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魔王の覚醒
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「理解していたのならば話が早いこちらから行くぞ」
マルスが剣を振りながらケルスやエレクトラなどを無視してフィリッポの元へと向かっていく。それに対するフィリッポは構えるどころか自身の足を背後へと下がらせている始末である。理屈ではわかっていたとしても彼の本能が無意識のうちに撤退を選ばせていたのだ。魔王の恐怖が彼を撤退という武人としてあるまじき行為に走らせたといっても過言ではない。
フィリッポが足を下がらせながら「あぁ」と短くそれでいて神に祈りを捧げるようなか弱い悲鳴を上げた。それを死ぬ前の懴悔と見做したらしい。マルスは剣を構えてフィリッポに飛び掛かっていく。フィリッポは己の死を覚悟して咄嗟に両目を閉じた。魔女が生み出した使い魔といえども両目を閉じた事により人間らしい場面があったという事だろう。
彼が死の間際に目を閉じて見たのは過去の記憶だろうか。はたまた自らの忠誠の対象であるケルス王の姿だろうか。
いずれにせよ彼はこのまま体を真っ二つに斬られて死ぬ筈だったのだ。
ケルス王が咄嗟に身を挺してフィリッポを庇わなければ間違いなく、彼は他の使い魔と同様に死んでいただろう。
「無事か?」
脇に傷を負ったケルスが背後にて涙を流すフィリッポに問い掛ける。どうやら彼を庇った代償として左の脇腹を負傷してしまったらしい。
「部下を庇うとはケルスらしくもないな。煽動者のあんたなら部下の一人くらい簡単に切り捨てる筈だろ?」
「確かにな。けど、お前に斬り殺されそうになったフィリッポの姿を見てたら、さっきお前に殺された勇敢な帝国兵の姿が浮かんでな、気が付いたら足の方が自分の意思とは無関係に動いてしまっていたわけさ」
「成る程、説明はつくな」
マルスはその意見に納得してくれたらしく、それ以上は何も言わずに黙って攻撃を仕掛けていく。
二人の斬り合いは壮絶なものであった。というのも、両者から闇と光とがぶつかり合い部屋の中を覆っていく。
「な、なんなんだよ!あれは!?」
声を荒げたのは帝国兵の一人。彼は先程から起きている光景が信じられずに我も忘れて叫んでしまった。
だが、彼に丁寧な説明を行う者などいまこの場にはいない。誰もが二人の戦いを見るのに夢中になって口を出す事ができないのだ。
やがて二人の戦場は部屋の中から城の屋根の上へと変わっていく。
先にそう提案したのはマルスの方だった。
「ここは手狭だ。場所を変えよう」
「……ならば、屋根の上はどうだ?あそこならば多少は暴れても問題はあるまい」
ケルスの提案に対してマルスは首を縦に動かす事もせずに口元を微かに緩めただけである。だが、その小さな微笑は確かにその提案を肯定していたのだった。
二人はそのまま部屋からバルコニーへと移動すると、そのまま屋根の上へと飛び上がり、そこから激しい斬り合いをおこなっていく。
小さな屋根の上で両者は巧みに剣を用いての殺し合いを続けていく中、フィリッポは自分の不甲斐なさを呪う事しかできなかった。
(オレは使い魔だというのに、なんの役にも立ちはしない。陛下があんなに苦労しておられるというのに……)
そんな使い魔の苦悩を察したのだろう。エレクトラは彼の肩に手を置いて言った。
「別にあなたが役立たずというわけではないわ。ただあの男が強すぎる……それだけよ」
その強すぎる二人は屋上の上で闇の剣と光の剣を用いての斬り合いを続けていた。
「ハッハッハ、こうして戦いを続けていると、昔の剣術の試合の事を思い出すなッ!」
マルスが大きく剣を振りかぶりながら叫ぶ。その剣をやっとの思いで防ぎ剣を弾き返して弟の戯言に叫び返す。
「そうだなッ!そしてオレはその剣術の試合にオレは勝てなかったッ!」
マルスはそれを聞いて意味深な微笑を浮かべる。
