上 下
6 / 33
五大ファミリーの陰謀編

国立魔法大学の革命児の実力

しおりを挟む
チャーリーが受話器を置いた時だった。署の近くの貴金属店で、強盗事件が発生としたというニュースが入ってくる。
「分かったッ!今すぐに現場に急行するッ!」
チャーリーは愛銃である45口径のオート拳銃を調整してから、メアリーに共に来るように指示して、貴金属宝石店へと向かう。


パレフ宝石店はこの市内に存在する数ある貴金属店の一つであったのだが、ニューヨークの他の貴金属店との決定的な特徴を述べるとするのなら、チャーリーの勤務する警察署に近いという事だろうか。
そのためか、店はマフィアに頼る事も、強盗に襲われる事もなく、1954年の設立以来、2017年の今日まで、存在してきたのである。
だが、今回だけは例外のようであった。店長と思われる口ひげを蓄えた壮年の白人男性は、強盗犯の一人であるマーリンズのキャップ帽を着用した若い黒人男性に人質に囚われていたのだ。
「いいかッ!テメェら! 逃走用の車を用意しろッ!妙な事を考えると、この人質の命を保証しないぞッ!」
そう言って、男は包囲しているパトカー相手に発砲した。
「状況は?」
チャーリーはパトカーから降りるなり、包囲していた若い黒人の制服警官に尋ねる。
「状況は悪化する一方ですよ、しかし、本官はこの署に勤務して、2年になりますが、この店で、強盗事件を見るのは、今日が初めてですよ」
「オレだって、そうだよ、昨日のボブ・マリーの一件から、オレの周りにはよくない奴ばかりが、寄ってきやがる……」
チャーリーは苦悩を警官に主張するためなのか、頭を抱えてみせる。
「どうします?あの野郎は単独犯のようですが……?」
「いいや、いくらあの野郎が最高にイカれた奴だとしても、ここは署の近くの貴金属店だぞ、もう一人くらいは仲間がいても、おかしくはないんだが……」
チャーリーがそう言って、タバコを吸おうとした時だ。店長の性格をそのまま表すような厳粛な雰囲気を漂わせる小さな貴金属店から、ショットガンの音が鳴り響く。
「成る程……もう一人お仲間がいやがったのか……」
チャーリーは舌を鳴らしてから、包囲を固めるように警察官たちに指示を出す。
と、その行動が威嚇と取られたのか、店長を人質に取っていた若い黒人の青年が引っ込み、代わりにショットガンを所持したストライプ柄のシャツにジーンズと言った姿の白人の青年が現れた。
青年は現れるやいなや、パトカーの一台に弾を発砲する。
それを宣戦布告と捉えたのか、一斉に警官たちが、リボルバーやオート拳銃の銃口を青年に向ける。
「なっ、なんだよォォォォ~!! お前ら、オレのような貧乏人ばかり取り締まりやがって! アメリカ政府の犬どもめッ!いいか、お前らは必ず地獄に堕ちるぞ! いや、ここでオレがこの場で地獄に墜としてやるッ!」
その言葉通りにしようと考えたのか、青年は散弾銃を捨て、代わりに剣の付いた腕輪を右手にはめる。
(あっ……あれは! )
チャーリーは男の所持している武器が、アンドリュー・カンブリアやボブ・マリーが所持していた例の武器だと結論付けた。
と、男が急に剣の付いた腕輪を振り回す。すると……。
「なっ、どういう事だ!?どこから、水が湧いてきたんだッ!」
動揺する警官たちにチャーリーが男の代わりに答えてやる。
「恐らく……これは魔法だな」
「魔法!?この科学が発達した21世紀の時代にですか!?非現実的にも程がありますよ! 」
「なら、我々の足元にある水はどこから、湧いてきたんだッ!?あの男の魔法により、発生したに違いないだろ!?」
チャーリーの言葉に、警察官たちは黙らざるを得ない。何故なら、その『魔法』という言葉以上にこの怪奇現象を説明する言葉は彼らには思い付かなかったから。
