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森の中に棲まう邪神
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未だに拳は震えているのであろうが、それでも、もう実の兄に対して躊躇う事はないだろう。フロレスはそこだけを感じて少しだけ安堵した。
だが、二人が完全に敵対したという事はケルスが遠慮をしなくなったという事だ。父であり国王であったガレスが亡くなった事を機に彼は国王に即位するだろう。そしてケルスは国王としての地位を利用してマルスを全力で捕まえようと考えているに違いない。
今まで以上に自分自身の手で主君を守らなければならない。フロレスが無意識のうちに自身の拳に力をこめていた時だ。
その肩に手を置いてマルスは言った。
「力が入り過ぎておるぞ。少し休め」
「とんでもありませぬ!私は騎士としてーー」
「だからといって常に力を込めておる必要もあるまい。これは主命であるぞ」
「マルス様がそう仰せられるのであれば」
フロレスは頭を下げて森の小屋の奥に下がっていく。寝台の上に腰を掛けながらフロレスは顎の下に親指と人差し指を乗せて思案していく。
自分は役に立っていないのではないのかと考えてしまう。自分は騎士として役に立ちたいというのに。
悔しげに握り拳を作っていた時だ。小屋の外から気配を感じて、彼女は慌てて剣を掴んで外へと飛び出す。
小屋の外には魚の様な頭をした得体の知れない怪物が立っていた。怪物の身長は自身と同じくらいであり、ガレスが変身していた蜘蛛の怪物を除けば、他の怪物たちと同じくらいの背格好であった。ただ違うのはその手に真っ黒な槍を持っている事くらいだろうか。後は盾すら持っていない。フロレスが剣を構えながら怪物を牽制していた時だ。その怪物が不意に口を開く。
「…‥魔王が目覚めし時、その生贄として王の血が捧げられるだろう……古の神話に記されていた魔王の目覚めの一節だ。既に世界を滅ぼす魔王は目覚めている。今すぐに殺せねば世界が危ういのだ」
怪物が槍を突き付けながら言った。
「断るッ!その様な戯言だけで我が主君を売れるものかッ!」
「戯言ではない。これは神話が記した警告なのだ。いずれ、世界は滅びの時を迎える。その前にマルス様の首を差し出せば我々とてこの様な暴挙に至らずに済むのだ」
「暴挙?暴挙だとッ!よくものうのうとッ!」
フロレスが両手で剣を構えて怪物と対峙していた時だ。フロレスの背後の小屋から魔王のサーベルを携えたマルスが姿を表す。その時のマルスをフロレスは見ていたのだが、その冷たい目に思わずゾッとしてしまう。海に沈む氷を思わせる様なその目で彼は怪物を一瞥して言った。
「貴様が新たな刺客か?」
淡々とした調子である。だが、異様なのはその声に抑揚がない事だ。マルスの発した低い声にフロレスは思わず両肩を寄せて萎縮してしまう。
怪物も同様であったらしい。マルスの低い声に一瞬ではあるが怖気付いてしまったらしい。
「……驚いたな。あなた様がここまでの力を秘めておられるとは……私としては不本意ではありますが、この場であなた様をーー」
「何故に敬語などを用いる?オレは既に兄から王子としての身分を剥奪された身なのだ。その様な者に敬意を払う必要もあるまい?」
「……確かに。なれど、あなた様を一目拝見した時から私は無意識のうちに敬語を使っておりました」
怪物の言葉に嘘偽りなどはない。彼の持つ気品と威厳とが自然と怪物の膝を折らせていたというべきなのだ。
だが、当の本人からすればそんな事などは知った事ではない。あくまでも敵意を剥き出しにした目で怪物を見下ろすだけであった。
その姿に改めて怪物は畏怖させられた。畏れ慄くなった彼は思わず体を丸めて彼に謝罪の言葉を述べていく。
だが、そんな怪物の謝罪などものともせずにマルスは不機嫌そうな声で答えた。
「何を言う。元々は貴様の方が先に襲ってきたのであろうが、今更遠慮する事もあるまい。このオレと存分に戦うがいい。さぁ」
