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宮殿の戦い
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殺気を浮かべる兵士たちの前に現れたのはエレクトラであった。彼女は甘く、それでいて媚びる様な声を出して言った。
「帝国兵の皆様ァ~少しだけ落ち着いてくださいまし」
「黙れッ!貴様らが陛下を殺したというのに落ち着けるものかッ!」
誘惑に耐え抜いた帝国兵の一人が人差し指を突き付けながら叫ぶ。通常であるのならば屈強な兵士がものすごい剣幕で迫れば、その勢いに怯えて丸まらんかの勢いで萎縮するに違いない。
だが、エレクトラは平然としていた。腕を組んで自身の大きな胸を強調しながら唇に手を当てていた。その色気のある姿に思わず平氏がたじろぐと、エレクトラは彼の元に近寄り、その耳元で優しく囁く。
「本当ですのよ。私は陛下を殺した下手人を知っておりますの」
「……う、嘘ではあるまいな?」
「勿論ですわ」
エレクトラは耳元から離れたかと思うと今度はわざと自身の体を密着させ、両頬に自身の手を揃えて自身と顔を向かい合わせていく。
「だって、皇帝陛下を殺したのは私の使い魔ですもの。けれど、誤解なされないでくださいな。使い魔は寝返ったんですのよ。人類を滅ぼしかねない魔王の軍門に」
「ま、魔王というと、ケルス王の双子の弟とされたーー」
「ご名答の通り、我らの敵はマルスのみです」
それを聞いた兵士は自分の仲間たちに向かって大きな声でマルスの事を教えていく。
「そうか、あの魔王ならばやりかねない」
「あいつが皇帝陛下を殺したのか……」
兵士たちのざわめきが頂点に達した時だ。エレクトラが不意に自身が持っていた樫の木の杖を宙に掲げていく。
すると、部屋全体がまるで真昼間になったかの様な照明に包み込まれていく。
突然生じた光にケルスも両国の兵士たちもたまたま酒宴のデザートを運んでいた給仕の人も全て目をくらませていく。
だが、殆どの人が目をくらませた甲斐はあった。宴会場の真ん中で闇に生じて潜入したと思われる魚の様な顔をした怪物の姿が発見されたのだから。エレクトラは樫の木の杖を叩きながらかつての自身の使い魔の元へと向かっていく。
「久し振りね。まさかあなたがマルスに寝返っていたなんてね」
「な、なんの話でしょうか?私は確かにあなた様からブリギルド帝国の皇帝をーー」
「下手なお芝居はやめにしたらどうかしら?あなたは私に命じられてマルスの抹殺に向かった。けれども、あなたは命令に従わないどころか、マルスに寝返り、その命令で皇帝陛下を殺した。どうかしら?」
もし、この時に彼に少しでも理性があれば沈黙で返すなどという事はしなかっただろう。よしんば、沈黙で返したとしてもその後にエレクトラを攻撃するなどという愚行を起こさなければもう少し事態は好転していたかもしれない。
だが、エレクトラにかつての主人に攻撃を行った事で彼は自らの手で攻撃を認めた事となったのである。
彼は慌てて突き刺した槍を引っこ抜き、エレクトラに飛び掛かったのだが、槍がエレクトラの元へと直撃する寸前に側頭部に剣が突き刺さった事により糸が切れたかの様に地面の上に伏せてしまう。
エレクトラはミカエラを殺した相手に向き直ると妖艶な微笑を浮かべて功を立てた部下を褒めたのであった。
「流石ね、フィリッポ……ありがとう」
「礼には及ませぬ。我が主人よ」
フィリッポと呼ばれた怪物はエレクトラの前に跪き、仰々しく頭を下げていく。
ここにきてようやく騒動は解決したらしい。ケルスは全てを平常に戻そうと尽力した。動揺する給仕の人々を返したのはその一環といえるだろう。彼らは全て外側に開かれた扉をくぐってその場を後にしていく。
「謙虚なところも気に入ったわ。流石は私の使い魔ね……」
使節に気を遣って王としてできる限りの事を行おうとするケルスとは対照的に彼女は満足そうな表情を浮かべて頭を下げるフィリッポを誉めそやしていた。
