上 下
18 / 162
入学編

騎士の会との合流

しおりを挟む
「それで、こいつどうするのさ?」

ジードはすっかりと気を失ったアウグストを引きずる自身の妻に向かって問い掛ける。
ルイーダは余裕ぶった笑みを口元に浮かべながら答えた。

「決まっているであろう。どこかに此奴を隠して、討論会の日にもし、万が一の事が起きでもすれば、此奴を人質にし、生徒会長の辞任を突き付ける」

「けど、奴らがそれに応じますか?奴らの事だ。ハインリヒ先生の事など無視して、我々を攻撃するでしょうね」

ハンスは生徒会への嫌悪感からか、心底忌々しいと言わんばかりの口調で吐き捨てる。

「ならば、エックにでも、記事を書かせるか、タイトルは『生徒会、自身の学園の生徒を見捨てる!?』などはどうだろうか?」

ルイーダは目を輝かせながら、指を鳴らして、二人に提案したが、それを聞いたジードは残念そうに首を横に振って、

「今からわざわざエックの元に行くのか?あいつはおれと違って、クルーガーの寮暮らしだ。その最中にクレメンティーネの息のかかった生徒にでも見つかってみろ、討論会を潰す大義名分を得たとばかりに、お前を捕縛するだろうな」

と、淡々とした調子で理由を述べていく。

「……そうか、ならば、此奴を何処かにしまうとするか」

「この街の騎士の会の倉庫にしまうというのはどうでしょう?そこならば、生徒会も勘付かないでしょう」

「それは名案だ!」

ジードの同意の言葉に彼の妻も同調していた事から、この提案は満場一致で可決される事になった。
ルイーダが最後に腹を打って意識を失わせたアウグストを酔っ払いを介抱しているというフリをしながら、連れていく事にしたのは正解だったらしい。
学園の問題児と教師がいる姿に違和感を持つ人がいるにはいたが、それでも、通報するには至らなかったらしい。

少なくとも、そうしないと判断してくれた事には感謝するべきだろう。
ルイーダは安堵の溜息を吐いた後に街外れの赤い煉瓦の倉庫へと彼を放り投げる。
入口から四番目の位置にある小さな倉庫。
そこが、アウグスト・フォン・ハインリヒの当面の住処になるだろう。

ハンスの話によれば、騎士の会の仲間が彼が死なないように配慮してくれるという。
彼によれば、一日に二回はスープとパンによる食事が出るだろうし、なんならば、横になる程度のマットも支給されるという話である。

「いたせり尽くせたりという奴だな」

ジードが感心したように言う。

「あぁ、なにせ、死なれては困るからな。あいつの息子はこのおれを殺そうとしたが、それでも、立場は立場だ」

そう語るハンスの声色には怒りの色が混じっていた。
二人は何も言わずにその日はアパートに戻るばかりである。
だが、翌日になり、事件は起きた。あろう事か、校内に居た騎士の会の面々が暴走し、生徒会に武器を持って押し掛けるという事件を起こしてしまったのである。

ハンスにとっても、学園内の同志がこのような事件を引き起こしてしまうのは予想外の事であったらしく、彼の声が大きく上ずっている事をルイーダは見逃さない。
彼女は興奮している彼を宥め、生徒会の面々が出てくるよりも前に、血走った目を向け、腰に下げている拳銃をガチャガチャと鳴らしている三人の騎士の会の同志を宥めていく。
ルイーダの必死の説得により、三人の過激派は一旦は生徒会室の扉の前から離れて行ったが、同時にそれはラッキーオフィサーのヨーゼフ並びに生徒会の過激な生徒たちを出動させる大義名分になったらしい。

三人の男子生徒はヨーゼフの指揮の元に拘束されてしまう。
両腕に縄を掛けて拘束する姿はさながら、囚人の様であり、ルイーダに同行して、生徒会室の前を訪れた、ジードはその不快感に目を背けたが、彼の妻である高貴な騎士は生徒会の横暴に対し、ハッキリとそれを口に出す。

「その人たちが何をしたのか、いかなる理由で囚人の様に扱われるのかを私は聞きたいのだが」

ヨーゼフは彼女の回答に対し、落ちそうになった眼鏡を人差し指で上げると、御伽噺に登場する狼の取り巻きの狐の様な卑劣な笑顔を浮かべながら答えた。

「何って、こいつらが生徒会に危害を加えようとしたからですよ。危険な生徒を拘束し、多くの生徒の安全を守る。それが、生徒会並びにラッキーオフィサーの役割なんです。もっとも、ラッキーオフィサーは二人も抜けてしまったので、私を除けば、後は一人しか居ませんけどね」

「そのお方は何処に居られるのだ?是非とも、合わせて頂きたいな」

「フフ、キミは何も知らないようだな。彼は我々の切り札……キミが最悪の手を使わない限りは出番がないよ」

「安心しろ、ヨーゼフ。今も討論会の日も何もしない。私個人としては貴様のその不味い面を張り倒してやりたいが、そんな事をすれば、私自身が不利になる事は目に見えてわかっているからな。こちらとしても、生徒会がフリードリヒ王の様な暴挙に出る事がなければ、武力を使う事などはせんさ」

『フリードリヒ王』という言葉が彼の高いプライドを刺激したらしい。
彼はわざと大きな声で舌を打つと、先程まで小突いていた騎士の会の一人を乱暴に地面の上にて叩いたかと思うと、立ち上がって、ルイーダと対等な視線を合わせる。

「……貴様、我々を愚弄する気か?」

「愚弄も何も真実を告げただけだ。それとも、何か、事実を告げられるのがそんなにも気に食わなかったのかな?」

「前から気に入らなかった。女のくせにそんな乱暴な言葉を使うのがな」

ヨーゼフは拳を強く握り締めながら、目の前のルイーダを強く睨む。
普通の人ならば、ヨーゼフの剣でも突きつけられたかのような鋭い視線に成す術もなく怯えていただろう。
気の弱い者ならば、謝罪の言葉を述べていたかもしれない。

だが、この女騎士は違った。この横暴な執行官の男に対し、毅然とした態度を貫き続けた。

「お淑やかという言葉は私には合わぬ。いや、昔はそれなりにしおらしい言葉も使ってはいたが、目覚めてからはそれも滅多に……いや、殆ど使わんな。その事がキミの気に触れたらしいな」

最後は皮肉混じりに告げた。この事が、ヨーゼフの中の理性という鎖で縛られていた、怒りという名の竜を解放させてしまったらしい。
彼は腰に下げていた拳銃。それも、先端の尖った旧式の自動拳銃を取り出して、ルイーダへと突き付けた。

「このクソ女が、よくもそんな事を言えたな……殺してやるぞ。絶対に殺してやるぞ!」

「やってみろ、正当な理由もないのに、引き金を引けば、殺人罪で刑務所に入るのはキミだぞ」

ルイーダは怯える様子を見せる事もなく、平然とした調子で言い放つ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...