そして、そのまま宙の上で一回転を行うと、そのまま真下に向かって攻撃を繰り出す。ケルスはその攻撃を冷や汗をかきながら受け止めていく。彼は怯えていたのだ。弟の剣の強さに、そして弟が持つ闇の力に。
「どうした?どうした?救世主殿!オレを不当な手で排斥して王の地位に就いた割には随分と弱いじゃあないか!」
「……人が反論ができないのをいい事に随分と好き勝手言ってくれるじゃあないか!」
ケルスはそう叫んではいるものの、明らかに声が震えている。それを面白く思ったのか、マルスは尚も挑発を続けていく。
「どうした?貴様のお得意の弁舌とやらはその程度か?王というのは口で頭のない大衆を騙すだけでいいから楽でいいなッ!」
「黙れッ!」
ケルスはそう叫ぶと、剣を構え直し、左斜め下から振り上げていく。このままマルスの体に直撃すればよかったのだが、ケルスはそれを難なく防いでしまう。
こんな事はなんでもないと言わんばかりの表情を浮かべて。
マルスは狂気じみた笑みを浮かべながら受け止めた剣を弾き返し、そのままケルスの腹に向かって強烈な蹴りを繰り出す。
ケルスは悶絶して屋根の上を転がっていく。あわや屋根の上から転がり落ちるかと思われたのだが、その前にマルスが彼の左足の足首を掴んだ事によって最悪の事態は防がれたのである。
「このまま貴様を地面の上に叩き付けるのは簡単だが、それではオレの気が収まらん。このままお前に生き地獄を味合わせん事にはな」
「生き地獄だと?生憎とオレは貴様の言う生き地獄を見るとは思えんがな」
それを聞くとマルスはチッチッチと舌を打ち、掴んでいない方の手の人差し指を左右に揺らしていく。
「どうやら貴様はわかっていないらしいな、貴様の国でブリギルド帝国の皇帝は死んだのだぞ。その責任を一身に背負うのは誰かな?」
それを聞いた瞬間にマルスは頭の中が白くなっていくのを感じた。同時に感じた事もない焦燥感の様なものを感じていく。なんという事だろうか。今の今まで有耶無耶にされてはいたが、確かに皇帝は自身の国に、それも自身の城の中で酒宴をしている際に殺されたのだ。魔王に全ての責任を覆い被せる事は簡単であるが、国王にもその責任がないとは言い切れない。
もし、相手の国から詰め寄られた際に責任を問われれば自身の『譲位』という形でしか認められないだろう。或いは王制自体を廃止して完全なブリギルド帝国の属国となり得るかしかあるまい。
ケルスが信じられないと言わんばかりに目を大きく広げてかつての弟を見つめようとした時だ。急に足を強く引っ張られたかと思うと、そのまま抱き抱えられながら部屋へと戻っていく。
部屋に戻るとマルスは抱き抱えているケルスを丁寧に地面の上へと下ろしたかと思うと、鞘から剣を抜くと、そのまま剣先を突き付けて周りにいる人々に強制的に道を開かせて堂々と扉をくぐってその場を去っていく。
暫くの間は恐ろしさのために固まっていた面々であったが、やがて暫くの時間が経ち落ち着きを取り戻し、帝国兵たちが皇帝暗殺の首謀者の追跡へと向かっていく。
その時、ケルスはエレクトラに抱き起こされていたが、その際に浮かべていた目はあの大演説の時の彼とは対照的な虚な目であった。その時の彼はうわ言の様にボソボソと呟いていた。
「皇帝陛下を死なせたのはオレだ……お咎めは免れぬ。どうすればいい……どうすれば……」
それを聞いたエレクトラは当初こそ心配そうにケルスを見守っていたが、やがて『お咎め』という単語を聞いた瞬間に口元を小悪魔的なそれでいて嘲る様な笑いを浮かべた。
だが、すぐにそれを引っ込めると表向きは心配そうな顔を浮かべながらケルスに告げた。
「では譲位なさいませ」
「じ、譲位だと!?他に後継者がいなければ我が家は断絶だ……初代から続いた王家をオレの代で終わらせろというのか!?」
「ご安心を、王女が一人おりますので」
「王女?王女だと!?父上はオレとマルスの他には子を設けられなかった筈だ!?」
「居ますわ。ここに」
エレクトラは人差し指で自らを指差す。それを見た途端にケルスは信じられないと言わんばかりに両眉を上げる。
そんなケルスにエレクトラは優しい声で説明を続けていく。