マルスはサーベルの先端を怪物に突き付けながら言った。怪物はマルスのその姿に恐怖した。同時に確信した。今後の自分の運命を。“仮に戦ったとしてもこの人には必ず殺される”そんな思いが頭の中を駆け巡っていくのと同時に胸が激しく打たれていく事に気が付く。
そればかりではない。気付けば呼吸さえ自らの意思では行えなくなっていた。必死に旅人に釣られる前の魚の様に口をパクパクと動かしてその場から逃れようとするのだが、酸素を吸う事はできずに反対に口から次々と二酸化炭素だけが放出されていく。
もはや歯ですら彼の言う事を無視してガチガチという不協和音を鳴らしていくではないか。止めようと思っていても止められない。どうすればいいのか悩んでいた時だ。目の前の男がその苦悩から解放してくれる事になった。もっとも大した事などしていない。ただ一言、荘厳な様子で告げればよかったのだ。「表を上げよ」と。
怪物はその一言に安堵して頭を上げたものの、やはり目の前に立つ男の威厳と気品。そして恐怖とに耐え切れず思わず膝をついてしまう。
だが、男は容赦しなかった。
「表を上げよ」
その一言で怪物を頭を上げざるを得なかった。怯えた調子で自身を見つめる怪物に対してマルスは一つだけ問いかける。
「貴様の名は?」
「な、名乗る程の者でもありませぬが、ミカエラと申します」
「そうか、ミカエラか。よい名だ」
マルスのその一言にミカエラは先程の恐怖も引っ込めて、歓喜の表情を浮かべて頭を地面の上に下げていく。
「で、ミカエラ。お前は何をしにオレの元へとやって来た?」
「そ、それはあなた様を抹殺するためでございます……エレクトラにあなた様を殺す様に頼まれまして……」
「そうか、それでケルスは何か言っていたか?」
「いいえ、ケルス様は何も仰っておりませぬ!」
「嘘は吐いていないな?」
例の冷たい目でミカエラを詰問したが、肝心のミカエラは両肩を振るわせるばかりであるので、マルスはこれ以上の尋問は無駄だと判断したらしい。マルスはサーベルを鞘に仕舞うと新しく部下となったミカエラに向かって命令を下す。
「カリプス王国王子マルスの名の下にミカエラに命ず!我より国王の権利を奪い取ったケルスの臣下式を阻止せよッ!それから式の場で告げるのだッ!この国の正当な王はマルス・カリプスであるとなッ!」
「ハッ!」
ミカエラは膝を付いてマルスの命令を受理した。この時の彼の中には裏切りに関する葛藤や迷いなどは一切生じなかったといってもいいだろう。
臣下式。これはカリプス王国の歴代国王が王としての位を隣国にして世界有数の大国として知られるブリギルド帝国の皇帝に認めてもらうという重要な儀式であるのだ。
予定では臣下式の前日に帝国の皇帝を迎え、歓迎の酒宴を開いた後に翌日の戴冠式に臨む事になっている。
無論、通常ならば大国の皇帝自らが格式の国王のために自らのその式に臨むという事はない。臣下式は皇帝より派遣されし神官が皇帝代理人として儀式を行うのが常なのだ。
例外とされるのは皇帝自らの戴冠を受けたのはカリプス王国の初代国王マレスと、七代国王キュルスの二名のみである。この理由もマレスの時代はブリギルド帝国とカリプス王国はまだその上下関係が緩かった事にあるし、七代国王キュルスは当時のブリギルド帝国の皇帝と王太子時代に騎馬試合で相対し、その際にお互いの腕を認め合い親友となったという由縁があったからである。
この様な特殊な例を除けば皇帝自らが国王の頭に冠を被せるというのはあり得ないのだ。なので、皇帝に冠を被せてもらうケルス・カリプスはその三人目の例外という事となる。
故に警備も自然と厳重になる。ケルスは玉座の間で皇帝の乗る馬車を待つ間、気が気ではなかった。
なのでようやく皇帝が宮殿の門に着いた際には彼は極限まで上がっていた胸を撫で下ろしたのであった。
彼は皇帝を自ら出迎えに行き、玉座の間に着くと、玉座を指して皇帝の前に跪く。
