隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
45 / 178
追跡編

夜の闇に光は消えて

しおりを挟む
「クソッタレ!部下が全滅しているとは……」

クルトは車から降りるのと同時に、忌々しげに吐き捨てる。
クルトとデニスの両名はエルリカ逮捕もしくは射殺後の騎士の会に関する相談が途中であったために、エルリカの決闘に着く時間を遅らせたのだ。
結果として、それは二人の命を助ける事になったが、二人以外の武装警察隊は全滅する事になってしまった。

「隊長、もはや残っているのは我々だけ、ここはあの二人の戦いに介入して……」

その時だ。頭上に向かって拳銃が鳴り響いたのは。
二人が咄嗟に銃声をした方向を振り向くと、そこには両手を震わせながら、拳銃を構えたジードことジードフリード・マルセルの姿。
それを見ると、二人の顔に浮かぶのは嘲笑。

魔法の使えない〈獲物〉クラスの生徒を嘲る笑いである。

「おい、坊や、そいつを離しな。怪我をするぜ」

クルトはニヤニヤとした陰湿な笑みを浮かべながら言った。

「い、嫌だッ!オレはここから先でエルリカと戦うオレの妻を守るんだッ!邪魔はさせないぞ!」

「……小僧。一応、忠告はしておくが、蛮勇と勇気は違うぞ。キミは形ばかりの妻のために、その命を落とすつもりかな?」

「だ、黙れ!オレは戦うんだッ!妻を守るために……」

「ならば、試してみるがいい」

最初から馬鹿にしており、相手にもしないつもりであったクルトとは異なり、デニスは高速魔法を利用して、両手と両足を震わせるジードへと襲い掛かっていく。
ジードの目の前に辿り着くのと同時に、口元を緩めて、彼の心臓部に銃口を突き付ける。
「終わりだ」と呟いて、彼を射殺しようとした時だ。

彼は背後に気配を感じ、慌てて振り向くと、そこには銃を携えた二人の男女が自分の元へと迫っているではないか。
恐らく、彼女の忠実なる双子の騎士だろう。
デニスは舌を打つのと同時に、ジードに向ける筈であった銃口を二人に向ける。

咄嗟にどちらを撃てばいいのかを悩んだのが、彼の敗因ともいえるだろう。
二人はあっという間にデニスの元へと迫り、彼の間近で銃口を構える。
だが、デニスはそのまま双子を蹴り上げると、そのまま三人から距離を取っていく。

デニスは距離を取った後に丁寧に頭を下げて言った。

「お噂はかねがね、元ラッキーオフィサーにして、今ではルイーダの忠実な騎士であるお二人の事はよーく存じていますよ」

皮肉のために敬語口調にしたのだが、二人は眉を動かそうともしない。
ただ、黙って、銃を構えてデニスを睨むばかりである。
デニスはその光景を目の当たりにすると、大袈裟に肩をすくませる。

「だが、お二方はその魔法の実力には似つかわしくない知能をお持ちらしい。反逆者にその膝を突き、頭を垂れ、本来仕えるべき、主人に銃を向けるとは……全く常識も理性も居眠りしているとしか思えん」

「……そちらこそ、帝政ガレリア時代においては名門貴族だったというのに、騎士の会に賛同せずに、どうして、マナエ党なんかに従うのかな?訳がわからない」

ケニーは今回、皮肉には皮肉で返すというスタンスを貫くらしい。
デニスは不快そうに両眉を上げたが、それも一瞬の出来事である。
彼は残念そうに頭を振ると、マナエ党の理念を子供にも理解できる様に説明していくが、残念な事に二人は聞く耳をもたなかったらしい。

やむを得ずに、デニスは説得を諦めて、二人と対峙する事になった。
それぞれの魔法を込めた弾丸と互いが互いに本物と擬似との違いはあれども、能力値としては互角であるので、互いに均衡を保ったまま勝負は続いていく。
クルトは二人の騎士がデニスに釘付けになっている事を理解し、そのままルイーダを狙いに向かう。

夜の街の広場で殺人鬼と激闘を繰り広げている男装の女騎士に向かって銃口を構えていく。
二人は高速魔法を利用しているために、通常の人間には見えない。
だが、同じ魔法を利用できるクルトにはハッキリと確認できた。

なので、彼は待つ事を決めた。二人が疲れて止まるのを待ったのだ。

(止まった瞬間が、奴らの……ガレリアの敵の最後だ。ルイーダが生き残ろうが、エルリカが生き残ろうが、油断した瞬間をズドンとな)

クルトの口元が怪しく歪む。その時だ。自分の後頭部に銃口が突き付けられている事に気が付く。
背後を振り返ると、そこには両手を震わせながらも、銃を突き付けるジードの姿。

「おい、坊や、さっさとその拳銃を下ろしな……お前におれが撃てるわけがないだろ?」

「た、試してみないとわ、わからないだろ?」

「腕だけじゃあなくて、手まで震えているのにか?」

クルトの指摘は図星だった。核心を突かれた、ジードは自分の心臓がバクバクと唸っていく事に気が付く。
クルトはこの時に完全に小馬鹿にしていた。ジードという男の存在を。
そして、肉食動物に追い詰められた小動物は必死にもがいた末にその足を噛むという事を。
ジードは引き金を引かなかった。おまけに安全装置まで付けた。

この男は土壇場で怖気付いたのだ。
クルトがそう確信した時だ。突然、頭が割れるような痛みを感じて、拳銃を握ったまま地面の上へと倒れ込む。
真上を見上げると、そこには拳銃の筒を握り締め、荒い息を吐いているジード。

この男に銃尻で殴られたのだ。クルトはそう確信した。

「……クソ、まさか、そっちの方で対応するとは……このクソガキが……やってくれるじゃあないか」

クルトは呪詛の言葉を投げ掛けるが、喉元を開けて、新たな空気を入れ込み、息を整えようとしているジードには聞こえていなかったらしい。
澄ました顔で、彼はデニスと双子の兄妹とが戦う場所へと向かっていく。
クルトは自分の瞼が徐々に閉じていこうとしている事に気が付く。

クルトには確信があった。このまま目を閉じれば、数時間のロスタイムが発生してしまう、と。
だが、閉じていくものはどう足掻いても止められない。
クルトはそのまま眠った。深い微睡の中で。

一方で、デニスと双子の騎士による魔法の銃弾を用いての撃ち合いは苛烈を極めていた。
激しい魔法弾丸の撃ち合いのために周囲には小規模の爆発が発生しているという
有様である。
ケニーとコニーは勿論、デニスまでもが長い撃ち合いで疲弊しているのか、見てわかった。

均衡の保たれた状態で戦いを続けるのは余程、辛いのだろう。
ジードは見て取れた。何か、自分にできることはないだろうか。
そう考えてはいるが、ルイーダの戦いにも、双子の戦いにも自分は介入できそうにない。

ジードは改めて、自分の無力さを実感させられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はぐれ者ラプソディー

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中
ファンタジー
「普通、こんなレアな生き物簡単に捨てたりしないよね?俺が言うのもなんだけど、変身できる能力を持ったモンスターってそう多くはないんだし」 人間やモンスターのコミュニティから弾きだされた者達が集う、捨てられの森。その中心に位置するインサイドの町に住むジム・ストライクは、ある日見回りの最中にスライムが捨てられていることに気づく。 本来ならば高価なモンスターのはずのスライムが、何故捨てられていたのか? ジムはそのスライムに“チェルク”と名前をつけ、仲間達と共に育てることにしたのだが……実はチェルクにはとんでもない秘密があって。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...