「ねぇ、ケルス……あたしはあんたのお姉ちゃんなのよ。腹違いのね……変だとは思わなかった?王宮魔道士とはいえ国王が臣下の言う事を聞いて怪物になるなんて」
「し、信じられぬ!父上が愛したのは生涯でただ一人の筈だ!どうしてお主がーー」
「ねぇ、ケルス……人は誰でも過ちというのを犯すものなのよ。私の……いいえ、あたしのお母さんはね、とある村の祈祷師だったの……そこで若い時のあんたのお父さんと出会ってね、強い酒を飲んだと聞いたわ。それで」
エレクトラは思わせぶりな笑みを浮かべながら舌舐めずりを行う。その動作を見た瞬間にケルスは自身の父が酒のために過ちを犯した事を悟ったのだ。
「し、信じられぬ……」
「あんたが信じようとも信じまいとも勝手だけれども、後でガレス国王本人があたしの事を密かに認知したんだもの。言い訳なんてできるわけないでしょ?」
「密かに認知だと!?それはいつの事だ」
「この王宮を訪れた際の事よ」
エレクトラの話によれば、双子誕生の折に不吉な予言を告げた王宮魔道士が自ら国王の元を去ったという話を母親から聞いて自らの足で駆け付けたのだという。
この際に王は話を聞いてかつての過ちを認め、自身の子供として受け入れたのだという。そして表向きは王宮魔道士として雇用し、時が来た際に公表するという事にしていたという。
その時というのはどちらかの王子が王位を宣言するタイミングであったとされていたが、剣の事件以降はその様な事を公表する場合ではないと先延ばしにされていったのだという。
勿論、王女として扱われる様になっても王位継承権は与えられない筈であった。
それ故にエレクトラは弟の一人であるケルスを自身の都合のいい駒にして操ろうと考えており、それまで献身的な働きを見せていたのもそのためだったという。
だが、ここに来て予想外の事態が生じたので女王の野望を見せたのだという。
エレクトラは弟の顎を優しく持ち上げながら勝ち誇った様な笑みを浮かべながら言った。
「坊や、安心なさい。これからこの国は私が導いてあげるから」
【追記】
すいません。本日は15時の投稿の方をお休みさせていただきます。誠に申し訳ありません。
マルスが剣を振りながらケルスやエレクトラなどを無視してフィリッポの元へと向かっていく。それに対するフィリッポは構えるどころか自身の足を背後へと下がらせている始末である。理屈ではわかっていたとしても彼の本能が無意識のうちに撤退を選ばせていたのだ。魔王の恐怖が彼を撤退という武人としてあるまじき行為に走らせたといっても過言ではない。
フィリッポが足を下がらせながら「あぁ」と短くそれでいて神に祈りを捧げるようなか弱い悲鳴を上げた。それを死ぬ前の懴悔と見做したらしい。マルスは剣を構えてフィリッポに飛び掛かっていく。フィリッポは己の死を覚悟して咄嗟に両目を閉じた。魔女が生み出した使い魔といえども両目を閉じた事により人間らしい場面があったという事だろう。
彼が死の間際に目を閉じて見たのは過去の記憶だろうか。はたまた自らの忠誠の対象であるケルス王の姿だろうか。
いずれにせよ彼はこのまま体を真っ二つに斬られて死ぬ筈だったのだ。
ケルス王が咄嗟に身を挺してフィリッポを庇わなければ間違いなく、彼は他の使い魔と同様に死んでいただろう。
「無事か?」
脇に傷を負ったケルスが背後にて涙を流すフィリッポに問い掛ける。どうやら彼を庇った代償として左の脇腹を負傷してしまったらしい。
「部下を庇うとはケルスらしくもないな。煽動者のあんたなら部下の一人くらい簡単に切り捨てる筈だろ?」
「確かにな。けど、お前に斬り殺されそうになったフィリッポの姿を見てたら、さっきお前に殺された勇敢な帝国兵の姿が浮かんでな、気が付いたら足の方が自分の意思とは無関係に動いてしまっていたわけさ」
「成る程、説明はつくな」
マルスはその意見に納得してくれたらしく、それ以上は何も言わずに黙って攻撃を仕掛けていく。
二人の斬り合いは壮絶なものであった。というのも、両者から闇と光とがぶつかり合い部屋の中を覆っていく。
「な、なんなんだよ!あれは!?」