「どうだッ!?思い知っただろう!?分かったんなら、逃走用の車を用意しろッ!」
犯人の男はそう叫んでいたが、チャーリーはそれに冷静な声で答えてやる。
「あいにくだが、我々警察がキミの要求を飲むことはないね……キミがどれだけ、その力を過信しようが、世界一の警察はそんなものには屈しないんだ」
チャーリーの冷徹な言葉に狂ったのか、男は更に右腕を振り回す。
チャーリーはためらう事なく、男の右腕に発砲をしようとするが、何故か手ブレを起こしてしまい、銃弾は男の右腕を掠るだけで終わってしまう。
「クソッタレ! 」
と、チャーリーは悪態を吐いたが、起こった事は変えようもない。どうすれば良いのだろうか。この最初の一回が失敗すれば、もはやチャンスはないだろう。
万策尽きたか。チャーリーがそう思った時だ。懐にスマートフォンが入っていたのを思い出す。
(そうだ、アンドリュー・カンブリア……彼に頼めば……)
チャーリーは急いで、スマートフォンに連絡を入れようとしたが、その途中で、男が再び、右腕を振り回したために、彼は電話をするのを一時中断しなくてはならなかった。
(どうすれば良いんだ、あれがアンドリューの世界の武器だとすれば、我々になす術は無いだろう……まさか、軍を頼むわけにもいかんだろ?第一軍の基地に連絡したところで、強盗事件だけなら、出動する可能性はゼロだ)
チャーリーが考えていた時だ。今度は、黒人の男がパトカーに発砲した。
どうやら、二人組の犯人は両方とも、自分たちの前に姿を現したようだ。
「いいかッ!今のは威嚇射撃だけれど、今度はお前らの頭を狙うぞ! いいな、逃走用の車を……」
と、黒人の青年の言葉はここで途切れてしまう。そう、他ならぬチャーリーが先程、電話を掛けようとした相手ーアンドリュー・カンブリアの手によって。
「馬が欲しいのなら、この店を出て、買いに行けばいいだろ?いや、無理か……こんな風に包囲されていちゃあね」
「何もんだテメェは!?」
黒人の青年は自分の主張を邪魔された事を根に持ったのか、警察相手に向けていた、銃口をアンドリューに突きつけたが、アンドリューは意に返さないようだ。
「それが、この世界の武器か?単なる筒じゃあないか、どれだけの威力があるのか、私に試してくれないかな?」
アンドリューの言葉を挑発と取ったのか、黒人の青年は銃をアンドリューに向かって発砲する。警察官たちは全員がざわめき立つ。黒人の青年は人を殺したのだ。これは、もう単なる強盗事件では済まない。立派な、強盗致傷罪だ。何より、自分たちの目の前で、一人の人間が殺されたのだ。許せるわけがない。全員が黒人の青年を射殺するために、銃を構え直した時だ。
地面に倒れたと思った端正な顔立ちの青年は何事もなかったかのように起き上がる。
「なっ、何が起きたんだ!?」
黒人の青年の言葉はこの場にいた全員の言葉を代弁したものであったと言えるだろう。事実、何故撃ち殺された筈の彼が起き上がったのかは、誰にも理解できなかった。
アンドリューはそんな聴衆のどよめきを抑えるために、自分が無事な理由を説明してやる必要があった。
「私の魔法だよ、私は魔法を四つ使えてね、能力吸収と氷の魔法……それに全身防御魔法だよ、これは土地の精霊の霊力を身に纏い、化け物や他の魔法剣士の攻撃を防ぐために必要な妖怪退治には欠かせない魔法とも言えるね」
アンドリューの言葉の意味を黒人の青年は理解できなかったし、他の包囲していた警察官たちも同様に理解できなかったが、唯一、昨日の晩に摩訶不思議な出来事を彼とともに遭遇したチャールズ・"チャーリー"・クレイ警部のみは彼の言葉の意味を理解できたのだった。
そして、チャーリーはアンドリューこそが、この強盗を倒してくれる救世主だと信じていた。
しおりを挟む

処理中です...