「皇帝陛下!本日は我が王国にお越しいただきくださいまして誠に感謝しております!冠を授けていただくのは七代目以来の栄誉……これ以上の名誉がありましょうか!?さぁさぁ、玉座にお座りくださいませ」
だが、金色の刺繍が施された赤いマントを纏った老齢の皇帝は動こうとはしない。それどころか口元を緩めると穏やかな口調で生徒を宥める教師の様に言った。
「何を言うのだ。王よ、ここはあなたのための椅子ではないか。さぁさぁ頭を上げなさい」
「あぁ、寛容なお言葉……なんと言えばよろしいのでしょう」
老人の言葉に従って立ち上がる。そんな若い国王を老齢の皇帝は優しく見守っていた。
立ち上がってもなお皇帝に対する遠慮があるのか中々玉座に戻ろうとしない若い国王を老齢の皇帝は微笑む事で戻る様に促すのであった。
帝国の兵士は皇帝を止めようとしたのだが、皇帝はそんな兵士たちを穏やかに止めるばかりである。
優しい皇帝の気遣いにより、その後の応接も円滑に進む。皇帝を出迎えるための宴会では皇帝が若い国王を自らの口で誉めるというサービスまでも行ってくれていた。
無論、若い国王もこの皇帝のサービスに多少は応えなくてはならなかった。
彼は皇帝の付き人から人々を魅了する様な返答の言葉を求められたのだ。
彼は暫くの時間を貰った後に『皇帝歓迎の演説』とされる帝国の記録にも残る名演説を披露したのであった。
皇帝自らが拍手を行い、彼は大喝采の後に乾杯の音頭を取ったのだった。
このままいけば、戴冠式も順調に済む。彼は宴の席でグラスに入った青い色の葡萄酒を飲みながらそう考えていたのだが、現実というのはそこまで甘くはないらしい。
不意に酒宴の席の蝋燭が消えたのだ。マルスが大きな声で光を灯す様に命令を下すと、そこには槍で胸を突かれた皇帝の姿が見えた。
酒宴の席に居合わせた人々が悲鳴を上げ、皇帝に付き添っていた帝国の兵士たちは慌てて手に持っていた武器をその場に居合わせた王国の人物たちに向かって突き付けていく。
「き、貴様らッ!よくも陛下をッ!」
「ま、待たれよ!誤解にござるッ!」
ケルスは席を立って叫んだものの、兵士たちは殺気立っており聞く耳を持っていない。
【追記】
本当に申し訳ございません。本日も多忙のため15時の投稿はお休みさせていただきます。
だが、二人が完全に敵対したという事はケルスが遠慮をしなくなったという事だ。父であり国王であったガレスが亡くなった事を機に彼は国王に即位するだろう。そしてケルスは国王としての地位を利用してマルスを全力で捕まえようと考えているに違いない。
今まで以上に自分自身の手で主君を守らなければならない。フロレスが無意識のうちに自身の拳に力をこめていた時だ。
その肩に手を置いてマルスは言った。
「力が入り過ぎておるぞ。少し休め」
「とんでもありませぬ!私は騎士としてーー」
「だからといって常に力を込めておる必要もあるまい。これは主命であるぞ」
「マルス様がそう仰せられるのであれば」
フロレスは頭を下げて森の小屋の奥に下がっていく。寝台の上に腰を掛けながらフロレスは顎の下に親指と人差し指を乗せて思案していく。
自分は役に立っていないのではないのかと考えてしまう。自分は騎士として役に立ちたいというのに。
悔しげに握り拳を作っていた時だ。小屋の外から気配を感じて、彼女は慌てて剣を掴んで外へと飛び出す。
小屋の外には魚の様な頭をした得体の知れない怪物が立っていた。怪物の身長は自身と同じくらいであり、ガレスが変身していた蜘蛛の怪物を除けば、他の怪物たちと同じくらいの背格好であった。ただ違うのはその手に真っ黒な槍を持っている事くらいだろうか。後は盾すら持っていない。フロレスが剣を構えながら怪物を牽制していた時だ。その怪物が不意に口を開く。
「…‥魔王が目覚めし時、その生贄として王の血が捧げられるだろう……古の神話に記されていた魔王の目覚めの一節だ。既に世界を滅ぼす魔王は目覚めている。今すぐに殺せねば世界が危ういのだ」
怪物が槍を突き付けながら言った。
「断るッ!その様な戯言だけで我が主君を売れるものかッ!」