そして満足そうな顔を浮かべたまま運ばれてきたデザートのパイに手を付けようとした時だ。彼女は一瞬顔を顰める。それから急にパイを手に取ったかと思うとそれを自らの使い魔の鼻先に突き付けて言った。
「あなた、この匂いに気付いて?」
「……勿論、魔王の匂いですな」
『魔王』という単語が聞こえた瞬間にこの酒宴に参加していた人物全員に動揺が走るのをエレクトラは見逃さなかった。
彼女は口元を歪めると、手に持っていたデザートをおもむろに取り上げたかと思うと、それを勢いよく地面の上に叩き落としていく。
それを見たケルスが慌てて彼女の元へと駆け寄っていく。
「な、何をするか!コックが丹精込めて作ったデザートに」
「その丹精込めたデザートに毒が含まれておりましたの。恐らくそれも全てのものに」
エレクトラは両目を尖らせてケルスを咎める様な強い口調で言った。
「全てのデザートに!?」
ケルスは目を丸くしながら尋ねた。
「えぇ、恐らくデザートに毒を含ませる事でこの場にいる全員を抹殺しようと目論んだのでしょう。残虐な魔王の考えそうな事ですわ」
通常であるのならば考えにくい事をエレクトラは淡々と人差し指を突き立てながら語っていく。
「何!?」
その一言にケルスは思わずに声を荒げてしまう。
「恐らく魔王は当初はミカエラのみに皇帝を抹殺させようと目論んだのでございましょう」
「なんのために?」
「恐らく皇帝暗殺の罪を陛下に擦り付けて、ブリギルドと我がカリプスの仲を決裂させるためでしょう。そのために自らの元に寝返ったミカエラを刺客として利用したのでしょう」
「成る程、ならば毒は後ほど考案した保険という事だな?ミカエラが暗殺に失敗すれば毒で皇帝陛下を殺そうとしたのだな」
エレクトラは迷う事なく首を縦に動かす。
「よし、ならばコックの奴らを改めてるぞ!まだマルスの奴らが潜んでいるのならば少しでもーー」
「いいえ、陛下……マルスは恐らくコックではなく給仕係に化けたのではないでしょうか?給仕の前にワゴンの上に載っているパイの中に毒を仕込んだのでしょう。そしてデザートの配膳が終わるのと同時に給仕が下がるとそのまま城から逃げたに違いありません」
エレクトラのその推理には説得力があった。ケルスはエレクトラのその推理を信じて、兵士たちに捜索命令を下す。
エレクトラもまた自身の推理に自信を持っていた。
(あの男が逃げられるわけがないわ。あの男の味方はミカエラを除けば、脳筋バカ女のフロレスだけ……あんな女が魔法なんて使えるはずがない。と、なれば魔法が使えないあの男は毒を盛った皿を配膳した後は全力で逃げるしかできない筈よ。クックッ)
エレクトラが門の近くで笑いを浮かべていた時だ。不意に門の前に殺気を感じて慌てて飛び退いていく。
同時に門が凄まじい力でこじ開けられ、全身に闇の力を纏わせたマルスが現れた。マルスは恐ろしい表情を浮かべながら現れたかと思うと、そのままエレクトラに向かって斬りかかっていく。
だが、その剣が当たるよりも前にフィリッポが自らの剣を使ってマルスの攻撃を防いだために事なき事を得る。
「ば、馬鹿な!?どうしてあんたがここに!?」
「……オレはお前の事を単なるバカだと思っていたらしいが、あれはオレの見込み違いだったな。お前の推理はある場所までは当たっていたよ。ただ一点違う点はオレは毒を盛った後も逃げるつもりはなかったという事さ。毒が看破される可能性もオレは当然視野に入れていた。だから、オレは他の奴らが下がるのと同時に部屋を出ていくふりをして扉の内側に潜んでいたのさ。刺客と毒という暗殺の常套手段に手を打たれた際にはオレ自身の力でケルスを殺すためにな」
「……ッ、どちらも囮だったというの!?」
「その通り、オレからしたら“成功すればいいな”くらいのものでしかなかった。あんたは大した名探偵ぶりを発揮したが、オレの本当の目論みだけは読めなかったらしいな。いずれにしろ、王国兵を外に探索に向かわせたのは失敗だったな」
「だが、マルス。お前オレが平静を取り繕うとしなければ或いは平静を取り繕うとしていても給仕係を逃そうとしなければどうしていた?」
