上 下
22 / 33
ロックウェル一族の闘争篇

ロックウェル家からの刺客ーその⑤

しおりを挟む
マイケルは恐ろしさのあまりに、つい後ずさりをしてしまう。
かつて、24人の護衛を身に付けたターゲットすら、容易に暗殺した男が、心の底から震え上がっていた。
「こ、これは夢なんだ……そうでもなければ、オレがこんな目に遭うはずがないんだから……」
狼狽するマイケル。だが、チャーリーはここで敢えて厳しい言葉を投げつける。
「いいや、これは現実さ、まごう事のない今、実際に起こっている事柄だよ」
チャーリーは、いや、神の力を身に付けた男はまるで、少年漫画のヒーローのように左手をズボンのポケットにしまい、右手の人差し指をマイケルに突きつけながら言う。
その顔は今までのどの顔よりも光り輝いている。
「見事だよ。チャーリー。キミも随分と分かってきたじゃあないか」
アンドリューは自信満々な様子で、敵を追い詰める相棒の姿が誇らしく見えてしまう。
可愛い恋人を身に付けた世の男性の気持ちが分かったような気がしてならない。
アンドリューがそう考えていた時だ。マイケルは再び銃を構えてみせる。
「う、動くなッ!少しでも動いてみろッ!テメェらのド頭をぶち抜いてやるぞ! 」
マイケルは何とか、恐ろしい殺し屋の姿を見せながら叫んだつもりであったが、目の前の黒人の男はクスリと笑うばかり。
マイケルは黒人の男はすっかりビビってしまっているのだろうと、考えていたが、次の瞬間に、自分の拳銃が地面に落とされている事に気がつく。
「な、何をしやがった!?」
マイケルは右手を抑えながら、チャーリーを睨みつけるが、チャーリーは口元を緩めて笑うばかり。
マイケルが相変わらず合戦において目の前の敵を睨み付ける足軽のような視線を向けていると、
「彼の魔法だよ、まさか、CMSが無くてもあんなものすごい光線を放つ人間がいるなんて、思いもしなかったけどね……」
アンドリューの解説に「石使い」ことマイケルはその場に崩れ落ちてしまう。
「さてと、こいつをどうするんだ、アンドリュー?」
「私には簡単に判断ができないよ。キミが判断したら、いいんじゃあないのかい?チャーリー?キミの手でアイツを地獄へと送ってやるのも良し、他にも私の手を借りるのも良し、はたまた見逃すのもキミの自由さ」
チャーリーはアンドリューの言葉を聞き終えると、しばらく考え込む素振りを見せながら、マイケル相手に銃口を向ける。
「く、や、や、や、やめろォォォォォォォォォ~!!! 」
マイケルは両手を顔の前に掲げて、武器のない一般人が自分のような殺し屋相手に震え上がる様を再現してみせる。
「お前は恐らく、法律で裁くのは時間がかかり過ぎる……だから、私の手で裁くッ!」
チャーリーはそう言うと、何のためらいもなくマイケルの両脚を撃ち抜く。
両脚に穴を開けられた、マイケルはのたうち回りながら、助けを求めて叫ぶ。
「さてと……アンドリュー。キミ、ペンと紙は持っているかい?」
「持っているけど、どうするんだい?」
アンドリューは懐から、ボールペンと小さなメモ帳の切れ端を差し出しながら尋ねる。
チャーリーはメモの切れ端に何かを書きながら、日本の英会話の教科書の登場人物のような真っ白な歯を見せながら、
「こうするんだよ」
「ああ、成る程……キミも私に負けず劣らず性格が悪いみたいだな?」
「フフ、キミほどじゃあないと思うよ」
チャーリーはそんな負け惜しみのような事を言いながら、脚を抑えてうずくまっているマイケルのポケットの中に先程の何かを書いたメモの切れ端を入れる。
後には痛みで喚き散らすマイケルのみが残された。





「こちら現場です! 先ほどの男はこの公園に来ているはずなんですが……あ、あそこに男性が倒れていますね。すいません、BBCの者ですが……」
インタビューアーがうずくまっている男にマイクを向けるなり、思わず叫んでしまう。
男は両脚から血を流しながら、倒れていたのだから。
男は幸い、病院に運ばれて一命を取り留めたが、その時に男の着ていた背広のポケットから、一枚のメモの切れ端が見つかり、男が治り次第逮捕される事が決定された。
何故なら、男の正体は警察当局が長年追っていた「石使い」マイケル・アドバンス本人だったのだから……。





「何、マイケルの奴がしくじっただと!?」
エリック・ロックウェルは読んでいた経済学書から目を離して、報告に訪れた部下に向かって叫んでしまう。
「ええ、何でもアンドリュー・カンブリアとチャーリー・クレイの両名は予想以上の強さだとかで……更には大した脅威ではないと思われていた、黒人の刑事が実はかなり強い能力者だったらしく……」
「もういいッ!ローランドッ!ローランドを呼べッ!」
ローランド・ロックウェルは自分の背広のポケットにしまったアイフォンの通知が来た事を独特のバイブ音にて知る。
ローランドが急いで、アイフォンを開くと、電話の相手は現ロックウェル家の当主であり、会長でもあるエリック・ロックウェルであった。
ローランドは秘書に緊急の用事ができたから、今やっている仕事は後ほど片付ける事を告げる。
金髪ロングの碧眼という美人の条件を揃えた、雑誌モデルのようにスタイルの良い女声秘書は頭を下げ、ローランドの命令を受諾する。
ローランドは就業時間中だというのに呼び出した会長に怒りが経ってしまう。





ローランドは不機嫌さを何とか隠し通し、いつもの愛想の良い微笑を浮かべて、エリックの部屋を訪ねるのだが、
「遅いッ!貴様ッ!たるんどるぞ! いいから、さっさと座れッ! 」
エリックはローランドに自分の机の側に立つように指示を出す。
ローランドはエリックの側に秘書のように立ちながら、彼から会話が切り出されるのを待つ。
社長椅子に座っていた、エリックが何度目かの貧乏揺すりを終えた後に、ようやく口を開き、
「たった今、入った情報だが……「石使い」ことマイケル・アドバンスがやられた……あの2人……忌々しい黒人と異世界人の2人になッ!」
エリックは言葉の最後に合わせるように机を叩く。
「あの2人が?」
ローランドは到底信じられないという表情で、エリックを見つめるが、エリックの目は真剣そのもの。嘘をついているようには見えない。
「アメリカ大統領の警告さえも、殺し屋でさえもあの2人には通じないとすると、どうすれば良いのだ……」
エリックは社長椅子をその場で一回転させながら、尋ねるように呟く。
ローランドはいい案が浮かばずにその場でだんまりを決め込む事にした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

生まれ変わった大魔導士は、失われた知識を駆使して返り咲きます。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:334

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:20,526pt お気に入り:12,455

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:3,156

ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ヒロインたちと悪役令嬢と転生王子~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,481pt お気に入り:166

酒の席での戯言ですのよ。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,167pt お気に入り:544

魔王の娘。勇者にやられた父を癒すために錬金術を極める

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:254

ロストソードの使い手

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:17

ダンジョンチケット

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:126

平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:129

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,085pt お気に入り:1,634

処理中です...