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ホープ・オブ・マジシャンスクール編

自宅が戦場と化した日

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天井に大きな銃の痕が残っている。どうやら、エリアーナが三人を脅すために発射したらしい。
私は拳銃を構えてエリアーナたちと対峙していく。
私は銃を構えた後は息も付かせない程の早撃ちで二人の男を打ち倒したのだが、エリアーナはそんな私の腕を嘲笑うかのように妹の頭に素早く散弾銃の銃口を突き付けていく。
いや、銃口を頭に突き付けて必要以上にいたぶっているというイメージだ。
それを見た私は声を荒げて、
「妹からそれを離しなさいッ!」
と、叫ぶ。だが、エリアーナは離そうとはしない。むしろ、そんな私の反応を楽しんでいるらしく、大きな声で笑いながら、妹から隣で人質にされていたピーターやボニーに向かって銃口を突き付けていく。
「ハッハッ、私があんたのいう事を聞くとでも!?今の今まであんたに殺されてきた同志は命乞いしても許されずに撃ち殺されたり、独房に送られたりしてきたのに、ちょいと虫が良すぎるとは思わない!?」
彼女の言葉の底にあるのは道徳的な優越感。私を見下ろす態度。そして、私を弾劾する態度。今まで大勢の仲間を撃ち殺してきたという私の弱点を突くものだ。
それでも、私は拳銃を下ろさない。このテロリストが妙な事をしようとする前に彼女の頭を撃ち抜くためだ。
だが、彼女はそんな私の態度を見抜いたのだろうか、もう一度妹に向かって銃口を突き付けた。
「銃を捨てな。でないとあんたの妹が死ぬ事になるよ」
彼女は鋭い視線で私を射抜く。まるで、冷酷な怪物か何かを相手にしているような気迫を彼女から感じ取る。
私がやむを得ずに拳銃を捨てようとした時だ。
妹は私に向かって涙を浮かべて叫ぶ。
「お姉様!銃をお捨てにならないでくださいまし!」
妹の言葉に私も他の人質も、何よりもテロリスト本人が驚愕の視線を向けていく。
だが、妹はそんな人々の視線に気が付く事なく話を続けていく。
「私はテロリストに撃ち殺されても構いませんわ!何なら、私ごとテロリストを撃ち抜いてくださっても……けれど、お姉様、お約束してくださいませんか?」
私は妹が吐き出す言葉を阻止させようとした。大きな声で、強い口調で妹が吐き出そうとする言葉を出させないようにした。
だが、妹は涙を浮かべながらも満面の笑みを浮かべて、
「お姉様こそが次の王になってくださいませ……私はあの世から見守っておりますから……」
そう言うとシンディは私のたった一人の妹は両眼を瞑り、死を覚悟した。
この後の最悪の展開を想像し、私は大きな叫び声を上げたが、そうはならなかった。一瞬の隙を突いたピーターがエリアーナの体に飛び付き、両手で彼女が強く握る散弾銃を取り上げようとしていた。
私は妹とボニーに早く逃げるように指示を出し、二人とすれ違う形で部屋の奥に向かった私は揉み合いになっている隙を狙って彼女の頭を狙う。
それから、何の躊躇いもなく引き金を引こうとしたその時だ。
突然、妹が出入り口の扉の前で倒れてしまう。
どうしたのだろうかと苦しむ妹の姿を呆然と眺めていると、私の背後に冷たいものが押し付けられるのを感じた。
「中々に麗しい姉妹愛じゃあない。あんたは姉の鑑ね、ウェンディ。他国じゃあ、優秀な妹に嫉妬した姉姫が部下と共に山を焼いて殺そうとする奴だっているのに……全く、あんたの爪の垢でも煎じてそいつに飲ませてやりたいね」
私はその言葉を聞いて思い出す。帝国の属国の一つである王国の話だ。
確か、過激派による山林の放火によって幼い王女とその母が死んだというニュース。
あれは確か、あの港町で私がビリーの陰謀で逃げ回っている際に噂で耳にしたニュースだったから、ほんの少し前、一週間程前に起こった事件の筈だ。
彼女もそのニュースを仕入れたのだろうか。いや、事件を起こしたのは過激派の筈だ。
その犯人が彼女だとするのなら……。咄嗟に背後を振り返った私を彼女はよく出来ましたと言わんばかりの笑みで迎えた。
「その通り、あの事件は私とマルセラ王女と共謀して起こした事件なんだよ!お陰で、マルセラは王位第一継承者に選ばれたんだッ!私のお陰でねッ!」
何という姉なのだろう。王位継承権を得るために、妹を殺し、そのために国外の過激派と手を組むなんて……。
マルセラなる王女は絶対に王族ではない。宮殿を追放された私が言うのも何であるが、彼女は絶対に王には向かない人間だ。
そして、平然と悪行を自慢するエリアーナもエリアーナだ。
彼女は他国の幼い王女とその母を殺した事を誇らしげに語り、今、私の大切な家族を奪おうとする彼女は最早人間ではあるまい。
彼女の頭の中にあるのは私への憎しみの感情だけなのだろう。
復讐のみで生きる人間というのは本当に性質が悪い。
私はどうしようもない怒りに駆られ、咄嗟に彼女の腹を蹴って、一度隙を作った後に彼女の脚に向かって拳銃を放つ。
彼女は悲鳴を上げて地面の上へと倒れていく。
それを見届けると私は妹の元に駆け寄り、妹を苦しめる彼女の魔法を奪う。
一年くらい前に私を苦しめた魔法だ。まさか、それが今、妹に牙を剥くとは思いもしなかった。
私は奪い取った魔法をエリアーナに向かって放ち、彼女の呼吸を奪っていく。
エリアーナはたちまちのうちに呼吸困難に陥ったが、流石は自分の魔法というべきなのだろうか。彼女は魔法を解除すると撃たれた足を引き摺りながら、私の前に立ち上がる。
彼女はよろけながら散弾銃を構えるものの、私が彼女の額に向かって銃弾を放つ方が早かった。
彼女は悲鳴を上げる暇もなく地面の上に倒れていく。
私は息を整える妹に向かって思いっきり抱き付く。
私は彼女の無事を祈り、私と同じく長くて綺麗な銀色の髪を優しく撫でていく。
「ごめんね。こんな事にあなたを巻き込んだお姉ちゃんを許して……」
無意識のうちに涙を流しながら呟く私の頭を妹は優しく撫でながら、
「お姉様は何一つ悪くありませんわ。悪いのは勝手にお姉様が心配になり、ここを訪問した私なのですから……」
彼女は私の頭を撫でながら言った。妹は優しい。それでいて私を大事に思ってくれる。
私は自分の中でやはり、妹が好きなのだと改めて確認させられた。一通り抱擁が終わると、私に向かって真剣な視線を向けて言った。
「お姉様、大事なお話がありますの」
私はそれを聞くと立ち上がり、二階の中の死体の無い私の部屋へと向かう。
その途中でケネスと合流したので、彼も話に加わるように妹は言った。
私は妹の指示に従って部屋の中で今後の事を話し合う事にした。
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