声を荒げたのは帝国兵の一人。彼は先程から起きている光景が信じられずに我も忘れて叫んでしまった。
だが、彼に丁寧な説明を行う者などいまこの場にはいない。誰もが二人の戦いを見るのに夢中になって口を出す事ができないのだ。
やがて二人の戦場は部屋の中から城の屋根の上へと変わっていく。
先にそう提案したのはマルスの方だった。
「ここは手狭だ。場所を変えよう」
「……ならば、屋根の上はどうだ?あそこならば多少は暴れても問題はあるまい」
ケルスの提案に対してマルスは首を縦に動かす事もせずに口元を微かに緩めただけである。だが、その小さな微笑は確かにその提案を肯定していたのだった。
二人はそのまま部屋からバルコニーへと移動すると、そのまま屋根の上へと飛び上がり、そこから激しい斬り合いをおこなっていく。
小さな屋根の上で両者は巧みに剣を用いての殺し合いを続けていく中、フィリッポは自分の不甲斐なさを呪う事しかできなかった。
(オレは使い魔だというのに、なんの役にも立ちはしない。陛下があんなに苦労しておられるというのに……)
そんな使い魔の苦悩を察したのだろう。エレクトラは彼の肩に手を置いて言った。
「別にあなたが役立たずというわけではないわ。ただあの男が強すぎる……それだけよ」
その強すぎる二人は屋上の上で闇の剣と光の剣を用いての斬り合いを続けていた。
「ハッハッハ、こうして戦いを続けていると、昔の剣術の試合の事を思い出すなッ!」
マルスが大きく剣を振りかぶりながら叫ぶ。その剣をやっとの思いで防ぎ剣を弾き返して弟の戯言に叫び返す。
「そうだなッ!そしてオレはその剣術の試合にオレは勝てなかったッ!」
マルスはそれを聞いて意味深な微笑を浮かべる。
そして、そのまま宙の上で一回転を行うと、そのまま真下に向かって攻撃を繰り出す。ケルスはその攻撃を冷や汗をかきながら受け止めていく。彼は怯えていたのだ。弟の剣の強さに、そして弟が持つ闇の力に。
「どうした?どうした?救世主殿!オレを不当な手で排斥して王の地位に就いた割には随分と弱いじゃあないか!」
「……人が反論ができないのをいい事に随分と好き勝手言ってくれるじゃあないか!」
ケルスはそう叫んではいるものの、明らかに声が震えている。それを面白く思ったのか、マルスは尚も挑発を続けていく。
「どうした?貴様のお得意の弁舌とやらはその程度か?王というのは口で頭のない大衆を騙すだけでいいから楽でいいなッ!」
「黙れッ!」
ケルスはそう叫ぶと、剣を構え直し、左斜め下から振り上げていく。このままマルスの体に直撃すればよかったのだが、ケルスはそれを難なく防いでしまう。
こんな事はなんでもないと言わんばかりの表情を浮かべて。
マルスは狂気じみた笑みを浮かべながら受け止めた剣を弾き返し、そのままケルスの腹に向かって強烈な蹴りを繰り出す。
ケルスは悶絶して屋根の上を転がっていく。あわや屋根の上から転がり落ちるかと思われたのだが、その前にマルスが彼の左足の足首を掴んだ事によって最悪の事態は防がれたのである。
「このまま貴様を地面の上に叩き付けるのは簡単だが、それではオレの気が収まらん。このままお前に生き地獄を味合わせん事にはな」
「生き地獄だと?生憎とオレは貴様の言う生き地獄を見るとは思えんがな」
それを聞くとマルスはチッチッチと舌を打ち、掴んでいない方の手の人差し指を左右に揺らしていく。
「どうやら貴様はわかっていないらしいな、貴様の国でブリギルド帝国の皇帝は死んだのだぞ。その責任を一身に背負うのは誰かな?」
それを聞いた瞬間にマルスは頭の中が白くなっていくのを感じた。同時に感じた事もない焦燥感の様なものを感じていく。なんという事だろうか。今の今まで有耶無耶にされてはいたが、確かに皇帝は自身の国に、それも自身の城の中で酒宴をしている際に殺されたのだ。魔王に全ての責任を覆い被せる事は簡単であるが、国王にもその責任がないとは言い切れない。
もし、相手の国から詰め寄られた際に責任を問われれば自身の『譲位』という形でしか認められないだろう。或いは王制自体を廃止して完全なブリギルド帝国の属国となり得るかしかあるまい。
