隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

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入学編

討論会の日

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国立魔銃士育成学園には今なお、残る伝説の討論会の記憶が残っている。
今の世の動きに大きく確信を与えたとされる伝説の討論会である。
記録によれば、その日も魔銃士育成学園には多くの生徒が詰め寄っていたらしい。

各地の国立魔銃士育成学園には全生徒を収容する講堂が設置されている。
そこには百人を超すとされる全生徒を収容する講堂であり、通常時には入学式や卒業式の儀式の際に使われる大きな檀が設置されており、その下に木製の簡素な椅子が並べられて、そこに生徒が座る事になっている。
その椅子に生徒会は目を光らせていた。

彼ら彼女らがマークするのは討論会の混乱に乗じて、暴れんとする騎士の会の会員たち。
一応は女子生徒もいるためか、男子の生徒には男子のメンバーを、女子には女子のメンバーを設置して見張るようにしているらしい。せめてもの配慮というべきだろうか。

だが、生徒会が最も警戒するのは登板するルイーダを除けば、元、ラッキーオフィサーのメンバーであり、現在はルイーダの付き人と化したケニーとコニーの双子のフォーレンゲルダ家の二人。
これにはラインハルトとヨーゼフの二名が見張りを任される事になり、通常ならば、講堂には持っていけない拳銃を懐にしまっている銃を握りながら、背後の椅子で、その目を光らせている。

ラインハルトはそればかりでは不十分だと判断し、講堂の中に潜り込ませた取り巻きの一人に極秘令の指示を出し、檀の最前線の席へと座らせるという事が彼の警戒心の強さを表しているだろう。
講堂の檀の上には騎士の会代表による三名と生徒側三名の椅子が設置されていた。
生徒会側はクレメンティーネとコルネリア、そして書記の男子生徒が一名。
騎士の会側はハンス、ルイーダ、ジードの三名という構成になっている。

当初、生徒側が予想していた、ズィーベン生徒会長とルイーダ・メルテロイによる討論は最初から白熱する事になろうかと思われたが、意外にもルイーダは議論に参加せず、自身の夫であるジードと共に生徒会長と騎士の会に属する生徒たちとの白熱した討論を時に冷笑し、時に体を小刻みに揺すりながら、耳を傾けていた。
その間にも、ハンス一人が懸命に生徒会と戦っているのである。

「生徒会側は差別を助長している!そうでないとするのならば、不平等は是正して然るべきでしょう!何故に行わないのでしょう!?」

「差別とは?施設などは平等に使用できますが?」

ハンスはその言葉によって、次に出るはずの反論の言葉を詰まらせてしまったが、『施設』という単語に活路を見出したらしく、次なる反論を試みていく。

「魔銃士育成学園においては〈獲物〉クラスの多い部活は冷遇されています!それに、同じ部活に所属していても、〈獲物〉クラスの生徒は〈狩人〉クラスの生徒に嫌がらせをされても、顧問によって握り潰されてしまいます!それが差別でない証拠とは?」

「心のない生徒と顧問が勝手にやった事です!それに〈獲物〉クラスが多い部活でも、功績に見劣りがなければ、予算は与えられています」

一見すれば、具体例や数字を出した見事なまでのレトリックにハンスはとうとう反論の言葉を失ってしまったらしい。
それから後に出てくるのは唸り声に近い声ばかりである。
クレメンティーネはハンスのその姿を見て、勝利を確信したらしい。

彼女は一気に畳み掛けるべく、自信満々の大演説を行なっていく。

「差別というのを一番強く意識するのは差別される側なんです!確かに、この学園には差別というのが根強く存在します!ですが、それは意識の問題であり、その悲しむべき風潮こそが是正させるべきでしょう!」

「そんなのまやかしだ!生徒会による誤魔化しだッ!」

〈獲物〉クラスの生徒の一人から明確な野次が飛んだが、それは近辺の〈狩人〉クラスの生徒の一撃により、強制的に沈黙させられるのであった。
代わりに、〈狩人〉クラスの特に生徒会の息のかかった生徒や粗暴な生徒たちが会長に喝采を送るのである。
会長は一部のそれでいて、妙に多い拍手に迎えられながら、演説を続けていくのであった。

「我々ができる事は少しでも、この学園の中に存在する差別をなくす事です!ですが、それは〈獲物〉クラスの生徒のワガママを聞くというものではありません!また〈獲物〉クラスの生徒たちが〈狩人〉クラスの生徒たちを逆に蔑むような事があってもいけません!〈狩人〉クラスの生徒と〈獲物〉クラスの生徒たちが手を取り合って、お互いの非を認めつつ、共存していく……これが、私が思い描く本来の魔銃士育成学園の在り方ではないでしょうか?そのためには一部の困り事など我慢するのがものの道理というものではないでしょうか!?」

クレメンティーネの自己陶酔に満ちた演説は実際に〈狩人〉クラスの生徒から日夜攻撃を受けている〈獲物〉クラスの生徒の事を無視すれば、完璧そのもののであった。
これから先の進展など期待できそうにもない様子に大いに落胆する〈獲物〉クラスの生徒たちを他所に力をひけらかす〈狩人〉クラスの生徒たちは拳を振り上げ、理性などを完全に吹き飛ばしたらしく、会長に賛同する言葉を次々と投げ掛けていく。
その様子にハンスは絶望の色さえ浮かべていた。椅子の上で意気消沈する彼を他所に、不意に何処からか笑い声が聞こえた。

こんな素晴らしい演説のどこに笑う所があるのだろう。
会長に賛同した生徒を中心とした全員が笑い声をした方向へと視線をやると、そこには不敵な笑い声を上げて、椅子の上で愉快そうに手を叩くルイーダの姿。
彼女は大袈裟に手を叩き終えると、椅子の上から立ち上がり、笑いを引っ込めた後に改めて、手を挙げて、自身の意見を述べ始めていく。

「素晴らしいさえずりをご拝聴した。まさか、あそこまで綺麗事と誤魔化しで施されたさえずりを私は今までに聞いた事がない」

「な、なんですって!」

クレメンティーネが声を荒げる。同時に彼女の演説に賛同していた多くの生徒たちがルイーダへと野次を飛ばしていく。
だが、彼女はそんな批判などものともせずに、生徒会長を断罪していく。

「今の空っぽの演説を聞いて、私は思った。やはり、貴様は生徒会長に相応しくない。そこで……だ。私は貴様並びに貴様の息のかかった生徒会全員の罷免をこの場で要求するッ!」

「な、なんですって!」

ルイーダの予想外の弾劾にクレメンティーネは勿論、他の全員も驚きを隠せなかったらしい。
あちらこちらでざわめく声が聞こえているのがその証拠だろう。
クレメンティーネは苛立ちを必死に隠しているためか、少しばかり怒気を含ませた言い方で、ルイーダに尋ねた。

「わ、私を罷免……この学園の差別撤廃に尽力を尽くしている、この私を?」

「何をふざけた事を抜かしている。まだ理解できないのならば、この際だ、ハッキリと言ってやろう。もっともらしい事をベラベラと喋って、今この学園に起きている〈獲物〉クラスの生徒たちを虐げている事実を誤魔化している悪女に生徒会長は相応しくないと言っているのだ」

ルイーダは胸を張りながら、悪びれる事もなく堂々と言ってのけた。
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