープを入れた、即席のスープによって断ち切られる事になった。
心地の良い匂いが鼻を刺激し、ルイーダは旅行鞄からコップを取り出し、ジードに注いでもらったスープを一口啜る。

玉ねぎの味が口いっぱいに広がっていく。
スープから顔を離すのと同時にコンビーフの入ったサンドイッチを頬張る。
保存された肉の旨味が彼女の頬を溶かしたらしい。

「ジード、もっとくれ」

ジードは苦笑しながら、ルイーダへと無駄紙に包まれたサンドイッチを手渡し、スープのお代わりを渡していく。
先程とは打って変わり、和やかな雰囲気で旅は進む。
電車から降り立つと、そこにはコルネリアが言った通りに青空の下に広い草原や蜜柑畑が広がっており、穏やかでのんびりとした空気が伝わってきた。

道も煉瓦などで舗装された学園前とは異なり、ここは剥き出しの土の上なのだ。
道と脇の間を仕切るのは小さな木の柵だけ。
ルイーダは目を輝かせながら、鞄を持って、エーリヒが予約したというホテルへと向かっていく。
オーランジェ王国。王都を除くオーランジェ王国の家は大抵が隣接する事はない。

だだっ広い草原や蜜柑畑の隅々に一軒の家が置いてあるという状態なのだ。
だから、各家庭には馬車や馬の存在が欠かせないのだろう。二人が見かける家のあちこちには馬小屋やら、切り離された状態の馬車やらが見受けられた。
そんな家を見ながら歩いていると、この国のシンボルと思われる城の塔が見え始めた。

同時に、エーリヒが予約したと思われるホテルが見えた。
こじんまりとした二階建ての石造りのホテルで、レストランも兼ねているのか、店先には看板が置かれていた。

「あそこらしいぞ、入ろう」

ジードはようやくホテルを見つけたという事で、嬉しくなったのか、後ろで微笑する妻を置いて、ホテルの中へと入っていく。
ホテルの一階にはカウンターと長机と長椅子。それに、一階の部屋と、レストランスペースとを仕切る役割を与えられているのだろう。小さな段差が見えた。
ジードが興味深そうに見つめていると、オーナーだと思われる壮年の男性が愛想良く出迎えてくれた。

「あぁ、キミたちかな?新婚旅行の夫婦というのは?ブラウンシュヴァイクさんから話は聞いているよ。キミたちの部屋は105号室と106号室だ」

ジードがお礼を言って、部屋に荷物を置きに行こうとした時だ。
不意にジリリリとカウンターの奥に掛けてある電話のベルが鳴り響く。
オーナーが電話を取ると、急に大きな声で、媚びる様な猫撫で声が聞こえた。

加えて、オーナーは電話越しだというのに、ペコペコと頭を下げていく。
その様子を合流したルイーダと共に眺めていると、オーナーがコードの伸びた受話器をジードへと向けて言った。

「ブラウンシュヴァイクさんからだ。あんた方に用があるんだとよ」

それを聞いたジードはカウンターの中へと入り、街からの電話を受け取った。

「もしもし、警部さんですか?」

『ええ、そうですよ。実はですねぇ、そちらで少々厄介な事が起きるかもしれないと思って、連絡させていただいたんです』

「厄介な事ってなんですか?」

『そちらの方で大騒動が起こるかもしれないって事なんです。なんでも、アクロニア帝国がオーランジュ王国に戦争を煽っているとか、なんとかで』

「そ、その情報はどこから!?」

『私がこの旅行に行けなくなった例の事件を追っていたら、転がり込んだんですよ。いえ、私が追っていたスパイさんと思われる人物、二人が抵抗したので、他の職員と撃ち合いになり、射殺する事になってしまったので、ここから先に私が話す事は二人の持っていた状況証拠から見る憶測でしかないんですが……』

長い前置きを終えると、彼はそのまま話していく。
射殺した二人がアクロニア帝国とオーランジェ王国の両国の紙幣を持っていたこと、二人が持っていた書類にエルダーが考えていた恐ろしい計画が記されていたこと、同時にそれに乗じたアクロニア帝国の新たな計画が記された書類が用意されていたことなどを踏まえて、エーリヒが導き出した答えは至極単純なものである。

「恐らく、アクロニア帝国はエルダーの計画を手助けした後に、軍隊を送り込んで、駐留させるようと考えていたのでしょう。お二方は恐らく、その極秘計画の準備のために、アクロニア帝国に雇われた裏の人間というところでしょうね。秘密警察の職員を殺したのは、計画の報告を聞く中で、二人組の不気味な男の存在を怪しんだ総統が極秘裏に職員を尾行させたが、気付かれ、話し合いの末に決裂して……というところでしょうか。我々の街に居たのは、計画前の話し合いのために、落ち着いた場所を選んだというところでしょう。最も、これは我々の推測でしかありませんがね。なにせ、犯人は既に全員が地獄に落ちてしまい、後の事を知るのは我々は口を利く事も許されない雲の上のお方ばかりなのですから」

エーリヒはそう言うと、悪戯っぽく笑う。
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