ケルスが信じられないと言わんばかりに目を大きく広げてかつての弟を見つめようとした時だ。急に足を強く引っ張られたかと思うと、そのまま抱き抱えられながら部屋へと戻っていく。
部屋に戻るとマルスは抱き抱えているケルスを丁寧に地面の上へと下ろしたかと思うと、鞘から剣を抜くと、そのまま剣先を突き付けて周りにいる人々に強制的に道を開かせて堂々と扉をくぐってその場を去っていく。
暫くの間は恐ろしさのために固まっていた面々であったが、やがて暫くの時間が経ち落ち着きを取り戻し、帝国兵たちが皇帝暗殺の首謀者の追跡へと向かっていく。
その時、ケルスはエレクトラに抱き起こされていたが、その際に浮かべていた目はあの大演説の時の彼とは対照的な虚な目であった。その時の彼はうわ言の様にボソボソと呟いていた。
「皇帝陛下を死なせたのはオレだ……お咎めは免れぬ。どうすればいい……どうすれば……」
それを聞いたエレクトラは当初こそ心配そうにケルスを見守っていたが、やがて『お咎め』という単語を聞いた瞬間に口元を小悪魔的なそれでいて嘲る様な笑いを浮かべた。
だが、すぐにそれを引っ込めると表向きは心配そうな顔を浮かべながらケルスに告げた。
「では譲位なさいませ」
「じ、譲位だと!?他に後継者がいなければ我が家は断絶だ……初代から続いた王家をオレの代で終わらせろというのか!?」
「ご安心を、王女が一人おりますので」
「王女?王女だと!?父上はオレとマルスの他には子を設けられなかった筈だ!?」
「居ますわ。ここに」
エレクトラは人差し指で自らを指差す。それを見た途端にケルスは信じられないと言わんばかりに両眉を上げる。
そんなケルスにエレクトラは優しい声で説明を続けていく。
「ねぇ、ケルス……あたしはあんたのお姉ちゃんなのよ。腹違いのね……変だとは思わなかった?王宮魔道士とはいえ国王が臣下の言う事を聞いて怪物になるなんて」
「し、信じられぬ!父上が愛したのは生涯でただ一人の筈だ!どうしてお主がーー」
「ねぇ、ケルス……人は誰でも過ちというのを犯すものなのよ。私の……いいえ、あたしのお母さんはね、とある村の祈祷師だったの……そこで若い時のあんたのお父さんと出会ってね、強い酒を飲んだと聞いたわ。それで」
エレクトラは思わせぶりな笑みを浮かべながら舌舐めずりを行う。その動作を見た瞬間にケルスは自身の父が酒のために過ちを犯した事を悟ったのだ。
「し、信じられぬ……」
「あんたが信じようとも信じまいとも勝手だけれども、後でガレス国王本人があたしの事を密かに認知したんだもの。言い訳なんてできるわけないでしょ?」
「密かに認知だと!?それはいつの事だ」
「この王宮を訪れた際の事よ」
エレクトラの話によれば、双子誕生の折に不吉な予言を告げた王宮魔道士が自ら国王の元を去ったという話を母親から聞いて自らの足で駆け付けたのだという。
この際に王は話を聞いてかつての過ちを認め、自身の子供として受け入れたのだという。そして表向きは王宮魔道士として雇用し、時が来た際に公表するという事にしていたという。
その時というのはどちらかの王子が王位を宣言するタイミングであったとされていたが、剣の事件以降はその様な事を公表する場合ではないと先延ばしにされていったのだという。
勿論、王女として扱われる様になっても王位継承権は与えられない筈であった。
それ故にエレクトラは弟の一人であるケルスを自身の都合のいい駒にして操ろうと考えており、それまで献身的な働きを見せていたのもそのためだったという。
だが、ここに来て予想外の事態が生じたので女王の野望を見せたのだという。
エレクトラは弟の顎を優しく持ち上げながら勝ち誇った様な笑みを浮かべながら言った。
「坊や、安心なさい。これからこの国は私が導いてあげるから」
【追記】
すいません。本日は15時の投稿の方をお休みさせていただきます。誠に申し訳ありません。
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