「その場合は暴れるのが多少早くなっていただけだろうが、そうはならないと考えていたな」
「そ、その根拠は!?」
「あんたの性格だよ。一体何年あんたの弟をやっていたと思っているんだ?あんたならば平静を取り繕うために行事を通常通り進行させようとするだろう。その“通常業務”。つまり初代王が定めた酒宴の席の中にいつまでも給仕係がいてはならないというルールを守る筈だからな。そうだろう?兄さん」
マルスは勝利を確信した笑みを浮かべながら皮肉たっぷりに問い掛けた。
ケルスは反論する事ができない。かつての弟は自身の性格をも計算に入れてあの様な凶行に及んだのだろう。
そして、エレクトラの言葉に従って兵士たちを探索に向かわせる事も計算に入れていたに違いない。不味い事にこの場に居合わせているのは帝国兵の他はケルスとエレクトラ、そして新たな使い魔として現れたフィリッポのみである。
魔王としての力を得たマルスにこれだけで勝てるのだろうか。ケルスが不安に思っていた時の事だ。帝国兵の一人が槍を震わせながらマルスの元へと突っ込んでいくではないか。
マルスはそんな勇気ある兵士に対してもなんの感情も抱きもせずに無感情のままに剣で斬り殺すのであった。
兵士が悲鳴を上げてその命を散らす様を見てケルスも同情せざるを得ない。
同時になんの感情もなく、人の命を奪ったかつての弟に対して激しい怒りの炎を燃やしていく。
だが、自らの剣を用いてマルスへと襲い掛かる前にエレクトラの使い魔のフィリッポが先に襲い掛かっていくではないか。
フィリッポの正面からの斬撃をマルスは自身の剣を盾にする事で防ぎ、そのまま彼の腹を蹴り付けて地面の上に転ばせていく。フィリッポはなんとか立ち上がったもののその表情は苦痛に満ち溢れていた。
「どうしたんだ?オレを倒すのではなかったのか?」
マルスは怯えるフィリッポとは対照的な余裕のある表情を浮かべながら尋ねた。
「ば、バカな……もう魔王としての力を覚醒させたというのか!?」
「フフッ、その通りだ」#__・__#
マルスは口元に勝利を確信した微笑を浮かべながら言った。
「帝国兵の皆様ァ~少しだけ落ち着いてくださいまし」
「黙れッ!貴様らが陛下を殺したというのに落ち着けるものかッ!」
誘惑に耐え抜いた帝国兵の一人が人差し指を突き付けながら叫ぶ。通常であるのならば屈強な兵士がものすごい剣幕で迫れば、その勢いに怯えて丸まらんかの勢いで萎縮するに違いない。
だが、エレクトラは平然としていた。腕を組んで自身の大きな胸を強調しながら唇に手を当てていた。その色気のある姿に思わず平氏がたじろぐと、エレクトラは彼の元に近寄り、その耳元で優しく囁く。
「本当ですのよ。私は陛下を殺した下手人を知っておりますの」
「……う、嘘ではあるまいな?」
「勿論ですわ」
エレクトラは耳元から離れたかと思うと今度はわざと自身の体を密着させ、両頬に自身の手を揃えて自身と顔を向かい合わせていく。
「だって、皇帝陛下を殺したのは私の使い魔ですもの。けれど、誤解なされないでくださいな。使い魔は寝返ったんですのよ。人類を滅ぼしかねない魔王の軍門に」
「ま、魔王というと、ケルス王の双子の弟とされたーー」
「ご名答の通り、我らの敵はマルスのみです」
それを聞いた兵士は自分の仲間たちに向かって大きな声でマルスの事を教えていく。
「そうか、あの魔王ならばやりかねない」
「あいつが皇帝陛下を殺したのか……」
兵士たちのざわめきが頂点に達した時だ。エレクトラが不意に自身が持っていた樫の木の杖を宙に掲げていく。
すると、部屋全体がまるで真昼間になったかの様な照明に包み込まれていく。
突然生じた光にケルスも両国の兵士たちもたまたま酒宴のデザートを運んでいた給仕の人も全て目をくらませていく。
だが、殆どの人が目をくらませた甲斐はあった。宴会場の真ん中で闇に生じて潜入したと思われる魚の様な顔をした怪物の姿が発見されたのだから。エレクトラは樫の木の杖を叩きながらかつての自身の使い魔の元へと向かっていく。
「久し振りね。まさかあなたがマルスに寝返っていたなんてね」
「な、なんの話でしょうか?私は確かにあなた様からブリギルド帝国の皇帝をーー」
