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入学編

市民権を得るために婚約します!

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「……お前、ジードフリードとか言ったな?私と結婚しろ!」

その言葉を聞いてジードフリードは「え?」と短い疑問の声を漏らす。
だが、伝説の騎士、ルイーダはそれ以上彼が踏み込むのを許さない。彼の背後にある壁に剣を突き立てて叫ぶ。

「え?じゃない!私には市民権とやらは無いのだろう?それなのに、お前はそんな不便な世界に私を起こさせた!」

「い、いや、それとこれとは話が別では……」

青年はたじろいだ様子を見せたが、ルイーダは彼に反論の隙を与えない。たじろいだ様子の彼の背後の石壁に向かって剣を突き立てて彼の心を寒かしめていく。
ジードフリードこと、ジードはヘナヘナとその場にへたり込む。
だが、彼女は容赦しない。大きく目を広げてジードに目線を合わせると、

「竜暦元年の頃、私が眠った頃と比べれば不便な世の中になったのだから当然だろう!これまでのお前の話を統合すれば、私がお前と結婚するのは当然だろう!」

「い、いや、待ってよ!あんた、幾つだよ!?言っておくけど、オレはまだ15で……」

「安心しろ!私は18だッ!」

女騎士は自信満々に叫ぶが、それは素直に受け取ってはいけない事は直ぐにでも理解できた。
何故ならば、彼女は一千年に渡って眠っていたのだから、実際の年齢は千歳を軽く過ぎているだろう。
なので、彼は婚約を断ろうとしたのだが、ルイーダは剣を握って離さない。

それこそ、断りでもしたら自身の横に刺さっている剣がそのまま自分の首を跳ね飛ばしかねない。
大聖堂の地下で身元不明の女騎士に首を跳ね飛ばされたとあっては《獲物》とはいえ魔銃士学園に名を連ねる人間の恥ら晒し。
ジードは何度目か分からない溜息を吐いて剣を突き立てている女騎士の手を取り、跪いて彼女の手の甲に口付けを行う。

それから、この国における伝統的なプロポーズの言葉を呟く。

「私、ジードフリード・マルセルはルイーダ・メルテロイを生涯、ただ一人の伴侶とし、その愛を永遠に捧げる事を誓います」

ルイーダはそれを聞くと満足そうに首を縦に動かす。その表情を見たジードは自分が負けた事を知った。
一千年もの間、眠りについていたのならば、普通は赤面して叫ぶ所だろう。
少なくとも、彼が今までに読んだロマンス小説ではそうだった。中世の騎士が身分違いを承知で大国のお姫様に婚約をした時にはお姫様は赤面し、騎士によろけついたものだが……。

「うむ、これで婚約の誓いは結び終わった。これで私ときみとは既に婚約者の間柄だ。市民権とやらは確保する事が出来た!」

彼女は剣を鞘にしまった後に、嬉々とした笑顔を浮かべて告げる。実に呆気からんとした清々しい笑顔だった。
そんな眩しい顔で見られてはジードも敵わない。
ジードは婚約を結んでからの手続きを彼女に向かって説明していく。
騎士は首を縦に動かして同意の言葉を告げてから、ジードの手を握って地上へと通ずる階段を登っていく。

ジードは彼女と共に階段を登ったのだが、その先に居たのは司祭の姿。
どうやら、大聖堂の扉が空いている事に気が付いてここに飛んできたらしい。
司祭はジードを怒鳴ろうとしたのだが、彼の側で堂々と立っている騎士の姿を見た途端に思わず叫んでしまう。

幽霊でも見たかの様な調子で尻餅を付く大聖堂に務める僧侶に騎士は寛大な笑顔を向けて手を伸ばす。

「ただいま、黄泉の国から帰りました。ルイーダ・メルテロイ王国騎士団長であります!」

「ま、まさか……あなた様が本当に生きておられるとは……」

僧侶は弱々しい声でそれだけ告げた後に今度は大聖堂中に聞こえる程の大きな悲鳴を上げて大聖堂の扉を開けて飛び出す。

「おい、お前、あの司祭と知り合いなのか?初対面にしちゃあ、面識のある様な事を言ってたし」

「私が?まさか!」

彼女は一笑に伏す。それから、豪快な笑い声を上げて先程の行動を説明していく。

「司祭と思われる人物だから、丁寧に挨拶をしておこうと思っただけなんだ」

彼女はそう言うと、ジードを引っ張り、大聖堂を出て行く。
朽ち果てた大聖堂の前には石で整備された道路が存在し、そこを使ったと思われる痕が垣間見える。

「おおおお!!これが、例の道路とやらだな!?なぁ、ジード!ここにくるまとやらが通るのであろう!?」

両目を輝かせて人差し指を突き刺して叫ぶルイーダ。
ジードは頭を下げて彼女の意見に同調しておく。それから、ジードはフリーダを連れて自身の住まう街へと彼女を連れて行く。
大聖堂の右側に存在する彼の住まう街は国が精力を挙げて築き上げた魔銃士育成のための街だと言う触れ込みやあまり人の訪れない寂れた大聖堂を軸に左に進むと、それなりの大都市に進むという事もあってか、施設や人には事欠かない。

魔銃士育成学園の存在するアトロパトロネの街には学生や学生のための施設やそれに携わる人々が住まうという特性のためか、夜でも多くの人々が集う。
彼女は街に着くのと同時に、街の道路を走るT字型のカッコいい形の車や丸びたデザインが可愛らしいと評判の車が通ったり、街灯や見慣れない文字の描かれた看板が上げられた店を見て目を輝かせて、何も知らない幼児の様に無邪気にジードに尋ねる。
ジードは眉を僅かに下げたものの、一応は彼女に街灯や施設の説明をしていく。

どうやら、かつては最年少で王国騎士団の団長を務めたという事だけはあり、頭の回転も早いらしい。
これならば、仮に魔銃士育成学園に入学したとしても、ペーパーテストの出来の良さは保証できるだろう。
ジードはまだまだ千年後の世界を見たい彼女を引き連れ、半ば乱暴に手続きを行うための場所へと連れて行く。

彼女は連れて来たのは街の市役所。ここで、ガレリア人は婚姻を結ぶ事ができ、同時に外国人の場合は婚姻が結ばれるのと同時に国の市民権を得られる事になるのだ。
彼はルイーダを遠縁の親戚と誤魔化し、真夜中だという事も利用し、職員のやる気のなさも後押しさせた後に、半ば強引に婚約を結ぶ。
それから、彼女に市民権の取得を告げる。

「よし!これで私は名実共にガレリア人となったのだ!何も恐れる事はあるまい!後は魔銃士育成学園とやらに編入するだけだな!」

「……問題は合格試験だね。いや、きみの場合は編入試験というべきかな」

彼の頭の中にかつての苦い記憶が思い浮かぶ。
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