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大統領の陰謀編

シャーマン現る!

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翌日の学院ではリチャードソン先輩の死亡が全員に公表され、強制的な早期の下校以後は必要最低限の外出以外は極力、回避するようにゴールドマン校長から命令される。
加えて、ゴールドマン校長は翌日に、生徒会並びに部活練の頭目の選挙を行う事、最後に冬休みを前倒しして選挙の翌日とする事を発表した。また、校長は各部活の部長を決める事を生徒たちに投票で選ぶ事を厳命し、これまでのように怪物を仕留めた人間が部活のトップにするという考えは捨て去るように命令した。
つまり、生徒会と部活連の役員の権限の失効は翌日、各部活の部長の権限は今日で新しいトップに引き継がれる事になる。
昼休憩の時間。各々の部活が昼食も惜しんで各部活の部室に集まる姿が目に映る。
どうやら、どのクラスも考える事は一緒らしい。やむを得ないだろう。
私は背中に壁を預けながら、一年生や他の二年生の部員たちに次期部長になる事を訴える二人の姿を見つめる。
どちらも、昨晩に同じ部活の仲間を亡くしたのは思えない程の熱狂ぶりだ。
引退する筈の三年生達も呆れたような視線で次期部長の姿を眺めていた。
ケネスもマーティもクラリスもどこ吹く風と言わんばかりにそっぽを向き、愚かなエリートの醜い争いの姿を眺めていた。
他の杖のあるバッジを身に付けた一年生も流石に凄まじい形相で当選を伺う先輩達の姿に辟易したのか、何人かが自身の懐中時計の針と入り口を交互に眺めていた。
殆どの部員達にとってこの選挙はつまらないものに映ったに違いない。
何せ、立候補した二年生の全員がこの様な醜悪な姿を晒していたのだから。
帰りたくなる気持ちも分かる。ロクな候補者のいない選挙ほど馬鹿らしいものなどないのだから。
私が深い溜息を吐いていると、突然、扉が開き、丸渕の分厚い眼鏡を掛けた茶色のボブショートの髪に左手の脇に分厚い本を抱えた少女が現れた。
少女は集まった一年生や二年生を押し除け、黙って長椅子に腰掛けたかと思うと黙って本を開いていく。
突然乱入した少女に全員の視線が注がれていくが、少女は早くも本の中に没頭していたらしく、一年生の誰だと言わんばかりの疑問に満ちた視線や二年生のえ?今頃と主張せんばかりの驚きに満ちた視線を無視して『悪魔から与えられた詩』なる物騒な話題の綴られたハードカバーの詩を読んでいく。
だが、彼女の読書タイムも長くは続かなかったらしい。緑色の長い髪の二年生の先輩が乱暴に本を取り上げて、
「ちょっとッ!今頃、来たの!?ジャネット!!」
ジャネットと呼ばれたボブショートの先輩は首を縦に動かし、次に注意して耳を澄まさなければ聞こえない程の小さな声で、
「……本、返して」
と、言った。彼女はそれから本を取り上げた緑色の髪の先輩をジッと睨む。
長い緑の髪をした女性は舌を打ち、彼女に『悪魔から与えられた詩』を黙って手渡す。
それを受け取ると彼女は一切表情を見せずに淡々とした様子で詩に目を通していく。
それが済むと彼女は苛立ちを隠しきれないままに叫ぶと投票を得るための不毛な演説を続けていく。
だが、その演説も突如、現れたジャネットなる少女により阻まれてしまう。
「……第十三節『人というのは愚かなものだ。人気を得るために不毛な演説を繰り返し、そのためにますます人気を減らしてしまう』」
その言葉を聞いて部長に立候補しようとしている二人はジャネットの元へと寄り、詩を読んでいる彼女の顔を覗き込む。
最も、その顔は穏やかなものではない。怒り狂った獣の瞳だ。
緑色の髪の先輩は彼女の本を再度取り上げて、もう片方の太った黒髪の先輩は彼女の胸ぐらを乱暴に掴む。
「どういうつもりですかぁ~シャステルさんよぉ~久し振りに部活にやって来たと思ったら、オレらにケチを付けようってか?え?」
「……そうじゃない。詩にちょうど良い事が書いていたから、朗読をしただけ、それだけ」
その言葉に太った男の拳がジャネットに直撃しそうになる。
この時、私は止めに入ろうかと考えたのだが、その前に彼は何者かによって拳を止められていた。
比喩ではない。本当に何者かに拳を受け止められているようだ。
彼は必死に拳を前へ前へと動かそうとしているようだが、その拳は一向に進まない。それどころか、反対に太った男の方に彼の拳が返ってこようとしている。
私はその奇妙な現象に思わず目を見張ってしまう。すると、みるみるうちに力が強くなっていき、最後には男を殴ってしまう。
自分の拳によって男は地面に殴り飛ばされてしまう。同じくクズの仲間だった太った男がやられたからか、緑色の髪の少女は思わず悲鳴を上げる。
ジャネットはそんな彼女の元に現れて、ただ右手を出して、
「……本を返して」
と、静かな声で命令を下す。
怯えた彼女は詩を彼女に手渡すと一目散に部室から逃げ出す。
彼女はそれを見届けるとエマ部長の前へと向かっていき、静かな声で言った。
「久し振りです」
「あぁ、お前も久し振りだな。ジャネット。いや、シャステル」
「ジャネットでいいです。それよりも……いいですか?」
彼女は部長の目をジッと見つめると、今度こそ耳を済ませても聞こえない程の小さな声で喋っていく。
懸命に耳を尖らせて聞いた結果、どうやら、彼女はアンダードームのシティーの怪物の正体を知ったという事だけを部長に伝えに来たらしい。
だが、正体を語る談になれば、どうしてもその正体が私の耳に伝わって来ない。
余程、小さな声で喋っているに違いない。
私が溜息を吐いていると、彼女は私の元に現れて、
「……ミス・スペンサー。あなたに上級生として命令する。怪物いいえ、生物兵器とそれを操る共和国の猛獣使いビーストテイマーを拿捕するか、射殺するかしなさい」
彼女は何を言っているのだろう。よりにもよって犯人を共和国の人間と断定とするとは。
もし、間違いであったのならば、国際問題になる事は彼女も理解している筈だ。
それなのに、どうしてその様に断定できるのだろう。
すると、部長は青ざめた顔を浮かべて、
「実はな、ミス・シャステルは悪魔使いシャーマンなのだよ。彼女は悪魔を使役し、悪魔から教えてもらった強力な黒魔術を使える事ができる。加えて、基礎魔法、身体強化系統に連なる……」
「これ」
と、彼女は自らの体の一部を羊の手に変えて見せた。
信じられない。彼女は基礎魔法を扱えるために、私の様な〈杖無し〉とは分類されずに空想上の存在だと思われる悪魔を使役できる上に基礎魔法までも使える事が出来るのだ。
が、彼女は黙って羊になった手を元に戻す。
私は部長に向き直り、彼女が不在であった理由を問う。
すると、部長は苦笑いを浮かべて、
「彼女は面倒臭がりやでな、部活に出たがらない。一年生の諸君が顔を合わせたのも今日が初めてだろうしな。しかも、学院占領事件の際も誰かに任せておけば良いとトイレの中で本を読むくらいの面倒臭がりやだ。普段、部活に出ない理由が分かるだろう?」
私は思わずたじろいでしまう。何故、この様な凄い人物がいるのだろう、と。
どうやら、賞金稼ぎ部という王立魔法学院の最強の部活にはまだまだ闇があるのかもしれない。
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