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追跡編

武装警察隊、到着す

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何台ものT字型の車が一列に並んで、市街地を走っていく。
その車には白と黒に警察の印が左右両方の扉に付着しており、搭乗者たちが警察関係者であるという事を一重に知らしめるものである。
その数はおおよそ五台。各車に四名ずつなので、二十名の人間が武装警察として赴任したという事になる。

署長を始めとした警察官たちの総出の出迎えになるのも当然といえば当然である。
最前列の車の扉が開いたかと思うと、まるで、軍人のような威圧的な態度をしたサングラスを掛けた男が降りて、これまた高圧的な態度で署長に向かって告げた。

「我々は武装警察だ。私は隊長のクルトだ。クルト・フォン・ヒンデンリード。かつての帝政ガレリニアにおいては公爵を務めていた家でね。私の爺さんの事は署長も聞いた事があるだろ?」

「ええ、それはもう」

署長は和かな笑顔を浮かべながら答えた。
クルトは国家の重大組織の隊を任されるに於いてはあまりにも若過ぎた。
せいぜい、二十を超えた程度なのだろう。署長には短くて艶のある金髪が彼の若さを象徴しているかのように見えた。

だが、彼の副官たちは流石に老練で固められているらしい。
やはり、少しばかり若い指揮官には老練の補佐官が付くというのは古代からの慣わしであるらしい。
彼の背後から現れた、大きな体にガッチリとした体型をした中年の男がその証拠だろう。

その男は同じく名門の出身で、彼の名前はデニスだという。
デニス・フォン・ロッテンハイツというのが彼のフルネームとなる。
ロッテンハイツ家はブラウンシュヴァイク、ヒンデンリードに並ぶ帝政ガレリア時代の名門とされ、一時期は皇帝とも親縁を結び、一時期は絶頂を帯びたという。

だが、帝政ガレリアが終わった後にロッテンハイツ家もその名声も終わりを告げたのだろう。
今、この男が武装警察隊の一員として勤務しているのがその証拠であろう。
署長が手を差し伸べると、クルトもデニスもそれを無視して、警察署内に我が物顔で侵入していく。

署長は慌てて、それに応対し、武装警察の全員を署内の応接室へと案内していく。
署長の案内のまま、応接用の長椅子の上に腰を掛け、背後に自身の部下を並べて、かつての彼の祖父を思わせるような傲慢な態度で署長に向かって話を進めていく。

「我々がここにやって来たのはひとえに総統閣下の御命令のためである!クソッタレの殺人鬼の小娘を拿捕せよと、我々に命令が下ったのだ」

「ええ、勿論、その事はよーく存じておりますとも、あなた様が来てくださり、こんなにも心強い事はありません」

署長のおべっかはクルトの気を良くしたらしい。彼は上機嫌で笑いながら、長椅子に控えていた部下の一人から葉巻を受け取り、それを口に咥えていく。
そして、署長に葉巻から生じた煙を浴びせてから、改めて、足と腕を互いに組み合わせながら言った。

「それで、だ。署長、殺人鬼の小娘を捕まえるのに何か良い手はあるのかね?」

「私が代わりにご説明致しましょう」

署長の代わりに答えたのは茶色の髭をカールさせた中年の刑事、エーリヒ・フォン・ブラウンシュヴァイクである。
エーリヒはルイーダと共に練り上げた作戦計画書を応接室の机の上に広げて、武装警察の面々にその計画を説明していく。

「……つまり、きみたちがやりたい事は脅迫状を逆に利用した囮作戦だというのだな?」

デニスの問い掛けに、エーリヒは「ええ」と短いけれども適切な返答を返す。
だが、クルトは納得がいかなかったらしく、貴族の子孫らしく傲慢な様子で鼻を鳴らしてから言った。

「馬鹿馬鹿しい。こんな手に殺人鬼の小娘が引っ掛かるわけがないだろうッ!そんな事よりも、各家を我々の手で徹底的に捜索させてもらおう!例え、厠所にいたとしても、探して見つけ出して殺してやるからなッ!」

「お、お待ちください!そ、そんな乱暴な……」

「乱暴もクソもあるものか、オレには……いや、オレたちには総統より預かりし、この拳銃がある」

クルトは最新式の筒の出ていない自動拳銃を机の上に取り出す。
取り出されたのはただの拳銃ではない。拳銃の中心部には頭を下げるゴブリンを平伏させる騎士の絵が刻まれていた。

「これは見事だ。ヒンデンリード家の家紋ですな。かつて、大昔にヒンデンリード家の始祖であらせられるエンゲルベルト様が当時のガレリア王の下で、反乱を起こしたゴブリンどもを平定なさった時にそれを家紋になされたとか」

「その通り、そして、始祖であるエンゲルベルトを除けば、この家紋は今のオレに一番相応しいと思っている」

「と申しますのは?」

「いいか、このゴブリンどもは今の時代に例えるなら、犯罪者や反逆者どもだ。そして、この騎士はオレそのもの。なぜならば、国王に代わる偉大なる総統閣下より武装警察という名の騎士団を賜り、時代に合わせた得物で人間の姿をしたゴブリンどもを討伐しているからな。もしかすれば、我が一族が再び貴族としての地位を手に入れる事も夢ではないかもしれん」

呆れるほどのロマンチストぶりに署長やエーリヒも辟易していた。
よもや、竜歴も今年で千年になるというのに、未だにそのような前時代的な事を考えていたとは思いもしなかったのだ。
彼は満足気に笑うと、拳銃を引っ込め、武装警察たちを引き連れて、外へと向かっていく。

クルトが車へと乗り込むのと同時に、慌てて署長と警部とが駆け寄り、彼の座る後部座席の窓を叩きながら、何処に行くのかを問い掛ける。
すると、彼は相変わらずの傲慢な口調で淡々と告げた。

「国立魔銃士育成学園だ」

同時に車のエンジン音が鳴り、車はあっという間に学園へと走り去ってしまう。
武装警察の職員たちは学園の前の扉へと降り立つのと同時に、それぞれが散弾銃やら丸い弾倉の付いた機関銃やらを持って、学園の中に侵入していくではないか。
何事かと目を見張るのは一般の生徒。騎士の会の面々は警戒の目を向け、会員同士で密かに合図を送り、集まっていく。

そんな裏の麻薬貿易の密売人たちのようなちまちまとした怪しいやり取りがあるとは彼はとうとう見抜く事ができずに、生徒会室へとなだれ込むのであった。
書類仕事をしていた会長のルイーダは顔を上げて用件を尋ねる。
だが、サングラス姿の男は答えない。そのまま生徒会室の応接用の椅子に深く腰を掛けたかと思うと、貴族のような傲慢な口調でルイーダを呼び付けた。

ルイーダはその呼び掛けに応じ、椅子から立ち上がるのと同時に生徒会室の長椅子の上に目の前に座るクルトと同様に深く腰を掛けるのである。
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