上 下
35 / 157
追跡編

ルイーダ・メルテロイ捕縛作戦!

しおりを挟む
「すまなかったな。随分と不愉快な思いをさせてしまったらしい。折角の楽しい思い出を壊して悪かったな」

ルイーダはコニーの頭を優しく撫でながら言った。

「ううん、そんな事ないよ。あいつを説教する時のルイーダ。とってもカッコよかったもん。だから、謝らないで」

丸い瞳で懇願するコニーの姿は本当に愛らしい。例えるのなら、小動物に対する慈しみという奴だろうか。
仮にも、この少女は人間なのだが、それに相応する可愛らしさが感じられた。
ルイーダの財布の紐が緩くなるのも当然の事といえるだろう。
ルイーダは映画を台無しにした迷惑料として、彼女を夜のデパートへと連れていき、ねだられるままに色々と買い与えてしまったのである。

お陰で、その日の夜にジードは彼女に来月分の小遣いを先渡ししなければならなかった。

「全く、幾ら囮作戦で危険な目に遭わせるからって、財布の紐をそこまで緩める奴があるかよ!」

立腹する彼を他所にルイーダはこの時ばかりは項垂れるしかなかった。
優雅に肩を下げて、気まずいと言わんばかりに人差し指と人差し指をくっ付けていた。

「ったく、それで、明日の計画は完璧なんだろうな?」

ジードは射抜くような視線で尋ねる。

「あぁ、間違いない。今日デパートでプリンなるデザートを食べながら語ったからな」

どうやら、彼女はプリンまで奢らされたらしい。
こうなってしまってはジードとしても苦笑するしかない。
その日の夜はそのまま何気ない調子で終わる筈であった。

彼女がアパート全体に響くような大量の靴の音を耳にしなければ……。
異変を感じた彼女は夫にバスタブの中に隠れるように指示を出し、自身は剣を抜き、扉の裏に隠れて、不吉な来訪者に備える。
同時にアパートの扉が蹴破られて、機関銃や散弾銃やらで武装した制服姿の男たちが雪崩れ込む。

そして、最後に隊長のクルトが入り、自己都合に満ちた逮捕理由を述べようとした時だ。
クルトは自身の首元が妙に冷たい事に感じた。同時に、喉元から赤く温かい液体が溢れ落ちていくのを感じる。
クルトが首元にそれを突きつけられたまま、慌てて背後を振り返ろうとしたが、背後からは低い声で「動くな」という脅し文句が聞いて取れた。

「まさか、あの程度の事を逆恨みして、我が家に押し掛けてくるとは……全くつまらぬ男だ。戦闘機のニコラなら、お前など、あの機銃で蜂の巣にするだろうな」

「き、貴様ァァァァァァ」

「動くなッ!動くと、貴様らの隊長の首をかっ切るぞ!」

その言葉を聞いて、武装警察の隊員全員に戦慄が走っていく。
実際に自分たちにとっての隊長を人質にされているのだから、迂闊には動けない。
全員が歯痒いを思いをしながら機関銃や散弾銃を構えていたのだが、デニスは違う。

彼はそれまで持っていた散弾銃を床の上に落とすのと同時に、腰のホルスターに下げていた自動拳銃を取り出し、ルイーダにその銃口を向けた。

「隊長を離したまえ」

「なら、貴様らがこいつらを下がらせろ。隊長を返すかどうかはそこから判断する」

「……では、私が隊長ごと貴様を撃ち抜くと言ったら?」

「なっ、貴様ッ!」

「今回はあなたの勝手な理由のために、部隊を応用しているのです。あなたにもそれくらいの覚悟はおありでしょう?」 

それを聞くと、クルトは黙り込む。一応、理由が理由だからか、納得するものがあったらしい。
ルイーダも一応はこの二人が大貴族の末裔だというのが今のやり取りで感じられた。
何処となく先程のやり取りは貴族同士が決闘の際に言い合うような気品のあるやり取りに感じられたのだ。

一種の誇りのようなものを感じられたといってもいいだろう。
もし、クルトがあのタイミングで黙り込まず、逆にデニスを叱責などしていようものならば、ルイーダは容赦なく彼を突き飛ばし、盾にでもして突っ込んでいたかもしれない。
だが、見所があるというのは多い。彼女の騎士としての信念がその行動を阻んだのだろう。

剣を突き付けたまま、彼女はデニスに問う。

「ならば、私がこの男の首を跳ねるといえばどうする?」

「さぁ、好きにすれば良かろう。貴君が隊長と心中したいのならば、それはそれで良いだろうが」

成る程、抜け目がない。ならば、ここは一気に勝負を付けるしかないだろう。
彼女は高速魔法を利用するのと同時に、クルトを押した倒すと、剣を振りながら、武装警察の面々が構えていた銃口を切り落としていこうと考えたが、ここで予想外の出来事が起こる。
なんと、デニスが自身と同じスピードで動き、背後へと回り込んだのである。

いや、デニスばかりではない。クルトもそうである。

「やはり、ガレリアの長年の名門貴族……伝説の魔法など使えて当たり前というわけか?」

「その通り、先程は遅れを取ったが、同じスピードならば貴様なんぞに遅れを取らんぞ!」

クルトは実力者らしく、そのまま引き金を引くと、銃弾に火山弾を付加させたものを彼女に向かって放っていく。
どうやら、彼が扱う魔法は火山の炎であるらしい。
無論、この場合は高速魔法の対象となっているのは三人のみであるから、魔法が付着した弾丸といえども、スローモーションで止まったように見えている。

ルイーダは黒色の炎の魔法を用いて、溶岩を破壊したものの、背後からデニスに回り込まれている事に気が付く。
彼女は首筋に銃口を突き付けられ、その脅威を再認識させられた。
同時に高速魔法が解除され、周りで生死していた隊員たちも慌てて、囚われた彼女に銃口を向ける。

「終わりだ。貴君は詰みの状況に入ったのだ。騎士らしく、その剣を捨てて、我々に投降したまえ」

「……そう言われて、私がむざむざと大人しく降伏するようなたまに見えるか?」

「その事も計算済みだ。私が命令すれば、恐らく、バスタブの中に隠れていると思われるキミの夫を散弾銃か、機関銃で撃つように命令してやろう」

「……成る程、そこまで計算済みだったとは……だが、貴君らにとってはこれは計算外だっただろうなッ!」

ルイーダがそう叫ぶのと同時に背後で銃を構えていたデニスが勢いよく吹き飛ばされていく。
それを見た隊員たちが一斉に銃を構えたのだが、彼らはそこで信じられないものを目の当たりにする事になった。
なんと、女騎士を自称する男装の麗人の背中から、古の物語に出てくるような竜の翼が生えてきたのだから。

予想外の出来事に目を丸くする武装警察の隊員たちは慌てて銃を構えたものの、翼の生えた女騎士は小さな天井を軽く滑空したかと思うと、バスタブの扉をこじ開けて、自らの夫を連れ去り、窓を突き破って出て行ったではないか。
後に残された隊員たちはその光景をただ漠然と眺め、ただ一人、クルトだけは暗闇の中へと消えていく女騎士を口汚く詰っていくのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...