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入学編

一触即発の状態の中で、女騎士は最後に笑う

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「殺す理由か?簡単だろう?女が男を侮辱した。それだけで十分だ。貴様が死ぬ理由としてはな」

と、ヨーゼフが発するのと同時に、ルイーダは高速魔法を利用して、彼の背後へと回り込む。
高速で移動したためか、先程、彼が自分に向けて発射した弾丸が勢いを付けて飛んでいる事に気が付く。
彼女はヨーゼフが擬似高速魔法を利用するよりも前に、彼の腹に強烈な一撃を叩き込む。

同時に彼女は魔法を解除する。同時にヨーゼフの腹に強烈な痛みが生じて、彼を廊下の上に蹲らせていく。

「グァァァァ~ちくしょう、テメェ、このおれに何をしやがった?」

「一人称は私だったはずだろ?紳士ぶった態度は何処にやったんだ?」

ルイーダの口元にはハッキリと冷笑の色が浮かんでいた。
ヨーゼフは更なる行動を起こそうとしたが、彼女はそれを許さない。
先程とは対照的にヨーゼフの体を強く締め上げて、彼の体そのものを絞っていく。
その時だ。不意に平均よりは少し上という顔をした青年が現れて、ヨーゼフとルイーダの間に割って入り、無理矢理に彼女を引き離す。

「何者だ?キミは?」

ルイーダの疑問に対し、当初こそ青年は微動だにもしなかったが、やがて、強張っていた筋肉を緩め、柔かな笑顔を浮かべて答えた。

「初めまして、おれの名前はラインハルト……ラインハルト・バーリングです。お気軽にラインハルトとお呼びください」

「となると、キミはあれか?ラッキーオフィサーの一員かね?生徒会最後の切り札とされる最強の男というのはキミの事かな?」

図星だったのか、ラインハルトなる青年は微かに片眉を上げた。
動揺する彼とは対照的にルイーダの口元に浮かぶのは相変わらずの冷笑。
人を喰ったような笑顔である。ヨーゼフはこの冷笑に理性を失わせる事になったが、彼は違うらしい。

口元を一文字には閉じたものの、すぐにまた和かな笑顔を浮かべて、彼女に向かって手を差し伸べていく。

「……おれはもう過去の事は気にしません。よければ、どうです?抜けた双子の代わりにラッキーオフィサーに入りませんか?」

このラインハルトの提案を聞いて凍り付くのは〈獲物〉クラスとされる生徒たちである。
騎士の会の会員たちの騒動を聞き付けて、野次馬に来ていた彼ら彼女らは自分たちにとっての希望であるルイーダが落ちるという最悪の展開を考えたのだろう。
だが、彼ら彼女らの不安は裏切られる事になった。

ルイーダはクックッと笑い始めると、ラインハルトの手を振り払い、強い口調で彼に向かって言った。

「残念だが、この聖騎士、ルイーダ・メルテロイが守ると決めた人々を放置して、敵の陣営に降るとでも思っているのかね?貴様らのような犬になるつもりなど、私には毛頭ない」

「……犬だと」

ルイーダの挑発に今度は明らかにラインハルトの顔色と態度が豹変した。
あからさまな嫌悪を顔に浮かべて、猛犬のように彼女を睨んでいる。
同時に、彼は腰に下げていた先の尖った十連式の旧式の自動拳銃を取り出し、その銃口を突き付けながら言った。

「……言葉に気を付けてもらいたい。確かに、おれは感情を無くしているとよく言われるが、それでも、怒る時は怒るぞ。貴様のその額を撃ち抜いて、脳天をこの廊下にぶち撒けるくらいの事はしてやれる」

「フッ、そうこなくては面白くない」
ルイーダは口元に微笑を携えると、そのままラインハルトの前へと迫っていく。
その豊満な胸を震わせながら、迫るその女傑を相手に、流石の彼も撃つのを躊躇ってしまったらしい。
その隙を利用して、彼女はラインハルトの拳銃を無理矢理に取り上げる。

「キミが幾ら強がっていたとしても、私には勝てまい。何せ、キミが幾ら強がっていたとしても、所詮は学生だからな」

その言葉を聞いて、ラインハルトは拳をプルプルと震わせていく。
そればかりではなく、歯をギリギリと鳴らす音が聞こえてくる。
余程、その言葉が悔しかったのだろう。
ルイーダが去る間際に、小さくも怨恨の詰まった言葉を吐き捨てる。

「……覚えておけ、必ず、討論会の日に貴様を殺してやる」

「それは脅しか?やれるのなら、やってみろ」

挑発に挑発で返したためか、背後からはラインハルトが歯をガタガタと鳴らす音が聞こえてきたので、ジードは不安になり、妻に取り成したものの、肝心の妻はジードの言葉を聞こうともしない。
相変わらずの涼しい顔を浮かべて、

「大丈夫だ。私はあんな奴に戦ったとしても、負けるわけがない」

と、答えばかりである。ジードは不満そうな目で妻を見つめたものの、彼女は意に返す事なく、来た道を戻っていく。

一方でこれまでにない程の怒りを覚えたのはラインハルトの方である。
彼の背後からクレメンティーネとコルネリアの両名が現れて、彼を宥めようとしたものの、彼の怒りはとっくの昔に奥底から噴き上がっていたらしい。

「覚えておけよ。おれに逆らえばどんな事になるのかをじっくりと教えてやる……ガレリア国が誇る最強の男とされるこのおれを怒らせたのならば、どうなるのか……」

コルネリアはその姿に畏怖の表情を見せていたが、クレメンティーネが浮かべていたのはコルネリアとは対照的なもの、すなわち期待に溢れた顔を覗かせていた。

(あの自称女騎士、まさか、ラインハルトくんをあそこまで怒らせるとは思いもしなかったわ。これなら、討論会の日に彼を……いいや、彼の取り巻きも上手く動かして……フフ、この学園の秩序を取り戻すという計画も上手くいきそうね)

だが、ラインハルトはそんな生徒会長の怪しい笑顔に気が付く事もなく、不快そうに両眉を顰めながらその場を去っていく。
帰り間際に壁をたたいていたので、余程、怒っていたらしい。

「暫くの間は英雄……ヘルトの寮に住む子たちにラインハルトには気を付けなさいとだけ言っておこうかしら」

クレメンティーネは隅で震えていた副生徒会長に向かって言った。

「あぁ、それから、お前はどうするつもりだ?」

副生徒会長の問い掛けに、クレメンティーネは口元にルイーダと同じような冷ややかな笑みを浮かべながら答えた。

「いやね、私は夜の社交界の蝶よ。あの自称女騎士の夫を落とすくらいにはわけがなくってよ」

彼女はそう言うと、悪戯っぽく笑い、雪のように真っ白な生脚をコルネリアに見せるのであった。
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