「戯言ではない。これは神話が記した警告なのだ。いずれ、世界は滅びの時を迎える。その前にマルス様の首を差し出せば我々とてこの様な暴挙に至らずに済むのだ」
「暴挙?暴挙だとッ!よくものうのうとッ!」
フロレスが両手で剣を構えて怪物と対峙していた時だ。フロレスの背後の小屋から魔王のサーベルを携えたマルスが姿を表す。その時のマルスをフロレスは見ていたのだが、その冷たい目に思わずゾッとしてしまう。海に沈む氷を思わせる様なその目で彼は怪物を一瞥して言った。
「貴様が新たな刺客か?」
淡々とした調子である。だが、異様なのはその声に抑揚がない事だ。マルスの発した低い声にフロレスは思わず両肩を寄せて萎縮してしまう。
怪物も同様であったらしい。マルスの低い声に一瞬ではあるが怖気付いてしまったらしい。
「……驚いたな。あなた様がここまでの力を秘めておられるとは……私としては不本意ではありますが、この場であなた様をーー」
「何故に敬語などを用いる?オレは既に兄から王子としての身分を剥奪された身なのだ。その様な者に敬意を払う必要もあるまい?」
「……確かに。なれど、あなた様を一目拝見した時から私は無意識のうちに敬語を使っておりました」
怪物の言葉に嘘偽りなどはない。彼の持つ気品と威厳とが自然と怪物の膝を折らせていたというべきなのだ。
だが、当の本人からすればそんな事などは知った事ではない。あくまでも敵意を剥き出しにした目で怪物を見下ろすだけであった。
その姿に改めて怪物は畏怖させられた。畏れ慄くなった彼は思わず体を丸めて彼に謝罪の言葉を述べていく。
だが、そんな怪物の謝罪などものともせずにマルスは不機嫌そうな声で答えた。
「何を言う。元々は貴様の方が先に襲ってきたのであろうが、今更遠慮する事もあるまい。このオレと存分に戦うがいい。さぁ」
マルスはサーベルの先端を怪物に突き付けながら言った。怪物はマルスのその姿に恐怖した。同時に確信した。今後の自分の運命を。“仮に戦ったとしてもこの人には必ず殺される”そんな思いが頭の中を駆け巡っていくのと同時に胸が激しく打たれていく事に気が付く。
そればかりではない。気付けば呼吸さえ自らの意思では行えなくなっていた。必死に旅人に釣られる前の魚の様に口をパクパクと動かしてその場から逃れようとするのだが、酸素を吸う事はできずに反対に口から次々と二酸化炭素だけが放出されていく。
もはや歯ですら彼の言う事を無視してガチガチという不協和音を鳴らしていくではないか。止めようと思っていても止められない。どうすればいいのか悩んでいた時だ。目の前の男がその苦悩から解放してくれる事になった。もっとも大した事などしていない。ただ一言、荘厳な様子で告げればよかったのだ。「表を上げよ」と。
怪物はその一言に安堵して頭を上げたものの、やはり目の前に立つ男の威厳と気品。そして恐怖とに耐え切れず思わず膝をついてしまう。
だが、男は容赦しなかった。
「表を上げよ」
その一言で怪物を頭を上げざるを得なかった。怯えた調子で自身を見つめる怪物に対してマルスは一つだけ問いかける。
「貴様の名は?」
「な、名乗る程の者でもありませぬが、ミカエラと申します」
「そうか、ミカエラか。よい名だ」
マルスのその一言にミカエラは先程の恐怖も引っ込めて、歓喜の表情を浮かべて頭を地面の上に下げていく。
「で、ミカエラ。お前は何をしにオレの元へとやって来た?」
「そ、それはあなた様を抹殺するためでございます……エレクトラにあなた様を殺す様に頼まれまして……」
「そうか、それでケルスは何か言っていたか?」
「いいえ、ケルス様は何も仰っておりませぬ!」
「嘘は吐いていないな?」
例の冷たい目でミカエラを詰問したが、肝心のミカエラは両肩を振るわせるばかりであるので、マルスはこれ以上の尋問は無駄だと判断したらしい。マルスはサーベルを鞘に仕舞うと新しく部下となったミカエラに向かって命令を下す。
