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入学編

双子の男女は捕らえられて、先祖の仕えた女騎士の尋問を受ける

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「それで、お前たちに指示を出した奴の名前を教えてくれればいいのだ。そうするだけで、お前たちの縄を解き放ち、自由にしてやろうではないか」

ルイーダは寝台の上に腰を掛けながら、椅子の上に縛られた幼い二人の少年と少女を見やりながら言った。
囚われた二人の子供は驚くほどに顔が似ていた。恐らく、双子なのだろう。
丸くて小鹿の様に可愛らしい茶色の瞳と小さくて愛らしい形をした唇、それに黒檀の様に綺麗な黒い色の髪がその事実を指し示していた。

だが、その見た目に反して、二人は物騒なものを腰に下げていた。
二人とも、旧式の先端が出っ張った十連式の自動拳銃を所持しているのがその証拠だろう。
国立魔銃士育成学園は多くの生徒が銃を下げており、その例に漏れずに二人とも銃を下げているのだろうが、それでも二人の愛くるしい子供の顔とはミスマッチとも取れる装備である。

それでも、相手が幼い子供という事もあってか、ルイーダはいつもよりも優しい口調で尋ねているつもりであるが、二人は頑なに口を割ろうとはしない。
ルイーダはうーんと唸り声を上げたが、すぐに手と手を合わせるてポンという音を立てると、ジードを呼び寄せると、映画館で買ったあるものを取り出す。

「ほら、飴玉だ。ポップコーンにキャラメルもあるぞ。コーラが良いのなら、コーラをーー」

「ふざけるな!」

「そうだよ!あたし達を馬鹿にしてんの!」

ルイーダは予想外の反撃に面食らった様子を浮かべる。
それをいい事に二人の捕虜は好き勝手に喚き散らしていた。

「あたし達を自由にしろよ!おばさん!」

「そうだよ!おばさん!オレたちにはやる事が多いんだから!」

『おばさん』という単語にショックを受けたのか、ルイーダは大きな溜息を吐くのと同時に部屋の隅へと下がり、紅茶を楽しみ始めた。

「なら、お前たちに命令を下した奴の名前を吐きな。それだけで、お前たちはパパとママの元に帰れるんだぜ」

ジードは衝撃を受けて、退散した妻と入れ替わるように現れると、買ってきたポップコーンを口に放り込みながら言った。
彼がその一つを一つを心底から美味しそうに食べている様子を見せているためか、二人の幼い少年と少女は物欲しげにジードが食べる様子を見つめていた。
少年に至っては生唾を飲み込んでいるではないか。

ジードがそれを見てニヤニヤと嘲笑を浮かべる。

「どうした?指示を出した奴の名前を喋るだけで、ポップコーンが食べられるんだぞ。あっ、そうだ。映画館で売ってたペロペロキャンディーもあったな」

ペロペロキャンディー。それは渦巻き状の棒で突き刺された飴であり、子供にとってはアイスクリームや板状のチョコレートに並ぶ憧れの菓子の一種である。
その中にはプリンやバニラを始めとした様々な味の付いたアイスクリームを並べる子供もいるかもしれない。
今のジードが舐めている飴は子供にとっても一種のステータスともいえる飴なのである。

それを目の前でチラつかされては決心も揺らぐというものだ。
ジードは二人の口がもうすぐで開く事を予期した。
同時に、二人の決心が消える寸前の蝋燭の炎の様に揺らいでいる事も予測できた。

ジードは口元に笑いを浮かべながら、決心の揺らぎかけている二人に真剣な表情を浮かべた後に、がっちりとその小さな肩を掴みながら務めて、真摯な口調で告げた。

「なぁ、お前たち、このままでいいのか?」

「このままって?」

二人が声を合わせてその質問の意味を問う。

「あぁ、お前たちはまだ年齢が一桁にもいかないのに、魔銃士を目指してる。それは偉い。凄い。けどな、お前たちだって本当は遊びたいんじゃあないのか?」
「だ、黙れ!オレたちはラッキーオフィサーに入ってるんだ!いうなれば、選ばれているんだぞ!そんな人間が頑張るのは当然でーー」

「いいや、オレにはわかる。お前たちだって、本当は年頃の子供の様にお菓子を食いたいんだろ?遊びたいんだろ?オレたち夫婦はな、将来、子供を持とうと思っているんだ」

その時に急にルイーダが口の中に含んでいた紅茶を噴き出す。
それから、顔を林檎のように真っ赤に染めながら、ジードに迫っていく。

「き、貴様!こ、こ、子供を持つなんて話は聞いてないぞ!第一、私はまだお前のご両親にもーー」

ジードは焦る妻の口を無理に塞ぐと、そのまま真剣な顔で二人に向き直る。

「なぁ、本音を言えよ。二人とも」

二人は真っ直ぐに首を縦へと動かす。
それを見た、ジードは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、二人に菓子を差し出す。
少年の方はポップコーンを、少女の方はキャラメルを夢中で口にしていく。
二人がお菓子を満足に食べ終わるのを確認してから、ジードは真っ白な歯を見せながら笑い掛ける。

あまりにもいやらしい笑みに、二人からしまったという表情が垣間見えた。

「あんたらに指示を出した人物を教えてくれないかな?」

二人は暫くは口を紡ごうと努力したが、目の前でお菓子をチラつかされては泣くしかなかったのだろう。
あっさりと依頼者の名前が出された。

「やはり、生徒会か……」

ルイーダは新たに淹れ直したお茶を啜りながら言った。

「あぁ、あいつら、ラッキーオフィサーを操って、お前とオレを消そうとしたんだろうな。いやらしい奴らだ」

「……なぁ、ジード。生徒会の奴らにこう言ってやらないか?こいつらを生徒会の扉の前に放り投げて、こいつらを使うよりも前に、正々堂々と戦えとな」

ルイーダは気まずそうに菓子を食べる二人の少年と少女を指差しながら言った。

「いいや、それよりも、この二人を直接、行かせた方が早い。それでこの二人から堂々とオレたちの伝言を直に言わせた方が屈辱は倍になるだろうぜ」

ジードが親指で二人の少年少女を指しながら妻へと提案した。

「それもそうだな。おい、お前たち、明日にでも生徒会に行ってもらおうか」

「……誰が」

「そんな釣れない事を言うなよ。それに、今更、お前たちが否定したところで菓子に釣られて、依頼人の名前を喋った事はもう事実なんだぜ。ここまで来たら、観念して、名前も明かしてもらおうじゃあないか。ラッキーオフィサーの坊ちゃんに嬢ちゃん」

ジードの挑発に二人の子供はすっかりと乗ってしまったらしい。
顔を真っ赤にしながら、それぞれの名前を大きな声で名乗っていく。

「坊ちゃんだと!バカにするなよ!おれはケーニッヒ・“ケニー”・フォレーンゲルダだッ!」

「あたしはコンスタンツァ・“コニー”・フォーレンゲルダ。ケニーの双子の妹よ!」

「ケニーとコニーか、これからよろしく」

ジードは幼児に向けるための笑顔を浮かべて手を差し出したが、二人の高貴なるラッキーオフィサーはそれを拒否し、可愛らしい表情を浮かべて突っぱねた。
だが、そんな精一杯の抵抗すら、ジードには可愛い悪戯にしか見えなかった。
ジードは縄で縛られた二人を机の上で眺めていた。

何処か、微笑ましいのだ。この二人は。
同じラッキーオフィサーでも、ヨーゼフとは天と地ほども違う。
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