「下手なお芝居はやめにしたらどうかしら?あなたは私に命じられてマルスの抹殺に向かった。けれども、あなたは命令に従わないどころか、マルスに寝返り、その命令で皇帝陛下を殺した。どうかしら?」
もし、この時に彼に少しでも理性があれば沈黙で返すなどという事はしなかっただろう。よしんば、沈黙で返したとしてもその後にエレクトラを攻撃するなどという愚行を起こさなければもう少し事態は好転していたかもしれない。
だが、エレクトラにかつての主人に攻撃を行った事で彼は自らの手で攻撃を認めた事となったのである。
彼は慌てて突き刺した槍を引っこ抜き、エレクトラに飛び掛かったのだが、槍がエレクトラの元へと直撃する寸前に側頭部に剣が突き刺さった事により糸が切れたかの様に地面の上に伏せてしまう。
エレクトラはミカエラを殺した相手に向き直ると妖艶な微笑を浮かべて功を立てた部下を褒めたのであった。
「流石ね、フィリッポ……ありがとう」
「礼には及ませぬ。我が主人よ」
フィリッポと呼ばれた怪物はエレクトラの前に跪き、仰々しく頭を下げていく。
ここにきてようやく騒動は解決したらしい。ケルスは全てを平常に戻そうと尽力した。動揺する給仕の人々を返したのはその一環といえるだろう。彼らは全て外側に開かれた扉をくぐってその場を後にしていく。
「謙虚なところも気に入ったわ。流石は私の使い魔ね……」
使節に気を遣って王としてできる限りの事を行おうとするケルスとは対照的に彼女は満足そうな表情を浮かべて頭を下げるフィリッポを誉めそやしていた。
そして満足そうな顔を浮かべたまま運ばれてきたデザートのパイに手を付けようとした時だ。彼女は一瞬顔を顰める。それから急にパイを手に取ったかと思うとそれを自らの使い魔の鼻先に突き付けて言った。
「あなた、この匂いに気付いて?」
「……勿論、魔王の匂いですな」
『魔王』という単語が聞こえた瞬間にこの酒宴に参加していた人物全員に動揺が走るのをエレクトラは見逃さなかった。
彼女は口元を歪めると、手に持っていたデザートをおもむろに取り上げたかと思うと、それを勢いよく地面の上に叩き落としていく。
それを見たケルスが慌てて彼女の元へと駆け寄っていく。
「な、何をするか!コックが丹精込めて作ったデザートに」
「その丹精込めたデザートに毒が含まれておりましたの。恐らくそれも全てのものに」
エレクトラは両目を尖らせてケルスを咎める様な強い口調で言った。
「全てのデザートに!?」
ケルスは目を丸くしながら尋ねた。
「えぇ、恐らくデザートに毒を含ませる事でこの場にいる全員を抹殺しようと目論んだのでしょう。残虐な魔王の考えそうな事ですわ」
通常であるのならば考えにくい事をエレクトラは淡々と人差し指を突き立てながら語っていく。
「何!?」
その一言にケルスは思わずに声を荒げてしまう。
「恐らく魔王は当初はミカエラのみに皇帝を抹殺させようと目論んだのでございましょう」
「なんのために?」
「恐らく皇帝暗殺の罪を陛下に擦り付けて、ブリギルドと我がカリプスの仲を決裂させるためでしょう。そのために自らの元に寝返ったミカエラを刺客として利用したのでしょう」
「成る程、ならば毒は後ほど考案した保険という事だな?ミカエラが暗殺に失敗すれば毒で皇帝陛下を殺そうとしたのだな」
エレクトラは迷う事なく首を縦に動かす。
「よし、ならばコックの奴らを改めてるぞ!まだマルスの奴らが潜んでいるのならば少しでもーー」
「いいえ、陛下……マルスは恐らくコックではなく給仕係に化けたのではないでしょうか?給仕の前にワゴンの上に載っているパイの中に毒を仕込んだのでしょう。そしてデザートの配膳が終わるのと同時に給仕が下がるとそのまま城から逃げたに違いありません」
エレクトラのその推理には説得力があった。ケルスはエレクトラのその推理を信じて、兵士たちに捜索命令を下す。
エレクトラもまた自身の推理に自信を持っていた。
(あの男が逃げられるわけがないわ。あの男の味方はミカエラを除けば、脳筋バカ女のフロレスだけ……あんな女が魔法なんて使えるはずがない。と、なれば魔法が使えないあの男は毒を盛った皿を配膳した後は全力で逃げるしかできない筈よ。クックッ)