「カリプス王国王子マルスの名の下にミカエラに命ず!我より国王の権利を奪い取ったケルスの臣下式を阻止せよッ!それから式の場で告げるのだッ!この国の正当な王はマルス・カリプスであるとなッ!」
「ハッ!」
ミカエラは膝を付いてマルスの命令を受理した。この時の彼の中には裏切りに関する葛藤や迷いなどは一切生じなかったといってもいいだろう。
臣下式。これはカリプス王国の歴代国王が王としての位を隣国にして世界有数の大国として知られるブリギルド帝国の皇帝に認めてもらうという重要な儀式であるのだ。
予定では臣下式の前日に帝国の皇帝を迎え、歓迎の酒宴を開いた後に翌日の戴冠式に臨む事になっている。
無論、通常ならば大国の皇帝自らが格式の国王のために自らのその式に臨むという事はない。臣下式は皇帝より派遣されし神官が皇帝代理人として儀式を行うのが常なのだ。
例外とされるのは皇帝自らの戴冠を受けたのはカリプス王国の初代国王マレスと、七代国王キュルスの二名のみである。この理由もマレスの時代はブリギルド帝国とカリプス王国はまだその上下関係が緩かった事にあるし、七代国王キュルスは当時のブリギルド帝国の皇帝と王太子時代に騎馬試合で相対し、その際にお互いの腕を認め合い親友となったという由縁があったからである。
この様な特殊な例を除けば皇帝自らが国王の頭に冠を被せるというのはあり得ないのだ。なので、皇帝に冠を被せてもらうケルス・カリプスはその三人目の例外という事となる。
故に警備も自然と厳重になる。ケルスは玉座の間で皇帝の乗る馬車を待つ間、気が気ではなかった。
なのでようやく皇帝が宮殿の門に着いた際には彼は極限まで上がっていた胸を撫で下ろしたのであった。
彼は皇帝を自ら出迎えに行き、玉座の間に着くと、玉座を指して皇帝の前に跪く。
「皇帝陛下!本日は我が王国にお越しいただきくださいまして誠に感謝しております!冠を授けていただくのは七代目以来の栄誉……これ以上の名誉がありましょうか!?さぁさぁ、玉座にお座りくださいませ」
だが、金色の刺繍が施された赤いマントを纏った老齢の皇帝は動こうとはしない。それどころか口元を緩めると穏やかな口調で生徒を宥める教師の様に言った。
「何を言うのだ。王よ、ここはあなたのための椅子ではないか。さぁさぁ頭を上げなさい」
「あぁ、寛容なお言葉……なんと言えばよろしいのでしょう」
老人の言葉に従って立ち上がる。そんな若い国王を老齢の皇帝は優しく見守っていた。
立ち上がってもなお皇帝に対する遠慮があるのか中々玉座に戻ろうとしない若い国王を老齢の皇帝は微笑む事で戻る様に促すのであった。
帝国の兵士は皇帝を止めようとしたのだが、皇帝はそんな兵士たちを穏やかに止めるばかりである。
優しい皇帝の気遣いにより、その後の応接も円滑に進む。皇帝を出迎えるための宴会では皇帝が若い国王を自らの口で誉めるというサービスまでも行ってくれていた。
無論、若い国王もこの皇帝のサービスに多少は応えなくてはならなかった。
彼は皇帝の付き人から人々を魅了する様な返答の言葉を求められたのだ。
彼は暫くの時間を貰った後に『皇帝歓迎の演説』とされる帝国の記録にも残る名演説を披露したのであった。
皇帝自らが拍手を行い、彼は大喝采の後に乾杯の音頭を取ったのだった。
このままいけば、戴冠式も順調に済む。彼は宴の席でグラスに入った青い色の葡萄酒を飲みながらそう考えていたのだが、現実というのはそこまで甘くはないらしい。
不意に酒宴の席の蝋燭が消えたのだ。マルスが大きな声で光を灯す様に命令を下すと、そこには槍で胸を突かれた皇帝の姿が見えた。
酒宴の席に居合わせた人々が悲鳴を上げ、皇帝に付き添っていた帝国の兵士たちは慌てて手に持っていた武器をその場に居合わせた王国の人物たちに向かって突き付けていく。
「き、貴様らッ!よくも陛下をッ!」
「ま、待たれよ!誤解にござるッ!」
ケルスは席を立って叫んだものの、兵士たちは殺気立っており聞く耳を持っていない。
【追記】
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