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オール・ザ・ソルジャーズマン編

王都動乱 パート5

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この男はここまで追い詰められたのは予想外であったらしい。それまでの強さは恐らく不意を突く事により、どんなガンマンも或いはどんな魔法使いも即座に殺していたからだろう。
だが、その不意打ちのトリックを見破られた今となってはもう手出しはできない。
ゲイシーは心の底から悔しいと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「オレの……オレの魔法が通用しないだと……」
男の足がふらつき始めていく。どうやら、余程、この私に恐れをなしたらしい。
私は逃げようとするゲイシーの足元に向かって引き金を引く。
「さてと、どうする?軍曹さん……このままあなたを撃ち殺しても良いのよ。けれど、この後のマッケンジーの目的を教えてくれれば命だけは助けてあげても良いわ。マッケンジーが逃げた場所を教えなさいッ!」
「だ、誰が言うものかッ!」
私は無言で男の手の甲を撃ち抜く。男はそれこそ言葉にならない悲鳴を上げていく。
「教えなさい。あなたが考えるマッケンジーの反撃の場所は何処なの?」
「わ、分かったッ!教えるッ!教えるから殺さないでくれ!」
ゲイシーは刑務所で考えた計画を命惜しさにベラベラと喋ってくれた。
何でも、ゲイシーとマッケンジーが計画したのはこの街に集まった王国軍の全滅であった。彼らは反乱軍が引っ張ってきたマシンガンを引き摺り出し、彼らを中央の線路の敷かれた場所へと引き摺り出して殺すという計画だったらしい。
「マシンガンでこの場に集まったみんなを……」
「あぁ、その通りだ。その後に中将とオレとで国王を殺し、国を乗っ取る算段だったのさ」
ちなみに、この計画は私や宮殿並びに王都の守備隊の活躍ぶりに反乱軍が次々と倒されるために、急遽占領した警察署内でマッケンジーが書き直した脚本だったそうだ。
あまりにも粗雑な計画だ。マッケンジー中将は共和国の大統領に比べれば脚本家としての腕は相当に落ちるらしい。
この計画の矛盾点を挙げるとするのならば、仮にマッケンジーが王国の重要な位置を牛耳ったとしたのならば、国民はそれに賛同するだろうか。しないだろう。恐らく、国王陛下の仇という大義名分を得て僅かなギャングが集う王都を周囲の街の民衆や警察やそれにクーデターに同調しなかった軍隊たちが真っ先に彼らを叩き潰すに違いない。
更にこの反乱を上手く潰したとしても、周辺の国が黙ってはいないだろう。
間違いなく帝国とニューヨーシャー王国は確実に牙を剥き、反乱の鎮圧で大幅に兵力を減らした旧王国に向かう事は間違いない。加えて、彼らの母国である共和国の大統領も彼らを無関係な存在とみなし、他の二カ国と共に攻撃をするか、そうでなくとも黙ってはいるだろう。
確実に言えるのは母国は彼ら二人を永久に見捨ててしまい、後に残るのは破滅という道だけであった。
元来の計画ならば上手くいく筈のもの中将の計画では色々と狂うに違いない。
第一、大幅な反乱鎮圧の際に彼らは殺されるか、仮にそれを免れたとしても国民の虐殺に警察勢力の削減による犯罪の増加、同軍同士の更なる殺し合いにより国内の大幅な戦力低下が予想され、その弱り切った勢力で確実に周辺諸国に始末される事は間違いないだろう。
私は下で蠢く男の体を蹴って無言でマッケンジーとその部下の犯罪者たちを探しに向かおうとしたその時だ。
倒れていた筈のゲイシーが私の目の前に現れたのだ。それも、銃口を私の目と鼻の先に突き付けて、
「ハッハッ、油断したなッ!これでお前は終わりだッ!この動乱を終わらせはしないぞ!きっと中将の考えた計画は成功し、オレはこの国の将軍になるのさッ!」
「……あんな粗雑な計画を信じているなんて本当に大馬鹿ね。あなた」
ゲイシーはそれを聞いて無言で引き金を引いたのだが、私は地面を蹴り、スライディングをする事により男の銃弾を避ける。そして、私は地面の上を滑っていく過程、男の股の下を潜り抜ける直前に両手で拳銃を構えて男の心臓に向ける。
軍用拳銃の引き金を引く前に一言、私は呟く。「ド外道」と。
私の放った銃弾は見事にゲイシーの胸を撃ち抜いたらしく、ゲイシーは苦しそうな表情で胸を抑えて私が股の下を潜り抜けて脱出するのと入れ違いに地面へと倒れていく。私は地面の上から起き上がると、真横で倒れる男を見つめて、
「良かったわ、これで安心してマッケンジーを探せるわ。あなたも本望でしょ?あの世で戦争ごっこの夢を見れて」
私は死体となったゲイシーに向かって言った。それから、私は散り散りになった犯罪者たちの集うマシンガンのある場所を探索していく。
探索していく過程でたまたま私は反乱に参加していた兵士と出会う事ができ、マシンガンの居場所を聞く事が出来た。
マシンガンは王都の出入り口に置いてあるらしい。
何でも、王城攻略戦の時に使うつもりであったそうだ。私は王都の出入り口へと向かう。
だが、私が到達した時には既に彼らはマシンガンを占領していたらしい。
一人の柄の悪い男が荷台に積まれたマシンガンの上に乗り、両手を使用してそれを撃つ真似をしていた。
その様子を満足そうに見守るマッケンジー。
どうやら、彼が追加で書き上げたゴミ脚本の進行は順調に進んでいっているらしい。その様子を王都近くの出店の陰に隠れながら見ていた私はこの後をどうするのかを考えていく。
門の前の荷台を囲むギャングの数はおおよそ三十名。
その様子を見るとますます彼が哀れに思えてしまう。あれでは王宮で国王を殺して終わりだろう。今は彼の部下となっているギャング達も大勢の民衆やら保安委員やら軍人やらが向かって来たら手も足も出ないに違いない。
その事を考えながら、私は陰から見守っていた。
すると、マシンガンを弄っていた男の正面に小さな雷雲が現れて彼の頭上に一筋の雷を落とす。
彼らが慌てて銃を構えると、彼らの前に大きな足音を立ててケネスとマーティ、そしてクラリスの三人が現れた。
突如、現れた乱入者に対して彼は声を震わせて問い掛ける。
「な、何者だッ!貴様らは!?」
「賞金稼ぎ部のケネス・ローエングリンと言っておこうか、貴様らを始末するために現れた男だ」
「同じく、マーティン・チェリーローズ」
「同じく、クラリス・チャップマン。私は二人とは違う目的でここに訪れた。マッケンジーッ!一連の事件の黒幕であり、兄の仇であるお前を殺す目的でなッ!」
クラリスの剣幕にマッケンジーが恐れ慄いているのが見えた。
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