エレクトラが門の近くで笑いを浮かべていた時だ。不意に門の前に殺気を感じて慌てて飛び退いていく。
同時に門が凄まじい力でこじ開けられ、全身に闇の力を纏わせたマルスが現れた。マルスは恐ろしい表情を浮かべながら現れたかと思うと、そのままエレクトラに向かって斬りかかっていく。
だが、その剣が当たるよりも前にフィリッポが自らの剣を使ってマルスの攻撃を防いだために事なき事を得る。
「ば、馬鹿な!?どうしてあんたがここに!?」
「……オレはお前の事を単なるバカだと思っていたらしいが、あれはオレの見込み違いだったな。お前の推理はある場所までは当たっていたよ。ただ一点違う点はオレは毒を盛った後も逃げるつもりはなかったという事さ。毒が看破される可能性もオレは当然視野に入れていた。だから、オレは他の奴らが下がるのと同時に部屋を出ていくふりをして扉の内側に潜んでいたのさ。刺客と毒という暗殺の常套手段に手を打たれた際にはオレ自身の力でケルスを殺すためにな」
「……ッ、どちらも囮だったというの!?」
「その通り、オレからしたら“成功すればいいな”くらいのものでしかなかった。あんたは大した名探偵ぶりを発揮したが、オレの本当の目論みだけは読めなかったらしいな。いずれにしろ、王国兵を外に探索に向かわせたのは失敗だったな」
「だが、マルス。お前オレが平静を取り繕うとしなければ或いは平静を取り繕うとしていても給仕係を逃そうとしなければどうしていた?」
「その場合は暴れるのが多少早くなっていただけだろうが、そうはならないと考えていたな」
「そ、その根拠は!?」
「あんたの性格だよ。一体何年あんたの弟をやっていたと思っているんだ?あんたならば平静を取り繕うために行事を通常通り進行させようとするだろう。その“通常業務”。つまり初代王が定めた酒宴の席の中にいつまでも給仕係がいてはならないというルールを守る筈だからな。そうだろう?兄さん」
マルスは勝利を確信した笑みを浮かべながら皮肉たっぷりに問い掛けた。
ケルスは反論する事ができない。かつての弟は自身の性格をも計算に入れてあの様な凶行に及んだのだろう。
そして、エレクトラの言葉に従って兵士たちを探索に向かわせる事も計算に入れていたに違いない。不味い事にこの場に居合わせているのは帝国兵の他はケルスとエレクトラ、そして新たな使い魔として現れたフィリッポのみである。
魔王としての力を得たマルスにこれだけで勝てるのだろうか。ケルスが不安に思っていた時の事だ。帝国兵の一人が槍を震わせながらマルスの元へと突っ込んでいくではないか。
マルスはそんな勇気ある兵士に対してもなんの感情も抱きもせずに無感情のままに剣で斬り殺すのであった。
兵士が悲鳴を上げてその命を散らす様を見てケルスも同情せざるを得ない。
同時になんの感情もなく、人の命を奪ったかつての弟に対して激しい怒りの炎を燃やしていく。
だが、自らの剣を用いてマルスへと襲い掛かる前にエレクトラの使い魔のフィリッポが先に襲い掛かっていくではないか。
フィリッポの正面からの斬撃をマルスは自身の剣を盾にする事で防ぎ、そのまま彼の腹を蹴り付けて地面の上に転ばせていく。フィリッポはなんとか立ち上がったもののその表情は苦痛に満ち溢れていた。
「どうしたんだ?オレを倒すのではなかったのか?」
マルスは怯えるフィリッポとは対照的な余裕のある表情を浮かべながら尋ねた。
「ば、バカな……もう魔王としての力を覚醒させたというのか!?」
「フフッ、その通りだ」#__・__#
マルスは口元に勝利を確信した微笑を浮かべながら言った。
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追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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