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入学編

生徒会、動く!

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「成る程、ええ、はい、了解しました」

生徒会長、ズィーベンは掛かってきた抗議の電話を置くと、書類を置いて大きく溜息を吐く。

「やはりというか、なんというか、あの例の生徒か?」

ズィーベンに声を掛けたのは副会長のコルネリア・ハーンである。
ボブショートの美人で、スタイリッシュな彼女はロングヘアーでかつ、筋肉よりも僅かに体脂肪率が勝つという体型をした彼女とはあらゆる意味で対照的と言えるだろう。
クレメンティーネ・ズィーベンが異性に受けるタイプであると表現するのならば、スタイリッシュかつ話し方も男性の口調に近い彼女は異性よりも同性からの羨望を集める身である。

そんな二人が同時に生徒会の役員を務めているのだから、この年の生徒会は面白いとクレメンティーネの実家とも縁の深い総統から誉められていた事を彼女は覚えていた。
魔銃士育成学園の生徒会。それは、魔銃士育成学園の王室とも言ってよい存在である。
無論、生徒会の独占を防ぐためにも教師陣が存在しているのだが、それはとうの昔に形骸化しており、実質的な魔銃士育成学園の指導役は生徒会であったともいえるだろう。

なにせ、生徒会は魔銃士育成学園にて上位の成績を収めた生徒しか入れないのだ。
それに加えて、生徒会長は魔法の成績がクラストップの者しか立候補できないので、一般の生徒。とりわけ〈獲物〉クラスの生徒からすれば雲上人ともいえる存在であった。
おまけに現生徒会長であるクレメンティーネは名門とされるガレリア王国の数字の一族に名を連ねる令嬢である。

副会長にしろ、風紀委員にしろ、どこも名門の一族か独占しており、これはある一定の一族の独占だと称されても仕方があるまい。
何にしろ、クレメンティーネの家。通称、数字の家はガレリア国内でも代々、王や皇帝に仕え、その才を期待され続けた通称〈高貴なる数字の方々ナンバーズ〉とされる程の名門であり、今はその仕える対象が王や皇帝から国家総統に代わっているだけなのだ。
なので、必然的に国家総統ならびにマナエ党に反対する面々は彼ら彼女らにとっては最大の敵といえた。

クレメンティーネは手元のの書類を纏めながら告げた。

「それで、その御仁は今日の編入試験に無事、合格なさったの?」

クレメンティーネの問い掛けにコルネリアは黙って首を縦に動かす。

クレメンティーネは「そう」と小さな声で告げると、そのまま書類作業に戻っていく。
少なくとも、この時点ではクレメンティーネにとってはいや〈高貴なる数字の方々ナンバーズ〉にとっては伝説の騎士を称する存在など取るに足らない存在に過ぎなかったのだ。
だが、後にこの伝説の騎士の名前を名乗る女性こそが自分たちにとって最大の脅威になろうとは考えもしなかったのである。











「なるほど、私の階級は〈獲物〉か……フッフッ、獲物か。中々に面白いではないか」

「じょ、冗談じゃあないよ!お前みたいな強い人が落ちこぼれの認定を喰らうなんて……納得がいかないよ!抗議してくる!」

ジードはいきり立ったのか、その場から慌てて、試験管の元へと駆け出そうとしたのだが、そのまま腕を彼女に掴まれて、それは断念してしまう。

「落ち着け、我が夫よ。奴らが納得せぬのならば、こちらの手で納得させてやればよいのだ」

そう言うと、ルイーダは口元いっぱいにびしょうをうかべて、得意げな顔を浮かべて胸を張る。
そして、少年の腕を引きながら、彼女はステップでも踏むかのような軽い足取りで学園の中を走り回っていく。
一通り、大きな学園の中を歩かされたので、教室に入るのは予定した時間を大きく過ぎた頃だった。

ジードが恐る恐る扉を開くと、そこには殺気立った目で自分たちを睨む生徒たちの姿。
どうも、この様子から察するに歓迎されていないらしい。
ジードが苦笑していると、そんな夫を押し退けると、ルイーダは意気揚々と教室の中に入室し、チョークを無断で拝借し、黒板に大きく自身の文字を書き記していく。

「私の名前はルイーダ・メルテロイだッ!ここにいるジードフリード・マルセルの妻で、元はガレリア王国の騎士であったッ!みんな、よろしくッ!そうだ、恥ずかしいが、こればかりは言っておこう!年齢は花の中に住まう花の妖精たちが羨む年頃であるとなッ!ハッハッ!」

予想外の発言に教室の中が凍り付いていく。
当たり前だろう。突如、現れた転校生が身近な同級生の妻を自称したばかりではなく、彼ら彼女らが国語の授業でしか読む事のない竜暦初期を舞台とした騎士道物語に登場するような台詞を口に出したのだから。
おまけに名前も竜を閉じ込めた伝説の女騎士と同名とあっては、これはいよいよ痛々しい奴なのである。

何人かの女子などはあからさまに陰口を叩いていたが、ルイーダはそんな悪口などは無視して隣で苦笑いを浮かべている教師に大きな声で自身の席を問う。
教師は教室の奥。ちょうど、彼女の夫であるジードの隣を指差す。
ルイーダはそれに気持ちのいいくらいの声で礼の言葉を述べて着席する。

ルイーダが座るのと同時に、教師は黒板の上にデカデカと書かれた彼女の名前を消し、自身の授業を始めていく。
一限目は歴史の授業であったらしい。
しかも、タイミングの良いところに竜歴の初年度の事を話し始めていったのである。
ルイーダはそれを、初めて、文字を学校で習う子供のように両目を輝かせながら聞いていた。

しかも、授業の初日だというのに彼女はやけに熱心にノートに今日の事を書き記しているではないか。
隣に座っていたジードが思わずに目を丸くするほどに。
やがて、学校の鐘が鳴り響き、授業の終了が告げられるのと同時に彼女の周りには生徒たちが殺到していく。

先程、あれ程までに陰口やら何やらを叩いていたというのに、好奇心の方が勝ったらしい。
だが、彼女は驕る事なく、それに一つ一つ丁寧に回答していく。
それがあまりにも自分たちにとっての予想の斜め上の回答であったとしても。

全てが終わる頃には複雑そうな顔をしたり、明らかに侮蔑の表情を浮かべる生徒たちもいたのだが、彼女は気にする事なく、生徒用の木製の椅子に深々と腰を掛けていく。
極め付けが、ジードに向かって放った一言である。

「学校というのは中々に面白いところであるな。気に入ったぞ」
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