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追跡編

武装警察隊の陰謀の前に立ち塞がるのは殺人鬼

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「最近になって、ルイーダの奴ら、この近辺には姿を現さないなぁ」

武装警査隊と思われる男の一人が同じく騎士の会を見張るために街の外に出ていた、自身の相棒に向かって愚痴をこぼす。

「確かにな、奴らにしても色々と考えるものがあるに違いねぇや」

相棒の男に対し、茶色の髪に同じような茶色の瞳をした男は適当に相槌を打つ。
適当にあしらわれたと男は激昂するかと思われたのだが、男はその適当な相槌を肯定と取ったのか、次々と自分にとっての話を続けていく。

「だろ!このままオレとしてはーー」

また、話が長くなる。茶色の髪の男が呆れたように肩をすくませて、相棒の男を見やった時だ。
男の首から大きな血が噴きこぼれている事に気が付く。

「う、うわァァァァァァァ~!!!」

堪らずに悲鳴を上げて逃げ出す男。
だが、その前には肉切り包丁を構えたエルテカの姿。

「え、エルリカ!?」

「私ね、最近は今いるお家の近くを散歩するのが好きなんだぁ。気分が晴れるし、殺そうと思える人をたまに見かける事ができるしね!あっ、そうだ!」

と、彼女は無邪気で可愛らしい声を上げると、恐怖に顔を歪める男に向かって人差し指を掲げながら、先程と同様の可愛らしい声を上げて言った。

「最近は殺してなかったし、ちょうどいいや、少しばかり好みじゃあないけど、この際はそんな事は我慢して、あなたに芸術品になってもらおうかな?」

「た、頼む!やめてくれ!首都にはオレの家族がーー」

エルリカはそんな命乞いなど物ともせずに、男の首を刎ねていく。

「あなたが撃ち殺した人にだって家族がいたのにね。自分だけ助かろうと虫が良すぎるよ」

エルリカは先程とは打って変わって、感情がないような冷たい声で、そう言って、男の体を森の中へと引っ張り、芸術品を作り上げていく。
翌日、武装警察隊の隊員二人の惨めな死体は街の林業従事者によって発見された。
その男の証言によれば、発見された死体はあまりにも残酷でいて、それで言葉を失うほどの衝撃を彼に与えたという。

これに憤りを感じたのはクルトである。彼は宿舎の壁を思いっきり蹴り付けると、側に控えているデニスに向かって強固に各家庭の捜索を主張していく。

「奴は間違いなく、この街の何処かに潜んでいるッ!それなのに、見つからんのはこの街の誰かが隠しているからに違いない!」

「ですが、それは隊長の憶測に過ぎません。ここはもう少し証拠を収集するべきでは?」

「黙れッ!これ以上、あの怪物の好き放題にさせていては武装警察隊の恥晒しだッ!我々の手で徹底した捜索を行うぞ!」

デニスはクルトのその意見を聞いて、暫くの間は黙っていたのだが、やがて、何かを思い付いたらしく、静かに手を挙げて、ある事を提案する。

「では、こうするのはどうでしょう?殺された二人は騎士の会を見張っていました。もし、騎士の会と殺人鬼が手を組んでいたとすれば?」

「……成る程、殺人鬼が学園で見つかればよし、見つからなくても、騎士の会に繋がる捜査を行える!」

「ええ、早速、決行致しましょう!」

デニスの提案に従い、街中に散らばっていた武装警察隊が集まり、魔銃士育成学園へと一斉に乗り込む。
当然、クルトは因縁の敵を拿捕できる機会が来たとばかりに、生徒会室の扉を開けて、ルイーダの名前と捜索理由とを叫ぶ。
その瞬間に、生徒会室にて作業をしていた全員の視線がクルトへと注がれていく。

「今日こそ貴様に引導を渡す時だッ!かつて、オーガとオークの軍隊を撃退し、オークやオーガに大損害を与えた、マクミリアン大王のような気分だッ!」

「そうか、マクミリアン大王とやらの気分に浸るのも勝手だが、もし、エルリカや騎士の会と我々とを繋ぐ証拠が見つからなかった場合には武装警察隊はどのような処置を取るつもりだ?」

「また、新聞にでも書き立てでもすればいいさ!とにかく、今日は貴様らの命日なのだッ!」

クルトがそう叫ぶと同時に、廊下に待機していたと思われる二人の散弾銃と機関銃を持った隊員が踏み込み、書類やら何やらを散らしていく。
ルイーダはその光景をジードやコルネリアと共に傍に立って眺めていたが、特になんの感慨も抱く事はなかった。
だが、横の二人は悔しそうに唇を噛み締めたり、拳を握り締め、掌の中に爪を食い込ませたりしているではないか。

ルイーダは二人と同じような動作をとる事はなかったが、それでも、二人の気持ちは痛い程に伝わった。

(いずれ、あの男にはそれ相応の報いを受けさせてやらねばな)

ルイーダは一生懸命に部下を詰るクルトを見ながら改めてそう思い知らされた。

「クソッタレ!証拠はないのか?」

「全て学校生活のためのものばかりです……騎士の会と奴を結び付ける証拠は一枚もありませんでした!」

クルトは血走った目でルイーダたち三人を睨んだが、まだ希望はあった。
寮の探索に向かっている部下たちが証拠を集めてくれるとばかり思っていたのだ。
だが、そんな彼の期待は最悪の形で裏切られてしまう事になる。

「隊長!四つの寮の何処を探しても、騎士の会の証拠はありませんでした!」

「く、クソ!どうなってやがる!」

ルイーダは上手くいかずに部下に当たり散らすクルトを見ながら優越感に浸っていく。
絶対的な勝利というのを確信したような気持ちになった。
ルイーダの頭の中に過るのはあの青年が保釈された日夕べに寮にて行われた、話し合いの席での出来事。

彼女が強硬派を説得する中で、議題が名簿や騎士の会に関する書類に脱線し、この処置をめぐっての論争が沸き起こったのだ。
そんな中で、ルイーダは手を挙げて、ある事を提案した。

「どうだ?書類は今までのように分かりやすいからと学園に置くのではなく、下宿している生徒の家でバラバラに預かってもらうというのは」

「危険過ぎる!そんな事じゃあ、もし、その生徒の家が武装警察隊の奴らにでも、探索されれば、終わりだッ!」

「学園に纏めて置いておいて、それを発見されれば、それこそ、一環の終わりだぞ」

ルイーダの言葉は的を射ていた。武装警察隊への処置はともかくとして、書類は各々の下宿組が預かる事になり、その日のうちに持ち帰る事になったのだ。
ルイーダは当日のうちに決行してよかったと、密かに口元の右端を吊り上げていく。

もし、今日にその事を実行していれば、証拠が寮から見つかり、武装警察隊に逮捕される羽目になっていた事は確実であろうから。
そう考えていると、扉が開き、いつものような冷静な顔をしたデニスが現れると、一礼をしてから言った。

「隊長、今日のところは殺人鬼との繋がりも、騎士の会との繋がりも発見できません故……撤退致しましょう」

「オレに敗北者になれと?」

「やむを得ません。今回ばかりは奴らに花を持たせてやりましょう。今回ばかりは、ね?」

デニスはクルトの肩を叩いて、退室を促すと、そのまま氷のような冷たい目をしながら生徒会室を去っていくのである。
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